機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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誇りを明日に

≪───間もなく、タウンカップ本選が開始されます≫

 

 多くの別れから時間が経った。最初はすっぽりと空いた穴が大きかったが、それでも彼らは前に進み続ける。

 

「夕香ちゃん、来年には留学するんだっけ?」

 

 あれから一年。この時期がやって来た。多くの観客達が集まるなか、その中に紛れて観戦しに来た者達の一人である夕香に優陽が尋ねる。

 

「そうだよ。そういう優陽は最近、元のチームメイト達と連絡とってるって話じゃん」

「えへへ……。例のウイルス事件のこと知ってくれたみたいでさ。連絡してきてくれたんだ。これも皆、一矢達のお陰だよ」

 

 幼い少女も少しずつ落ち着いた雰囲気を身に纏っていく。セミロングにしていた髪も艶やかなロングヘアーに変えた夕香は話を振って来た優陽の近況に触れる。

 疎遠だった分、優陽にとってここ最近で一番喜ばしい話題なのか、ついつい優陽の頬は緩んでしまう。だが自分が変化することが出来たのは決して自分一人の力ではない。優陽は改めてこの会場に設置されたガンプラバトルシミュレーターVRを見やる。

 

「どこまでも行こう、一矢!」

「ああ、進んで行こう。もう一度、道が交わる為に」

 

 ミサが一矢に手を伸ばし、その手を掴んだ一矢はミサと共にガンプラバトルシミュレーターVRに向かっていく。ここで立ち止まる気はない。今よりも明日へ、明日よりも未来へ。望む未来を掴み取るために一矢達は誇り(プライド)をぶつけていくのだ……。

 

 ・・・

 

≪間もなく第一防衛ラインに接触します。各隊は防衛をお願いします≫

「了解。聞いたわね、みんな?」

 

 そしてこの世界でも……。煌めく宇宙の海の中、青い地球へ向かう災いの種を摘み取らんばかりに立ち塞がるのは覇王達だ。

 彼らが身を預けるのは模型ではなく機械仕掛けの巨兵。遥か彼方に見える接近する機影を見ながら、ルルからの指示にレーアは注意を促す。

 

「やれることはやった。後は乗り越えるだけだ」

「みんなで乗り越えていこう、シュウジ君っ」

「そうね。ここで躓くわけにはいかないもの」

 

 地球を背に大艦隊が陣を作り、全人類が立ち上がる状況でシュウジは近くの髭のようなアンテナを思わせる白いMSを見ながら迫る敵を見据える。そんな彼に一人ではないと、ヴェルやカガミもシュウジのMF・バーニングゴッドブレイカーの傍らにいる。

 

「ああ、行こうぜ! 未来を掴みにッ!!」

 

 コックピットで接近を知らせる警報が響く。それはまるで困難を表すかのようだ。だが、それで恐れおののく気は毛頭ない。拳を強く握ったシュウジは未来を切り開くように先陣を切るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 一矢達も

 

 

 

 

 

 シュウジ達も

 

 

 

 

 

 彼らは信じている。

 

 

 

 

 

 未来はきっと明るくて、素敵な現実を見せてくれるのだと。

 

 

 

 

 そして時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 今を思い出に、明日へ誇り(プライド)をぶつけ、未来を現実に変えながら──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────CHARGING

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 ・・

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪───ロボ太さん、大丈夫ですか?≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪む……?≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──二度と映す事がないと思っていたカメラアイが映したのは、私を見下ろすインフォ殿の姿だった。

 

 

 

 

 

≪インフォ殿……?≫

≪ロボ太さん、本当に懐かしい。ようやく迎えに来れました≫

 

 再び起動したロボ太はゆっくりと身を起こせば、そこにいるのは紛れもなくインフォだ。そして自分達がいるのもまた宇宙空間である。混乱するところだが、そんなロボ太にインフォが安堵した様子で声をかける。

 

≪これは、一体……?≫

≪アナタが宇宙に飛ばされた時、その行方を探すことは不可能でした。でも今なら宇宙に浮かぶ数センチ程度の落とし物でも見つける事が出来るんですよ≫

 

 いまだに状況が整理できないなか、最も気になった事について尋ねる。それは自分達を乗せた存在についてだ。そう、今、ロボ太達は実物大に思えるガンダムのマニピュレーターの上にいるのだ。こんなものはかつての宇宙エレベーターの漂流でしか見た事がない。

 

≪宇宙も気軽に来れるようになれました。このガンダムは何と自家用です≫

≪自家用ッ!? モ、モビルスーツが自家用!?≫

 

 しかもインフォからこのガンダムについての説明がされ、思わぬ言葉についロボ太は信じられないとばかりにインフォとガンダムを交互に見やりながら驚愕した様子だ。

 

≪ほら、見てください≫

 

 するとインフォはある場所を指し示す。そこには幾つかの光が見え、一見して星の類かと思いきやこちらに接近してくるのだ。ロボ太がカメラアイをズームして確認してみれば、そこにいたのは実物大のザクⅡが二機が飛行して、こちらに手を振っている姿だったのだ。

