「やっと外に出れたね……」
サクヤ達のお陰で観客席から外へ脱出する事が出来た夕香達。多くの者達が一目散に会場を後にするなか外に出た裕喜も安堵の溜息をつく。
「……でも、まだ終わってないよ」
ワークボットによって観客席に押し留められていたせいで先程まで感じていた息苦しさから解放された夕香も深呼吸をして気持ちを整えるものの、そのまま会場を振り返り、近くの小型モニターに映っているバトルの様子を見つめる。
「凄いね。実力の差はあっても、あのガンダムは諦めてない」
そこにはEXブレイカーの戦闘の様子が映っていた。
デクスマキナが多くのファイター達の機体を葬り、アザレアリバイブをも追い詰めたのは夕香も知っている。お陰で今、バトルフィールドで戦っているファイター達の数が目に見えて減っているのだ。
「どんなに傷ついても、それでも前に進もうとしてる」
無論、優陽とてクロノに敵うというわけではない。
現に傍から見ても実力差は分かり、何とか撃墜されないように凌いでいるに過ぎない、がそれでもEXブレイカーは諦めているわけではないのは見ていても分かる。きっとどれだけ傷ついても、それでも立ち上がるほど強い何かがその胸になければできない筈だ。
その姿は見る者を強く引き寄せる。現にEXブレイカーのバトルをも見て、夕香達だけではなく、ちらほらと足を止める者達がいるほどだ。この状況にシオンは何か考えたように視線を俯かせていると、携帯端末に着信が入り、取り出して見れば相手はガルトであった。
・・・
「なまじ下手な実力を持っているから性質が悪い」
戦闘開始から暫く。EXブレイカーとデクスマキナの戦闘は熾烈を極めていた。
高火力高機動を両立させたZZガンダムをベースにしただけあり、EXブレイカーの火力は絶大で掠りでもすれば、その時点でいくらカスタマイズ機と言えどただでは済まない。
それだけでも脅威だと言うのにその機動力を存分に発揮しながら戦闘をする優陽の実力も、例えクロノに匹敵する事はなくとも、それでもこうして渡り合えるほどのものなのだ。
デクスマキナもEXブレイカーに攻撃を仕掛けてはいるものの、EXブレイカーの堅牢な装甲までは完全に突破することは出来ず、まだ小破に留まっている。
「しかし君自身、私に勝てはしないことは理解しているのだろう? 何故そうしてまで立ち向かう? 君の抱く希望とやらはそれほどまでの価値があるのかい? 私からしてみれば、無駄としか言いようがないのだが」
優陽の戦い方も分かって来た。EXブレイカーの性能は厄介ではあるものの撃破は問題ないだろう。現にこちらの攻撃ばかりが届いているのだから。しかしだからこそ解せない。優陽も実力差があるのは理解している。いくら希望だなんだと言ってもここまでできるものなのだろうか。
「分かってないなぁ……。僕は今、勝つ為だけにために戦ってるわけじゃないんだよ」
今もまた銃身下部にグレネード・ランチャーが放たれて、EXブレイカーの左腕肩部に直撃すると、その巨体が揺らめいてしまっている。だが発生した爆炎からシグマシスライフルの一撃が放たれ、デクスマキナは回避に専念する。そこには傷を負っても、ツインアイに確かな輝きを放ちながら構えるEXブレイカーの堂々たる姿がそこにあった。
そんなEXブレイカーの厳然なその姿を見て、クロノが目障りなものを見るように不快感を露わにさせて眉間に皺を寄せるなか、やれやれと言った様子の優陽の声が聞こえてくる。
「これは希望を紡ぐ戦い。だから僕はただ僕らしく……───」
『君が君らしく前に進めば、きっとその先に君がなりたい自分が待っているよ』
『そしてその先にもな。歩みを止めない限りは限界なんてない。どうせならずっと手を伸ばしな』
『……お前は昔の失敗を引き摺ってるけど、過去があるから今のお前がいる。そして今のお前は未来に……。だから進み続けよう。お互いに目指す未来へ』
「───そう、前に進むだけだよ」
もうただ目先の事に囚われていたあの頃の自分とは違う。ここで足を止めては自分が目指す存在には決してなれない。だから自分はここで決して諦めるわけにはいかないのだ。
「……希望……。前に……」
そしてEXブレイカーはデクスマキナへ向かっていく。デクスマキナに立ち向かうEXブレイカーの戦いを見つめていたミサはポツリと呟く。もうアザレアリバイブは満足に動くことは出来ない。そして自分の心も消耗しきっていた。
≪───おい、嬢ちゃん! 聞こえるか!≫
「……カドマツ……?」
するとアザレアリバイブのコックピットにカドマツからの通信が入り、ミサは力のない声でカドマツの名を口にする。
≪一矢の奴を助け出せるかもしれないぞ!≫
「えっ!?」
≪もっともお前さんの協力が必要だがな≫
カドマツからの言葉に先程まで朦朧としていたミサもその意識がハッキリと覚醒する。
サブモニターに映るカドマツへ身を乗り出すと、その反応に頷きながらカドマツはミサの協力を仰ぐ。
≪完全にプロテクトを突破出来たわけじゃないが、それでもアイツが囚われている空間に少しならアクセス出来るようになった! そこでお前にその空間に飛び込んでもらいたい≫
「私が……?」
≪ああ。音声を何回か拾ったが、アイツは誰もいない空間で自分さえ見失ってると推測される。だからお前に行ってもらいたいんだ! 一人じゃないって、アイツの手を取ってもらうために!≫
