機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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賽は投げられた

 思わぬトラブルに見舞われた一矢はいまだヒリヒリと痛む箇所を軽く撫でながら自身が使用する新型シミュレーターに乗り込もうとする。軽く外観を見た限りでは今までのガンプラバトルシミュレーターよりも小型化されていることだろうか。

 

「……成る程ね」

 

 早速、新型ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢はその内装を見て納得し、感嘆の声を漏らす。シミュレーター内はモニターとシート、そしてその上部にはVR空間にダイブするためのヘルメットのような機器とその周辺機器が設置されているだけであった。VR空間に飛び込んで、機体に乗って操縦するのであれば、シミュレーター内にコンソールの類は必要ないと言う事だろう。

 

 早速、シートに座った一矢はリミットブレイカーをセットして、VR空間へダイブするためにヘルメットを被る。するとヘルメット内のバイザー型モニターにVR空間への接続が開始されてドーム内も光が溢れだすと、やがて一矢の意識はその光に吸い込まれるようにしてVR空間に飛び込んで行った。

 

 ・・・

 

 眩い光によって眩んでいた視界もようやく慣れ始めて、一矢はゆっくりと目を開く。

 眼前には真っ白なドーム状の空間が広がり、ドームを囲むようなモニターにはガンプラ関連のCMが流れていた。ここはガンプラのセッティングなどを行うVR空間。その名はVRハンガーだ。

 

「っ……」

 

 まさに近未来的な光景が広がるなか、辺りを見回していた一矢は振り返ってみるとそこには巨大なリミットガンダムブレイカーの姿が確かに存在していた。

 

 手に収まり、見下ろしていた小さなリミットブレイカーがまさに巨大ロボットとばかりの堂々たる巨躯を見せつけるその姿に一矢は息を呑んだのも束の間、何か具体的な言葉こそないものの途端に表情を少年のように輝かせる。

 

「一矢っ!」

 

 いつまでもリミットブレイカーを夢中で見上げていると背後から声をかけられ、振り返って見ればそこにはミサの姿が。もっとも今の彼女は【機動戦士ガンダムSEED】に登場する地球連合軍のパイロットスーツに身を包んでおり、その恰好を見て一矢も自身の身体を見やれば彼自身も同様のものであった。

 

「まさか、こんな日が来るなんてねぇ……」

 

 ミサは一矢の隣に移動しながら、リミットブレイカーを見上げる。すると程なくしてリミットブレイカーの隣のスペースにアザレアリバイブが出現してその姿を瞳に映したミサは心から喜んでいる。

 

「これを操作すると、近くに寄れるみたい」

 

 必要な情報などはヘルメットのバイザー型モニターに表示されている。

 ミサは近くに浮遊しているコンソールを操作すると駆動音と共に自分達が立っているパネルが浮き上がり、自分達の機体の近くまで押し上げてくれた。

 

「宇宙でガンダムに乗った時も思ったけど、凄い未来に来ちゃったよね」

「そうだな。まだ短い人生だけど驚きの連続だ」

 

 かつて宇宙エレベーターが漂流しかけた際に実物大ガンダムに搭乗し、感動したが今もそれとはまた別の感動を感じている。お互いに知り合った時にはこんな日々が訪れるなど想像すらしていなかっただろう。

 

「きっとこれからもそんな未来が待ってるんだよねっ! 楽しみだなあ」

「想像も出来ないな」

 

 実物大ガンダムに乗って、VR空間でこれから自分達が作ったガンプラに乗り込もうとしている。果たしてこれから先の未来、一体、何が待ち続けているのか一矢の言葉通り、想像もつかないくらいだ。

 

 身を寄せ合ってリミットブレイカーとアザレアリバイブを見上げて、これから先の未来に期待に胸を膨らませているとリミットブレイカーの隣に再びデータが構築されていき、ZZガンダムをベースにした機体が姿を現す。

 

 ミサは知らない機体に驚くものの一矢はこの機体を知っている。かつてどうして良いかも分からずに彷徨っていた時に泊めてもらった家で見つけたものだ。

 

「まったく……。放っておけばすぐにイチャつくんだから」

 

 それと同時に後ろから声をかけられる。愛らしいその声に振り返ってみれば、そこには優陽がおり、寄り添っている一矢とミサを見て軽く茶々を入れると気恥ずかしくなったのか一矢とミサは少し距離を開ける。

 

「いやーVRって馴れないね。何だか変な感じだよ」

 

