機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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影は音なく差し込んで

「うーん、外から見る分にはVRどうこうってのは分からないね」

「ガンプラバトルシミュレーターVRでしたわね。こればかりは仕方のないことですわ」

 

 遂に新型シミュレーターことガンプラバトルシミュレーターVRによるファイター達のバトルが開始された。立体モニターに映るバトルの様子を観客席で眺める夕香だが、ただバトルを傍から見る分にはVRらしさは伝わっては来ない。しかしVRはプレイヤーに与えられるものなので、シオンは夕香の言葉を宥める。

 

「しかし広大なバトルフィールドは魅力だな」

「大気圏では何が起こるか分からない。それが勝敗を別つこともあるだろう」

 

 既に一般客にもガンプラバトルシミュレーターVRの詳細は知られており、モニターに映る地上と宇宙のバトルの様子を見つめながらアムロやシャアも許されるなら自分もプレイしてみたいと言わんばかりだ。

 

「これっていつ頃、普及されていくのかなっ」

「さあなぁ。でもなるべく近いうちにお願いしたいもんだ」

 

 それはなにもアムロ達だけに限った話ではない。待ちきれないとばかりに裕喜が隣に座っている秀哉に声をかけると、流石に具体的な日程を秀哉が分かるわけもなく、苦笑気味に答えるがそれでも秀哉自身、自分自身も早くVRを体験してみたいと言う気持ちが強いのだろう。子供のような輝かしい表情でモニターを見つめると近くにいた一輝もそうだね、と頷く。

 

 ・・・

 

 星々が煌めく宇宙にて、自機に迫ろうとする機体を正確無比な一撃によって塵へ還すのは翔が操るガンダムブレイカーネクストであった。GNスナイパーライフルⅡの3連バルカンモードを構えた腕を下ろす。

 

「全天周囲モニターか……。なんだか懐かしいな」

 

 ブレイカーネクストのコックピットでは翔が周囲を軽く見渡しながら呟く。

 今、翔が乗っているのはこれまでの前方モニターだけのシミュレーターとは違い、全ての方向の映像を映し出す球体状のコックピットであったのだ。それはブレイカーネクストのベースがνガンダムだからなのか、しかしこれまでのガンプラバトルとは違った新鮮味を感じるだけではなく、かつて異世界で乗っていた兵器としてのガンダムブレイカー0などを思い出させる。

 

「カガミ達はどうだ?」

「私見を述べるのであれば、操作方法は変わりませんのでそれがVRか否かの違いだけですね。しかし翔さんの仰るように全天周囲モニターなど今までに比べ、幾分かは違和感が軽減されています」

 

 ブレイカーネクストは近くで狙撃を行っているライトニングFAのカガミをはじめとしたトライブレイカーズにVRによるガンプラバトルの感想を尋ねると、カガミはコックピット周りを見やりながら淡々と答える。

 

「まあ前のシュミレーターから思ってましたけど、どれだけ加速や無茶な軌道をしても身体にかかる負担がないのは良いですよね。お陰でカガミさんが速くて速くて……。実際のMSを動かす以上に曲芸染みた飛行をするから追いつくのがやっとですよ」

「……これは遊びです。私に気を使って追いかけようとしないで好きに行動していいんですよ」

(なんだかんだ言って楽しんでるんですね、カガミさん)

 

 どうしてもMSを動かす場合、身体にかかるGなどの負担があるが別に遊びであるガンプラバトルはそのようなことを気にする必要はない。故に制限なしに機体を想うがまま動かせるのだ。

 実際、カガミはそうしているようでヴェルの言葉に自分が夢中になって機体を動かしていること自覚したのだろう。どこか照れながらもそれを隠そうと言葉を返すカガミだが、ヴェルからしてみればすぐに分かる事なのだろう。幼い子供を見るかのような微笑ましい表情を見せる。

 

「シュウジの方はどうだ?」

「……違和感は正直あるって感じっすかね」

 

 翔はそのまま近くのシュウジに尋ねると、一つの舞のように機体を動かしていたバーニングゴッドブレイカーは動きを止める。

 

「まあ、いくら寄せたっつたってモビルトレースシステムとは根っこの部分から違うからこればっかしは仕方ないことなんすけどね。でもまあ、今まで以上にガンプラは動かしやすくなってます」

 

 シュウジが使用しているのはトレースタイプのシミュレーターだ。

 内装自体はGガンダムタイプのものなのだが、本物のモビルトレースシステムにはどうしても劣るようだが技術的な事を考えても元々の構造が違うため納得している。それに悪い事ばかりではないらしく、あくまで劣ると言うだけで操作自体には何の問題もなく、寧ろこれまでのガンプラバトル以上に覇王不敗流の動きが出来ると喜んでいる。

 

「問題ないならなによr──「風香ちゃんが勝ぁつ!!」……え?」

 

 シュウジ達も何だかんだで楽しんでいる。嬉しそうに頷いていた翔だが、ふと通信越しで風香の声が聞こえ、レーダーと照らし合わせて、その方向を見る。何とそこでは風香のエクリプスとレーアのダブルオークアンタFがバトルを繰り広げているではないか。