 

≪あれは……まさか……!?≫

≪人類の第二の故郷……宇宙コロニーですよ≫

 

 驚きはそれだけではない。ザクⅡ達がそのまま向かった先、そこにいたのはシリンダー型の巨大な人工物があったのだ。ロボ太はそれを知っている。それはかつての物理学者が提案した宇宙コロニーそのものだったのだ。

 

≪一体、どれほどの時が流れた……。私は……なんという未来に来てしまったのだろう……≫

≪これがロボ太さんが皆と作った未来の姿です≫

≪みんなと守った未来……か……。共に見たかった、この景色を≫

 

 確かにかつてナジールを止めた際は未来を切り開くために動いた。結果として漂流してしまったが、その事に悔いはない……が、まさかあのような建造物が作られてしまうような未来に来てしまったのだ。インフォの言葉に小さなマニュビレーターを握りながら、ロボ太は悲し気にトモダチを想う。

 

≪ヒトの進歩には驚かされます。あれから30年でこれ程のモノを作り上げるのですから≫

≪そうか、30年……≫

 

 未来へ進めば、技術の進歩はそれに伴う。しかしよもやここまでの未来を築き上げるとは。インフォから知らされた年数にロボ太が感慨深そうに呟く。そう、あれから30年が経過したのだ。

 

 

≪──30年!? 30年しか経っていないのか!?≫

 

 

 んだべ

 

 

≪はい、30年です≫

≪なんと! それでは……≫

≪さあ帰りましょう。皆さん、お待ちかねですよ≫

 

 インフォの後押しもあり、心なしかロボ太の発する声も喜びのものが感じ取れる。そんなロボ太の様子に頷きながら、インフォはガンダムのコックピットに向かっていき、ロボ太もその後に続く。

 

≪インフォ殿、私が操縦しても良いか!?≫

≪ダメです、免許持ってませんよね≫

 

 ガンダムのコックピットに乗り込み、スラスターを稼働させ始める。まるで少年のように操縦を申し出るロボ太だが、無免許運転が許されるはずがない。インフォに一蹴されると、ガンダムは一目散に飛んでいくのであった。

 

≪モビルスーツは免許制なのか……≫

≪これはウィルさんから借りたものですから、事故を起こすわけにはいきません≫

 

 基準速度で地球へ向かっていくガンダムのコックピットに、よくよく考えてみれば不思議ではないのだが、運転の出来ないロボ太は残念そうな口ぶりだ。

 だがこのガンダムはインフォの所有物ではなく、ウィルから借りたもの。それを事故を起こすなど以ての外だ。

 

≪……しばらく色々なことでショックを受けそうだ≫

≪そうですか。それは楽しみですね≫

 

 30年の年月ではやはり多くのモノが変わっているだろう。地球が確認できるなか、一体、どんなものは自分を待ち受けているのか想像がつかない……が、ロボ太の言葉にインフォはふと柔らかな口調で話す。

 

 

 

≪楽しみ……≫

 

 

 

 

 ──期待が膨らむ。

 

 

 

 

≪うむ……≫

 

 

 

 ──一刻も早く再会したいものだ。

 

 

 

 

≪本当に楽しみだな!!≫

 

 

 

 

 ──私のトモダチに!

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

「──インフォちゃん、そろそろロボ太に会えたかな?」

 

 地上では、発展した街並みの中でロングヘアーを風に靡かせ、ヘアピンが太陽の反射で輝かせた一人の女性が夫と思われる男性に寄り添いながら尋ねる。

 

「……そろそろ戻ってくる頃だろう」

「カドマツも間に合うと良いけどね」

「今じゃトイボットの開発者で有名だからな。でもあの人も一人じゃないしな。奥さんとだったらさっさと仕事を終わらせて来れるだろ」

 

 夫と思われる落ち着いた物腰の男性が静かに答えるなか、女性は知人の名を上げながら時計を見やる。知人の男性はかつてロボ太を生み出し、今ではその功績から大きな成功を果たし、ロボ太に続く新たなトイボット制作の仕事で日夜忙しい生活を送っているが、彼にもつれそう人物がいるようで男性はさして心配した様子はない。

 

「でも残念だなぁ。ロボ太には何より一番に【あの娘】に会わせてあげたかったんだけどなぁ……」

「学校の場所が場所だからな……。仕方ないさ」

 

 男性が祝福するかのような青天の空を見上げていると、寄り添う女性はどうしても会わせたい存在がいるのか、非常に残念がっている。しかし事情があるのか、男性の言葉に無念そうに唸っていた。

 

「それに……慌てなくても何れ会えるよ」

 

 そんな妻の様子に苦笑しながらも男性は再び空を見上げる。その空を通して、男性の大切な存在を想うかのように……。

 

 ・・・

 

「……」

 

 宇宙コロニー……その居住地で一角の騎士を携えた少女が空を見上げていた。

 その真紅の瞳がただ一点に空を見上げるなか、重なり始めた道と共にこの少女が歩むべき物語もまた静かに動き始めるのであった。

 

 


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