「ミサ姉さん……」
宇宙を舞台にアザレアリバイブは脇目も振らずにデクスマキナに攻撃を仕掛ける。それはあまりにも乱暴でただ内より湧き出る怒りに身を任せての事であるのはモニターを見ている誰しもが分かり、かつて似たような戦い方をしたことのある夕香はミサを想って表情に苦みを滲ませる。
「……先程から、外の方が騒ぎしくありませんこと?」
「……流石に分かんないよ。モニターからの戦闘音だって激しいんだし」
ふと何かを感じ取ったシオンが出入り口の方向を見やりながら呟く。が、バトルフィールドの戦闘音はスピーカーを通じて騒音の如く激しく。
シオンの言葉に夕香も出入り口を一瞥するも、すぐにモニターに視線を戻す。自分達が出来る事はあまりにも少ない。外を出ようと思っても、さながら門番のように各出入り口を塞いでいるワークボットにはどうしようもなかった。
・・・
「ッ……! まだ……! まだやられてないッ!!」
既に満身創痍のアザレアリバイブは戦えるのが不思議なくらいだ。しかしそうまでしてまでデクスマキナへ食らいつこうとするのは、全てクロノへの怒りだろう。今はそれだけがミサを突き動かしていた。
「ふあぁ……おや失礼……」
だがいくらミサの怒りが激しかろうとその攻撃全てを捌くクロノは至って冷静であり、寧ろ退屈そうに欠伸までしている始末だ。軽く握った手を口元に添えながら非礼を詫びるが、それがミサの怒りを更に助長させる。この男はどこまで人をおちょくるつもりなのだろうか、そもそもこの男は自分の事を見てはいない。
「だが私としても飽きてしまった」
全てただ時間稼ぎに体よく利用されていたようなものだ。今のミサの攻撃は最初こそただ激しかったで済んでいたのだが、その内、クロノもその動き全てを読み取ってしまい、最早、お遊戯のレベルであった。それも彼の言葉通り、飽きが回ってしまったのだろう。
「なっ……!?」
デクスマキナのモノアイがギラリと光る。
次の瞬間、デクスマキナへ振り下ろした大型対艦刀が稲妻のように走った一閃によって折られてしまったではないか。
目を見開いて唖然とするミサだが、モニター越しにビームナギナタを振り上げたデクスマキナはただ一点にアザレアリバイブを見つめていた。
今ので冷や水を浴びせられたかのように冷静になっていくミサはすぐに覚醒と共にバックパックのビームキャノンを展開しようとするのだが、それも一瞬にして切断されてしまう。
ならばと最後に残った武装であるシールドのビームサーベルを引き抜いて反撃を試みるのだが、それも実力差によって悉く弄ばれてしまう。いかに覚醒しようとも技量差によって覆されてしまうのはこれまでも一矢に多くあったが、ミサにとっては初めてであり動揺してしまう。これまでアンチブレイカーの大群を突破して来れたのも偏に覚醒の恩恵があったに他ならないからだ。
「さて、もう手を尽くしたかな? ならば恥じる事はない。それが君の限界であり、私との差なのだから」
遂にはサーベルを持つ腕部ごと斬り落とされてしまったではないか。なにをしても通用しない状況にミサの表情に絶望が色濃く表れ、クロノは悠然とした様子で口にする。
「まだ……! まだ……っ!」
「おやおや……勇気と蛮勇を履き違えた者には哀れみさえ抱いてしまう」
しかしミサがクロノの言葉を受け入れる事などは出来なかった。武装を失っても、それでも残った腕で殴りかかろうとしてくるアザレアリバイブの姿に重い溜息と悲哀の念を抱きながらデクスマキナは力なく振るわれたアザレアリバイブの拳を受け止める。
「いい加減、理解したまえ。君一人の実力ではその程度なのだよ。なにせ雨宮一矢はここにはいないのだから」
更にはアザレアリバイブの腕部をそのまま捻りあげると機体を寄せ、接触回線によってミサに淡々と思ったことを口にする。
「君は彼に肩を並べるだけの実力を身に着けたと思っているようだが、その実勘違いである事に気づいていない。君は彼と対等になっているのではない。彼に置いて行かれないように何とかしがみ付いているに過ぎないのだよ」
「……っ」
かつてミサが思い悩んでいたことを再び口に出されてしまう。実際にはミサは強くなっている。しかしそれは一矢も同じことだ。きちっと実力が揃うなんてことはありえない。優劣は多かれ少なかれあるのだ。ミサもその事はやはり自覚しているようでクロノの言葉に息を呑む。
「諦めが肝心だ。諦めが判断できるのはまだ理性的な証拠だ。君はもう十分に戦ったさ。ここで倒れても誰も君を責めやしない」
気遣うような言葉とは裏腹に彼が浮かべる笑みは嘲笑的なモノだ。
