機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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囚われの空

「ラグナ……先生。その、私を呼び出した用件を聞きたいのだが……。なにかあったのか?」

 

 希空とヨワイ達がゲームセンターでバトルを行っている頃、ラグナに話を持ちかけられて場所を職員室に移した奏はラグナの呼称にもどかしそうにしつつも目の前で自身のデスクに座ったラグナに尋ねる。

 

「そうですね。とてもではありませんが、知った以上は見過ごすわけには行きません。だからアナタを呼び出しました」

「一体何が……?」

 

 奏の問いかけに少しでも平静を保とうと軽く息を吐きながら、気分を落ち着かせるようとしているラグナの重々しい雰囲気を肌で感じて何か一大事でも起きたのかと思わず生唾を飲み込みながら彼の言葉を待つ。

 

 と言うのもここ最近、VR空間において自身の分身とも言えるアバターを乗っ取るウイルス騒動が巷を騒がしているのだ。何でも乗っ取られたアバターはウイルスを無差別に撒き散らす病原菌にその性質を変えられてしまうらしく、このボイジャーズ学園の生徒達の中にも被害者が出ているという話だ。

 

 ラグナも教師という立場ながら警察と連携して、これ以上の被害を食い止め、事件を早期に収束しようと二束の草鞋の状態で奔走している話は良く知っている。もしかしたら、そのウイルス騒動に纏わる事なのかもしれないと、ラグナを見る奏の表情は中々に緊張した面持ちだ。

 

「……まず、口で説明するよりも見てもらったほうが早いですね」

 

 ラグナも横目でそんな奏の様子を一瞥するとデスクの立体コンソールを操作して、ある立体モニターを表示させて奏が見やすいように僅かにずれながら彼女に立体モニターを見るように促す。

 

「こ、これは……っ!?」

 

 一体、何なのだろうかとラグナが表示させた立体モニターを見やる。しかしその立体モニターに載っている内容を見ると、生徒達が慕う生徒会長の毅然さが崩れ、たちまち驚愕で目を見開いて絶句し、言葉を失ってしまうのであった……。

 

 ・・・

 

 《希空、君はヨワイ嬢を。後は私が引き受けます》

「分かった。任せたよ、ロボ助」

 

 一方、戦闘を行っている希空達のバトルステージは森林地帯であった。希空とロボ助のチームに対して、ヨワイは四人編成のチームで挑んで来たのだ。だがそこに希空達は不利だとは感じてはいなかった。

 

 希空にヨワイの相手を任せ、彼女が助っ人で呼んだ三人組を引き受けようとするロボ助に希空は素直に頷き、ヨワイに標的を絞って素早く向かって行く。ここまで希空が素直に従い、スムーズに物事が運ぶのはやはり、それだけの信頼関係があるからだろう。

 

「ヨワイに巻き込まれちまったけど、バトルはバトルだ!」

「ああ、全力で行くぜ!」

「数では勝ってんだ! 簡単には負けねぇぞ!」

 

 ロボ助が操作するガンプラは彼の外観通り、騎士ユニコーンガンダムであった。そんなロボ助に挑んでいくのは、ヨワイが巻き込んだ模型部員達であり、それぞれザクⅠ、ザクⅡ、ザクⅢを駆って、襲い掛かって来る。

 

 《全力で行きましょう。希空がヨワイ嬢を撃破してもバトルが長引いているのは良くありませんからね》

 

 対してロボ助は動揺することなく、冷静に襲い掛かってくるザク達の動きを分析すると一角獣を模した白き仮面のマスクドモードから、リミッターを解除し、ユニコーンガンダムのデストロイモードにあたるビーストモードへ変身し、サイコフレームの緑の燐光が輝く。

 

 《時空を超え、その力を示せ……ッ!》

 

 ビーストモードに姿を変えた騎士ユニコーンはそのままアカシックバインダーと二枚のカードデバイスを使用すると、彼の両隣に変化が起きる。

 

 《コールッ!》

 

 何と騎士ユニコーンの両隣に別々のSDガンダムが姿を現したではないか。一機は甲冑を纏った武者頑駄無であり、もう一機は重厚な武装を装備したコマンドガンダムであった。

 

 《相手が誰であろうと駆け抜けるのみッ!》

 

 これで三対三で全く引けを取らない状況だ。突然の召還で相手が動揺した隙をつき、マグナムソードを払い、召還したSDガンダム達と共に戦闘を仕掛けるのであった。

 

 ・・・

 

 一方、既に希空とヨワイによるバトルが繰り広げられていた。

 希空が操るのはガンダムAGE-2をベースにしたガンダムNEXであり、ヨワイが駆るのはかつて彼女の叔父が使用していたティンセルガンダムを更に強化させようと組み上げたティンセルガンダムMarkⅡだ。

 

「パーツがぁっ!」

 

 しかし、希空とヨワイの間には元々の実力差が大きくあるのだろう。

 ティンセルMarkⅡが振り下ろしたGNソードⅤをビームサーベルで受け止めたNEXはすぐさまもう一本のビームサーベルを引き抜いて、ティンセルMarkⅡの片腕を切断すると、ヨワイが動揺している間にそのまま蹴り飛ばす。

 

 何とか体勢を立て直したティンセルMarkⅡはGNソードⅤをライフルモードに切り替え、すぐさま発砲するが、瞬時に高速移動に特化したストライダー形態に変形しており、その機動力はヨワイには捉えきれず、無闇やたらに放たれたビームは虚しく空を切っていた。

