「あれ、センサーが……?」
既にVRハンガーから宇宙空間のバトルフィールドに出撃していた一矢達だが、ふとコックピット内の機器を確認していたミサだが顔を顰める。何とレーダーにノイズが発生し、激しく乱れているではないか。
しかしそれは単なる前触れでしかなかった。同じ時刻に翔とシュウジがクロノの罠にかかったのと同時にバトルフィールドにも異変が起きた。
「ッ……!?」
センサーが激しく反応すると同時に四方から迫る攻撃を回避するリミットブレイカー。一矢はそのまま攻撃を仕掛けた相手を見やる。
「またお前か……ッ!」
そこにはアンチブレイカーの姿があったではないか。正直に言ってしまえば、見たくもないくらいなので一矢は不快感をあらわにしながらアンチブレイカーを睨みつける。少なくともアンチブレイカーの出現はクロノが関与している事を証明するからだ。
「例えなんであろうとここで叩き潰す……ッ!」
いよいよクロノが口にしていたラストステージが始まったということだろう。だが何であれ自分の目の前に現れたということであれば打倒してクロノと決着をつけるまでだ。
「一矢ッ!!」
アンチブレイカーへ向かって行こうとするリミットブレイカーであったのだが、ミサの呼び声と共に反応したセンサーが自身に迫ろうとする攻撃に知らせると、紙一重で何とか回避することには成功した。
「な……に……ッ!?」
そのまま姿勢を立て直して相手を確認する一矢だが、そこでまた驚愕で目を見開く。
何とそこにもアンチブレイカーがいるではないか。しかも一機や二機の話ではない。二機目のアンチブレイカーの確認を皮切りに周囲にアンチブレイカーが次々に出現しており、あまりの光景に一矢とミサは戦慄してしまう。
・・・
「脈略がなさ過ぎる! いきなり来るとはねッ!!」
それは地上おいても同様であった。近接戦を繰り広げながらウィルはアンチブレイカーを見て、一矢同様にクロノが仕掛けて来たのだろうとすぐに感じ取る。
「数が多い分、性能がダウン……なんてことはないみたいだね」
またセレナも二機のアンチブレイカーと戦闘を繰り広げながら、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。迫るアンチブレイカーは鋭い覇王不敗流の技と正確なオールレンジ攻撃を持って襲い掛かってくる。一機でさえ手古摺るような相手にも拘らず、それが波のように襲い掛かってくるのだ。セレナの表情からも余裕は消えてしまっている。
「ちぃ! ただでさえ厄介なのに雑魚の類が煩わしいのう!!」
「このままでは物量差に押し切られる事になるぞ……ッ!」
また元々、バトルフィールドに存在したNPC機もアンチブレイカーと交戦を続けるファイター達の機体に向かって攻撃を仕掛けてくるのだ。
NPC機自体、さほど脅威ではないのだが攻撃によっては動きを制限されてしまう。苛立ちを感じさせる厳也の言葉に影二も苦々しく答える。
・・・
「外部との連絡が取れない……。ログアウトも……ッ! 一矢、やっぱりこれって……!」
「ああ、どう考えても逃す気はないだろうな……。だが今更、逃げる気もない……ッ!」
ウイルスによって開発側の制御が奪われていくなか、外部との連絡もログアウトも出来ない状況にミサは一矢に通信を入れるとまず最初にそこを抑えたクロノの思惑を口にするが、元々逃げるつもりはない。リミットブレイカーは迫るアンチブレイカーをすれ違いざまに両断して漸く一機目を撃破する。
「───素晴らしい言葉だ」
するとリミットブレイカーに通信が入り、その声を聞いた一矢は素早く反応する。もう聞き逃すはずがない。この声はクロノのものだ。
「……っ!?」
「ほぅ、その反応は私も喜ばしいものだな」
同時に機体の出現を知らせるセンサーにその方向を見た一矢は、そこに現れた機体を見て目に見えて動揺してしまっている。
そこにいたのはクロノが操るあの白騎士のような機体だった。機体越しにでも分かる一矢の反応を感じ取り、クロノは愉快そうに笑う。
「この機体までは忘れることは出来なかったようだね」
その機体はかつてのジャパンカップで当時、聖皇学園ガンプラチームに所属していた一矢を破った機体と同一のものだったのだ。
機体の名はデクスマキナ。シナンジュをベースとしており、それがかつてジャパンカップを優勝した黒野リアムの使用したガンプラだったのだ。
