機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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キボウノカケラ

「皆さん、ご覧になられていますか!?」

 

 一般のファイター達が次々とバトルフィールドに参戦するなか、その模様をハルが中継をしていた。

 

「一つ一つが小さな欠片なのかもしれません……。ですが、それが集まると大きな希望となるのです! 見届けましょう、このバトルを!」

 

 絶望が支配する空間で新たなガンダムブレイカーの出現と共に希望の日差しが差し込んだ。流れは少しずつ変わっている。ハルは想いのままマイクを握って熱く叫ぶ。

 

 ・・・

 

「あぁんもぅ! 全然、攻撃が通んないよーっ!!」

「ならば攻撃を集中させるまででのこと。いくらでも手を貸しますわ」

 

 裕喜のフルアーマーガンダムの砲撃がやっとの思いでアンチブレイカーに直撃するのだが、それでもアンチブレイカーの装甲は破れなかった。泣き言を口にする裕喜にアンチブレイカーの攻撃が襲いかかるなかシオンのキマリスヴィダールがシールドで防ぎ、その間にストライク・リバイブ達が攻撃を仕掛けていく。

 

「助けに来たんだから、格好良いところみせてよね?」

「そう言われたら、なにもしないわけにはいかないな」

 

 夕香のバトバトスルプスレクスがセレネスと並び立ちながら通信越しにウィルにウインクと共に笑みを投げかけるとウィルは一息つきつつも、やる気を見せ始める。

 

「しかしチャンプまで来るとはね」

「現役を退いた私の腕では君達の代わりは務まらない……が、戦えないわけではない!もう君達だけには戦わせない、私もこの腕を振るおう!!」

 

 ウィルはそのまま近くで鍔迫り合いとなっている機体の一つを見る。ミスターのブレイクノヴァだ。ウィルの言葉にかつてのウイルス事件を振り返りながら、強く叫んだミスターはアンチブレイカーを振り払う。

 

 ・・・

 

「……」

 

 一方、セレナも多くのアンチブレイカーを葬ったものの死んだような力のない目で前方を見つめていた。

 

「ぬぁーはっはっはっ!! 太陽()が来た以上、ここに、否、世界に希望が満ちたぁっ!!!」

 

 

 タブリスとアンチブレイカーの間に立っているのは……

 

 ま き し ま む が る と

 

 ……と表示されたガンプラ?であった。

 

「……ねえ、あれ作ったの君達でしょ」

 

 どうやら一般のシミュレーターで参加してきたらしい。セレナは力のない声で同じく参戦したモニカとアルマに問いかける。最も二人とも今回はトランジェントとレギルスを使用しているが。

 

「……旦那様のご命令とあらば作らざる得ません」

「……でなきゃオッサンなんて好き好んで作らないっつーの……」

 

 アルマとモニカも目の前の珍機体を視線を外しながら力なく答える。モニカに至っては制作している時の事を思い出しているのか、身震いしていた。

 

「……どういうつもり? わざわざこんな風に出てきて……。ボクの為に動いたつもりなの?」

「なにを言うセッレェーナァ。私はいつだってお前の為になるように行動していたつもりだぞ」

 

 まきしまむがるとだけでも頭が痛いと言うのに、ガルトが現れるのは文字通り目障りでしかない。言葉に嫌悪感をにじませながら吐き捨てるように言い放つセレナにガルトはしれっと答える。もっともその言葉にセレナは眉間に皺を寄せるのだが。

 

「……もっともその方向性が間違っていたことは否定せんがな。許せと言うつもりもない……が、私のスタンスは変わらん」

 

 彼女に教育係を当てつけた事も別に憎んでいたからではない。なにをするのでも最高の環境を用意したつもりだ。最もそれが彼女を苦しめていたことなど気付くのは後からになってだ。

 初めての子育て、その接し方も分からず、途中からセレナへの距離感も見失い、彼女の仮面が外れなくなった頃には何もかもが遅すぎた。子を育てるには自分はあまりにも未熟で子供過ぎたのだ。

 

「……ぬぉっ!?」

「……今はそれで済ませるよ。今は、ね」

 

 静寂が包み込むなか、まきしまむがるとのモニターが衝撃と共に大きく揺れる。どうやら背後のタブリスが思いっきり蹴り飛ばしたようだ。

 

「──ッ! お嬢様、攻撃反応が!」

 

 しかしやり取りをしている間にアンチブレイカーがタブリスに銃口を向けていた。いち早く気づいたアルマは急ぎセレナに伝えるとタブリスはアンチブレイカーを一瞥し……

 

