機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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Supernova

 リミットブレイカーとバーニングゴッドブレイカーのバトルのステージに選ばれたのは、雲が覆って暗がりを生むギアナ高地のステージだ。既にリミットブレイカー達による戦闘が開始されており、幾度となくぶつかり合っている。

 

 叩きつけるように振るわれるカレトヴルッフを白刃取りの要領で受け止めるバーニングゴッドブレイカーはそのまま、カレトヴルッフを奪って反撃につなげようとしていたのだが、バーニングゴッドブレイカーがカレトヴルッフを受け止めた瞬間、スーパードラグーンが展開され、バーニングゴッドブレイカーを狙おうとする。

 

(見違えたぜ、一矢)

 

 咄嗟にカレトヴルッフを手放して距離を取ろうとするのだが、食らいつくようにリミットブレイカーはバーニングゴッドブレイカーを追い、Cファンネルを解き放ってスーパードラグーンと併せたオールレンジ攻撃を仕掛ける。

 一矢のバトルをそれこそリージョンカップ前から知っていたシュウジはメキメキと実力を上げたことを感じ取って知らず知らずに笑みを零してしまう

 

「旋風竜巻蹴りッ!!」

 

 だが勝負の世界でいつまでもそんな事を考えているつもりはない。バーニングゴッドブレイカーはその身を高速回転させることによって竜巻と生み出し周囲に突風を引き起こす。それによって迫るオールレンジ攻撃を無効化させ、破壊する。

 

「流星螺旋拳!!」

 

 そしてそのままの勢いを利用して、リミットブレイカーを一直線に目指して射貫く様な拳が放たれる。避けるにはもう間に合わない。だからこそリミットブレイカーがとったのは、カレトヴルッフを盾代わりにして防ぐことであった。

 

「くぅっ!」

 

 抉るような拳が放たれ、カレトヴルッフに大きな負担を与えるが、全てのスラスターを稼働させることによって何とかその場に留まることが出来た。そしてそれを無駄にはしない。強い頭突きを浴びせる事によって、バーニングゴッドブレイカーとの距離を僅かに開けると、何よりシュウジから教わった聖拳突きをまっすぐと突き放ち、バーニングゴッドブレイカーは咄嗟に両腕をクロスさせて防ぐものの、後方に吹き飛んでしまう。

 

 その隙を逃すつもりはない。真っ直ぐと突き進んだリミットブレイカーはカレトヴルッフの一撃を振るう。だがその刃はバーニングゴッドブレイカーに届くことはない。何故ならその直前にバーニングゴッドブレイカーは自身のバックパックに装備されている二本の刀を引き抜くことによって受け止めたからだ。そのまま両肩のビームキャノンを放って、リミットブレイカーを遠ざける。

 

 ・・・

 

「凄い……」

 

 一矢とシュウジの場徹が始まって数分、もう既にトップクラスのバトルを見せる両者の様子を観戦しながらミサは思わず零すように呟く。

 

「雨宮君、必死に前に進もうとしてるね」

 

 やはり実力差はあるのか、リミットブレイカーは苦戦を強いられているしかしそれでも諦めずに我武者羅なまでにバーニングゴッドブレイカーに食い付こうとしているのだ。その姿を見ながら、一矢に呼び出された真実はミサの隣に立って、声をかける。

 

「ミサちゃん、ボヤボヤしてると置いてかれて、雨宮君の隣が空いちゃうかもしれないよ」

「大丈夫。私は絶対に一矢と一緒に進むから!」

 

 発破をかけるように言われた真実の言葉にミサは自信に溢れた言葉を返す。確かにこのバトルは圧巻される。しかしだからと言って、また一矢の後ろを追うような事をするつもりはない。その真っ直ぐな言葉に真実は満足そうに頷く。

 

(イッチ、皆に届いてるよ。イッチが必死に前に進もうとしている姿は)

 

 夕香もまた一矢のバトルを見て笑みを零す。今、この場に集められた全ての者がバトルに釘付けになっていた。それは全てバーニングゴッドブレイカーに必死に立ち向かっていくリミットブレイカーの姿に惹かれての事だろう。

 

 ・・・

 

「っ!」

 

 

 空中での戦闘中、リミットブレイカーに放たれた鋭い蹴りによって左腕に握られていた刀が弾かれてしまう。驚くのも束の間、カレトヴルッフの渾身の一撃が振るわれ、残った刀で受け止めるも大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「まだだ……。俺はまだ伝えきれてない!!」

 

 しかし、リミットブレイカーは決して距離を離そうとしない。覚醒を発現させたリミットブレイカーは風を切って、バーニングゴッドブレイカーへ向かっていく。

 

