機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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始まりのとき

 コロニーカップの開催まで刻一刻と迫るなか、ボイジャーズ学園の代表チーム・ニュージェネレーションブレイカーズに所属する希空、奏、ロボ助の三名は模型部顧問であるラグナによる激しい特訓の日々を過ごしていた。

 

「希空はラグナのかく乱を、ロボ助はサポートを頼む!」

≪≪了解≫≫

 

 鮮やかなGN粒子を放ちながら、バトルフィールドを駆けるのはダブルオーライザーをベースにカスタマイズを施した新世代のガンダムブレイカーであるクロスオーブレイカーだ。

 ファイターであり、ニュージェネレーションブレイカーズのリーダーである奏は素早く希空とロボ助に指示を出す。

 

「分かっていると思うが下手な小細工が通じる相手じゃない。全力で向かうぞ!」

 

 奏は前方に待ち構える機体を見据えながら視線を鋭くする。

 そこにドシリと立ち塞がるのは、さながら重厚な鎧を身に纏った騎士を思わせるような機体であった。

 ガンダム試作3号機をベースにしたその機体の名はガンダムブレイカーブローディアだ。

 ラグナもまたガンダムブレイカーの使い手として名を連ねる者の一人であり、覇王から新星と希望に受け継がれたように奏は彼からガンダムブレイカーとしてのバトンを受け継いでいる。

 

 ガンダムブレイカーの名を持つだけあり、GNバスターソードを地面に突き刺し、GNフルシールドを機体前面を覆うその姿だけでも、かなりの威圧感を発揮しており、相対するだけで戦慄してしまうくらいだ。

 

 ストライダー形態に変形したNEXは奏の指示通り、持ち前の機動力と、そこから放つ射撃でブレイカーブローディアをかく乱しようとするが、ブレイカーブローディアは動揺する素振りすらなく、寧ろ射撃を全て受けきっているではないか。

 

「鍛え上げると言いましたが、生憎、手心を加えるほどの器用さはありません」

 

 NEXの動きを見計らって、ブレイカーブローディアはGNフルシールドの展開を解除すると地面に突き刺したGNバスターソードを抜き放つ。ファイターであるラグナはモニターに映るNEXを見定めると一気に動き出す。

 

「ッ!?」

「──そのつもりで」

 

 何とブレイカーブローディアはストライダー形態であるNEXとの距離を一気に詰めたではないか。確かにブレイカーブローディアはそのパーツ構成から高機動機と言っても良いだろうが、同じく高機動機であり、また可変機であるNEXに追いつけるとは流石に希空も思わず息を呑む中、普段の柔和さからは想像も出来ないほど鋭く眼光を走らせたラグナはGNバスターソードの一閃を素早く放とうとする。

 

 しかしその前にNEXとブレイカーブローディアの間に割って入ったのは、トランザムを発現させたクロスオーブレイカーであった。

 

「そうだな。私もそのつもりだッ!」

 

 GNソードⅢの刀身を展開して、GNバスターソードの重々しい一撃を受け止めたクロスオーブレイカーはそのままブレイカーブローディアとの剣戟を繰り広げる。同じブレイカーの名を持つ者同士による戦いは瞬きすら許さぬほどの激しさを見せる。

 

「……っ」

 

 そんな二機の剣戟を後ろから見ている希空は複雑な表情で歯を食いしばる。劣等感を抱える彼女の中で奏に救われたのは思うところがあるのだろう。そんな彼女を他所にバトルは更に激化する。

 

「いつまでもただの妹分だと思うなよッ!」

「威勢は結構。ならば示しなさい」

 

 ラグナと奏の付き合いは長い。奏にとってラグナは兄貴分であり、生活においてもラグナは奏を実の妹のように接してくれている、がバトルにおいては関係のないこと。

 目の前にいるのは可愛い妹分ではないと示すため、クロスオーブレイカーは攻勢を強めるなか、ラグナの余裕の態度までは崩れなかった。

 

 《──コール!》

 

 そんなブレイカーブローディアに無数の光の刃が降り注ぐ。騎士ユニコーンによるものだ。クロスオーブレイカーがロボ助のサポートを見計らって離脱した直後に降り注いだため、ブレイカーブローディアに直撃して爆炎が巻き起こる。

 

「──悪くはありません」

 

 奏達が爆炎の中の様子を伺っていると、燃え上がる爆炎を一振りで鎮火させたブレイカーブローディアは悠然とその姿を現したのだ。

 

「ですが、まだです。アナタ方にはまだ改善の余地が山ほどあります」

 

