機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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一矢にはないミサの強さ

 ミサはG-リレーションの攻撃を紙一重で避けながら、改めて相手のファイターの実力を思い知る。バトルを始めて数分が経過したが2対1の状況であっても相手の攻撃はちょくちょく被弾はするもののこちらの攻撃は避けられてしまう。

 

(……なんでだろう、ちゃんと戦う気がないのかな)

 

 G-リレーションは一定の距離を保ちながら戦闘をしていた。

 しかし攻撃頻度は少なくただひたすらこちらの動きを見定めているかのようだった。その戦い方に違和感を覚える。まともに戦うことなく時間だけがただ過ぎ去っていくのだ。

 

「──ッ!!」

 

 しかし残り時間が一分を過ぎた頃であった。

 今まで様子を窺うように戦闘をしていたG-リレーションの動きが途端に変わり、攻勢を強めてきたのだ。放たれるビームを避けるアザレアCと騎士ガンダムはそのまま反撃をしようと動き出す。

 

 最初に動いたのは騎士ガンダムだ。

 アザレアCの前に躍り出てると、ミサが攻撃し易いように直撃の可能性のあるビームを全てナイトシールドで迫りくる攻撃を全て防ぐ。

 

 それを利用してアザレアCがマシンガンとミサイルポッドを同時に放ち、G-リレーションに攻撃を仕掛ける。当然、G-リレーションは避けようと回避行動をとった。

 

「そこっ!」

 

 回避する方向を予測していたミサは二つのジャイアントバズーカの引き金を引く。二つの砲弾がG-リレーションに迫る。しかしG-リレーションはビームライフルを素早く向けて、破壊した。

 

「もらったぁっ!!」

 《はぁあっ!!》

 

 砲弾を破壊したことにより、周囲に漂う硝煙。そこから接近していたアザレアCと騎士ガンダムが左右からそれぞれ飛び出してくる。その手にはビームサーベル、そしてナイトソードとそれぞれ握られていた。

 

「───……!?」

 

 だがここでもミサには違和感があった。

 G-リレーションの動きに動揺が見えないのだ。機械でもない限り、このような状況では何かしらのリアクションが起きるが、G-リレーションは微動だにしない。

 

 勝負を諦めたのか?

 疑念が生まれるが、しかしそうではない。何故だか分からないがミサにはそう感じられた。

 

 そしてそれは正解だった。

 G-リレーションの胸部のクリアパーツを中心に七色の光が放たれる。見惚れるくらいの美しさを持つその光。

 だがそれだけでは終わらない。

 何故ならこれはガンプラバトル。そして今の光はG-リレーションの元のガンプラとなったG-セルフに搭載されているフォトン・シールドだからだ。

 

「……あ……」

 

 アザレアCと騎士ガンダムはその動きを停止してしまう。その間にG-リレーションはビームサーベルをそれぞれ引き抜いてアザレアCと騎士ガンダムの首元にそれぞれ向ける。

 

 勝負はあった。そう言わんばかりに……。

 そうするうちに残り一分が経過してアザレアCと騎士ガンダムはフィールドから消える。

 

 ・・・

 

 その一部始終をヴェールがモニター越しに見つめていた。G-リレーションのファイターは本気でバトルをしていないことなどすぐに分かった。だがそれが何故なのかまでは分からなかった。

 

「───……いたんだ」

「……!」

 

 不意に声をかけられピクリと震えて振り返れば、背後には相変わらず手入れもしていないようなボサボサの髪と心底眠たげ半開きの目でこちらを見る一矢の姿があった。あれからようやく到着したのだろう。

 

「たまたま、かな……」「ふーん……」

 

 

 別にここにいる深い理由があるわけではない。ヴェールが苦笑混じりに答えると特にその後話すこともないのか相槌を打ちながらのそのそとガンプラバトルを映すモニターの前に移動すると丁度、そこにミサとロボ太がシミュレーターから出て来ていた。

 

「……遅れてごめん」

「あっ、ううん。大丈夫だよ」

 

 ミサを見つけた一矢は遅刻したことを詫びると時間も経ち、怒る気もなかったのかミサは笑顔で答える。だがミサには一つだけ一矢に聞きたいことがあった。

 

「ねぇ一矢君……。聖皇学園ガンプラチームって……」

「───久しぶりだね、雨宮君」

 

 それは先程までバトルをしていたG-リレーションに関する事だ。

 あれは本当にかつての一矢のチームメイトなのか、そのことについて聞こうとするのだが、遮るようにミサの背後から一矢に声をかけられる。

 

「……誰?」

 

 それはヴェールが見た怪しげな人物だった。

 久しぶりと言われてもパッと見ただけでは心当たりもない。

 一矢は知っているか、と言わんばかりにミサやヴェールを見るが、彼女たちも知るわけもないので首を横に振る。

 

「こんな格好じゃ分からない、か……。まぁしょうがないよね」

 

 自分の恰好を見て苦笑するその人物はそのまま男性物の薄手のコートを脱ぎ捨てる。

 そこにいたのは垣沼真実であった。

 真実の顔を見て、一矢は目に見えて驚く。その反応を見て、やはり知り合いであったかとミサは感じた

 

