機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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残念美人と猫耳歌姫

「さーて、初期化も済んだし、早速だけどVRGPを使っていきましょうか」

 

 ルティナが自作したガンプラで勝利を収めてから数十分が経った。二人は歌音の私室に戻ってきており、そこで歌音によってルティナは彼女が以前、使用していたというヘッドホン型のVRGPを渡され、そのまま歌音の指示のもと、ルティナはVRGPを装着して操作を行うとルティナの視界を覆うようにフォロスクリーンが展開し、ルティナの意識はフォロスクリーンが放った光に吸い込まれていく。

 

 ・・・

 

 ルティナが瞼を上げたとき、可視化したデータが交錯するそこはまさに電脳の世界であった。浮遊感を感じる自分の体を見てみれば、人の形は成しているものの実体のない光のようなものであった。

 

 《ルッティ、聞こえてる?》

「うん、それでルティナはどうすればいいの?」

 

 すると外部でパソコンからルティナをサポートしている歌音からの声が聞こえ、答えつつ歌音へ指示を仰ぐ。

 

 《今からやるのはVR空間でのアバターのキャラメイクよ。機種によっては獣人型とかあるけど、ルッティのはスキャンタイプのものだから、すぐにそっちの空間にルッティの容姿がそのまま反映されるはずよ》

 

 するとこれから行われる事について歌音からの説明がされる。そう言われているうちにルティナのデータ体にスキャンした現実のルティナの容姿とリンクさせるようにデータのリングが幾度も巡っていく。

 

「おっ」

 

 そうしていると先ほどまでハッキリと実体のなかったデータ体だったアバターがルティナへ変わったではないか。そしてそのままルティナはゆっくりと落下していき、光に吸い込まれる。

 

 ・・・

 

 《ようこそ。そこはVRハンガーよ》

 

 ルティナの視界が慣れた時、そこは白いドーム状の空間が広がっていた。それはVR空間にダイブした多くのプレイヤーがまず初めに訪れるVRハンガーであった。

 

「VRってホント不思議な感覚だよね」

 《慣れると現実とさほど変わらないものよ? さて、ルッティの初めてのVRGPの使用を記念して、お姉さんがプレゼントをあげちゃいます》

 

 容姿こそ自分なのだが、やはり電脳世界は現実とはまた違ったものなのだろう。

 アバターである自分の体を見ているルティナに外部から歌音が操作すると、ルティナの体に光が集まりだす。

 

 光が収束すると、ルティナのアバターの服装はネクタイつきの白いYシャツの上にブレザーを羽織り、ひらりと舞う短いミニスカートとニーソックスによって露になる健康的な白い太ももを露出させた所謂JKスタイルに変化しているではないか。

 

 《素ッッ晴らしいわっ! やっぱり制服は神よね!! 清楚で貞淑な優等生スタイルもありだし、露出的で挑発な小悪魔スタイルもそれこそ無気力系も芋っぽさも制服一着でいくらでも様々なスタイルが出来るんだから、二度、いや何度でも美味しい!! スカートの下にジャージを履くのもスパッツを履くのもありだし、メガネをかけるのもありと制服に対するオプションの数の豊富さもヤバイ!! なにより学校という特性上、上下関係が生まれて、先輩さんから指導されちゃうのも最高だし、後輩ちゃんから懐かれちゃうのも最強だし、制服には可能性が満ち過ぎじゃない!? 制服ってもはや宇宙と言っても過言ではないんじゃないかしらッッッ!!?》

「めっちゃ早口でめっちゃうっさい」

 

 どうやら今のルティナのアバターの服装は完全に歌音の趣味丸出しなプレゼントのようだ。外部からの通信越しに制服への燃え滾る熱意を語る歌音の言葉を聞き流しながら、ルティナは早速、自分に着心地の良いように制服を着崩している。

 

 《失礼失礼……。ルッティの制服姿を見て、可愛い×可憐は尊いってことをお姉さんは再確認しただけなのです》

「それでルティナはここで何をすればいいの?」

 