 流石のシュウジと言えど覚醒したリミットブレイカーを相手に損傷が目立ち始める。もう今の一矢はシュウジが過去に軽く捻っていたあの頃とは違うのだ。

 

「届かせるんだ、絶対にッ!!」

 

 だが対応して勢いを巻き返す点はやはり流石と言うべきだろう。振るわれたカレトヴルッフの刃を横から蹴ることで軌道をズラして、がら空きとなった胸部に掌底打ちを浴びせて吹き飛ばす。勢いのまま吹き飛ぶリミットブレイカーだが、何とか体勢を立て直すとモニター越しにバーニングゴッドブレイカーを見上げる。

 

「後悔することに慣れたくなんてないからッ!」

 

 柄を強く握り、覚醒の輝きを強めるとカレトヴルッフを媒体に巨大な光の刃を形成するとバーニングゴッドブレイカー目掛けて一気に振り下ろす。

 

「……ッ!」

 

 自身目掛けて向けられた膨大なエネルギーの塊が迫り、シュウジは息を呑むがあえてそれを真正面から受け止めようとバーニングゴッドブレイカーは黄金の輝きを放つ。

 

 アルティメットモードを発現させたバーニングゴッドブレイカーは構えを取る。それは自分の全霊を込めて放たれる一撃──。

 

「石破ァッ天ッ驚ォッ拳ンッッ!!!!」

 

 膨大なエネルギーの刃に対抗して放たれたのは、天然自然のエネルギーを受けて放たれる気功弾。エネルギーとエネルギーのぶつかり合いは周囲に大きな衝撃を与えつつ、やがて臨界に達したかのように大爆発を起こす。

 

「……ッ……」

 

 リミットブレイカーは無事ではあるが、元々負担がかかっていたカレトヴルッフは自壊してしまっている。モニターが硝煙によって遮られている中、一矢はバーニングゴッドブレイカーの姿を探す。

 

「……!」

 

 硝煙が消え、見上げた空にバーニングゴッドブレイカーはいた。膨大なエネルギー同士のぶつかり合いによって暗がりを広げていた雲は消し飛ばされ、蒼天の空が広がるなか、黄金の輝きを放って空に佇むその姿はさながら太陽が人の形を成したかのようだ。

 

 バーニングゴッドブレイカーはゆっくりと地上に降下して、リミットブレイカーと相対する。損傷が目立つものの互いに輝きを放ち続ける二機はどちらからとも言えず、地を蹴って、拳と拳をぶつけ合う。

 

「こっのォッ!!!」

 

 バーニングゴッドブレイカーの拳がリミットブレイカーの頭部を鋭くそして重々しく殴り抜け、ブレードアンテナを折られてしまう。よろめいたリミットブレイカーだが、ダンッと強く足を踏ん張り、そのままありったけを込めるように突き出した拳によってバーニングゴッドブレイカーの頭部を粉砕する。

 

「まだッだァッ!!」

 

 頭部を粉砕されたバーニングゴッドブレイカーだが、その場に踏み止まって何度も何度も拳と拳を交える。ここでお互いに引き下がるわけにはいかない。真正面からお互いの全てを受け、そしてぶつける為に。

 

 ・・・

 

「……二人とも……」

「ああ、凄い楽しそうだな」

 

 もはやどちらが勝つかも分からぬ状況で優陽は両者を見て、何か気づいたように呟くと、その声が聞こえていたのか、翔は傍らに歩み寄りながら答える。

 

「これは命を賭けたやり取りじゃない。だからこそ思う存分、誇り(プライド)を……己の全てをガンプラを通して分かち合う事が出来る」

 

 バーニングゴッドブレイカーに殴られた拍子で地を削って吹き飛んだリミットブレイカーは片翼を壊してしまう。しかしそんな事も気にせずにまた立ち上がって、向かっていく。そのどこまでも真っ直ぐな姿を見つめながら、翔は優陽に語り掛ける。

 

「それこそがガンプラバトル。バトルで得た楽しさも悔しさも全て新たな自分に繋がっていく。それがガンプラファイターだ。今、この瞬間もあの二人は新たな自分に変化していってるんだ」

 

 フィールドを照らす輝きとは対照的にお互いの機体はボロボロになっていく。しかしそれでもぶつかって、転がり、また立ち上がって向かっていくその姿は翔にはとても美しく見えた。

 

「そしてその姿は周囲の人間は見逃したりしない。最後まで諦めず、倒れても立ち上がり、前へ突き進むその姿は勇気を与えてくれるのだから」

 

