遂に切って落とされた最後の戦い。片や仲間達との素晴らしき明日を掴むため、片や満たされぬ自身の器を満たさんがため。互いに相容れる事のない想いを胸にただ己の中に宿る
デビルガンダムブレイカーをレーア達が引きつけるなか、轟音が響き渡る苛烈極まる激闘が繰り広げられる。一刻たりとも張り詰めた緊張の糸を切る事はならぬ。その時はかの蜘蛛の糸のようにただ墜ちるのみ。栄光など掴めやしまい。
「どうした、その程度ではあるまいッ!」
デクスマキナに食らいつくようにカレトヴルッフを振るうリミットブレイカー。しかしその大剣は鎌鼬の如し、天武の才に等しき技によって防がれ、それどころかリミットブレイカーに鋭い傷を与えんばかりだ。やがて幾度となく打ち付け合った刃は一瞬の隙をついたクロノによって勝敗が上がり、打払いと共にリミットブレイカーを容赦なく蹴り飛ばす。
「させるかッ!」
そこにユーディキウムが二門のビームキャノンの砲口をリミットブレイカーに定める。いち早く気付いた翔はフィンファンネルでリミットブレイカーを囲むと、バリアを展開して追撃の手を防ぐ。
「バランスブレイカーには退場してもらいたいものだ!」
「ッ!?」
そのままユーディキウムのビームキャノンを破壊しようとGNスナイパーライフルⅡを構えるブレイカーネクストだが、周囲に展開されたシールドピットがその行動を阻む。シールドピットから放たれたビームを最小限の動きで回避するが、その刹那、デクスマキナが突撃してくる。
人間の種を超越した存在同士による戦いは更に発展していく。翔とて異世界から帰還を果たして、この瞬間程、全力を引き出しての戦いはなかっただろう。
「チィッ……干渉してくるか……ッ!」
翔の瞳が虹色に変化しようとした瞬間、強烈なプレッシャーが脳に届く。それは紛れもなく新人類たるクロノによるものだろう。お陰で能力を発現が厳しいものになってしまっている。
「ウオォラァッ!!」
戦闘が拮抗したと思われた時、周囲に突風が巻き起こる。見れば竜巻が発生しているではないか。その中心にいるのは他でもないバーニングゴッドブレイカーであった。シュウジの働きもあってデクスマキナもブレイカーネクストから距離を置く。
「なっ……!?」
しかしシュウジは目を見開いて息を呑む。何とネメシスが輝きを纏って急接近してきたではないか。それだけならまだ良い。しかしネメシスが行ったのはビームナギナタに覚醒の輝きを込めた強烈な一撃であった。
いかに轟々と唸りを上げる竜巻と言えど、耐えきれるものではなく容易く打ち消され、そのままバーニングゴッドブレイカーは覚醒の一撃を受け、近くの高層ビルに吹き飛んで、機体を沈めてしまう。
「覚醒……いや、エヴェイユの力まで再現したと言うのか……!」
「あくまで戦闘能力だけの話さ」
一連の出来事を目の当たりにした翔は驚愕してしまう。あの輝きはガンプラバトルによる覚醒とは違う。それはあの機体がネメシスだからと言うのもあるだろう。だがどうやら翔の考えは当たっていたようで、それを答えながらデクスマキナは接近してくる。
デクスマキナに対して迎え撃とうとするブレイカーネクスト。しかしその寸前にデクスマキナが装備するビームナギナタの先端部から禍々しい紫色の発光体が飛ばされる。
一体、あれは何なのか。考えるよりも早く効果が発揮された。飛ばされた発光体はその規模を広げた瞬間、ブレイカーネクストは発光体が発する強烈な引力によって引き寄せられ始めたではないか。
「あれは……ッ!?」
