「やあ、待っていたよ」
「お久しぶりです」
関係者入り口から会場入りすると翔はGGF時代からの付き合いであり、新型シミュレーターの開発主任を務めている開発者の男性と握手を交わしていた。
「招待プレイヤーのリストアップ……。協力してくれて感謝するよ」
「今日はガンプラバトルの歴史で大きな意味を持つ日になるでしょうからね。相応しいファイターを連れて来たつもりです」
「君が可能性を見出したファイター達は私自身、興味があるよ」
開発側とは別に優陽が選ばれたようにあくまでファイターの目線として一任された翔が選出した可能性を感じさせるファイター達が多くこの場に集まっていた。
和やかに言葉を交えながら翔と開発者は若きファイター達を見やる。そこでは楽し気な談笑が行われているのだが、その中で最も注目を集めていたのは優陽であった。
「お、男じゃったのか……」
「その反応、飽きたよー」
度し難いような様子で厳也は一矢の傍らにいる優陽を見ている。いや厳也だけではなく、その周囲にいる影二達もだ。もっとも一矢達と知り合ってから、いや、それ以前からずっと見飽きたリアクションなのだろう。軽い指鉄砲を作りながら答えている。
「まあ、可愛いのは認めるけど……」
「えへへっ、ありがとね、ミーサちゃんっ」
知り合って束の間とはいえ、振り回されている自覚のあるミサは微妙そうな表情を浮かべながらも優陽の容姿を褒めると、心底嬉しそうに優陽はミサに人懐っこい愛らしい笑顔を見せるも、それはそれでミサも何とも言えない様子だ。
「……可愛いって言われてるのに満更でもなさそうだな」
「可愛いのは好きだからね。そう言われて悪い気はしないよ」
外見から立ち振る舞い、何に至るまで少女と言われても疑えないのが優陽だ。一矢も傍らにいる優陽に話しかけると、元々の性格からかあっけらかんと答えている。
「──相変わらず君達がいる所は楽しそうだね」
久方ぶりの再会に知らず知らずのうちに大きな輪となって談笑している一矢達に声をかけられる。聞き覚えのある声のまま、その方向を見やれば、そこには侍女であるアルマとモニカを引き連れたセレナであった。
「セレナちゃん、久しぶりっ!」
「うん、その顔を見て、安心したよ」
歩み寄るセレナに気づいたミサは嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、彼女に駆け寄るとその手を掴む。セレナもロボ太の一件を知っているせいか、笑顔の中にどこか安心したような感情を感じさせる。
「セレナちゃんも招待されたんだねっ」
「まあ、その認識で間違ってないよ」
セレナの手を取って、再会を喜びつつも彼女がこの場にいる事についてウィルや厳也達同様に自分達と同じように招待されたのだと思っているとセレナもそれで良いと頷く。
<ふーっはっはっ! 太陽たる私が出資しているのだぁっ! 期待をしているぞぉ開発者しょっくぅうんっ!!