 ラグナはグランドカップを二連覇した身。あの程度では、豊富な経験と相応の実力を持つ彼を撃破するには至らなかったのだろう。現に彼はバトルの中でニュージェネレーションブレイカーズを事細かに分析しているのだ。希空達が苦々しい表情を浮かべるなか、気高き獅子を思わせるようにその瞳を鋭くさせながらブレイカーブローディアは仕掛けるのであった……。

 

 ・・・

 

「負けたーっ! これで何回目だ!?」

「……二桁に突入してから、数えるのは止めました」

 

 バトル終了後、シミュレーターから出てきた奏が頭を抱えるなか、彼女の言葉に希空も流石に参っているのか、重いため息をつく。

 

「ですが、回数を重ねる度に向上しているのは事実です。私とのこれまでのバトルは決して無駄にはならないでしょう」

「うむぅ、清々しいほどに自信に満ち溢れてるなぁ……」

「事実ですから」

 

 そんな彼女たちに同じくシミュレーターから出てきたラグナが声をかける。彼の言葉に何とも言えないような表情を浮かべる奏にラグナは寧ろ堂々と答えていた。

 

「グランドカップにまで上り詰めるのには、個々の実力のみならず意思疎通すら必要のないほどのコンビネーションが必要です。ですがアナタ方は一定以上の連携は取れていますがそれまでです。コロニーカップで通用しても、上位まで行けば厳しいものになるでしょう」

「コンビネーションか……」

 

 希空達にグランドカップにおいてチームに必要なモノを説くと、どうすべきか腕を組み、あご先に指先を添えつつ奏は頭を悩ませる。

 

「内に抱えるものに囚われないことです。曇天では太陽を見れませんからね」

 

 そんな奏達に助言をしつつ、その言葉を口にしながらラグナは希空に視線を移す。その言葉を少なからず胸に刺さっているのだろう、希空は僅かに表情を歪めながら視線を逸らしていた。

 

「囚われない……だと……。し、しかし……っ! 希空の可愛さは囚われてしまうのは仕方ないことだろう!?」

「……何を言っているんですか、貴女は」

 

 すると考え込んでいた奏はラグナの言葉にハッと顔をあげ、由々しき事態だとばかりに再び頭を抱えてしまいラグナは苦笑交じりにため息をつく。そんな二人のやり取りを横目に希空は俯き、一人、その小さな拳を強く握っていた。

 

 ・・・

 

(……緊張してきた)

 

 そんな日々を過ごす中、ついにコロニーカップ、その予選の日が訪れた。ニュージェネレーションブレイカーズが会場に到着すると、多くの人で賑っていた。流れる人波を見ながら希空も緊張しているのか息を呑む。

 

 《コロニーカップ会場のみなさん! 聞こえてますか!》

 

 コロニーカップ開催会場に複数設置されている巨大立体モニターでは二人の可憐な少女が会場に集まった人々に呼びかけていた。一人は幼い外見を持つMITSUBAの芸名で活動している御剣ツバコであり……。

 

 《HEY! 参加チームの皆さん、ファイトデース! もう皆さんの手はヴィクトリーを掴めとシャウトしてることデショウ! バーニングファイトを期待してますヨ!》

 

 もう一人はツバコと区切るようにウィンドウに見立てた枠の中にいる少女だ。

 頭頂部のぴょんと立った猫耳とツーサイドアップの美しい白髪を揺らしながらカタコトで呼びかけるのはシャルル・ティアーナ。その甘い蜜のような声で会場にいる人々を魅了している。

 

「おっ、今シーズンのMCはツバコか。しかしヴァーチャルアイドルであるシャルルは予想外だったな」

「現実世界と仮想世界……それぞれのアイドルを、という理由だったと記憶してます。それにシャルルは活動の中でガンダムシリーズの話やガンプラを作ったりと、こちらの方面にも造詣が深いことで有名です。仮想世界とはいえ、地上のみならず、コロニーでもライブをするくらいに人気ですから、不思議なことではないでしょう」

 

 ツバコと面識のある奏はそのままシャルルに視線を移す。彼女の言うようにシャルルは主に動画サイトで活動しているヴァーチャルアイドルであり、その歌声で人々を魅了することから電子世界の歌姫とまで言われている。奏の驚きに希空はツバコとシャルルの起用理由を教える。

 

「さて、いつまでもMCに集中してないで、目先のことに集中しましょう。間もなく予選が始まります。ここで足元を掬われぬよう身に付けたものを思い出し、気合を入れてください」

 

 立体モニターを眺めている希空達の意識を切り替えるようにポンと手を叩いたラグナは予選への集中を促す。

 

「その手に栄光を。君達の進む道に光があらんことを」

 

 最後に柔和な笑みを見せ、激励を送るラグナに頷いた希空達はコロニーカップ予選に挑むのであった。


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