機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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破壊者達の再臨

 ルスランとシーナとの接触から悪夢と言える世界から抜け出した翔は最後に強烈な閃光が自身の視界を覆い、やがて視界が回復した先にあったのは自身がシュウジと共に居たVRハンガーだった。

 

「……どうやら待たせていたようだな」

「そうでもないです。俺達と翔さんが戻って来たのに、そこまでのラグはありません」

 

 既にここには一矢とミサ、そしてシュウジの姿があり、彼らの顔を見て、翔は軽く微笑みながら声をかけると、一矢はやんわりと首を振りながら歩み寄る翔を出迎える。

 

≪皆、戻ってきてくれて何よりだ≫

 

 するとVRハンガーにカドマツからの通信が入る。通信越しではあるものの、聞こえてくる彼の声は無事な様子を見せる一矢達を見て、安堵している柔らかなものであった。

 

≪早速で悪いが……頼めるか? 正直、状況は良いとは言えなくてな≫

 

 するとカドマツはVRハンガーの上部に複数の立体モニターを表示させて、バトルフィールドの様子を映し出す。そこにはファイター達とウイルス達のバトルの模様が映っていた。しかしいくら一般のファイター達が参加したからと言ってそう易々と事態が好転するわけではないのか、多くのモニターでアンチブレイカーによって撃破されてしまっている。

 

「……でも」

 

 しかしそこでミサは渋ってしまう。何故ならば、先程まで一矢はあの悪夢の世界で苦しんでいたからだ。それは恐らく翔やシュウジとて同じなのだろう。彼らにかかっている精神的負担は決して軽いものではない筈だ。

 

「……大丈夫だよ、ミサ」

 

 すると一矢によってミサの手が優しく握られる。そこには穏やかな笑みを向けてくれる一矢がいた。

 

「ああ。俺達はここで立ち止まっている訳にはいかない」

「さあ、勝ちに行こうぜ」

 

 自分達はただあの悪夢の世界から逃れたわけではない。それは口に出さずとも、お互いの凛と引き締まった顔つきを見れば、一皮むけたと言うことが分かる。

 一矢の言葉に続くように翔とシュウジが声を上げると、二人は背後を見上げ、一矢とミサも視線を追う。

 

 そこには三機のガンダムブレイカーの姿がある。

 三機ともハンガーに収められているもののツインアイを輝かせ、主が乗り込むのを今か今かと待っているかのようだ。

 

「それにこのまま黙って見ている訳にもいかないしな」

 

 三機のガンダムブレイカーの姿はミサにこれ程、心強さを与えてくれる存在はいなかった。綻ぶミサの横顔を見た一矢は振り返って、立体モニターを見上げる。

 

 そこに映っているのはデクスマキナと戦闘を続けるEXブレイカーの姿がある。

 どんな絶望にも立ち向かおうとするその勇姿は一矢や翔達にも希望を宿し、共に立ち向かおうとする戦意をかき立ててくれる。

 

「分かったよ、一矢……。でも私も連れて行って」

「ミサ……」

「アザレアはもう使えない……。でも、それでも一矢の傍に居たい」

 

 もうこうなっては誰にも彼らを止められないだろう。それを理解したミサは一矢に頼み込む。ミサのアザレアリバイブはただでさえ損傷が激しかったのに、ワームホールを潜る為にそのエネルギーを全て使い果たしてしまった。撃墜扱いになってもうバトルフィールドに戻ることは出来ないだろう。だがミサにはこの状況でただ遠巻きに見ていることは出来なかったのだ。

 

「……ミサがいるなら何にだって届く……」

「……っ」

「行こう、ミサ」

「うんっ!」

 

 一矢は一度、リミットブレイカーを一瞥しながら呟く。思えばここまで来れたのは何より彼女の存在があったからだろう。ミサはそんな一矢の姿を見つめていると、まっすぐな表情で向けられた彼の手を力いっぱい応えるようにしっかりと掴む。

 

「ここからはチームで行こう」

「俺達ガンダムブレイカーの力……見せてやろうぜ」

「ああ、反撃開始だ」

 

 二人のその様子を傍から眺めていた翔とシュウジが笑みを浮かべているが、流石にいつまでもそうしてはいられない。一矢と視線を交わらせ、頷き合った三人はそれぞれの愛機へ向かい、ミサも一矢の後を追って、リミットブレイカーへ向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガンダムブレイカーネクスト……如月翔、出撃する!」

 

 

 

 

 生温い優しい言葉も世界も要らない

 

 

 

 

「バーニングガンダムゴッドブレイカー……シュウジ、行くぜッ!!」

 

