機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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集結の地

 西洋城のような空間が広がるフィールドの中心にリミットブレイカーの姿があった。その周囲には破壊痕の目立つNPC機達が骸のように転がっていた。

 

≪問題はないな……。そっちはどうだ?≫

「……こっちも大丈夫」

 

 するとリミットブレイカーへ向けて、カドマツからの通信が入る。何かのテストをしていたのだろうか、カドマツの問いかけに一矢は機体状況を確認しながら答えると、ログアウトをして終了させる。

 

 ・・・

 

「最初は本当に出来るか不安だったけど、これなら何とかなりそう」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢は出迎えるように待っていたカドマツにそう告げる。手にはGPが握られており、アセンの内容をチェックする。

 

「まあ、俺も話を聞いた時は少し不安だったけどな。だが見た限り、お前さんなら大丈夫だろ」

「いや正直、これはカドマツの協力がなければ、絶対出来なかった事だよ」

 

 一矢の言葉にポリポリと頭を掻きながら言葉通り、不安もあったのか、吐き出すようにため息をつくカドマツだが一矢への信頼を感じさせるような笑みを見せる。

 だが一矢は首を横に振りながらカドマツへ感謝する。クロノの一件からカドマツに連絡をとった一矢は今、こうしてカドマツの協力を元にある準備をしていたのだ。

 

「俺としても嬉しくない訳じゃないが、でもまたどうして急にあんなものを?」

 

 一矢からカドマツへの頼み事。その内容を知るカドマツは嬉しい反面、どうして一矢がわざわざ、そんな事を頼んできたのか分からなかった為、この際、一矢に直接尋ねる。

 

「ある意味、証明であり繋がり……かな。無駄じゃなかったっていう……」

 

 GP内のアセンブルシステムを見つめる一矢の表情はどこか悔しさを滲ませている反面、何かを想って嬉しさを噛み締めるかのようだ。

 

「───けど、今のままじゃただの付け焼き刃だな」

 

 するとそんな二人に声をかける者がいた。視線のまま一矢とカドマツの二人が視線を向ければ、そこにはシュウジの姿があった。

 

「カドマツから話は聞いてるぜ。面白いこと考えたもんだ」

 

 そのまま一矢達まで歩み寄りながら話しかける。どうやら一矢から要件を聞いたカドマツによって呼び出されたようだ。

 

「俺も手を貸す。力になれねぇわけじゃねえからな。熱いうちにお前の刃を叩いてやるぜ」

 

 シュウジは懐のケースからバーニングゴッドブレイカーを取り出す。どうやら今まで行って来た一矢の試みに付き合ってくれるようだ。

 シュウジの好意に微笑みを浮かべながら頷いた一矢はシュウジと共にそれぞれガンプラバトルシミュレーターへと乗り込んでいくのであった。

 

 ・・・

 

 翌日、週末となり一矢達は翔達と予定通り、新型ガンプラバトルシミュレーターのイベントの為、車を利用しての移動を行っていた。カドマツが運転する車内では、彩渡商店街チームの他、優陽がおり、助手席にはミサが、後部座席には一矢と優陽がいた。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 後部座席では一矢が規則正しい寝息をたてて眠っていた。というのも一矢は車に乗り込んだ時点で寝る体勢に入っており、出発してから程なくしてすぐに眠ってしまったのだ。

 

「一矢、ぐっすりだね」

「まあ昨日は結構、遅くまでやってたからなぁ」

 

 助手席から熟睡している一矢の様子を微笑ましそうに見つめながら運転席にいるカドマツは仕方ないとなかりに彼自身も眠気があるのだろう、欠伸をしながら答える。

 

「昨日? なにやって───」

 

 カドマツから放たれた言葉から、昨日、一矢とカドマツとの間で何かを行っていたのだろう。だが少なくともミサはその事を知らない為、尋ねようとするのだがふと後部座席の方から物音が聞こえる。

 

「んしょっ……と……」

 

