機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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繋いでいく想い

 シュウジとのバトルを終えた一矢はゆっくりとガンプラバトルシミュレーターから姿を現す。全身全霊をぶつけたバトルだった為、額にはじんわりと汗が滲み、目に見えて倦怠感が表れていた。

 

 暗がりの多いガンプラバトルシミュレーターから明かりが広がるイラトゲームパークの室内に出てきたことによって、目を眩ませた一矢だが確かに支えるようにその肩をしかと掴まれる。明かりに慣れ始めた瞳が見やれば、そこには穏やかな笑みを浮かべているシュウジがいた。

 

「良くやったな、一矢」

「出来る事なら勝ちたかったけど」

 

 そのまま一矢の肩に腕を回したシュウジは先程の一矢のバトルについて、その健闘を称えると、全部をぶつけたバトルだからこそ勝ちたかったという気持はあるのか、苦笑交じりに答える。

 

「けどこれで俺達は同じラインに立ったんだ。俺達の未来は別々だが、だからこそ俺達の未来がまた交わった時にもう一度バトルしようぜ」

 

 シュウジも正直なところで言ってしまえば、一矢がここまで戦える程、成長しているとは思わなかった。世界でも輝けるファイターとして一人前に成長したとはいえ、まだ自分には及ばない弟分だと思っていたからだ。だがその認識もすぐに変わった。

 

 一矢はもう十分、自分と肩を並べるまでに成長したのだ。ならばここからはどちらが再び再開した際に強くなれるかの競争だ。互いに負けるつもりはないのか、シュウジと一矢は笑みを浮かべ合う。

 

「良いバトルだったよ。シュウジ、それに一矢君」

 

 そんな二人に声をかけたのは翔であった。その傍らには優陽の姿がある。一矢達に向けられる周囲の温かな眼差しと共にそんな周囲の総意を口にするような翔の言葉に一矢とシュウジは互いに顔を見合わせてはまたクスリと笑う。

 

「……どうした?」

 

 そんな中、ふと一矢は翔の傍らに立っている優陽に声をかける。と言うのも優陽は何か我慢しているかのように、俯いてもじもじと体を揺らしているからだ。

 

「……いや……その……二人のバトルを見て、身体が熱くなっちゃったって言うか……」

 

 頬を染めながら気恥ずかしそうに話す優陽。一矢とシュウジのバトルを間近で見たと言うのもあって、自身もバトルがしたくて堪らなくなってしまったのだろう。

 

「僕もなりたいって思ったんだ、アナタ達みたいに……」

 

 最初は仲間と共に進み、輝きを放つ一矢だけに憧れていた。しかし今は一矢とあそこまでのバトルをしたシュウジにも、そして言葉を送ってくれた翔にも感化され始めていたのだ。

 

「先ほども言ったが、君が君らしく前に進めば、きっとその先に君がなりたい自分が待っているよ」

「そしてその先にもな。歩みを止めない限りは限界なんてない。どうせならずっと手を伸ばしな」

 

 優陽に対して、改めて言葉を送る翔に続くようにシュウジもまたこれが初めての会話ではあるが、優陽に語り掛ける。

 

「……お前は昔の失敗を引き摺ってるけど、過去があるから今のお前がいる。そして今のお前は未来に……。だから進み続けよう。お互いに目指す未来へ」

 

 そして一矢もまた優陽に話しかける。一矢もまた苦い過去があった。それ故、最初はミサのチームへの勧誘を断った。しかし過去を乗り越え、経験をして、また新たな自分に繋がっていく。どんな過去でも無駄になる事はない筈だ。

 

「……そうだね。じゃあ僕も一歩一歩進むよ」

 

 翔、シュウジ、一矢の三人からそれぞれ言葉を送られた優陽は考えるように目を伏せると顔を上げてにっこりと笑う。それは彼の心にもまた支配していた靄が晴れていったかのようだ。

 

「でも憧れだけじゃ終わらせないよ。どうせなら全員、僕が超えるんだからっ」

「大きく出たな」

 

 すると優陽は前屈みになって自信に満ちた笑みを三人に見せながら吹っ切れたように晴れやかに口にすると、翔も苦笑気味に答え、一矢とシュウジは肩を竦めている。

 

「名前を聞かせてもらっていいか?」

「優陽。南雲優陽だよ。えぇーっと……シュウジさん……だったよね」

 

 和やかに話しているものの、ふと今まで優陽の名前を知らなかったシュウジは名前を尋ねると優陽は翔が口にしていたシュウジの名前を恐る恐る口にしながら自己紹介する。

 