あれからずっと解析を行っていたカドマツだが、一矢達のプロテクトが完全に解除されなくとも、そのきっかけとなる方法は導き出したようだ。しかし無知な自分がそんな場所に飛び込んでいいのかと考えたミサだが、寧ろカドマツはミサだからこそと伝える。
「……私、行く。一矢に会えるならどこにだって行くよ! もう一回、ううん、何度だって手を伸ばす!!」
≪よし来た! 全力でサポートする! 早速だが頼んだぞ!≫
絶望で空虚になっていたミサの中にも小さな希望が芽生えだした。
だったら自分もまだ前に進める。手が届かなかったからってそれで諦めたくはないのだから。ミサのまっすぐで強い言葉にカドマツは満足げに頷くと、アザレアリバイブの近くで渦を巻くワームホールのようなゲートが形成される。
「させるかッ!」
だがそのワームホールを見て、クロノも感付いたのだろう。ワームホールへ向かって行こうとするアザレアリバイブへ襲いかかろうと迫ろうとする。
「こっちのぉ……台詞っ!」
だがその前にデクスマキナに体当たりを仕掛けたEXブレイカーによって阻まれ、クロノが舌打ちをするなか、デクスマキナのビームナギナタとハイパービームサーベルが激しいスパークと共に交わる。
「ならば……ッ!」
剣戟を繰り広げるなか、このままではEXブレイカーに邪魔されて間に合わなくなると判断したクロノは呼び寄せたアンチブレイカーをアザレアリバイブへ差し向ける。
しかしそのアザレアリバイブに迫ろうとするアンチブレイカーも思わぬ攻撃によって行く手を阻まれてしまう。一体、なにがあったのかクロノが確認を急がせると……。
「間に……合った!」
「真実ちゃんっ!?」
そこにはG-リレーション パーフェクトパックがいたのだ。その傍らにはBD the.BLADE ASSAULTとバアルの姿もあり聖皇学園ガンプラチームの登場にミサが驚く。
・・・
「一般のガンプラバトルシミュレーターでも調整さえすれば、アクセス出来るからな!」
「ああ。最初のテストプレイは既存のシミュレーターで行った。VRに対応していなくとも、バトルフィールドへの接続ならば可能だ! 我々が出来る事なら幾らでもやるさ!」
ミサの驚きに答えるようにカドマツと開発者が答える。どうやらシオンへの連絡も、このことをガルトから伝えられたらしい。そこから連鎖的にバトルフィールドにはイベント会場に置かれた一般のガンプラバトルシミュレーターを起点に新たな反応がどんどん表れ始め、それは全て一般のファイター達によるものだった。
・・・
「そういうこった。雨宮じゃなくともアイツは俺達にも縁があるからな」
「だからここは任せて。私達もあの頃とは違う! 今度は手を取り合って立ち向かう!」
カドマツの言葉に拓也と真実が頷きながら、鋭くデクスマキナを見据える。一矢がジャパンカップでクロノに敗れたように、それは彼らも同じことなのだ。
「その代わりに雨宮君をお願いね。絶対に一緒に戻ってきて!」
「任せて! 本当にありがとうっ!」
アンチブレイカーからアザレアリバイブを庇いながら真実はミサへ一矢のことを託すと、ミサは真実達の行動に感謝しながら、ワームホールに飛び込んでいく。
「お前、変わったな。ちょっと前のお前からは想像つかないぜ」
「良い女になるって決めたからね。私なりに前に進んでるってことだよ」
アザレアリバイブが突入したことでワームホールは消える。その様子を見届けながら、拓也は真実に声をかけると彼女は柔らかく微笑みながら答える。あまりにも可憐で魅力的な笑みだ。その笑みを通信越しに見て、そうみてぇだなと満足気に頷いた拓也はアンチブレイカーへ向かっていく。
「まさかこうなるとは……」
「そう? そんなに不思議な事じゃないよ」
センサーを広げて、フィールドに出現したファイター達の数を確認して静かに驚くクロノ。まさに次から次にこの広大なフィールドに一般のファイター達が表れ始めているのだ。だが驚くクロノとは対照的に優陽は笑みを浮かべながら答える。
『そしてその姿は周囲の人間は見逃したりしない。最後まで諦めず、倒れても立ち上がり、前へ突き進むその姿は勇気を与えてくれるのだから』
「ここで戦っているファイター達は決して諦めなかった。その姿がこのバトルを見ていたファイター達を突き動かしたんだ」
かつて翔に言われた言葉を思い出す。四割まで激減したとはいえ、この空間で戦うファイター達は抗うことを放棄しなかった。その姿を見ていた者達は思ったのだ。彼らの為に、彼らと共に戦いたいと。
「言ったよね、これは希望を紡ぐ戦いだって。アナタは無駄って言ったけど、確かな意味があるものだったんだ」
大きく切り払いながらデクスマキナとの距離を置くEXブレイカーはハイパービームサーベルの切っ先を突き出しながら、先程のクロノの言葉を否定する。何故なら今の結果を見れば明白だからだ。
「アナタに紡ぐものは無い。そんな人に僕達は負けないッ!」
強く叫ぶと共にEXブレイカーはデクスマキナへ向かっていく。ガンダムブレイカーがいない状況で新たなガンダムブレイカーが姿を現したのは、このフィールドで諦めなかった者達とその姿を見て、希望を宿していた者達の想いが形になったかのようだ。希望を紡ぐため、EXブレイカーは絶望をまき散らす者へ真っ向から立ち向かうのであった。