 

「……いい加減、諦めたらどうですか?」

「はぁあっ!? わっけわかんないしーっ!? アタシはアンタの父親のライバルであった叔父さんの姪なのよ! まだまだこんなもんじゃないしぃっ!」

「いやだからライバルじゃないですって絶対」

 

 ストライダー形態でヨワイを翻弄しつつ、彼女に降参を促そうとするがその言葉が油となったのか、彼女の戦意を燃え上がらせてしまっている。最も彼女の叔父が希空の父親とライバルであったという事実はなく、希空はすぐさま訂正する。

 

「アンタの父親がアタシの叔父さんがライバルじゃないって言うのなら間違いだし!」

「何を根拠に……」

「叔父さんとのバトルがなければ、アンタの父親の覚醒への目覚めはなかった!」

「ララァのニュータイプの目覚めみたいに言うの止めてもらっても良いですか?」

「だが正しいものの見方でもあr「ないですからね」──ってぇ! 最後まで言わせろぉー

 っ!」

 

 ティンセルMarkⅡの攻撃を悉く回避しながら、行われる希空とヨワイのやり取り。最もその内容はスパッと口にする希空のツッコミにその度にヨワイがヒートアップしているのだが……。

 

(ロボ助の方は……終わったみたいだね)

 

 ふとレーダーを確認すれば既に味方機の信号しか残っていなかった。であればあまりここで時間を費やすわけにはいかない。希空はこれ以上のやり取りを切り上げ、勝負に出る。

 

 それまでティンセルMarkⅡの周囲を飛行していたが、一気にティンセルMarkⅡ目掛けて突っ込み、迎撃しようとするのをバックパックに装備された二門の大型ビームキャノンを発射することで阻み、一気に距離を詰めるとMS形態に変形してそのままの勢いでティンセルを蹴り飛ばす。

 

「動けつっーの、このポンコツぅっ!」

 

 勢いを最大限に行かした蹴りを受けたティンセルMarkⅡは地面を削りながら吹き飛び、すぐに体勢を立て直そうとするもの、衝撃で思うように機体を動かせず、焦ったヨワイは涙目で叫ぶ。

 

 しかし隙は隙だ。既に眼前に迫っていたNEXは起き上がろうとしたティンセルMarkⅡのコックピットにビームサーベルを静かに突き刺すと勝利を収めるのであった。

 

 ・・・

 

「私達の勝ちです、納得していただけましたか?」

 

 バトル終了後、現実世界に戻ってきた希空は負けた悔しさからか、プルプルと震えているヨワイに声をかけると彼女はこちらをキッと睨み……。

 

「あー今、新作ガンプラ作ってんだよなー! アレあれば大勝利だったんだけどなー! まいったなこりゃぁー!」

「往生際の悪い……」

 

 どこか白々しく大っぴらに大声で言い訳をしているヨワイに希空は頭痛を感じて重いため息をつく。

 

「うっさいっ! アタシが屈しなきゃアンタの勝ちじゃないんだから!!」

「どこのバナナ理論ですか」

 

 完全に負けを認めるようなことはせず、それでいて何とも言えない言い訳をするヨワイに最早希空もかける言葉も見つからなかった。

 

「アタシは本気でそう思ってる! 今のアンタに……いまの……っ……今のアンタなんかにガンプラファイターとして、負けなんて認めるわけないもん!!」

 

 だがヨワイの雰囲気は一転して、どこか今の希空を非難するように物言いたげに鋭い視線をぶつけると、そのまま背を向けてドンドンと強い足取りで去っていき、おずおずと巻き込まれた模型部員達もその後を追う。

 

「……私達も行こう」

 

 今の希空にガンプラファイターとして負けを認めるわけにはいかない。その言葉に何か思うことがあったのか視線を伏せると自分を案じるロボ助に気づいた希空は気遣わせまいと作り笑いを浮かべながらボイジャーズ学園に戻ろうと重い足取りで歩き始めるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは……っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、職員室で奏がラグナが表示させた立体モニターの内容を見て、絶句していた時に時間は遡る。

 

「ええ、そうです。私が言いたいこと、分かりますね……?」

「くっ……!」

 

 言葉を失っている奏を見て、厳しい表情を浮かべて声をかけるラグナにやりきれないとばかりに彼女は歯を食いしばって立体モニターから目を逸らす。するとラグナは大きく息を吸い、その額に青筋を浮かべると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部費でPGディープストライカーを注文するとは、どういうつもりですかあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーぁぁぁぁああああっっっ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーいいっっっっ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 立体モニターに表示されている発注書を指差しながら、怒号を上げるラグナに奏の悲鳴に似た謝罪が響き、模型部顧問であるラグナによる説教が部長の奏に行われる。

 最も奏が説教の最中にPGじゃなくて、MGなんだからまだ良いじゃないかと呟いたため、説教の時間が増えたという。え? PGディープストライカーなんてない? PGアルビオンやPGア・バオア・クーがある世界だぞ、ここは。因みにPGディープストライカーは注文取消しにしたそうな。

 




ティンセルMark2はGNソードⅢからⅤになったりと変化はありますが、実際、パーツ構成もそこまで大きな変化はないので、イメージ的にカマセの機体のままでも大丈夫です。


ヨワイ(ボイジャーズ学園制服)

【挿絵表示】

叔父に寄せようとして結果、お前誰だってなった姪

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