 現実世界から見てみれば、VR空間に飛び込んでいるルティナの近くで一人、制服に対する熱意を語っている自分に思うところがあったのか、咳払いをしている歌音にルティナはVRハンガーでなにをすれば良いのか尋ねる。

 

 《うーん……本当なら私もそっちに言って、VRの世界を一緒に案内したいんだけど……ちょっちお姉さんも時間がないのよね》

「夕方から用事があるとか言ってたもんね」

 

 本来であれば歌音もルティナとVR空間を巡りたいところだが時間を確認して残念そうな声が通信越しに聞こえてくる。しかしゲームセンターに飛び込む前から聞いていたので、それは致し方ないことであろう。

 

 《その代わり、ルッティには最先端のVRを体験できるようにお姉さんがまたプレゼントをあげちゃいます》

 

 するとルティナのアバターが反応し、意識を向けるとルティナの傍らに立体画面が表示される。それはメッセージ画面であり、たった今、歌音のアバターと思われるIDからメッセージが送られたところだ。

 

「シャルル・ティアーナ……ワンマンライブ……? これ歌音のじゃないの?」

 《お姉さんはまあ……用事があってその場では見れないので? だから……まあうん、ルッティが楽しんでくれれば良いかなーって》

 

 メッセージを表示させれば、それはシャルル・ティアーナのライブのチケットの旨が記されたものであり、メッセージ内のリンクからライブ会場へ行けるというものだろう。

 

 しかし歌音から送られてきたということは、これは歌音が楽しみにしていたものではないのだろうか。当然の疑問を口にするルティナにどこかぎこちない不自然な返答をしている。

 

 《っと……時間ないや。兎に角、それはルッティにあげるから、後は好きにして良いよ》

 

 時間を確認した歌音はそう言って、早々に通信を切ってしまう。一人残されたルティナはどうするかしばらくメッセージを見つめるが、やることもなし、せっかくなのでとリンク先に飛ぶのであった。

 

 ・・・

 

「わあ……っ」

 

 リンク先にとんだルティナが目にしたのはまさに色鮮やかな光の海であった。光の一つ一つがアバター達が持つペンライトであり、電脳空間であるというのに、今か今かとライブの時を待つ熱気が伝わってくる。

 

 《ようこそいらっしゃいました》

 

 すると背後から突然、声をかけられる。振り返ってみれば、そこにはゆるきゃらのような二頭身の執事服を着たネコの獣人がそこにいたのだ。

 

 《私はライブのコントロールを勤めるAIです。ここは個人用のVIPルームとなっております。何かご用命があればこのアバターまでお願い致します。まもなくライブが開催されますので、どうぞ心ゆくまでお楽しみください》

「VIPルーム……? なんで歌音がそんなのを……」

 

 制御AIからの挨拶を受けながら、ルティナの疑問はこのVIPルームのチケットを歌音が持っていたことであった。

 しかしルティナの疑問を払拭するように会場に動きがあった。スポットライトが光を泳がせて、観客達がざわめきだす。ついにライブが始まろうとしているのだ。

 

「Are you ready?」

 

 その問いかけに会場全体が答えるように歓声が上がる。すると宙に浮かぶステージに光が集中し、そこからネコ耳と衣装を揺らしながらシャルル・ルティーナが舞い降りたではないか。

 

 歓声のなか同時にシャルルの楽曲の前奏が流れ始め、姿を現した歌姫は舞い踊り流れるメロディに美しい歌声を乗せる。会場のすべてを満たすようなパフォーマンスが行われるなか、既にシャルルをまったく知らなかったルティナも魅了されている。

 

「──……」

「えっ?」

 

 曲も進んで行き、いよいよラストのサビを迎えようとしていた。ルティナがリズムに乗って、体を揺らしているなか、ふとパフォーマンスをしているシャルルがこちらに振り向き、さらにはVIPルームにいるルティナと目が合うと微笑んだではないか。

 ルティナが驚くのもつかの間、いよいよサビに突入して、スタートしたばかりのライブは更なる盛り上がりを見せて、一曲目を終えるのであった。

 