 気になって振り返って見れば、優陽が一矢の座席に移動しているではないか。そのまま膝の上に腰掛けて身を寄せながら携帯端末のインカメラを使用して、寝ている一矢と共に自撮りしていた。

 

「ちょっ、何やって……!?」

「んー? 寝顔が可愛かったから一緒に写真撮ってるだけだけど?」

 

 そのままパシャパシャと眠っている一矢と共に写真を撮っている優陽にミサは溜らず声をかけるが優陽は特に気にした様子もなく撮り終えた写真の確認をしていた。

 

「わ、私も後ろに行くっ!」

「無理でしょ。危ないから大人しく座ってなって」

 

 一矢との寝顔のツーショットなど自分はやったことがない為、ミサはすぐに後部座席に移動しようとするのだが、携帯端末を弄っている優陽によって適当に宥められる。

 

「んんっ……?」

 

 しかしそれでも優陽に好き勝手されるのは嫌なのか諦めようとしないミサと宥める優陽のやり取りが五月蠅かったのかのか、顔をギュッと顰めた一矢は煩わしそうに眉間に皺を寄せながら目を覚ます。

 

「おっはよー」

「ぁ……?」

 

 一矢が目を覚ましたことに気づいた優陽は軽く声をかけるも一矢はまだ寝起きで頭が回っていないのか、寝ぼけたような覇気のない声を漏らし、状況を知ろうと周囲を見ている。ミサが一矢を起こしてしまったと苦い顔を浮かべていると優陽はまた勝手に動き出す。

 

「はい、チーズっ」

「……?」

 

 そのまま一矢に頬を寄せながら、再びインカメラによる撮影を行う。最もまだ頭の回らない一矢は優陽に流されるまま眠たそうな顔でカメラに視線を向け、写真を撮っていた。

 

「寝起きの顔、ゲットー♪ ねぇ、これSNSに載せて良い? 君有名人だし」

「……俺のそんな顔をネット上に流すな」

「じゃあ、僕らだけの物だね。後で君の方にも送っておくよ」

 

 先程の写真を確認しながら優陽は一矢に尋ねる。一矢も今ではガンプラバトル界において名が知れた人物。それを自身のSNSに掲載すれば反響はあるだろう。

 だが一矢はそんな罰ゲームはお断りだとばかりに煩わしそうに首を横に振ると、それじゃそれで優陽は嬉しそうにしている。

 

「っっっ!!!! やっぱり私も後ろに行くぅっ!!」

「……止めろって」

「そうだよー。運転の邪魔になっちゃうよー」

「私、一矢とそんなことしたことないもんっ!!」

 

 一矢と優陽のやり取りを見て、ミサは我慢ならずもう一度、後部座席に移動しようとシートベルトに手をかけようとするのだがその前に一矢とどこか白々しそうにそれでいてミサの反応が面白そうにしながら止めようとするもミサは我儘を口にする子供のようだった。

 

 ・・・

 

「まだイベント前なのに、人が集まってるな……」

「メディアの人達もいるねー」

 

 イベント会場に到着した一矢達は長時間の移動もあって凝った身体をほぐしながら周囲を見渡せば規模の大きなこの会場は多くの人達で溢れ返っており、中には取材の為に訪れるメディア関係の人々の姿もある。それだけ今回のイベントは注目されているのだと一矢と優陽は改めて感じる。

 

「んんっ! んんぅっ!」

 

 一矢と優陽の間に割り込むようにミサは咳払いをしながら割って入って一矢に身を寄せる。大体、先程の車内のやり取りのせいだろう。

 

「やだー。ミサちゃんこわーい」

「誰のせいだと……っ!」

 

 そんなミサの態度さえ面白そうに口元に手を添えながら大袈裟な態度をとる優陽にぐつぐつと煮え滾るものを感じながらミサは顰めっ面を見せる。

 

「誰のせいって、僕らオトコ同士だよ? ちょっとしたスキンシップじゃなーい」

「ぬぬぬぅ……」

 