 

「翔さんへの愛=戦闘力の風香ちゃんには勝てないことを教えてあげるよ!!」

「あら、それなら私が負ける理由はないわね」

 

 ツインバスターライフルを構えて、高らかに叫びながら翔への想いを表すように極太のビームを放つと、軽く回避しながらレーアのダブルオークアンタFはGNソードIVフルセイバーを構えて向かっていく。

 

「……何てこと言い合って───」

 

 端から聞いていても恥ずかしいのか、頭を抑える翔だが不意に傍らから鋭い狙撃が放たれ、エクリプスとダブルオークアンタFの間を割って入る。

 

「あの戦闘に介入します」

「えっ」

「負けられません」

 

 翔がそのまま見やれば、ライトニングFAがハイビームライフルを二機へ向けていたのだ。翔が唖然とするなか、カガミは言葉を待つことなくエクリプスとダブルオークアンタFへ戦闘を仕掛けていく。

 

「……あー……ガンダムブレイカー隊と一緒に地上でバトルしてるあやこさんを呼んできましょうか」

「……余計なことはしなくて良い」

 

 どんどん苛烈さを見せていく三つ巴のバトルにシュウジはこの際だからと地球の方向を見ながら翔に尋ねると、VR空間においても翔は頭を抱えていた。

 

 ・・・

 

「最初は驚いたけど、慣れちまえば!」

「条件は同じだ。後は自分の腕が物を言う!」

 

 また地上でもバトルが行われており、丁度、莫耶のストライクシードフリーダムとジンのユニティーエースが切り結んでいた。

 

 一方でまた別の場所でもバトルが繰り広げられていた。一方は影二の操るダウンフォールなのだが、かなり苦戦を強いられているようでその表情はかなり険しい。

 

「……クッ!」

 

 損傷が目立つダウンフォールとは違い、相対するシナンジュをベースにした白騎士のような機体はほぼ無傷と言って良い程だ。このままされるがままなのは影二とて受け入れられないのだろう。既にHADESを使用しているダウンフォールは更にゼロシステムを使用する。そのままビームソードを構え、圧倒的な加速を持って白騎士へ向かっていく。

 

(特別ななにかをしているわけじゃない……ッ!)

 

 しかし白騎士は特に動揺する素振りを見せることなく、手に装備されたビームナギナタで軽やかに受け流す。すぐに食い付こうとするダウンフォールだが、白騎士は既に眼前に迫っており、そのまま横腹を蹴って、ダウンフォールの機体をくの字に曲げる。

 

(単純なまでに圧倒的な実力差を見せつけられているだけだ……ッ!)

 

 それでも何とか反撃に打って出ようとするのだが、直後に関節を狙った攻撃を受けたせいで思うような動きも出来ず、それが隙となって更なるダメージを受けてしまう。ずっとこのような出来事の繰り返しで、まさに手玉に取られているような状況だ。

 

「ッ……!?」

 

 不意にダウンフォールを首関節部を掴まれ、身動きが取れなくなってしまう。影二が見たのはこちらを見つめるようにモノアイを輝かせる姿であり、拘束するわりには何もしてこなかった。

 

 すると白騎士とダウンフォールを別つようにビームが放たれ、白騎士はダウンフォールを手放し、距離を開ける。相手は厳也のクロス・ベイオネットであった。

 

「随分と派手にやられておるのぉ」

 

 そのままダウンフォールの前に移動して、白騎士に立ち塞がるクロス・ベイオネット。厳也はそのまま背後の影二に通信を入れながらも戦闘を引き継ぐようにザンバスターを白騎士へ向ける。しかし白騎士は一向に何か行動素振りを見せない。疑問に感じる厳也であるが、すぐに理由が分かる。

 

≪タイムアップだ。一度、ハーフタイムをとろう≫

 

 コックピット内に開発者の声が響き渡る。初めてのVRや体調の類を考慮して一度、休憩時間を取ろうと言う事なのだろう。その声を聞き、クロス・ベイオネットはザンバスターの銃口を下ろすのであった。

 

 ・・・

 

「やはりブランクはあるか……。しかし勘は取り戻せたことは感謝しよう」

 

 戦闘を終了させ、ファイター達がVR空間から現実世界に戻ってくるなか、クロノはヘルメットを脱ぎながら一人、呟く。その傍らにはセットされているあの白騎士を思わせるガンプラの姿が。

 

「君とのゲームはこれが最後だ。ならば直接、私自身が相手にならなくては私としても締まらない」

 

 一矢への言葉を呟くクロノ。今までは全てNPCに任せて一矢達に干渉していた。だが彼自身、最後は自分自身の手でという気持ちがあるのだろう。

 

「ラストステージだ。お互いに最高難易度をプレイしようじゃないか」

 

 シートから立ち上がったクロノはシミュレーターから出ていく。その口元にはこの休憩時間すら惜しいとばかりの笑みが浮かんでいた。


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