機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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解き放たれた鎖

 ──夢を見ていた。

 

 それはあまりにも凄惨で、残酷で、無慈悲な世界。

 だが、それはその少女にとって最も身近で当たり前の世界だったのだ。

 

 存在理由を問われれば、少女は生まれた時から戦うことを決定付けられていた。

 だが、いかに残酷な世界といえどその運命から解放したいと思ってくれる人達がいた。

 その人達は少女を戦いのない場所へと連れて行こうとした。戦うことを運命付けられていたのなら、せめて戦いのない世界へ、と。

 

 しかし少女はこの世界に留まることを選んだのだ。

 まだ物心つくかどうかだ。しかしそんな幼い状態だったにも関わらず、少女は無慈悲な世界にい続けることを選んだ。

 

 だが今、思い返してみれば無意識にでも闘争を求めていたのかもしれない。

 戦いこそが甘美であるかのように、少女は覇王の技を己の物にしながら強さだけを求めていた。

 

 だが、それは少女を孤独にするだけだった。

 その力を無作為に振るえば、残るのは破壊だけ。少女が齎すのは破壊だけだったのだ。当然、そんな少女を周囲は少しずつ怖れていった。

 

『……必要以上にやり過ぎるのはよくないよ。覇王の技は相手も見極めないで加減もなしに振るうものじゃないし、それでは未熟って言われるよ』

 

 そんな少女と周囲を見かねた天使と見間違うかのような物静かな金髪の女性はそう諭そうとしてくれた。少女もその言葉は理解できる。無闇に振るう力は暴力でしかないということも分かっているつもりだ。なにしろ自身に向けられる畏怖の視線はいつだって少女の心にも突き刺さり、彼女自身が何より堪えることだ。

 

 しかしだ。同時に身に着けた技をいつだって惜しみなく発揮したいという欲求も少女の中にあったのだ。どうしようもないというのは自覚しているつもりだ。だが技を、力を身につければ身に着けるほど存分に振るいたいと思うのは、どこまでも幼く無邪気な性と言って良いだろう。

 

 畏怖の中で彼女は一人でいることが多かった。故に少女は対等な存在を、この力を思う存分、ぶつけられるような存在を求めた。

 

 この空虚な心を満たしたかった。

 

 最初は周囲に。だがとめどない要求は留まる事を知らず、少女は世界を超えるに至る理由のうちのひとつとなっていた。

 

 だが一つ、世界を渡って気づいたことがある。

 

『おっ、そう言ってもらえるとお姉さんも歌った甲斐があるというものです』

『楽しんでいただけたのなら、ワタシも頑張った甲斐があると言うものデース』

 

 満たされない欲望の器とも言えるこの心が力以外で満たされようとしていたのだから。

 

 だけどまだ足りない。この深い業のような欲望は完全に満たされない。

 

 満たしたい発散したい大切にしたい蹂躙したい理解してほしい分かったような顔をしないでほしい受け止めてほしい返してほしい共に歩きたい対峙したい対等になりたい頂点になりたい一人になりたくない下手な存在はいらない受け入れてほしい空っぽでいたくない

 

 

 

 もっと

 

 

 

 もっと!

 

 

 

 もっとッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ──嗚呼

 

 

 

 

 

 

 なんて醜いのだろう。

 

 

 

 ・・・

 

「んっ……」

 

 窓から差し込む日差しを受けて、体を震わせたルティナがゆっくりと目を覚ます。動悸が激しく、うっすらと汗も滲んでいた。

 

「おっ、ルッティ起きた?」

 

 そんなルティナに声をかけたのは歌音であった。見てみれば、眼鏡をかけた歌音はだるっだるのジャージ姿で大きめのクッションに身を預けて漫画を読んでいる。

 

 ルティナがシャルルのライブを鑑賞してから、もう少しで一ヶ月だ。

 歌音から聞いた話だと、そろそろ学生達が休み明けで絶望する時期だという。これまでの間、定期的に自身の世界に帰っているもののガンプラの製作技術を教わったりなどでこの世界にいる間はずっと歌音の家で世話になっている状況であった。その間に歌音の伯父などにも出会ったりしたが、歌音よりは家事など手伝ったりしてくれるルティナの居候は認められてはいる。

 

「シャルルの次のライブ、後少しだね」

「規模が前よりも大きいらしいから本当に大変よね。あぁでもルッティが望むなら、ちゃーんとルッティの特等席はお姉さんが用意しますよー」

「……うん、見れるなら、また見たい」

 

 近くの壁に立てかけられた電波時計に表示されている日付を見ながら、ルティナはシャルルのライブについて触れる。以前、見た時のあの煌くステージはいまだ脳裏に強く残っている。

 