「……なにか聞こえなかった?」
「気のせいじゃないかな」
もう一杯やっているのかと思ってしまうような遠巻きに聞こえてくるえらいテンションの高い声に接点がないとはいえ、ミサは反応するもセレナの有無を言わさぬ笑みを作った為にそれ以上、あの声に関して話題を出すのを止める。
「今回のイベント、新型シミュレーターって言うだけあって世界中の名だたるファイターを招待したらしいよ」
「だからウィルもセレナちゃん達もいるんだね」
「まっ、世界大会やSSPGには流石に劣るけどね」
気を取り直してセレナは今回の新型シミュレーターに参加するファイター達について触れる。そう言われてみると、このイベント会場に到着した時に見つけたマスコミの中には外国のメディアもいたような覚えがある。それにこの場でも見渡せば、世界大会などで見た覚えのある人達の姿もあった。
「とはいえ、だ。ボクらファイターがやる事は変わらない」
「そうだね。SSPGじゃ結局、バトル出来なかったから……」
「ここで、ってことになれば良いけど。ボクとしてもSSPGで
イベントの規模の大きさ、人数などはさしたる問題ではない。
ファイターとして問題なのは、そこで全力を尽くせるだけのバトルが出来るかだ。
セレナの言葉にミサもSSPGは結局、ナジールやアンチブレイカーの出現のせいで台無しにされてしまった事を思い出す。丁度、そのタイミングと言うのもセレナとウィルの準決勝が行われていた時だ。あの直前まで自分達は確かにバトルを心から楽しみ、全力を尽くすバトルを行っていた。しかしその直後の横やりのせいでその勝敗は有耶無耶となってしまったのだ。どうせ、今この場に集ったのであれば、このイベントで決着をつけるのも悪くはないだろう。
「──世界中のファイターを招待しているのは、それだけ我々としても手ごたえを感じているからだよ」
すると再び横から声をかけられる。相手は開発者であった。隣には先程まで彼と話をしていた翔も一緒だ。
「だからこそ是非とも君達には派手に、そして楽しんでバトルをしてもらいたい」
「……任せてください……って言うのも変だけど……皆、自分らしいバトルをするつもりです」
「それで良い。個性のぶつかり合いがあるからこそ、名勝負と言うものが生まれるのだと私は思っているからね」
開発主任として開発を進めて来ただけあって新型シミュレーターに自信があるのだろう。まるで夢を追い求める夢を追い求める少年のような輝かしい表情を見せる開発者につられるように微笑を浮かべた一矢が頷くと、開発者は一矢やその周囲にいるファイター達を見渡しながら期待の言葉を投げかける。
「あのー質問良いですか?」
「なにかな?」
新型シミュレーターにファイター達が高揚していくなか、優陽がちょこんと手を上げながら声を上げると、開発者は優陽び視線を向ける。
「そろそろ新型シミュレーターがどんなものなのか知りたいなーって思って」
それは新型シミュレーターについての詳しい内容であった。それは一矢達とて気になるところであろう。答えを求めるように一同の視線は開発者に注がれる。
開発者はこの場で答えるべきか、少し迷った素振りを見せるが、やがて、「まあそろそろ良いかな」と笑みを見せる。
「フィールドに関しては、ここに集まった一部の人達は知っているね。あれから改良はしたが、基本はあの大気圏の突入、離脱が可能な広大なフィールドを想像してもらって構わない」
この場にいる一部の者達は以前、行われたテストプレイに参加していた。その事は開発者である男性も良く覚えている。基本的なフィールドはあの時とさして変わらないようだ。
「だが、同時に進行していたものもあってね。あの時は間に合わなかったが、今回、漸く完成したんだ」
フィールドに関してはあまり変わっていないと考えて良いのだろうが、それ以外ともなると一体、どんなものなのだろうか。想像がつかない内容に一矢達は顔を見合わせる。
「VR。それが新型シミュレーターの最大の目玉さ。君達にはこれからVR空間にダイブしてのガンプラバトルをしてもらう」
「それってつまり……」
「ああ。君達はガンプラバトルシミュレーターではなく、君達の愛機のコックピットに乗り込むことになるんだ」
VRと口にした開発者の言葉に一同はざわめく。一矢がVRを使用した新型シミュレーターのガンプラバトルについて尋ねると、その反応を楽しそうに見ていた開発者は大きく頷きながら答えた瞬間、ワッと湧き出るような歓声が起こる。それもそうだろう。VRとはいえ、自分が丹精込めて作ったガンプラに乗り込むことができるのだから。
「詳しい概要はこの後話すとして私はそろそろ良くよ」
盛り上がっているファイター達を見て、満足そうに頷いた開発者はイベントの準備がある為、この場を去っていく。一矢はその背中を見送りながらケースからリミットブレイカーを取り出す。
「……こんな日が来るなんてな」
ガンプラバトルシミュレーターは翔がまだ自分と変わらないくらいの年にテストプレイを行ったのが始まりだ。それからよもや子こんな日が来るなんて思いもしなかった一矢はその時が待ちきれないとばかりにリミットブレイカーに笑みを零すのであった。