事実、彼はミサを嗤っているのだ。怒りを見せたミサに飽きたクロノは最後には彼女の心を折って、その姿を楽しもうとしているのだ。
「ご苦労様、少し休みたまえ」
だがミサにも限界はあるのだろう。どんどん抵抗しようとするアザレアリバイブの機体から力が抜けていく。その様子を心底、愉快そうに見つめながらもデクスマキナはビームナギナタを振り上げる。
そして
一閃が走った。
・・・
「やはり何か騒々しいですわ……」
一方、観客席では先程からシオンが忙しない様子で出入り口を見ている。何回か立って様子を伺っている。、
「もういい加減にしてよ。この状況で何があるってのさ」
「わたくしとて分かりませんわ! ですが、音がどんどん近づいて───」
あまりの忙しなさに夕香が眉間に皺を寄せながら窘めるように文句を口にすると、反論しようにも具体的なものが分からぬため、何とも言えないのだがそれでも彼女の言葉が確かなら音は近づいているようだ。
「───は?」
夕香もそうまで言うのであればとシオンが見やる出入り口に視線を映した瞬間、立ち塞がっていたワークボットの一機が宙を舞い、モニター近くに吹き飛ぶ。
「───よーやく着いたぜー。ったく、邪魔すっから鉄屑になっちまうんだよ」
今の騒ぎで観客の視線がワークボットが吹き飛んだ出入り口に注がれる。そこにはオレンジ色の頭髪を靡かせ、紅蓮の炎のような色合いの長棒を肩に担いだ少女がいた。
すると程なくしてその後を紫色の髪の少女が追い付く。彼女に関しては夕香達も知っている。確か翔の知り合いのルル・ルティエンスだったか。どうやらレーアの言葉通り、ようやく到着したようだ。
「クレアさん、いくらなんでもやり過ぎですよ!」
「そぉカテーこと言うなよ。しょうがねえだろ、入ろうとしたら力ずくで人のことを退かすっつーんだからよ。セートーボーエーって奴だよ」
急いで追いかけて来たのだろう。ルルは長棒を担ぐクレアを注意すると、クレアは全く気にした様子もなく、寧ろ五月蠅そうに小指で自身の耳をほじっている始末だ。
肩をガックリ落とすルルの後からやって来たのはドリィ、アレク、サクヤの三人であり、ルルと共にシュウジ以外のシャッフル同盟が集結している。
「ルティエンス艦長、この馬鹿者にいくら言ってもアナタのストレスになるだけだ」
「おぅ焼き鳥野郎、来るのが遅ぇーんだよ」
僅かなやり取りとはいえ、クレアの相手に疲れた様子のルルにドリィが気遣うが、そんな彼にクレアが文句を言う。どうやら先程からシオンが聞き取っていた外部の騒音はクレアの暴れ回る音だったようだ。
「ルルが行くって言うからついでにシュウジの様子を見に来たけど、こうなっているとはね」
「ええ、街頭ニュースにもなっていましたが、これは流石に見過ごせません」
そのまま言い合いになっているクレアとドリィを他所にサクヤとアレクは冷静に周囲を見渡す。どうやら彼らも大まかな状況は把握しているようだ。素早くワークボットの数を確認している。
「ルル、俺達が時間を稼ぐから、ここの人達任せて良い?」
「あ、はいっ」
観客席の状況を把握したサクヤはワークボットを無力化しようと言うのだろう。ルルに指示を出すと、彼女が頷いたのに確認して笑みを浮かべると跳躍と共にそのまま此方に向かってくるワークボットを粉砕する。
「焼き鳥の相手はしてらんねぇ! 俺も相手になってやるぜ!!」
観客達もサクヤ達が何者か分からなくてもチャンスである事は分かったのだろう。ルルの案内の元、急いで出入り口へ向かって行こうとするがワークボットは観客席に戻そうとその後を追いかけようとしている。その様子を見ながら、クレアは手すりに足をかけて、そのまま大きく跳躍してワークボットの前に降り立つ。
「さあ来な!」
そのまま長棒を肩に担いだクレアは獰猛な笑みを浮かべながら指をクイクイと引いてワークボット相手に挑発する。
「ハッハァ……そう来るかぁ……」
……のだが、クレアの様子を見たワークボットはそのままマニビュレーターをクイクイと動かして、クレアの挑発をそのまま返してきた。
その姿に呆気に取られるクレアは参ったと言わんばかりに顔を抑えながら笑っているも、やがて身体を震わせていき……。
「俺ぁな! 真似されんのが一番嫌いなんだよオオォォォォォーーーーーォォオオッッ!!!!!!!」
やがてその額に青筋を浮かべると、そのままワークボットにドロップキックを浴びせる。
「やれやれ……クレアに女性らしさを求めるのは諦めましたが、せめて戦いの場くらい静かにしていただきたいものです」
観客達を避難させる中、アレクはクレアの姿に嘆息すると彼の方にもワークボットが迫っていた。
「機械相手では私も気分が乗りませんが、静か、という点だけは評価しましょう」