「みなさーん、今日は来てくれて、本当に感謝デース! いやーちょっと前にコロニー側のVRでライブしてたんですケド、こうして地球のライブで皆さんの顔を見ると、マジアガりマス! 今日はラストイヤーではありますケド、シャルルのライブ、楽しんでくださいネー!」

 

 歌い終えたシャルルは早速、MCを行いながら観客に呼びかける。観客がルティナの言葉に歓声を送るなか二曲目に入る。

 

 そこからの時間はあっという間であった。シャルルの時に可憐に、時に妖艶に、時に美麗に、その時々で変わるパフォーマンスと最新のVR技術によって彩られるライブは掛算式にその完成度を飛躍させ、まさに次世代のライブパフォーマンスという言葉が相応しかった。

 

 ・・・

 

「この世界ってすっごくキラキラしてる・・・」

 

 そうしてアンコールも含めて、ライブも終わりの時を迎えた。VIPルームでライブを鑑賞していたルティナもシャルルのパフォーマンスの虜となっていた。まさに彼女の言葉通り、目にしたライブは煌く華やかなものであったのだ。

 

「──楽しんでいただけマシタか?」

 

 ルティナがまだ熱のあるライブの余韻に浸っていると、ふと背後から声をかけられる。そこにはライブを終えたばかりのシャルルがいたのだ。

 

「楽しんでいただけたのなら、ワタシも頑張った甲斐があると言うものデース」

「う、うん……。心が弾む……。今まで見たことがなかったくらい凄くキラキラしてた!」

 

 近くで見るシャルルに驚きながら、彼女の問いかけにおずおずと頷きながらも、ありのままの感想をまっすぐ伝える。

 

「あの、さ……。もしかしてなんだけど……シャルルって歌音なんじゃ──」

「Shh」

 

 ふとルティナはずっと感じていた疑問をシャルルに問いかける。歌音がVIPルームのチケットを持っていたこと、もしシャルルが歌音なのであれば説明もつくし、何より歌音の歌を聞いたときと同じ感覚をシャルルにも感じたのだ。するとシャルルはルティナの言葉の途中で彼女の鼻筋に人差し指を立てながらウインクする。

 

「アナタの目の前にいるのは紛れもなくシャルル・ティアーナで他の誰でもありまセン。シャアとクワトロみたいなものデース。なのでシャルルはシャルル、そして歌音は歌音として接してくれると嬉しいデス。少なくともワタシはそうしてマス」

「分かった……。因みに制服は?」

宇宙(スペース)デース」

 

 例えシャルルの正体が何であれ、そこにいる人物はシャルルだ。故に彼女はそう接してくれるのを望んでいる。であれば、そうしようと頷きながら彼女に問いかけると思ったとおりの返答が来て、二人揃って笑い合う。

 

「また今度、ライブをするのでまた来てくださいネ。ついでにシャルルのチャンネル登録もよろしくお願いしマース」

「えへへ……何だか友達が一気に二人、増えたみたいだよ」

「事実、二人増えてマス」

 

 両手で重ねあうように握手をしながらシャルルが話していると、ルティナが心底、嬉しそうに笑みを浮かべている。その言葉にシャルルも笑いながら頷く。

 

(おねーちゃんみたいに強いだけが、ルティナの心を躍らせてくれるんじゃないんだね)

 

 かつてGB博物館で見た強さを見せた奏に惹かれた。だがそれだけがルティナの心を惹かせるのではないことを彼女自身、歌音とシャルルとの出会いで学んだのだ。

 

 ・・・

 

「あぁ、シャルルのライブ、楽しかったなー」

 

 一方、シャルルのライブを見終えた観客の一人が現実世界へと帰って来ていた。シャルルのライブを思い出しながら余韻に浸り、VRGPを外そうとした時であった。

 

「あれ……?」

 

 ふとVRGPのフォロスクリーンに映るアバターが歪んだように見えた。何かと思い、もう一度、アバターを凝視するも以上があるようには見えない。一時的なバグか目の錯覚だと判断し、そのままVRGPの電源を切る。

 

 しかし先ほどのVRGP内のアバターの歪みは再び起きていた。人知れず、電脳空間の中でそのアバターは口角を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべるのであった……。

 


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