三機でデビルガンダムブレイカーと交戦するレーア達。かつては苦戦を強いられた相手とはいえ、あの頃とはレーア達も違う。いかにその中身がアップデートされて強化されようとも、それはレーア達とて同じこと。何より彼女達にはデビルガンダムブレイカーとの戦闘のみならず、これまで多くの戦場を経験していた。その彼女達が今更、ここで躓くことはしない。それがこのデータとして生み出されたデビルガンダムブレイカーとの圧倒的な差であった。
「あれは……っ」
デビルガンダムブレイカーの弾幕を回避しながら、二つのハイビームライフルの後端部をバックパックのビームキャノンと連結させ、出力を向上させると、高出力ビームを発射してアドラステア部分の装甲を直撃して打ち破る。そのまま変形して、デビルガンダムブレイカーの反撃が来る前に離脱する最中、カガミは天を貫く光の柱を目撃する。
「全てを照らす輝き……」
シャインストライクのオールレンジ攻撃によってデビルガンダムブレイカーの砲台を無力化していくなか、ヴェルもまたガンダムブレイカー達を知り、呟く。その光はまさに自身の心に光を灯すかのようだ。
「……ガンダムブレイカー」
かつてアイランド・イフィッシュでデビルガンダムに囚われた時のことを思い出し、レーアは静かに呟く。何の光も届かぬ世界で自分を救い出してくれた機体の名を。忌まわしき過去を破壊し、輝かしい未来を創造してくれた存在の名を。
・・・
光の柱の出現に気を取られていたクロノは一つの光の柱から尾を引いて一瞬にさえ錯覚してしまいそうな勢いで突撃してきた紅き閃光に反応が遅れ、体当たりを受けてしまう。それだけに留まらずそのままデクスマキナごと上昇していったのだ。
すぐさまその後ろ姿をネメシスとユーディキウムが追撃しようと射撃兵装を向けた瞬間、ネメシスのビームライフルとユーディキウムのガトリングは背後からの早撃ちによって破壊されてしまう。
ネメシスもユーディキウムも相手が誰だか分かっている。
同時にそれを何とかせねば創造主を援護することも出来ないことも。しかしそれは決して容易なことではあるまい。故に全ての機能を使って、これを駆逐しなくてはいけない。まるで光の柱に対抗するかの如く二機は破壊を齎さんばかりの毒々しい赤き輝きを纏う。
「ハッ……上等だ。生温いやり方すんなら、速攻で片ァつけてやるところだぜ」
「いつまでも過去の産物であるお前達をこの世界に残すわけにはいかない」
それぞれが戦闘能力として再現されたエヴェイユの光を纏ったその姿を見て、シュウジは臆することなく不敵に笑うなか、翔はその決意を表すかのような鋭い視線を向けると戦闘を再開する。
ブレイカーネクストのフィンファンネルが周囲の高層ビルを巻き込んでの激しい弾幕が張られる。周囲に爆炎が立ち上るなか、硝煙を突破して現れたのは黄金に輝くアルティメットモードを発現させているバーニングゴッドブレイカーだった。
「流ゥゥウ星ィイイッッ螺旋ッ拳ンンッッ!!」
その名の如く猛烈な勢いで放たれた唸る拳はネメシスに放たれ、咄嗟にネメシスはシールドで防ぐものの防ぐ事は叶わず、そのまま地面へと轟音を上げながら地を削って吹き飛んでいく。
「貴様は俺が引き受けよう。後輩が世話になった事があるようだからな」
ユーディキウムに対しても鋭い射撃が放たれる。何とか回避に成功したユーディキウムは静かにそのカメラアイをブレイカーネクストに向けるとそこには虹色に輝く瞳でこちらを見据える英雄がいた。
・・・
「──ッ」
地面を削りながら、そのまま更なる一撃を加え入れようとした時であった。不意にネメシスのモノアイが此方を見据えて輝く。その姿に胸騒ぎを感じ取ったシュウジだが、次の瞬間、背後から損傷を受ける。