 まきしまむがるとの首根っこを捕まえて、盾にした。

 

「ちょ、ちょおおぉぉぉぉっ!!? セッレェーナァ!? セッレェーナァァアッ!!!? 先程ので今はそれで済ませると言っていなかったかぁっっ!!? それとも私の空耳だったとでも言うのかぁあああ!!?」

「今はもう過去になりましたー。って言うか、父親って娘を守ってくれるものでしょー」

 

 アンチブレイカーの雨のような射撃が全てタブリスの盾代わりになっているまきしまむがるとに降り注ぎ、ガルトは慌てるが、セレナは意に介さず、しらーっとした様子で淡々と口にする。

 

「お嬢様、それは曲がりなりにも私達が制作したもの……。耐久性は折り紙付きです」

「どの道、旦那様はガンプラバトルをやったことがないからねー。壁になるのも仕方ないよねー」

 

 さり気なくレギルスとトランジェントがまきしまむがるとの影に隠れるなかセレナに伝える。未経験にも関わらず出て来たのは、それだけ想っての事だろうが、三人は最早、必要な犠牲と切り捨てながら、ポイっとまきしまむがるとを放り投げて、アンチブレイカー達へ向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「ここに……一矢がいるの?」

≪ああ。そこに間違いなく一矢の奴はいる≫

 

 ワームホールを越えた先に到着したミサは周囲を見渡す。その空間はまさに暗闇の世界。どこを見ても光り一つとしてないのだ。あまり長居したいと思える空間ではない。

 ミサは早速、一矢を探す為、彼の名を叫んで呼びかけるが、いくら彼の名を口にしたところで一矢からの返答はない。

 

≪恐らく自分を保っていられなくなったんだろうな≫

「……どういうこと?」

≪防衛本能みたいなもんさ。簡単に言うとだな、恐らくこれ以上、この空間の危険さから精神的ショックで気絶しているような状態なんだろう≫

 

 一矢の名を叫びながら宛てもなく歩き続けるミサはカドマツの言葉に眉間に皺を寄せる。その言葉は不吉でしかなかったからだ。だがカドマツの言葉は理解できる。自分もこの空間の異質さは身をもって分かるからだ。

 

≪お前さんも無理はするな。限界を感じたらすぐに言えよ? その空間からすぐに離脱させるから≫

「うん……。でも大丈夫だよ。ここに一矢がいるなら私は大丈夫」

 

 カドマツもミサの身を案じる。音声越しだったとはいえ、一矢があれほどの反応を示したのだ。ミサにだって精神的負担は大きい筈だ。

 ミサもその自覚はある。この空間にいるだけでも薄ら寒くて凍えてしまいそうだ。だが、それでも、一矢がこの空間にいると言うのであれば自分は耐えられる、そうミサは歩みを止めることはない。

 

「一矢……」

 

 会いたい。

 

 一矢はどれだけ孤独だったのだろうか。

 

 だから会って、今すぐにでも抱きしめたい。

 

 こんな薄ら寒い世界で凍り付いた彼の心に自分と言う温もりを与えたいのだ。

 

 

「一矢あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーぁあああっっっ!!!!!!」

 

 

 叫ぶ、ありったけを。

 

 自分がここに居るんだと言う事を。

 

 決して一矢が一人ではないんだと言う事を伝えるために。

 

 

「っ……?」

 

 するとほたる火のような小さな光が自分の胸から出現し、宙に舞い上がる。アレは一体、何なのだろうか? ふと疑問に思いながらもミサは絶えず一矢の名前を叫び続ける。

 

「これって……?」

 

 その度に小さな光が現れるのだ。最初は分からなかったが、やがてその光が何であるのか分かったのか、ミサは目を見開く。

 

「ねぇカドマツ! バトルフィールドにいるみんなにこの空間と通信できるように出来る?!」

≪ん? そりゃまあ……こうして通信してるわけだし、出来ないことは……≫

「だったら繋げて! あと、カドマツも一矢のことを呼んで!」

 

 何かを閃いたミサは慌ててカドマツに問いかけると、コンソールを操作しながら確認する。どうやら出来ないことはないらしい。ならば善は急げとばかりにミサは指示を出し、カドマツ自身にも一矢へ呼びかけるように伝える。

 

「私だけじゃない……。みんなで一矢に呼びかけるんだよ!」

 