 しかし歌音はまるで他人事のように漫画のページをぺらぺら捲りながら答えている。歌音のその姿は見ていた違和感があった。

 確かに以前、シャルルは自分は自分、歌音は歌音として接してくれと、自分はそうしていると言っていた。実際、歌音は恐らくそうしているのだろうが、毎回、シャルルの話をする時の歌音と言うのは、このようにまるで赤の他人の話をするかのように、どこか他人事のように話をするのだ。

 

 とはいえシャルルのライブだ。ルティナにとって歌音と同じように友達の一人であることに違いない。であれば、是非ともシャルルのライブを見てみたいと思う。

 

「しっかし、ルッティはホント飲み込みが早いわねー。まさかこの短期間でこれだけの出来栄えを誇るガンプラを作るなんてねー。いやはやこのカオンの目を持ってしても見抜けぬとは」

「ふふん、もっと言って。ルティナは褒められて伸びる子だから」

「そこはお姉さんの教えが良かったって言うところでしょー」

 

 どうやらルティナはテーブルの上で転寝をしていたようだ。そんな彼女の目の前にはデスティニーガンダムをベースにカスタマイズされたガンプラが置かれていた。

 その隣にはルティナが初めて作成したシャア専用ズゴックも置いてあり、見比べても、その出来栄えはまさに段違いと言っても良いだろう。

 丁寧に重ねられた塗装や立体感をより引き出すディテールの追加、鋭角的なデザインを引き立てるためのエッジの鋭さなど歌音の指導や補助があったとはいえ、よくここまで仕上げたものだ。

 

「それで試運転はするの?」

「そりゃあ勿論。ルティナはこの為だけにガンプラを作ってたからね」

(ガンプラ作りながら見てたGガンにはまってたのをお姉さんは知っているのです)

 

 既にこのガンプラのアセンブルシステムも歌音が組んでくれている。早速、完成したのであればガンプラバトルをするのか尋ねると、半ばその目的でガンプラ作りを始めたルティナは大きく頷いている。もっともそんな風に言っているルティナに作業途中でガンダム作品に興味を示していた彼女の姿を思い出しながら微笑ましそうに笑っている。

 

「それじゃあ、お姉さんも行きますよ。作成に関わっている以上、気にならないわけじゃないからねー」

「ちゃんと着替えてね。その格好でルティナと一緒に歩くとかマジないから」

「……流石にお姉さんもだるだるの芋ジャージで駅前のゲームセンターに行けるほどの鋼メンタルはないのです」

 

 すると今まで読んでいた漫画本をその辺に置きながら、眼鏡を外して歌音は身を起こす。とはいえ完全にオフモードでいる歌音と一緒に歩きたくはないのか、釘を刺すルティナに一応、人並みの羞恥心は持っていると言わんばかりに頬を引きつらせた歌音は支度を始めるのであった。

 

 ・・・

 

「今日はファイター達もいるようね。どうするルッティ、初めてってのもあるし、今回もNPC相手にする?」

 

 ゲームセンターに到着したルティナ達は早速、ガンプラバトルの様子を映すモニターを見ながら会話をしていた。どうやら今日は何人かのファイター達がその腕を振るっているようだ。

 

「んにゃ、それじゃルティナの心は揺れないなぁ。せっかくだしお相手願うよ」

「さっすがルッティ! その自信に満ちたどや顔もお姉さん大好き!」

 

 そのような状況であれば寧ろ望むところだとばかりに好戦的にルティナは笑う。その様子に歌音は満足していると、ルティナはガンプラバトルシミュレーターVRに乗り込んで、VR空間にダイブする。

 

 ・・・

 

「ゲームは好きだよ。リアルと違って、いくらでもガチになって良いんだから」

 

 VR空間にダイブしたルティナは表示された己のガンプラのコックピットに乗り込んでいた。起動画面をぼんやりと見つめながら、ルティナは一人呟く。

 

「自分を抑える必要も、あれこれ難しいことを考える必要もない。だから……ルティナにとって最高の場所なんだ」

 

 狂戦士は地が鳴るような戦いを前に口角を吊り上げ、歓喜の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ行こっか、パラドックスゥッ!」

 

 その悪魔のような真紅の翼を広げながら鎖から解き放たれた猛獣が如く、フィールドに飛び出していくのであった。




ガンプラ名 ガンダムパラドックス
元にしたガンプラ デスティニーガンダム

WEAPON GNソードⅡブラスター(射撃と併用)
HEAD ガンダムデスサイズヘル
BODY デスティニーガンダム
ARMS デスティニーガンダム
LEGS Hi-νガンダム
BACKPACK スクランブルガンダム
SHIELD アンチビームシール
拡張装備 レールキャノン×2(両腰部)
     レーザー対艦刀×2(背部)
内部フレーム補強

例によって活動報告にURLがあります。



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