 ミサの言葉に心底可笑しそうに笑った優陽はトコトコと空いている一矢の隣に回り込むとそのまま身を寄せながらミサに悪戯っ子のような笑みを見せる。そう言われてしまうと反論の言葉がすぐに出てこないミサは悔しそうな表情を浮かべて唸っている。

 

「一矢君達、こっちだ」

 

 ミサと彼女をからかっては楽しんでいる優陽に挟まれて一矢は何とも言えない表情を浮かべていると違う車両で一緒に移動していた翔から声をかけられ、助け舟が出されたとばかりに一矢は翔やシュウジ達の元へ向かい、優陽達もその後を追う。

 

 ・・・

 

「一矢っ!」

 

 関係者入り口からイベント会場に入った一矢達はしばらく歩を進めていると声をかけられる。視線をそのまま向けて見れば、そこには多くの見知った顔が。

 

「久しぶりだな」

「その面構えを見る限り、安心して良さそうじゃな」

 

 そこには影二や厳也を始めとした多くのファイター達の姿があった、彼らもまたこのイベントに参加する為、この場所に集まったのだろう。陰のない一矢の顔つきを見て、安堵した様子だ。

 

「みんな、心配かけた」

 

 そんな厳也達の様子を見て、それだけ自分達を心配してくれたのだと心の底から温かさが溢れてくるのを感じながらミサと顔を見合わせた一矢は厳也達に声をかけるとそれぞれが気にするなとばかりに首を横に振っていた。

 

「おや、君達も来てたのかい」

 

 久方ぶりの再会と立ち直った一矢達に喜んでいるのも束の間、再び声がかけられ、そのまま見やれば、そこにはドロシーを傍らにウィルが此方に歩み寄ってくる姿があった。どうやら招待されていたのはウィルも同じだったようだ。

 

「ウィル坊ちゃま、わざわざご自身から一矢さん達に会いに来ておいて、その物言いはツンデレか何かでしょうか」

「ドロシー……僕はそんなつもりで会いに来たんじゃない……」

 

 偶然、見つけたような物言いのウィルにすかさずドロシーが割り込んできたため、ウィルは調子を崩されたように頭痛を感じている様子だ。

 

「事実、僕は別に気にしてはいなかったよ。君達が立ち直れなかったのなら、所詮、君達はそれまでだったと言う事だ」

 

 仕切り直すようにウィルは一矢に視線を向け、口角を上げながら話す。実際、厳也達は一矢やミサを気遣って連絡をしていたがウィルは特に何のアクションも取っておらず、普段通りタイムズユニバースの業務を行っていた。

 

「だが同時に僕と渡り合った男達が必ず立ち上がれると思っていたのもまた事実だ」

 

 ウィルは一矢をまっすぐと見やりながら微笑を浮かべる。ウィルがわざわざ連絡を取ろうとしなかったのは一矢達ならば必ずもう一度立ち上がれると思っていたからだ。

 

「立ち止まることがあっても、一歩踏み出せる人間は強くなれる。今の君達のバトルを楽しみにしてるよ」

 

 かつての自身を思い出しながらウィルは一矢達に彼らへの期待を感じさせる言葉をかけるとドロシーに声をかけてその場を去る。

 一矢とウィルは別に仲が良い訳ではない。顔を合わせれば憎まれ口を叩き合う。だがだからこそ不思議なもので、その距離感は寧ろ二人には心地が良かった。去っていくウィルが人知れず笑みを零すなか、去っていくその背中を見ながら一矢も微笑を見せるのであった。




<おまけ>

50000UA感謝イラスト

【挿絵表示】

(右から希空、夕香、リーナ、ヴェル)

ミサ「……ねぇ、ヒロイン集合って感じなら私も行くべきなのに何で…」
一矢「大人の事情だよ」
優陽「それにあのメンツの中にミサちゃんが入るなんて、そんな自爆ショーを見せられたってさー」
ミサ「どういう意味!?」


※改めて50000UAありがとうございます。ついでに活動報告で雑談枠とアンケート的なモノを更新しました。

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