機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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終局へのカンパネラ

「後少しってところか」

 

 一矢とシュウジのバトルから数日後、ブレイカーズの作業ブースにて翔はとあるガンプラを見やりながら、その傍らにいる優陽に声をかける。

 

「はい、もうすぐ完成です」

 

 優陽の目の前にあるのは一矢が泊まった際に見つけたZZガンダムをベースにカスタマイズを施したガンプラだ。あれから優陽も一矢とシュウジのバトルを間近で見て熱を当てられたように作成を進め、ついにここまでこぎつけたのだ。

 

「ZZをベースにしただけあって、巨躯だな」

「どっしりした機体って好きなんです。おっきいのって素敵だなぁって」

 

 優陽の手がけたZZのカスタマイズ機は元々のZZに更に火力を追加させたものとなっていた。元々GP02をベースにしたゼラニウムを作成したりと優陽の元々の好みなのか、両頬に手を当て恍惚とした表情で身をくねらせている。

 

「名前は決まっているのか?」

「一応……。ま、願掛けみたいなものですけど」

 

 翔から見てもこのガンプラは中々の出来栄えだ。一矢とさほど変わらない年齢だが一矢共々先が楽しみになる。

 完成も間近であれば、このガンプラの名前も決まっているのだろうか。そう思った翔は優陽に尋ねると人さし指を頬にあて首を軽く傾げながら答える。

 

「最近毎日来てるよねー」

 

 翔と優陽が和やかに話しているとバイト中だった風香が翔の背中にのしかかる様に抱き着いて翔の肩越しに顔を出しながら優陽を見やる。彼女が言うように優陽は一矢とシュウジのバトル後、このブレイカーズに足しげく通っていたのだ。

 

「翔さんが新型シミュレーターのイベントに連れて行ってくれるって言ってたからね。それまでには絶対完成させないと」

 

 ひょっこりと顔を出して風香に笑い掛けながら優陽は自身が手掛けたガンプラを見やる。かつてガンプラを作る際はただ強さだけを求めて作り上げた。だが今は違う。ゼラニウム同様に確かな愛と何より自分が楽しみながら作成したガンプラだと自負しているのだ。

 

「えぇっ、ちょっと待ってよ! 風香ちゃんは頼まなきゃ連れて行ってくれないのにぃ!!」

「……だからお前も連れて行く予定だろ。それに今度のイベントは彼にとっても良い刺激になるだろうしな」

 

 優陽の口振りでは翔から誘われたように聞こえる。毎回、駄々こねて翔に連れて行ってもらっている風香は納得がいかないのか背後から抱き着いた翔の首を絞めながら文句を口にすると翔は煩わしそうに風香の腕を退かそうとしながら声を上げる。

 

「そう言えば、一矢達も参加するんですよね?」

「彼らももう立ち直っているからな。参加するつもりだろう」

 

 まだ納得していないのか、翔に抱き着いたまま膨れっ面を作ってむーむーと唸っている風香を他所に優陽は一矢達について触れるとシュウジ達との一件から立ち直った一矢達も参加するだろうと答える。

 

「えへへー……だったらその時が楽しみだなぁ」

 

 バトル用に新たに作り上げたこのガンプラは過去に作り上げたものとは違い自身の何かに囚われない純粋な想いを込めて作り上げたのだ。だからこそ一刻も早く一矢にも見せてあげたい。それも大きな舞台でだ。そんな風に思いながらその時の事に期待に胸を膨らませながら優陽は己のガンプラを見やるのであった。

 

 ・・・

 

「新型のガンプラシミュレーターってどんなのなんだ?」

 

 一方、放課後の聖皇学園では一矢の机の周りに集まりながら何気ない雑談をしている。

 そんな中、拓也が聞いてきたのは新型のガンプラバトルシミュレーターの事であった。やはり新型というだけあって気になるのだろう。真実も口には出さないもののそわそわと一矢を見ている。

 