 優陽も今、このVRハンガーにダイブしてきたのだろう。周囲を見渡しつつ、己の手を開閉しながら何とも言えない不思議そうな表情を浮かべている。

 

「その恰好だと本当に男か女か分からないね」

 

 ミサは優陽の姿を見ながら苦笑する。と言うのも今の優陽は一矢やミサのようにパイロットスーツに身を包んでいるわけだが【機動戦士ガンダム00】に登場するソレスタルビーイングの紫色を基調にしたパイロットスーツなのだ。

 

「まぁどんな格好でも僕はオトコノ……」

 

 女性に間違えられるのは慣れっこなのか、特に気にした様子のない優陽は慣れないVR空間での自分の身体を触れつつ答えていたのだが、ふと胸部に触れて何か違和感を感じたのか眉間に皺を寄せる。

 

「えっ……ちょ……」

「どうした?」

「ちょ、ちょーとゴメンね!」

 

 なにやら慌てた様子でしきりに自分の身体を触っている優陽の様子に一矢が尋ねるが、優陽は精一杯の作り笑顔を浮かべて足早に機体の状態を見やる大型コンソールの後ろに隠れる。

 

「どうしたのかな?」

「……少し見てくる」

 

 優陽にしては明らかに狼狽えていた。不思議に思って首を傾げるミサに一矢も優陽の様子が気になったのか、コンソールに向かっていく。

 

「いや確かにこれはVRだしそこまで再現する必要はないんだけど無いモノは無いしこれって何かの手違い? いやいやだとしてもこれじゃあ僕のアイデンティティーが……」

「どうした?」

「ひゃうぅっ!?」

 

 コンソールの後ろで身を縮こまらせてブツブツ呟いている優陽はあまりにも動揺している様子で近くに来ている一矢にも気づかず、声をかけられた瞬間、大きく身体を震わせる。

 

「何かあったのか?」

「な、なんでもないよ、うん!」

 

 ここまで狼狽えている優陽は初めて見る。気になった一矢が尋ねると目尻にうっすらと涙を溜め、赤面しながら答える。何かあったのは明白だが、あまりにも隠そうとするので仕方なしにそれ以上の追及を止める。

 

≪全員がそれぞれのVRハンガーに到着した事を確認した。それでは準備が済み次第、出撃してくれ≫

 

 するとVRハンガーの上部から開発者の声が響き渡る。どうやら個別にVRハンガーがあり、それぞれにファイター達が割り振られているようだ。

 とはいえ早速、出撃する時が来たのだ。漸く落ち着きを取り戻した優陽と共に一矢とミサは待ちきれないとばかりに自分達のガンプラへ向かっていく。

 

「これが……リミットブレイカーのコックピットか……」

 

 リミットブレイカーのコックピットを開き、スッと乗り込んだ一矢は内部を見渡す。

 コックピット内はkガンダムシリーズに多く見られるようなオーソドックスなコックピットだが、やはりガンプラバトルと言うだけあって基本的なものは従来のガンプラバトルシミュレーターと左程変わりはなかった。だがどちらにしろ、こうして己が手掛けたガンプラに乗り込むことが出来たのはそれだけで感動する。

 

 するとコックピットが閉まり、モニターが表示されると先程までVRハンガーだった光景がカタパルトに変更され、リミットブレイカーはカタパルトデッキに接続される。

 

「リミットガンダムブレイカー……雨宮一矢、出る!」

 

 基本的な操作などは今までとは変わらない。しかし今まで以上の高揚感があるのだ。

 これから一体、どんなバトルが待っているのか、期待に胸を膨らませながら一矢はリミットブレイカーと共に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

「VR空間……現実では叶えられないことも叶えられる。まさに理想郷のような世界だ」

 

 次々とファイター達が出撃していく最中、コックピットの中で一人の男性が呟いている。それはクロノであった。しかしバイザー型モニターに表示されている名前はクロノの物とは異なり、世界大会におけるバイラス同様に偽造したものだろう。

 

「VR空間のチュートリアルついでに私もそろそろ本格的にウォーミングアップをしなくてはね。訛った腕では彼とぶつかり合う時に申し訳がないと言うものだ」

 

 クロノが見据えるモニターにもカタパルトが表示される。ゲームを始める子供のように、それと同時に愚者達を見下ろして嘲笑う悪魔のような笑みを浮かべながらクロノは操縦桿を握る。すると彼の乗る機体の頭部で不気味にも感じるモノアイがギラリと輝くのであった。


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