避難はまだ済んではいない。後はドリィとルルに任せてアレクも構えを取ると、手の甲にClub Aceの紋章を輝かせながら立ち向かっていくのであった。
・・・
「……ほぅ、横槍とは」
一方でバトルフィールドにも異変があった。ビームナギナタを振り上げていたデクスマキナだが、振り下ろす直前、自身に高収束ビームが迫っているのを感知してすぐにアザレアリバイブを突き放して避けるとそのまま相手を見やる。
「まったく……ちょっと休んでる間に凄いことになってるんだもん。ゆっくりさせてほしいよ」
「優陽……君……?」
同時に聞こえてくる甘く可愛いらしい声。その声に聞き覚えがあったミサが弱々しいながら反応を示す。
「ハァイ、ミサちゃんお待たせ。ちゃんと色んな意味で治って戻ってきたよ」
やはり紛れもなく優陽だったようだ。アザレアリバイブのコックピット内のサブモニターで通信相手である優陽が軽くウインクしているのを見て、ミサも苦笑交じりの微笑を浮かべる
「さてと、この人を何とかすれば良いんだよね。ここは僕に任せてよ」
そのまま優陽の機体から放たれる数々のビームにアザレアリバイブの近くにいたデクスマキナも距離を取るなか、その間に入り込んだ優陽はデクスマキナを見据える。
「ふむ……有象無象と切り捨てる所だが……その機体名は気になるな」
「あぁこれ? 願掛けみたいなもんだよ。僕もこうありたいって言うのにあやかってね」
すぐに攻撃を仕掛けようとしたクロノだが、優陽のZZガンダムをベースにしたその機体の名前を見て興味を示す。その様子に優陽は肩を竦めながら軽い口調で答える。
「EXceed Gundam Breaker……。EXガンダムブレイカーで覚えてくれたら嬉しいな」
その機体はガンダムブレイカーの名を冠していたのだ。
憧れた一矢とかつて間近で見た一矢とシュウジのバトルを受けて、自分も彼らのようになりたい、過去の自分を超過したいという意味で名付けられたガンプラであった。
「僕はまだ一矢達には追い付けないけど、でもこの状況を指を銜えて見てるようじゃ絶対に追いつかない。だから僕はここに来たんだ」
「健気なものだな。だがその雨宮一矢達はいない。君達にとっての希望はいないわけだが?」
EXブレイカーの腕部にはシグマシスライフルがあり、優陽の決意を表すようにその砲口をデクスマキナへ構える。その姿に確固たる意志を感じるが、クロノはそんな優陽に揺さぶりをかける。
「希望って言うのを甘く見ないで欲しいな」
「なに……?」
「例え彼らがいなくても僕の中には彼らの姿が希望として刻まれている。ここにいる人達だってそうさ。希望がないのなら、皆もう諦めてる。希望は紡がれるモノなんだ。一つ一つは小さくともそれが繋がれば大きな希望になる。だから僕も戦える。その人達だって僕の希望だから。さっきミサちゃんに諦めろだ何だって言ってたけどアナタこそ諦めなよ。アナタに希望までは消せない」
しかしそれは優陽には通用しなかった。優陽の鋭い物言いにクロノが眉間に皺を寄せるなか、優陽はこのバトルフィールドで戦っているファイター達、ウイルスを駆除しようと奮闘しているカドマツ達を思い出す。
「僕は希望を守るために……希望を紡ぐために……希望と共に戦う……。いや……言い方を変えよう」
絶望的な状況でさえ優陽は諦めずにバトルフィールドに出撃した。それは何より優陽が希望を見出しているからに他ならなかった。
「絶望を破壊し、新たな希望を創造する……。それが僕のガンダムブレイカーだッ!」
愚かでも、無謀でも構わない。自分はその為に戦う。過去の自分を超過して、どんな葛藤も迷いも絶望もその全てを希望にする。それがこの機体、ガンダムブレイカーを使う理由だ。
「南雲優陽、EXガンダムブレイカー……推して行くよッ!!」
英雄、覇王、新星に続く希望が誕生した。その実力こそ彼らにまだ及ばずともその心は既に十分。暗がりの中に今、小さく輝く光は、確かな存在を放つのであった。
ガンプラ名 Exceedガンダムブレイカー(通称 EXガンダムブレイカー)
元にしたガンプラ ZZガンダム
WEAPON ハイパービームサーベル(ZZ)
WEAPON シグマシスライフル
HEAD ZZガンダム
BODY Sガンダム
ARMS ガンダムAGE-3
LEGS ZZガンダム
BACKPACK Ex-Sガンダム
SHIELD シールド(AGE-3)
拡張装備 大型ビームランチャー×2(両肩部)
ミサイルポッド×2(両膝部)
ウィングバインダー×2(バックパック)
例によって活動報告にリンクが置いてあります。