一矢にはその発光体に覚えがあった。それはかつての宇宙エレベーター漂流事件の際、初めてアンチブレイカーとの戦闘で自身も体験した事のあるものだ。しかし何ら不思議なことではない。そもそもアンチブレイカーの製作者はクロノだ。プロトタイプとも言えるアンチブレイカーの使用した攻撃プログラムをデクスマキナが行えたとして何ら不思議なことではあるまい。
さしもの翔と言えど、僅かな隙が出来てしまったのだろう。デクスマキナから放たれたグレネードの直撃を受け、よろめいたところを全てのスラスターを稼働させた隕石に等しい急降下の脚部を受けて、地面に落下してしまう。
「……ッ!」
シュウジのみならず、翔までが苦戦を強いられている。無論、この戦いは簡単に勝てるとは思ってはいない。しかしそれでも一矢にとって大きな存在である翔達のその姿は少なからず動揺を与える。
だがしそれで気を取られるような真似はしない。だが今、ゲネシスブレイカーが戦闘を行っていたのは、ユーディキウム。対エヴェイユ用に一人の少女を犠牲にして生み出された悪魔の機体だ。
その戦闘能力は例え再現されたデータと言えど、その力を遺憾なく発揮される。現にリミットブレイカーの攻撃は掠り傷程度に留めているのだ。加えてリミットブレイカーに匹敵するほどの機動力だ。光が尾を引く様な高速の戦闘を繰り広げても、生物である一矢にも限界はある。
ほんの少し隙を見逃す事はなく、背部からガトリングを受けてよろめいたところを前方に回り込まれてしまう。仕掛けられるのは明白だ。すぐさまアンチビームシールドを展開するが、間近で胸部ビーム砲を受けてしまい、防ぎきる事は叶わず、そのまま押し切られる形で吹き飛ばされてしまう。
「さあどうだ」
体勢を立て直してすぐさま反撃に出ようとするガンダムブレイカー達だが、その前に上昇したデクスマキナ達はありったけの射撃武装を地上のガンダムブレイカー達に放つ。
爆炎が巻き起こり、建造物が倒壊するなか、ガンダムブレイカー達はその中に呑み込まれてしまう。その蹂躙の光景は見る者に絶望を与えるには十分すぎるほどだ。
・・・
「──まだだッ!」
そう強く叫んだのは優陽であった。
激化する宇宙空間での戦闘で一人、ユグドラシルを相手に奮闘する優陽はけたましく鳴り響くアラートに叫ぶ。EXブレイカーはデクスマキナとの長時間の戦闘で既に大破寸前にまで追い込まれており、優陽の疲労もかなりのものだ。にも関わらずユグドラシルを相手に無茶な戦いをしている。自棄ではない。何故なら優陽の瞳は衰えがないからだ。
その甲斐もあってユグドラシルの損傷もかなりのものとなっている。あと一押しと言ったところだろう。しかしユグドラシルがそれで戦闘を終わらすわけがない。まさに世界樹の名の如く放たれたビームは枝分かれして周辺の敵機体を追い詰めようとするのだ。
「今の僕は昔とは違うッ! 僕の希望が無くならない限り、倒されやしないッ!!」
回避はする。しかしEXブレイカーは恐れ知らずかユグドラシルへ向かっていきながら回避しているのだ。今のEXブレイカーでは下手な一撃が命取りになりかねないと言うのに。それはまるで派手に動くことによって注意を自分に引くかのように。
「例え迷いや絶望が道を塞いだとしても──!!」
ユグドラシルの圧倒的な火力とその性能はレイドボスの中でも群を抜いての絶望を見る者に与えている。それこそ絶望が形となったかのように。
「全てを希望に塗り替えて見せるッ!!」
だが同時にそれに立ち向かうEXブレイカーも見る者に希望を与えているのだ。決して諦めない不屈の意志。それこそ今の優陽の武器だ。
「ハイメガキャノンッッ! いっけええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーえええええッッッッ!!」