ファンネルによるものであった。その一瞬の隙にネメシスは腰部のヴェスバーを至近距離で発射してバーニングゴッドブレイカーを怯ませると、そのままビームトンファーを放ち、辛うじて回避したその脇腹を掠める。
「ハッ……データでしか知らねえが、アップデートっつーのもまんざら嘘じゃねえみたいだな」
戦闘能力の向上だけでも厄介だと言うのに、かつての使用者の頃から性能まで強化されている。自分達に合わせてとクロノは言っていたが、これは確かに過去のモノだと無下には出来ない脅威だ。
「けどな……。それでも過去に負けるわけにはいかねぇな」
かつての翔の言葉を思い出す。所詮、目の前の存在は過去のデータより生まれた影法師。であれば未来へ進み続ける自分が負ける理由がないのだ。
しかし物言わぬネメシスは代わりにファンネルのオールレンジ攻撃を返す。目にも止まらぬ変則的な動きでバーニングゴッドブレイカーを囲んでビームを放つ。
対してバーニングゴッドブレイカーはその場から動く気配を見せない。それは何故か? よもや諦めたとでも言うのか。
否。断じて否。覇王たる者に諦めなどと言う言葉はない。
ファイタータイプのコックピットで目を瞑っていたシュウジは開眼し、瞬時に二刀の刃を引き抜くとその刃を走らせて迫るビーム全てを弾くことで封殺し、それどころか弾いたビームでそのままファンネルを全て破壊したではないか。そのまま二つの刀を投擲すると、ネメシスは両腕のビームトンファーで弾きながら接近してくる。
が、覇王を相手に接近戦を挑むなど間違いだ。
「ウオォラッ!」
横薙ぎに振るわれたビームトンファーを跳び膝蹴りでいなすとそのままもう一方の突き出されたビームトンファーを手で払い、すぐさま鮮やかなボレーキックを見舞う。
それをまともに頭部に受けたネメシスは大きくその機体を揺らめかしてしまい、そのまま腹部に浴びせた掌底打ちによってネメシスの機体は宙に打ち上げられる。
「聖拳突きィイッッ!」
吹き飛ぶネメシスがヴェスバーを放つなか、損傷を厭わず、正面からただ真っ直ぐにネメシスを突き抜く。その一撃のみならず衝撃によってネメシスは遥か彼方に吹き飛んでいく。
・・・
「撃ち合いで勝てると思わないことだな」
ブレイカーネクストとユーディキウムの戦闘は激しい射撃の応酬が繰り広げられていた。しかし損傷の少ないブレイカーネクストに対してユーディキウムは半数の射撃兵装を失っており、ブレイカーネクストが優勢であることはすぐに見て取れた。
「射撃が駄目なら接近戦で……悪くはないが……」
だがユーディキウムはまるで対エヴェイユの兵器としての役割を果たさんばかりに大型ビームサーベルを引き抜いてその巨体からは想像できない速度で一瞬にして間合いを詰めて襲いかかってくる。それに対して翔は動じることなく静かに目を閉じている。
「見誤ったな」
翔が再び目を開いた時にはその瞳の色は紫色に変化しているのだ。同時にブレイカーネクストはビームサーベルを引き抜き、大型ビームサーベルを持つ関節を瞬きよりも早く切断し、そのままレールガンを交えて嵐のような剣撃を与える。
「今の俺の強さは俺だけのモノではない」
すると今度は翡翠色に瞳の色が変化したではないか。すると損傷を与えた胸部にビームサーベルを突き刺すと、そのまま蹴り飛ばし、更にそこにシールドに備わっているビームブーメランを投擲して、ライフルでそのビーム刃を撃つことによってエネルギー波を拡散させ動きを封じるとツインドッズキャノンを浴びせる。
「戦闘で俺達に勝てると思うな」
