機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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来たるべき邂逅

「はぁ……」

 

 チーム・ダイナミックとのバトルを勝利し、アスガルド代表の座を手に入れたニュージェネレーションブレイカーズ。その後は模型部員達が主催した打ち上げに希空とロボ助が不参加を決め込むなか、立場上、参加した奏は漸く自由の時間を手に入れていた。

 

 夜、ボイジャーズ学園の学生寮から程近い公園の近くを散歩をしている奏の表情は今日、優勝してアスガルド代表を勝ち取った者とは思えないほど、とても暗かった。

 

 と言うのもやはり希空が大きな原因だろう。

 

 確かにラグナからは大会前からも連携の大切さを説かれ、その為の特訓をしてきた。事実、ラグナの教えもあり、チーム・ダイナミックとのバトルを迎えるまでは順調であったのだ。

 

 しかしチーム・ダイナミックとのバトルで綻びが生まれた。

 確かにかのチームの連携は凄まじかったと言わざる得ない。それは単純な実力ではない。チームメイトが最後には背中を押してくれるようなまさに仲間同士の絆がバトルの中からも感じ取れた。それがあのチームの強みであり、あれほどまでの連携を繰り出せるのだろう。

 

 一方、自分達はどうなのだろうか。結局、連携も表面上のものでしかなかったのではないだろうか。自分達よりも格上のコンビネーションを前に自分は連携を意識することなく動いてしまった。

 

 確かにあの時、自分が動いたきっかけと言うのは、希空の窮地を救うためだ。

 その為だけに自分は動いたのだが結局、その後は自分だけでチーム・ダイナミックを相手取ろうとして、最終的には自分ひとりで倒してしまった。

 

「希空……」

 

 一人で動いたのは、先程の通り、純粋に希空を想ったからこそだ。しかしそれが裏目に出てしまった。自分だって気づいていないわけではない。希空が自分に助けられた時の反応が悪いということを。

 

 それは端的に言ってしまえば、自分への劣等感が問題だろう。

 

 希空が自分に劣等感を抱えているなど自分で言えば驕りに聞こえてしまうが、実際、突き詰めればそれが事実だ。

 彼女はガンダムブレイカーの名を受け継いだ自分を妬み、そしてガンダムブレイカーになれなかったことに劣等感を抱えているのだ。

 

(どうすれば良いのだ……)

 

 公園内のベンチに腰掛け、手を組んで額を乗せて頭を悩ませる。

 そんな彼女に自分がしてあげられることは何なのだろうか。思うところがある相手から下手に何かされたら、それは余計に悪循環になってしまうのではないだろうか。

 

『奏お姉ちゃんっ』

 

 幼い頃の希空は何にも囚われず、ただ無垢で無邪気な存在だった。

 だがいつからだろうが、その瞳に濁りが生まれたのは。結局、彼女は周囲に壁を作り、その本心を打ち明けられるのはロボ助くらいなものだろう。

 

 だが少なくともそんな今の希空とチームを組んでいても、結局、長くは持たないだろう。それにいつまでも、希空に気を使うばかりでは、チーム内の空気はどんどん悪くなり、いずれはそれもバトルに支障を齎す時も来るはずだ。そんなチームなど、このコロニーの代表に相応しくはない。

 

 ならば、いっそのこと──。

 

「っ……!」

 

 ズキリと頭が痛む。不安定な気持ちを表すように奏の瞳の色彩は次々に変化していた。

 恐らく奏自身もその事に気づいているのだろう。眉間に皺を寄せ、苛立ちを表すように膝を揺らしていた。

 

「──折角、優勝したのに、難しい顔してんね」

 

 そんな奏にふと風に乗って、声をかけられる。人の気配など感じ取れなかったこともあり、奏は周囲を見渡す。しかし周囲に人はいなかった。

 

「はぁい、こっちこっちー」

「んなっ……!?」

 

 周辺を見渡している奏にふと上方から声がかけられる。

 奏が声のまま顔を上げれば、そこには特徴的な金色の瞳で自分を見据え、外灯の上で腰を下ろしている少女が手を振っているではないか。アニメならいざ知らず、流石に現実でそのような光景を目にするとは思わなかった奏は口をあんぐり開けており、その様子を見て、クスクス笑っている少女は外灯から飛び降りて、奏の近くに降り立つ。

 