優陽の想いを表すようにEXブレイカーの莫大なエネルギーを額のメガコンデンサーによって凝縮させ、高密度のメガ粒子を解き放つ。どこまでも真っ直ぐにそして力強く伸びたハイメガキャノンはリフレクターバリアを張ったユグドラシルに直撃し拮抗する。
「守る……ッ! 絶対に守るんだッ! この希望をッ!!」
クロノに言ったように立ち上がったファイター達やこの事件を解決しようとしている者達は優陽の希望なのだ。だからこそ誰一人として……そう、希望を失うつもりはない。
「ヘッ、アイツよくやってくれるじゃねえか!」
「流石、ガンダムブレイカーってことか」
「でもあの子ばかりに任せないよ!」
膨大なエネルギーがこの宇宙空間に溢れている。押し寄せる絶望を押し留めるように拮抗しているEXブレイカーの姿に聖皇学園ガンプラチームが動く。バアルがツインバスターライフルを構え、G-リレーションPの豊富な武装と共に放ち、BD the.BLADE ASSAULTはアトミックバズーカが放たれる。
「人の意志があの場に集中して……。あの暖かさが持つ者達が……未来を創るのか」
「世界に人の心の光を……か。シャア、あの光を消させるわけにはいかないな」
「新しい時代を作るのは老人ではない……が、道を広げる事くらいは出来よう」
アンチブレイカーを撃破しながらネオサザビーはユグドラシルと拮抗するEXブレイカーと優陽に手を貸すファイター達の姿を見つめる。
ポツリとシャアの口から放たれた言葉に傍らによったHi‐νのアムロからの通信に微笑を浮かべると、Hi-νとネオサザビーもまたEXブレイカーのアシストをする為、ユグドラシルに攻撃を仕掛ける。
「絶対に引き下がらないッ! 僕にも意地や
ファイター達がユグドラシルに攻撃を仕掛けるなか、EXブレイカーの機体はどんどんスパークを起こして各部が悲鳴を上げている。
大破寸前のところにオーバーチャージおハイメガキャノンを使用したのだ。その負担は計りかねない。それでも優陽はただ前だけを見つめていた。
「僕だって……男なんだッ!」
ハイメガキャノンに併せて両肩のビームランチャーを最大出力で放つ。遂にEXブレイカーの各部で小さな爆発が起こるなか、ふわりと優陽の想いを表すようにEXブレイカーが微かに光を纏う。やがて受けきれなくなったユグドラシルは貫かれて大爆発を起こす。
「……疲れたよね……? お疲れさま、そしてありがとう……EXブレイカー……」
ユグドラシルの撃破で周囲が歓声を上げるなか、表情に疲労を滲ませながらも頬を紅潮させてEXブレイカーを労う。ここまで耐えてくれたEXブレイカーが何より愛おしかったのだ。
「……でも、もう少し付き合ってね」
ユグドラシルがいなくなったからといってそれで終わるわけではない。周囲にはまだアンチブレイカーがいるのだ。既にリーナ達が合流して、戦闘を行っているのだ。
「諦めない限り戦う……。そうだよね、一矢?」
シグマシスライフルを構えながら優陽はこの場にはいない一矢に尋ねると、主の想いに応えるようにEXブレイカーのツインアイが輝きを見せるのであった。
・・・
───その瞬間、地上で三つの光の柱が出現した。
「これは……」
都市部で地上のガンダムブレイカー達に射撃の雨を見舞ったクロノは硝煙の中から出現した三つの光の柱に思わず眉を寄せて、反応する。
───人を越え、未知の可能性を示すような英雄の虹色の輝き
───遥かな覇道の先にある未来を掴むような覇王の黄金の輝き
───受け継ぎ強くなった想いを表すような新星の如し紅き輝き
光の中心で輝きを纏う三機のガンダムブレイカーは最後まで諦めない想いを表すかのように彼らの放つ光の柱は空に広がる絶望の暗雲を貫くのであった。