「じゃあ、一矢。それに優陽。少し手を出して貰って良いか?」

 

 一矢と優陽に手を出すように促す。しかし二人とも何故なのか分からず、首を傾げながらもゆっくりと手を差し出すと二人の手を小気味の良い音が響く。シュウジが一矢と優陽の手をそれぞれ叩いたからだ。

 

「バトンタッチさ。俺達が残したものをお前達の未来に繋げてくれ」

 

 シュウジから一矢と優陽に行われたバトンタッチ。その姿をシュウジの傍らで見ていた翔はかつての出来事を思い出して懐かしむ。翔もまたかつてシュウジ達にバトンタッチをして異世界を去ったからだ。

 

 翔からシュウジ達に託されたバトンは今、一矢と優陽に。繋がっていく確かな流れを見た翔は改めて一矢が口にしていた過去は無駄にならないと言う言葉を実感する。

 

「絶対に落とすわけにはいかないな。このバトンだけは」

「僕には荷が重い気もするけど……。でも……何より託されたのなら繋げていかないとね」

 

 シュウジと手を合わせた掌をじっと見つめる一矢と優陽。まだ手の中にはじんわりとした感触と温もりが残っている。不思議と重みを感じるなか、ぎゅっと手を握りながら一矢と優陽は顔を見合わせて頷く。

 

「……ちゃんと答えは見つかったようね」

「ええ、本当に良かったです」

 

 その光景を傍から見ながら、カガミは満足そうに柔らかな微笑みを見せながら口を開くと傍で聞いていたヴェルも先程のバトルの影響からか、どこか感激したように瞳を潤ましている。

 

「ヴェルさん、まだまだ終わりじゃないでしょ」

 

 そんなヴェルに声をかけたのはミサであった。

 

「今度は私がヴェルさんに知ってもらう番だよ!」

「……成る程ね。うん、良いよ。全部受け止めてあげる」

 

 一矢がシュウジに己の全てをぶつけたように今度はミサもヴェルに全てをぶつけようとしていた。ミサの申し出を聞いて、シュウジの付き添いでバトルをするつもりがなかったヴェルであったがにっこりと微笑んで快諾する。

 

「……なら今度はカガミさんに」

「アナタ、バトルしたばかりでしょう?」

「寧ろ、もっとバトルがしたいんです」

 

 ミサとヴェルのやり取りを見ていた一矢は今度はカガミに視線を向ける。しかし先程あれだけのバトルをしておいて、まだバトルをする体力があるのか、疑問に思っているカガミに一矢は楽しそうに答えると、仕方のない子ね、と微笑みながら頷く。

 

「今の僕がどんなのか、二人に知ってもらいたいな」

「奇遇だな。俺もそう思っていた」

「ああ。俺達にとっちゃお互いを知るには一番分かりやすいからな」

 

 優陽もまた翔やシュウジにバトルを挑むように交戦的な笑みを見せると二人ともバトルを受けるつもりだ。

 

「やれやれ、また乱戦かい?」

「良いじゃねえか、婆さん。賑やかなのは良い事だろ?」

「好きにしな」

 

 すると次々に自分も参加したいと言う声が溢れてくる。そんな声の数々を聞いてイラトは嘆息すると、カドマツは笑みを見せながら話しかける。するとイラトは背を向けて歩き出しながら満更でもない様子で答えると、近くのベンチに向かっていく。

 

「じゃあ、用意が出来た奴から出撃だな」

 

 リミットブレイカーを手にしながらガンプラバトルシミュレーターに向かっていく一矢に続くようにファイター達はシミュレーターに向かっていき、賑やかさはさらに広がっていくのであった。

 

 ・・・

 

「随分と時間がかかってしまったな」

 

 その夜、まるで深淵のような闇夜の中で静寂に響くように口を開いたのはクロノであった。窓から月の光が差し込むなか、目の前のパソコンの画面を見て笑みを零す。

 

「だがこれで最高のクオリティを誇るゲームに仕上がった」

 

 彼の前にあるパソコンには何かの施設の見取り図や設計図、何かのデータなど数々のプログラムが開かれている。恐らく、これ等のせいでクロノはナジールの件から今日までの時間を費やしていたのだろう。

 

「さあ始めようじゃないか雨宮一矢。我々に相応しい最後のステージで」

 

 パソコンの電源を落としながらクロノはまるでこの世界の管理者のように悠然たる態度で、ただその時を待つのであった……。


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