「さあ私はここにいる。いつでも来たまえ」
「……ッ! 言われなくとも!!」
まさか再びデクスマキナの姿を見る事になるとは思わなかった一矢だが、クロノは余裕の態度を崩す事はなく、デクスマキナの両腕を広げて挑発する、リミットブレイカーはカレトヴルッフを構えて飛び出して行く。
向かってくるリミットブレイカーにデクスマキナはビーム・ナギナタを展開すると真正面からリミットブレイカーの攻撃を迎え撃とうとする。
まるで流星の如く凄まじい勢いをもってデクスマキナにカレトヴルッフを振り下ろす。
しかし一方でデクスマキナは必要最低限の動きを持ってカレトヴルッフを受け止めたと同時にその場からピタリとも揺れることなく、まるで分厚い壁のように静止しているではないか。
「ッ!?」
それが一矢に動揺を与えるが、すぐに切り替えてCファンネルを展開して、デクスマキナに差し向ける。迫るオールレンジ攻撃にここで漸くデクスマキナは動き出し、まるで蝶のような軽やかさを持ってオールレンジ攻撃を易々と避け続ける。
だがその動きを見極め、次にどう動くのか予想を立てたリミットブレイカーはその圧倒的な高機動力を利用して、瞬時に回り込むとカレトヴルッフを振るう。
再びカレトヴルッフとビームナギナタが刃を重ねる。受け止められる事は織り込み済みだったのか、そこからデクスマキナに向かって蒼天紅蓮拳を放つ。
……が、それはクロノにとって対応するには容易い事だったのだろう。突き放った拳は易々と受け止められてしまった。
「……ふむ、やはりあの頃に比べて強くなっている。これから徐々に君の実力をこの身で体験できるのだと思うと純粋に楽しみではあるのだがね」
合わせた手と手がぎこちなく軋むように震えるなか、クロノはかつてのジャパンカップの頃の一矢を思い出しながら話すと、クロノの出方を伺う為に一矢がまだ本気を出してはいないことを見抜く。
「だがゲームはまだ始まったばかりだ。君とのバトルはまだ早い」
リミットブレイカーの拳を受け取めるデクスマキナはそのままリミットブレイカーを解放すると蹴り飛ばす。
「なっ……!?」
すぐに体勢を立て直す一矢だが、次の瞬間、触手型のプログラムによってリミットブレイカーは身動き一つとれないほどに拘束されてしまう。これは翔とシュウジに使用された触手型プログラムと同じものであった。
「一矢ッ!!」
そして翔達と同様にリミットブレイカーは触手型プログラムの発生元となる巨大な影に引き寄せられていく。アンチブレイカー達との交戦のさ中、それに気づいたミサはすぐに一矢を助けようとするのだがアンチブレイカー達の妨害によって触手型プログラムへの攻撃を防がれ、せめてとリミットブレイカーだけでも強引に連れ出そうと手を伸ばす。
「ミサ……!」
リミットブレイカーがいくら動きだそうとしても触手型プログラムからは一向に抜け出せず、既に機体は影に呑まれ始めていた。一矢もこちらに手を伸ばすアザレアリバイブに向かって手を伸ばすのだが……。
「う……そ……?」
手が触れあいかけた瞬間、更に力を強めた触手型プログラムによってリミットブレイカーは完全に影に呑み込まれて、後にはまるでなにもなかったかのように消えてしまったではないか。
「届かなかった……? 私の手が一矢に……?」
センサーにもリミットブレイカーの反応はなく、まるで最初からいなかったかのようだ。だが目の前で消えてしまったリミットブレイカーの姿がいまだにミサに焼き付いており、最後の苦しそうにミサの名を呼ぶ一矢の声も耳に残っている。
「やだ………やだっ……!! ……一矢あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!?」
これまで幾度となく繋ぎ続けた手に初めて届かなかったことに信じたくないと言わんばかりに体を震わしたミサの絶叫が響くのであった。
ガンプラ名 デクスマキナ
元にしたガンプラ シナンジュ
WEAPON ビームナギナタ(シナンジュ)
WEAPON ビームライフル+バズーカ
HEAD シナンジュ
BODY シナンジュ
ARMS Hi‐νガンダム
LEGS バウ
BACKPACK スクランブルガンダム
SHIELD シールド(バウ)
拡張装備 シールドピット×2(両肩部)
例によって活動報告にリンクが置いてあります。