機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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リージョンカップ開催

≪リージョンカップ開催会場のみなさーん、聞こえてますかー!?≫

 

 遂にリージョンカップ当日を迎えた。

 会場は参加するファイターやチーム、そしてそれを見に来た観客達で賑わっていた。

 そんな中で建物に設置されているモニターには何かの衣装のようなものを着用したピンク髪の女性がマイクを持って話していた。

 

 どうやら彼女は今シーズンのMCを務めるハルという女性らしい。

 この映像は全国のリージョンカップが行われる会場に同時中継をしているようだ。

 

≪皆さんの素晴らしい戦いを全国のファンが見守っています! 参加する皆さん、頑張ってくださいねっ! 私もジャパンカップの会場で待ってまーすっ!!≫

 

 ガンプラバトルは地球規模の盛り上がりを見せている。

 かつてのGGFのように一度、規模のあるガンプラバトルのイベントが起きればそのバトルはネット中継される程だ。イベントMCらしく明るく挨拶を終えて、映像は切り替わり、大会情報やガンプラのCMなどが流される。

 

「何か緊張してきた……」

 

 会場となる場所には彩渡商店街ガンプラチームの姿もあった。

 初めて立つリージョンカップの地、ミサは緊張した面持ちで隣に立つ一矢を見る。しかし当の一矢は緊張はしていない様子だがミサの緊張を解す方法は知らないのかなにも答えない。

 

「でも絶対に負けられない訳があるっ!!」

「あー……まぁそうだな。来年にはあの商店街なくなってるかもしれねぇからな」

 

 とはいえ何時までも緊張なんてしてはいられない。

 自分に言い聞かせるよう意気込むミサに先頭を歩いているカドマツは店が三つしかやっていない状況を思い出して口を開くと、そんな事言うなっ

 と後ろでミサが憤慨している。

 

「──おい、カドマツ」

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームを……いやカドマツを呼ぶ声があった。

 一同が見ればカドマツと同じように白衣に身を包み、髪を二つに纏め眼鏡をかけたミサよりも小柄な少女がいた。

 

「なんで負けチームのアンタがいるんだよ」

「誰この子、カドマツの娘さん?」

 

 少女はカドマツの名やその接し方などを考えて、カドマツと知り合いなようだ。

 しかしあまりにも年が離れているように見える。そこから考えられる彼らの関係は親子だと思ったのか、ミサはカドマツに聞く。

 

「俺は独身だ。こいつはモチヅキって言って佐成メカニクスのエンジニアだ」

「佐成メカニクスってハイムロボティクスのライバル会社だよね? こんなに小さい子が?」

 

 しかしどうやらミサの予想は違うようだ。

 カドマツは少女の事を簡単に紹介すると、その中に出てきた会社の事をミサが知っているのか、まさかと言った表情で少女を見る。

 

「俺とタメだけどな」

「三十路過ぎ……? 嘘でしょ?!」

 

 カドマツの口から信じられない言葉が出てくる。そしてまさに信じられないと言った様子で驚きと疑惑の視線を少女…………少女? …………兎に角、モチヅキに送る。

 

「年のことは言うなっ!! ところでカドマツ……このロボットはひょっとして……」

「我が社の来季主力商品になるかもしれないアレだ」

 

 しかし年齢に関することは禁句なのか、プクッと頬を膨らませて怒っている。その様子からは到底、近くにいる無精ひげを生やした男と同い年には見えない。

 

 モチヅキは一矢の傍らに立っているロボ太の存在に気づき、それが恐らくはトイボットの一種ではないのかと予想し、カドマツに問いかけると製作者だけあって、彼は自慢げにロボ太を紹介していた。

 

「マジかー!? バラシていい?」

「良いわけないだろ。コイツは俺たち彩渡商店街ガンプラチームの第3ファイターだ」

 

 ロボ太に興味を引かれたのか満面の笑みでカドマツに分解の許可を求めると、即座にそして当然、却下される。

 

「ガンプラバトルも出来るのか!? なんて物作ったんだ! ……ん? あれ、お前彩渡商店街ってどういうことだ?」

「先日レンタル移籍した。今日はよろしくな」

 

 そしてロボ太が彩渡商店街ガンプラチームのメンバーである事を教えるとガンプラバトルが出来ると言う事までは想像していなかったのか、驚きながら更にロボ太への興味を強める、

 しかしそこでカドマツの言葉が引っ掛かった。

 そのことについて問いかけてみると、カドマツは一矢達を横目に答え、一矢とミサが頷く。

 

「成程……。カドマツ以外には悪いけどそういう事なら容赦しないぞ! 予選でコケるなよ!」

「お前もそこらをウロチョロしてコケるなよ」

 