 

 

 

 時に鋭く胸を貫くような痛みを伴っても、そんな出来事が強くしてくれる

 

 

 

 

「リミットガンダムブレイカー……雨宮一矢、出るッ!」

 

 

 

 

 だからこそ諦めず、明日へ何度も誇り(プライド)をぶつけて進んでいくんだ

 

 

 

 

 ・・・

 

 

「クゥ……ッ!?」

 

 デクスマキナと戦闘を続けているEXブレイカーだが、遂に大きくよろめいてしまう。

 既に堅牢なEXブレイカーも中破以上に追い込まれており、デクスマキナと長時間戦っていた優陽の表情にも疲労が滲んでいた。

 

「これでチェックかな、四人目(フォース)

 

 一方、デクスマキナは軽微であり、クロノ自身もまだ薄ら笑いを浮かべているほどの余裕を見せていた。

 

「諦めないよ……。絶対に……ッ!!」

「ほぅ、流石はガンダムブレイカーといったところか」

 

 だが優陽は歯を食いしばって疲労に滲んだ表情を引き締める。自分はもう過去の自分とは違うのだ。だからこそこの身が尽きるまで絶望へ抗い続ける。そんな気丈に立ち向かおうとする優陽にクロノは皮肉気に感心する。

 

「ならばこれはどうかな?」

 

 するとクロノは立体コンソールを表示させ、手早く入力を済ませると、デクスマキナは両手を上げ、左右に巨大なデータ量が形を構築していく。

 

 そこに現れたのはピラミッドを彷彿とさせる四角錐状のシルエットを持つ【ユグドラシル】と仰々しくさながらエイリアンを思わせるような【レグナント】が出現したではないか。

 

≪あれはイベントのレイドボスとして用意したMAではないか!≫

「……ッ!」

 

 優陽のコックピットに現れたMAを見て驚愕した開発者からの言葉を聞きながら思わず優陽は表情を険しくさせる。システムの大半を掌握したからこそ、ここで出現させたのだろう。運営側が用意した機体も全てクロノの手中にあり、それを意のまま出現させることができるのだろう。ただでさえクロノを相手に何とか凌いでいる状況でのMAを登場させることによって優陽の戦意を削ごうと言う魂胆だろう。

 

「クッ……!?」

 

 実際、優陽に影響はあった。目の前にそびえ立つように出現したMAに優陽は無意識のうちに萎縮してしまい、レグナントから放たれた大型ビームに疲労も相まって反応が遅れてしまい、迫りくる閃光に息を呑む。

 

 

 

 

 しかしその前にEXブレイカーを包んだ光の障壁が絶望の閃光から防いだのだ。

 

 

 

 

「───よくやったな」

 

 

 

 突然のことに誰もが驚いているなか、優陽が周囲を見渡せば自身をフィンファンネルがピラミッド状に取り囲んでバリアを張っていたではないか。唖然としている優陽に通信が入ると共に後方から三つの反応が起きる。

 

「ガンダムブレイカーッ!」

 

 確認した優陽は思わず高らかにその名を叫ぶ。後方から一直線にやって来たのは三機のガンダムブレイカーだったからだ。

 

「ここからは任せてくれ」

「ああ、遅れた分を取り返す」

 

 真っ先にブレイカーネクストとリミットブレイカーが先行し、EXブレイカーを囲んだフィンファンネルと共にオールレンジ攻撃がデクスマキナとMAに向けられる。

 

「ブラァックホールが吹き荒れるぜェッ!!」

 

 レグナントからブレイカーネクストとリミットブレイカーを捉えようとエグナーウィップが放たれるなか、飛び出したバーニングゴッドブレイカーによる目にも止まらぬ太刀筋によって一瞬のうちに切断される。

 

 そこからはまさに一瞬の出来事であった。

 レグナントのGNファングをリミットブレイカーのCファンネルが迎撃するなか、MA達が仕掛けるよりも早く、三機のガンダムブレイカーは仕掛ける。

 

 レグナントの大型ビームが発射する寸前にブレイカーネクストによる狙撃が発射口を貫き、大爆発を起こす。レグナントの巨体が揺らめくなか、爆炎の中から突破したリミットブレイカーがカレトヴルッフによってクローアームを切断し、片方のクローアームもバーニングゴッドブレイカーによって破壊される。

 

「俺のこの手が煌めき照らすッ! 未来を示せと響いて叫ぶッ!!」

 

 ブレイカーネクストからの掩護を受けるなか、二機のガンダムブレイカーは離脱すると、バーニングゴッドブレイカーは両腕を広げる。

 