「さあ……? ただ前に行った時は宇宙空間から重力下でのバトルが出来るほどの広大なステージ……って話しだったけど……」

「そこから何か変わってたりしてるのかな」

 

 以前、テストプレイに参加した時は広大なステージが目玉であった。あれから期間も開き、一体どういった物になっているのかは分からない。参加は叶わない為、どんなものなのか実際、一矢達が知るまで分からない真実は想像を働かせる。

 

「……じゃあ俺、帰るから」

「うん、また今度ね」

 

 帰り支度を済ませた一矢は席を立つ。夕香は既にクラスメイト達と教室を去っており、真実達もこのまま部活に向かうだろうから今日は一人で帰る事になりそうだ。真実達に見送られながら一矢は教室を後にする。

 

 ・・・

 

(……そうだ、連絡返しておかないと)

 

 校門へと続く道を歩きながら一矢はふと思い出す。それはロボ太を失い、一矢達を気遣って連絡をしてきてくれた厳也達への返信なのだ。

 結局、なんだかんだで何の連絡も出来ていないので心配させてしまっているのかもしれない。わざわざ連絡までしてくれる友人達を嬉しく思い、ついつい笑みを浮かべてしまいながら自身の携帯端末を取り出そうとした時であった。

 

「──ふむ、その様子だと、心配はいらないようだ」

 

 校門を出た直後であった。

 そう一矢は声をかけられ、視線を向けた先には……。

 

「これならゲームを問題なく進められそうだ」

 

 そこにいたのはクロノであった。

 傍らにはクロノが乗って来たと思われる外車が停まっている。こうして出会うのはイラトゲームパークでチップを忍ばされた以来だ。クロノの顔を見て、その時の事を思い出しているのか驚いていた。

 

「アンタは……」

「ピースは君の中にあるだろう? 私を知りたければ、ピースをはめ込みたまえ」

 

 しかし目の前にいるクロノに何か引っかかりを感じるもののその後のウイルス騒動で声だけで接触してきた人物だとは思わず怪訝そうにしている一矢にやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

「今日は君にラストステージが訪れた事を告げに来たんだよ、雨宮一矢」

 

 だがその言葉と言い回しで引っかかりを感じていたものははっきりとした確信に変わった。

 

「アンタ……あの時の……ッ!」

「ああ。これまでのウイルス騒動で君達に大きく関わって来た」

 

 見る見るうちに険しい表情で鋭い眼光をぶつける一矢にクロノは愉快そうにクツクツと笑いながら答える。

 

「アンタ達のせいでロボ太は……ッ!」

「あぁ、そんな事もあったか……。しかし、あれは我々にとってもイレギュラーなことだ」

 

 今すぐ掴みかかりそうな程の怒りを見せる一矢だが一方でクロノはまるで微風でも浴びているかのような涼しげな様子を見せるだけで余裕のある態度を崩さない。

 

「おもちゃはおもちゃらしく持主の手中に収まる行動をすれば良い。なのに愚かしくも自身に見合う以上の行動をしたのだ。その結果を我々が責められる謂れはないさ」

「……ッ!!」

 

 ロボ太を嘲笑するかのような物言いに怒りのあまり、頭の中に火が付いたように一気に熱くなるのを感じながら半ば無意識でクロノに掴みかかる。

 

 ……が次の瞬間、一矢の身体は宙に舞い地面に叩きつけられた。

 

「やれやれ、安い挑発に乗るものだな」

 

 身体に痛みが響くなか、なにが起きたか理解が追い付かない一矢を見下ろしながらクロノは僅かに乱れた服装を正す。

 

「だがそれでこそだ。君は未熟ながら少しずつ前へ進み、強くなっている。まさに主人公のような存在だ」

 

 一矢を見下ろすクロノ。クロノを見上げる一矢。そんな構図となるなかクロノは心底、楽しそうに一矢の人物像について話しながらその胸ポケットにチップを忍ばせる。

 