 翔は自身の胸の前で強く拳を握る。翔のその言葉に優陽は周囲を見渡す。今、誰しもがこのバトルに目を逸らす事が出来ず、決着がつくその時まで固唾を呑んで見守っていた。

 

「……僕も……なりたい……、諦めず誇り(プライド)と共に誰かに勇気を与えられるあの二人みたいなガンプラファイターに……。苦難も破壊して、輝かしい未来を創造するガンダムブレイカーに」

 

 ただ勝ちたいが為だけに作る楽しさや誇り(プライド)も何もないガンプラで戦い続け、居場所を失った優陽。ただ願わくば、また楽しむ心を知っていたあの頃のように輝かしいバトルをしたい。

 

「なれるさ。君がどんな苦難の中でも、再び立ち上がり君が君らしくいられるのであれば」

 

 優陽の肩にそっと手を置きながら、翔は優しく微笑む。そんな翔の言葉を受けた優陽は彼に頷き、再びバトルに集中する。

 

 ・・・

 

(伝わってくる……。シュウジがこのバトルを心から楽しんで、真正面から全力で向かってきてくれるって言う事が……ッ!!)

 

 もう何度、拳を交えただろうか、どれだけ泥に塗れようとも突き進む両者。そんな中、一矢は目の前のバーニングゴッドブレイカーを見つめながら人知れず笑みを見せる。自分と同じようにシュウジもまたただ我武者羅に向かってきてくれるのが本当に嬉しかった。

 

(アンタのその強さに……真っ直ぐに進み続ける強さに俺は憧れた……ッ! 絶対に忘れやしないッ! アンタのその姿を最後までッ! アンタから教わった強さと共に進み続けるッ!!)

 

 拳を交える度に、何か教えられている、そんな気分になる。いや、これは恐らくシュウジによる最後の稽古でもあるだろう。だからこそここで中途半端には終われない。

 

「だからこそアンタに刻み付けるッ! アンタから受け継いだこの力でェッ!」

 

 リミットブレイカーはバーニングゴッドブレイカーから距離を置くと右腕に紅蓮の炎を纏う。それは未来を掴む輝きの炎。覇王から受け継いだ確かな輝きを放って、突き進んでいく。

 

「来い、一矢ァッ!!」

 

 一方、バーニングゴッドブレイカーも未来を示す輝きを右腕に纏い、リミットブレイカーを待ち構える。

 二つの未来への輝きを纏った右腕は同時に放たれ、轟々とした衝撃波が周囲に巻き起こる。しかしその中心で二機のガンダムブレイカーは踏み止まり、それどころか前へ進もうとする。それは互いの誇り(プライド)の全てをぶつけるために。

 

 

 

 

 

 前へ進み続けるその背中に少しでも届かせるために。

 

 

 

 

 

 受け継いだ力を得て、強くなった今の自分の全てを知ってもらうために。

 

 

 

 

 

 自分に憧れて、この背中をまっすぐ追いかけ続けてくれる者の為に。

 

 

 

 

 

 自分が目指す未来を共に進み続けてくれると言ってくれた愛する存在の為に。

 

 

 

 

 

 自分達にまだ見ぬ未来を進み続けて欲しいと道を切り開てくれたトモダチの為に。

 

 

 

 

 

 未来(明日)へ何度も誇り(プライド)をぶつけ続ける。

 

 

 

 

 

 

 その為に───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届けえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、大爆発が起こる。観戦モニターさえ遮る程の大爆発によって勝敗が分からなくなってしまった。誰しもが硝煙の中から残った者を探そうとするなか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり……遠いなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 爆発が晴れた先にいたのは、バーニングゴッドブレイカーによって貫かれているリミットブレイカーの姿だ。もう動かす事が出来ないシミュレーターの中で一矢はどこか悔しそうにそれでも嬉しそうに答える。

 

「……そうでもねぇさ」

 

 機能を停止したリミットブレイカーはバーニングゴッドブレイカーにもたれ掛かる。そんななか、シュウジはポツリと呟いた。

 

「……ちゃんと届いたぜ、一矢」

 

 リミットブレイカーの拳もまたバーニングゴッドブレイカーの胸部を食い込んでいたのだ。それによってバーニングゴッドブレイカーも機能を停止してしまっている。シュウジは心からよくここまでやったと言わんばかりに静かに満足気に答える。

 

 観戦モニターの前に立っていた者達の中から、人知れず拍手が沸き起こる。己の全てをぶつけるために戦った二機のガンダムブレイカーは互いに支え合うようにもたれ合って機能を停止していた。


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