「な、なんだ君は……! 随分、カッコいい登場ではないか……。後でコツを教えてくれたって良いんだぞ……?」

「あっれ、分かんない? そういや、"あの時”、ちゃんと顔までは合わせてなかったっけ」

 

 華麗な着地を見せた少女に対して驚きつつも何やら感激している奏に後でねーと適当に答えつつ、どうやら奏を知っているらしい少女は奏の反応に首を傾げつつ、やがて自己完結してなら仕方ないかと呟いていた。

 

「これなら覚えてるかな?」

 

 そんな少女に覚えがないか、奏が脳内の記憶を辿っていると、ふと少女はその手がかりとなる品を腰部のケースから取り出す。

 

「それは……っ!?」

 

 それを見た奏は目を見開いて、絶句する。

 少女の手にあったのは、燃えるような真紅の装甲を纏い、未来を掴む覇王……バーニングガンダムブレイカーだったのだ。

 

「では君は……あの時のGB博物館で襲ってきた……!?」

「そっ。やぁーっと思い出してくれたんだねー。ルティナのこーとっ」

 

 バーニングブレイカーと少女を見て、奏はかつての記憶を思い出す。それはGGF博物館がリニューアルした施設であるGB博物館にて、突如、自分に対して襲い掛かってきたバーニングブレイカーとのバトルだ。

 

 あの時、バーニングブレイカーを使い、襲い掛かってきた相手はルルティーナことルティナと名乗っていた。その雰囲気からも目の前でバーニングブレイカーを持つ少女はそのルティナで間違いはないだろう。奏が思い出したこともあって、ルティナは小悪魔のように軽くウインクする。

 

「あれからこっちにいる間、色々調べながら、おねーちゃんのこと、探したんだよー? まあでもおねーちゃんは有名人だったら、そんなに苦労はしなかったけどね」

「……わざわざ、コロニーにまで来たのは私が目的か?」

「うん、知り合いに頼んでさ。今日のおねーちゃん達のバトルも見てたよ」

 

 GB博物館の後もルティナは今日まで色々と動いていたのだろう。

 その間に奏のことも調べたようで、この世界で最新のガンダムブレイカーの使い手として注目されている奏の情報をある程度は知っているようだ。

 

 GB博物館での出来事を思い出しながら、地上で戦ったルティナがこのアスガルドにいることについて尋ねると、にっこりと無邪気な笑みを浮かべてルティナは今日のコロニーカップについても話す。

 

「ねえ、おねーちゃん」

 

 するとルティナはスッと目を細めた。

 

「こっちの世界で、心を弾ませてるかな?」

 

 それはまるで奏の心を見透かすかのような瞳だった。

 

「ど、どういう意味だ……ッ!?」

「んー……? あぁ、そーいう感じかー。そう言えば、確かおねーちゃんって……」

 

 そんなルティナの瞳を前に狼狽しながら、その意味を尋ねる奏だが、そんな彼女の反応を見て、一瞬、怪訝そうな顔をしたルティナだが、やがてまたも一人で自己完結をしている。

 

「それよりさ、そろそろルティナとガチでバトろうよ。ずーっとこの日を楽しみにしてたんだから」

 

 すると話を変えたルティナは別のケースから、彼女自身のガンプラを取り出す。

 それはデスティニーガンダムをベースにカスタマイズしたであろう機体であった。そのガンプラを奏に見せながらバトルを申し出る。

 

「……悪いが、今は……」

「少なくとも今、ルティナとバトルすれば気晴らしにはなるし、見えるモノはあると思うよ? ルティナはおねーちゃんにとって、そんなに悪い子じゃないと思うんだけどなー?」

 

 しかし今は希空や自身に起きた変化もあれい、バトルに対して気乗りはしない。

 ルティナから顔を逸らす奏に、そんな奏すら見透かすようにルティナはまるで悪魔の誘惑のように魅惑の笑みを浮かべる。

 

「……分かった。どちらにせよ、ファイターとしてバトルを挑まれた以上は応えねばなるまいしな」

 

 そんなルティナを横目に見た奏は僅かに考えた後、再びルティナに向き直り、ケースからクロスオーブレイカーを取り出す。

 外灯が照らすなか、向かい合う奏とルティナ。得体の知れないルティナに警戒をする奏にルティナは、奏がバトルを受けたことにより、先程の小悪魔のような笑みからまるで狂戦士のような好戦的な笑みを浮かべるのであった。


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