「君達の行動を考えるに私の渡したゲームをクリアできなかったらしい。それにはあのゲームの攻略情報が載っている。今更ではあるが、クリアしてみる事だ」

 

 何とか体を起こす一矢は胸ポケットのチップを取り出すとそのチップが何であるのかをクロノは口にする。

 

「次で最後だ。このゲームのエンディングをどうするかは君次第だ。楽しみにしているよ、雨宮一矢」

 

 クロノはそのまま自身の車に乗り込み、ウィンドウを開きながら最後にそう告げるとそのまま車を走らせて去って行ってしまう。まだ体に痛みが残るなか、起き上がった一矢はクロノに渡されたチップを見つめるのであった。

 

 ・・・

 

 帰宅した一矢はすぐさまパソコンを起動させ、あのパズルゲームを立ち上げる。クロノに言われたまま行うのは癪ではあるが彼に渡されたチップ内のデータは確かに攻略情報が記されたものであり、そのデータを元にパズルゲームを進めれば、あの時、なす術もなくゲームオーバーを迎えたゲームも難なく進める事が出来た。

 

【エンディングへの道は開かれた】

 

 ゲームクリアと共に表示された文面。するとしばらくして画面が切り替わり、多くのデータが開示され表示される。

 

「これは……ッ!!」

 

 その内容を見て一矢は目を見開く。何とゲームクリアの先にあったのは世界大会とその後のウイルス騒動の一連の犯行計画と実物大ガンダムを使用した予備策。そしてナジールやバイラス、世界大会にバイラスの協力者として現れた者達の個人情報及びその潜伏先など事細かに記されていた。

 

「……黒野リアム……。ジャパンカップ優勝者……ッ!?」

 

 そしてその中にはクロノ自身の情報も記されていた。それはイドラコーポレーションだけではなく自身が聖皇学園ガンプラチームの一員として参加した年のジャパンカップの優勝についても載っていたのだ。

 

「なんだよこれ……ッ……。なんなんだよ……ッ!?」

 

 クロノが口にしていた裏技とはこのことなのだろう。下手をすればこのチップを手に入れたあの日、ゲームをクリアしてこの情報を得ていれば、これまでのウイルス騒動も阻止できた可能性もあり、ロボ太を失う事もなかった。

 

「くそ……ッ!!」

 

 しかし何故、あの時点でクロノはこれを渡したのか。自分達の計画や個人情報を事細かに記したこのチップのゲームがもしあの時点でクリア出来ていたらその時点で彼らの計画は水泡となっていたかもしれないのに。

 

 だがどちらにしろ、結局、自分達はクロノの掌の上で踊らされていただけなのだ。その事を実感して、思わず苛立ちから頭を掻き毟ってしまう。

 

「……もうこれ以上、好きにはさせない。俺達はあいつの箱庭で踊る人形なんかじゃないッ」

 

 もしもこれが少し前の自分であれば心を折られていたのかもしれない。

 何故ならばその時、自分達が必死に我武者羅にぶつかっていた事も所詮、掌の上で踊らされていただけに過ぎないからだ。

 だが今は違う。例え今まではクロノの掌の上の出来事だったとしても、これからを変えてみせる。

 

「もう俺は……あの時の俺じゃないんだ……!」

 

 かつてのジャパンカップではなす術もなくクロノに敗れ、そこから弱い自分は迷い、彷徨っていた。だが彷徨いながらでも一歩一歩確実に進んできたのだ。これまで培ってきたものは確実に無駄にはならない筈だ。

 

≪おう、どした?≫

 

 一矢は自身の携帯端末を取り出して電話をかける。その相手はカドマツだった。

 

「……カドマツに頼みたい事があるんだ。どうしてもやらなくちゃいけないことがある」

 

 用件を尋ねてくるカドマツに一矢は真剣な口調で話す。その様子を電話口でも感じ取ったカドマツは一矢から話される内容に耳を傾けるのであった。


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