紫色と翡翠色のオッドアイに変化すると、そのまま全てが混ざり合うように虹色に輝く。ツインアイを輝かせたブレイカーネクストはフィンファンネルを射出させ、まるで一つ一つが意思を持っているかのように全てが効果的な位置にビームを浴びせていき、その隙間から狙撃による一筋の光がユーディキウムを貫く。
「翔さん、あいつらは俺達の手で葬ってやろうぜ」
「……そうだな。再び眠らせよう」
すると後方から体勢を崩したネメシスが通り過ぎていく。同時にシュウジからの通信が入り、ブレイカーネクストの隣にバーニングゴッドブレイカーが並ぶ。
シュウジの言葉に翔はモニターに映る二機をどこか哀れみながらもう一つのビームサーベルを引き抜く。
「……行くぜ、みんな」
シュウジは己の腕を立て構え、その甲にking of heartの紋章を輝かせる。
同時に悪夢の世界に囚われていた時と同じように自身の周囲をシャッフル同盟の紋章が浮かび上がり自身を囲む。今なお、シャッフル同盟は自身の傍にいてくれているのだ。
「極ッ限ッ!! シャッフル同盟ィィィィィィィッッッ!!!!!」
黄金に輝くバーニングゴッドブレイカーの廃部から炎のような粒子が溢れて頂点で日輪を結ぶ。意識を集中させるシュウジの手の甲にシャッフルの紋章が重なっていく。
「石破ッ天驚ォォォオオッ!!! ブロオオォォォォォォォオオクゥウンッッッフィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!」
唸りを上げて、バーニングゴッドブレイカーからまさに極限の一撃が放たれ、ネメシスとユーディキウムを拘束すると、そのままデビルガンダムブレイカーの方まで吹き飛んでいく。
「手向けに受け取れ」
ブレイカーネクストが天に突き出したビームサーベルが空をも貫かんばかりの巨大な光の刃へと変貌する。それはかつて過去の怨恨を断ち切った浄化の刃。
ブレイカーネクストから振り下ろされた刃はそのままネメシス達のみならず背後のデビルガンダムブレイカーをも断ち切る。
デビルガンダムブレイカーからしてみれば、あのような規則外の一撃は予想外も良いところだろう。まるで錯乱したかのように周囲に自身の全ての武装をまき散らし、周囲のシャインストライク達へ被害を齎そうとする。
「させるかよ……ッ!! ヒイイイィィィィィーーーーートォオオッッッエンドォオッ!!!」
だがそれを見過ごすシュウジではない。ネメシス達を拘束した極限の技はそのままデビルガンダムブレイカーをも掴み、そのまま大爆発を起こす。
「俺の嫁に手を出そうなんざ御仏が許しても俺が許さん」
「……お暑いことで」
崩壊していくデビルガンダムブレイカーを見ながら静かに呟くシュウジに翔は惚れっ気を聞かされたように苦笑してしまう。
「とはいえ……本当に強くなったな、シュウジ」
彼の半人前だった頃を知っている分、覇王としての力量を身に着けた彼を称賛する。するとシュウジは面食らったように驚くものの、やがて照れ臭そうな笑みを見せる。
「知っていたけど、本当に規格外ね……」
「そんな嫁だなんてそんなぁっ」
「……ヴェルさんが幸せそうで何よりです」
そんな二人のやり取りを傍から見ながら先程の光景に何か言うどころか言葉を失ったレーアは表情を引き攣らせると、ヴェルはとろけそうに頬を抑えるように両頬に手を添えながら身をくねらせている。士官学校からの長年の付き合いである彼女のそんな姿にカガミは頭痛を感じながらため息交じりに呟くのであった。
「さて、後は一矢君と奴だけだが……」
「きっとアイツはアイツでケリをつけますよ」
翔は飛んで行った一矢の事を想う。今なおきっとクロノと戦っていることだろう。だがシュウジは一矢への信頼を感じさせるような笑みを浮かべながら暗雲の中に晴れ間が見え始めた空を見上げるのであった。