 一矢には自分だけがいるわけではない。彼には多くの人達がいるのだ。それはきっと彼にとって大きな財産であり、これまでの雨宮一矢を形成する光であろう。

 

 ・・・

 

 

「成る程ね。そういうことならお任せっ!」

 

 バトルフィールドでデクスマキナと戦闘を続ける優陽は神経をすり減らすバトルをしているにも関わらず、カドマツからミサから伝えられた旨に快く引き受ける。

 

 

 

「一矢、早く戻ってきて! 僕たちはまだ知り合ったばかりだ。もっともっと僕達の関係を深めていこうよ!」

 

 

 

 優陽が

 

 

 

「私が好きになった雨宮君なら、いつまでもミサちゃんを悲しませないよね?」

 

 

 

 真実が

 

 

 

「さっさと戻って来いよ。お前は俺にとっても、みんなにとってもエースだろ」

 

 

 拓也が

 

 

 

「舞台はとっくに温まっておるぞ。早くしないと美味しいところは全てもらうきに、はよぅ戻ってくるんじゃぞ」

 

 

 

 厳也が

 

 

 

「……お前はいつまでも立ち止まる奴じゃないだろ。でなきゃ張り合いがない」

 

 

 

 影二が

 

 

 

「お前達が歩く未来ってのを見たいからな。早くこんなの終わらせようや」

 

 

 

 カドマツが

 

 

 

「現役を退いた私の心を君は熱くしてくれた! ならば君の心に届くよう私も全力で呼びかけようじゃないか!」

 

 

 

 ミスターが

 

 

 

「……あんまり酷いようであれば私が修正すると言った筈よ。早く顔を見せなければ、私がそちらに出向くわ」

 

 

 

 カガミが

 

 

 

「……仕方がない。一矢、僕と君はまだ一勝一敗だ。早くしなよ、そのままでい続けるのは許さないよ」

 

 

 

 ウィルが

 

 

 

「イッチ……待ってるからね」

 

 

 

 夕香が

 

 

 

「凄い……っ! 光が……光が溢れてく!!」

 

 

 それだけではない、本当に多くの人々が一矢に呼びかける。一つ一つがこの闇の世界では小さな欠片のようなものだが、それが合されば大きな光となって世界を照らす。それはまさに彼が今まで紡いできた絆が希望となって体現したかのようだ。

 

 

「一矢は一人じゃない! 最高の未来を掴もう!」

 

 

 そしてミサが

 

 

 

「行こう、一緒に!!」

 

 

 太陽のような輝かしい笑みと共にどこまで真っ直ぐ手を伸ばす。すると大きな光はミサの目の前に降りるとミサの手に触れ、やがてそこから人の形を形成する。その光が何であるのか、半ば直感で感じ取ったミサは強く引きよせる。

 

 やがて目が眩むほどの大きな輝きを見せ、ミサの視界が慣れた頃には、そこにはミサの手を掴んでいる一矢の姿があったのだ。

 

「……おかえり……っ」

「ああ……。ただいま……」

 

 どちらか先か分からぬくらい、一矢とミサは抱き合ってお互いの存在を感じ合うようにギュッと力いっぱい抱きしめる。一矢もミサもお互いの目尻に涙を浮かべながら噛み締めるように笑顔を浮かべていた。

 

「会いたかった……っ……。一矢に……会いたかったぁっ……!!」

「ああ……。ああっ……!」

 

 一矢の胸で我慢しきれず、嬉しさのあまり涙を流すミサに一矢もつられるように涙を流し、再会を心の底から喜び合い、涙の中に泣き笑いを見せる。

 

「本当に温かかった……。ミサがいたから、この温もりを知る事が出来た」

「私だけじゃないよ、一矢がいたからこそだよ」

 

 優陽達の呼びかけの一つ一つが温もりとなって一矢に届いていた。だから一矢はこうして再び姿を形作る事が出来た。

 

 だがその温もりは一人では決して得られなかった。目の前の人がいるから自分は知る事が出来た。一矢の感謝の言葉にミサは首を横に振る。そう、この温もりはミサだけでも得られなかったのだ。

 

 一矢とミサが出会い、そこからカドマツやロボ太に出会い、どんな運命も越えていけるような最高と言える程の絆を紡いで来れたのだ。

 

「行こう、皆が待ってる!!」

 

 どれだけ経ったのかは分からない。だが世界の崩壊を表すように少しずつ暗闇の世界に光が差し込んでくる。抱きしめ合ったまま、一矢の腕の中で頬を染めながらミサは決して一人ではないと、彼の手を取るのであった。


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