 すると途端に悪戯な笑みを浮かべるモチヅキの言葉に即座に言い返す。

 その言葉に子供かっ!? とツッコミを入れ、モチヅキは憤慨してこの場から去っていく。一連のやり取りはまるでコントのようでミサはクスクスと笑っていた。

 

「──雨宮!」

 

 時間的にもそろそろリージョンカップの予選が始まる。

 会場の中に入ろうと歩を進める一矢達だったが、今度は一矢を呼ぶ声が聞こえ再び足を止める。視線を向ければそこには聖皇学園ガンプラチームの姿があり、一矢を呼んだのは拓也だ。

 

「新しいチームに入ったってのは本当だったんだな。元チームメイトでも本気で行くからなっ!」

「……当然でしょ」

 

 拓也は真実とは違い、最初は一矢に驚いたもののそれはそれでと受け入れているのか、笑顔で拳を向ける。

 その笑顔は元チームメイトである一矢とのバトルを楽しみにしているのか、とても爽やかなものだ。一矢も拓也のその笑顔に釣られるように不敵なような笑みを浮かべて答える。

 

「……雨宮君」

「……垣沼」

 

 次に真実が口を静かに口を開いた。

 彼女とは先日のやり取りもあってどこかミサを含んで何とも言えない空気が流れる。

 

「またあの日々に戻れるように私、頑張るから」

「……あの日々……ね。少なくとも今はその気はないけど」

 

 あの日々というのも一矢とチームを組んでいたあの頃だろう。

 しかし一矢は彩渡商店街ガンプラチームを抜ける気はないのか、ミサをチラッと見て答える。

 

「……分かった。もっともっと……頑張れば……良いんだよね……? 雨宮君が私の方が必要だって気づいてくれるように」

 

 一矢がチームを抜けた。

 その事だけであれば彼女もこうして一矢とこんな風にはならなかっただろう。だが元チームメイトである自分を差し置いて、何故彼女を選んだのか? 彼女の頭にある疑問はその事だけだった。

 

 そして彼女が思い至ったのは自分の一矢への想いが足りないと言う事、自分よりも弱い相手を選んだ一矢に自分を必要にするほどの実力を見せなくてはいけないと言う事。

 

 自分という存在を一矢に強く刻み付けねばならない。

 どこの誰かも分からない女ではなく、身近にいる自分という存在に目を向けてくれるように。この場は良い機会となった。

 

「……じゃあ本選で会おうぜ。予選なんかでコケんなよ!」

 

 彼女の瞳には一矢しか見えていない。

 ふわりとそして妖艶ささえ感じる笑みを浮かべて真実は会場へと足を進めて行く。真実と一矢を交互に見合わせて場の雰囲気を変えるように拓也が明るく一矢に声をかけると、真実の後を追う。

 

 最後に勇と目が合った。

 とはいえ彼とは接点が皆無と言って良いかも知れない。言ってしまえば友達の友達と言ったような関係だろうか。勇も真実や拓也の後を追う。

 

「なんか今回のリージョンカップは波乱の予感だなぁ」

 

 今までのやり取りを見て、カドマツは頭をポリポリと掻きながら口を開く。今回のリージョンカップは自分が見てきたリージョンカップの中で様々な意味で波乱を感じる。

 

「──でもどうせならそんくらいが丁度良いんじゃねぇか?」

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームに再び声をかける者がいた。

 

 これで三回目だ。

 一同が視線を向けるとそこにはシュウジの姿があり、手を軽くあげて、よっ、と気さくな笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。

 

「シュウジさん!? どうしてここに?」

「今日がリージョンカップって翔さんから聞いてよ。暇だったから来たんだ。お前らがタウンカップを優勝したってのは聞いてたしな。つまりはここに出るんだろ?」

 

 かつて自分達のチームとしての欠点を教えてくれた彼が何故、ここにいるのか問いかけると右手を腰に当てシュウジはその理由を教える。シュウジとしても欠点を教えた以上、彼らの成長が気になったのだろう。

 

「今日は楽しみにしてるぜ。お前らチームがどんだけ強くなれたのか見せてもらうぜ」

「だったらちゃんと見ててよっ! 前の私達とは全然違うからっ!!」

 

 軽く左の拳を突き出し彼らに期待の言葉をかけると、今日まで自分達なりに連携を強めてきたと自負してる。ミサは笑顔で答え、シュウジが突き出した拳に自分の拳を打ち合わせる。それはまるで兄妹のような微笑ましささえ感じる。そんなやり取りの後、遂にリージョンカップの予選が開始されるのだった……。


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