「雨宮君がチームを組んだって話を聞いたから、ちょっとどんな人なのか知りたかったんだ」

 

 驚いている一矢に微笑みを向けながら真実はゆっくりと一矢に近づいていく。一矢の目の前まで来たところでチラリと隣に立つミサを一瞥した。

 

「……ねぇ、何で私を……ううん……この人を選んだの? 今、バトルして分かったけど正直、強くはないよ。雨宮君だって分かってる筈でしょ」

 

 そして再び一矢に向き直る真実。時間ギリギリまでミサとバトルをして分かった。彼女は自分よりも弱い。ならば一矢との差はもっとある筈だ。

 

「……何か弱味でも握られてるの? そうでしょ……? そうだよね? 雨宮君が強くもない人と組む理由なんてないでしょ……!?」

 

 勇から彩渡商店街ガンプラチームの事を教わり、自分なりに調べたが彼女はタウンカップのしかも予選すら敗退していた。

 一矢がそんな人物と組むメリットがない。考えられるのは一矢が何かしらの弱みを握られていると言う事だ。

 

「何かあったのなら私が雨宮君の力になる……。私ならガンプラバトルでも雨宮君の足を引っ張らない……! だからまた一緒に──!」

「──……あのさ、勝手に好き放題言わないでくんない?」

 

 ミサに敵意を向けながら真実は一矢に迫る。

 まるで縋るような瞳で一矢を見ている。そんな真実の言葉を途中で遮りながら一矢が口を開いた。その表情を見て真実は固まる。

 

「……俺は別に弱みなんて握られてないし、自分の意志でコイツと一緒にいる。それにコイツの事、なにも知らないのに弱い弱い言わないでくんない……? 凄いムカつくんだけど……」

 

 明らかに目に見えて一矢は怒っていたのだ。

 ヴェールは元よりミサでさえ一矢がこうして怒っているのは初めて見た。そして何より自分のことで怒っていると言う事に更に驚いてしまう。

 

「コイツは強いよ……。俺なんかよりもずっと……。ガンプラバトルが強いだけだったら俺はコイツとは一緒にいない。リージョンカップに聖皇学園も出るってのは知ってる……。そこで見せてあげるよ」

 

 眉間に皺を寄せ、険しい表情で静かな怒りをぶつける。

 真実もまたこうやって一矢が怒っているのは初めて見た。その矛先が自分である事、そしてその怒りにたじろいでしまう。

 

 一矢がミサとチームを組んだ理由にやましい理由などない。

 ただ一つだけ言える事は彼女となら自分は力だけでは進めないその先に進める。そう思えるだけの強さをミサは持っている。

 

「ご、ごめん……怒られるつもりはなかったの……。でも雨宮君……ガンプラバトルは結局はその強さだけだよ……? なら私はリージョンカップで雨宮君の目を覚まさせてあげるよ」

 

 一矢の逆鱗に触れてしまった事に素直に謝りながらも、それでも間違っていたとは思ってはいない。少なくとも弱ければ先になんて進めない。真実はそう言って足早にその場を去るのだった……。

 

「……あの人は……?」

「垣沼真実。俺が昔いたガンプラチームに所属してた元チームメイト。そして当時の俺をガンプラチームに勧誘したのもアイツだよ」

 

 真実がイラトゲームパークから去ったのを見計らってヴェールが彼女について問いかけると、当時のことを思い出しているのか両目を瞑りながら一矢は上着の薄手のパーカーのポケットに手を突っ込んで答える。

 

「でもまさか一矢君が私の為に怒ってくれるなんてなぁ。大切に思われてるのかな私?」

 

 自分の事で怒った一矢を思い出し、一矢をからかい半分、照れ半分と言った様子でニヤニヤと話すミサだが、一矢はミサに目をくれる事無くロボ太を連れてガンプラバトルシミュレーターへと向かう。

 

「ってぇスルーかいっ!?」

「……バトルするよ。あぁは言ったけどリージョンカップでは実力は及びませんでしたなんて笑い話にもならないでしょ」

 

 せめて何か反応して欲しかったのか、赤面しながらツッコむがガンプラバトルシミュレーターの入り口に手をかけ、振り向いた一矢の言葉を聞き、少し黙ってうんっ、と頷いて一矢に駆け寄り、自身もシミュレーターへと乗り込む。

 

 正直に言ってしまえば一矢もなぜあそこまで怒ったのか、自分でも分からなかった。

 あそこまで怒ったのは本当に久しぶりかもしれない。最後に怒ったの何時だろうか?

 周りと関わろうとしない一矢が大きな感情、ましてや怒りを見せるなど珍しかった。それ程までに一矢はミサが好きに言われるのが我慢ならなかった。

 

(……楽しみだな)

 

 そんな一連の様子を見ていたヴェールは静かにその場を立ち去る。

 その口元には微笑みが。自分も彼らと同じリージョンカップに出場する。

 

 彼らとバトルをするのは楽しみだ。

 彩渡商店街ガンプラチームはリージョンカップが開始するその前日までその連携と実力を高めるためにミーティングとバトル漬けの毎日を送るのだった……。


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