「極ゥ限ンンッッッ!」

 

 すると腕の甲を前腕のカバーが覆い、エネルギーがマニュビレーターに集中し宇宙を照らす輝きを見せ、両腕にそれぞれ太陽の鮮烈な輝きと月の柔和な光を纏ったかのような光を放つ。

 

「ブロオオオォォォォォォォッックゥンッッッッフィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!!!」

 

 神々しい輝きを纏った両腕を突き出し、ブレイカーネクストもビームサーベルを、リミットブレイカーはカレトヴルッフを構えて、レグナントへ突撃していく。

 

 ───衝撃。

 

 三機のガンダムブレイカーは巨躯を誇るレグナントを貫く、巨大な絶望が希望に変わるかのように閃光の中に消える。

 

「凄い……」

 

 眩しい閃光を背にする三機のガンダムブレイカーの姿に優陽は思わず見惚れてしまう。

 先程まで圧倒的な絶望があった。しかし今、希望は完全に蘇ったのだ。三機のガンダムブレイカーの活躍に彼らの姿を見ている者達は高らかな歓声をあげる。

 

 

 

 

「───クククッ……アーハッハッハッハッ!!!!」

 

 

 

 これならば巻き返すのも不可能ではない。そう思った矢先に心底、愉快そうな哄笑があがる。誰もが眉間に皺を寄せるなか、嗤っていたのはクロノであった。

 

「いやはや素晴らしい。これは思わず熱くなって震えてしまうよ」

 

 まるで劇を見ているかのようにクロノは三機のガンダムブレイカーを前にしても動じることなく、寧ろ彼らの早々たる活躍に拍手を送っているではないか。

 

「全く動じねえとは……やっぱり気に食わねえな」

「遅かれ早かれこうなることは予想が着くからね。勿論、壊れればそれはそれでその程度ではあるが」

 

 三機のガンダムブレイカーがデクスマキナと対峙するなか、シュウジは敵意を露わにしながらクロノの反応に不快感を示すとクロノは首を横に振りながら、その余裕に満ちた態度を崩さない。

 

「さて、いよいよゲームの盛り上げどころと言うわけだ。ならばそれに応じた行動をとるとしよう」

 

 クロノは三機のガンダムブレイカーをそれぞれ一瞥すると口角をつり上げる。

 するとデクスマキナは彼らに背を向けて地球へ向かったではないか。恐らく大気圏を突入しようという魂胆であろう。一矢達も後を追おうと地球へ向かおうとするが、その行く手を遮るようにユグドラシルのテンダービームが阻む。

 

「一矢、アイツが行っちゃう!」

「分かってる! だが、こいつから何とかしないと……ッ!」

 

 同乗するミサは既に大気圏を突入しようと赤熱化しているデクスマキナの姿を見ながら一矢に叫ぶが、ユグドラシルから放たれる植物の枝葉のような複雑な軌道と広範囲を誇るビーム砲撃は彼らに思うような行動をとらせない。

 

 だが三機のガンダムブレイカーとユグドラシルの間に高収束ビームが放たれ、テンダービームを阻む。それを行ったのはEXブレイカーであった。

 

「行って! ここは僕が引き受けるッ!!」

「しかし、君は……」

 

 矢継ぎ早にユグドラシルの注意を引くようにEXブレイカーから高火力の攻撃が仕掛けられていく。そんな中で優陽は翔達にクロノを追うように伝えるが優陽はずっとクロノを相手に戦って来た。その消耗は激しいだろう。翔は優陽の身を気遣うのだが……。

 

「僕だってガンダムブレイカーだよ。ここは僕を信じて、任せてほしいな」

 

 優陽は通信越しに安心させるように柔らかな笑みを浮かべると、その笑みに僅かに考えた翔達だが、やがてそれぞれ頷いて、三機のガンダムブレイカーは地球へ向かっていく。

 

「やっぱりまだまだ追いつけないなぁ……」

 

 既にリミットブレイカー達は大気圏を突入しようとしている。どんどん離れていくその後ろ姿を横目にどこか寂しそうに呟く。

 

「でもね……。追いつけなくとも彼らの道を開くことは僕にだって出来るッ!!」

 

 ユグドラシルは危険と判断したリミットブレイカー達を追撃しようとするが、その行く手をEXブレイカーのシグマシスライフルが阻む。

 ユグドラシルもEXブレイカーを撃破しなくては追撃できないと判断したのだろう。注意を向けるなか、EXブレイカーと優陽はただがむしゃらに向かっていくのであった。

 


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