機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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太陽に焦がれて

(URLか……)

 

 喫茶店に一人残された一矢はカガミから手渡されたメモ書きを見やる。その内容は何やら何処かのサイトへ繋がると思われるURLであった。

 

(道しるべ……か)

 

 迷いのある自分にカガミはそう言った。これがどこのサイトに繋がるかは分からないが、カガミを信じて携帯端末で開いたプラウザにURLを打ち込んでいく。

 

「──っ!」

 

 全て打ち込んでページを開く。だが次の瞬間、目に飛び込んできた立体画面に表示されている内容を見て一矢は愕然としたあまり、手に持っていた携帯端末を音を立ててテーブル上に落としてしまう。

 

 

 

 ────トイボット日和。

 

 

 

 それがそのブログの名前であった。

 

「……これって……ロボ太……の……?」

 

 この名前を一矢は知っている。それはSSPG記念大会でバトルをしたDoodleチームが口にしていたロボ太が始めたと言っていたブログの名前であった。

 

 身体全体が震える。そんな中、一矢は恐る恐る携帯端末を拾い上げるとその内容に目を通し始める。まだ開設されたばかりということもあって投稿数は少なく、その一つ一つに見ていた。

 

「……なんか、ロボ太らしいな」

 

 内容は確かにDoodleチームが言っていたように中々、詩的情緒豊かな内容であった。だがそれもロボ太の個性のように感じられてついつい微笑んでしまう。

 

「……ん?」

 

 そうしていると、ふと目に留まったページがあった。何故ならそれは今までの投稿とは違い、写真付きのものであったからだ。写真の内容は実物大ユニコーンガンダムだ。かなり見上げる形となっている為、ロボ太自身が記録したものなのだろう。

 

(……懐かしいな)

 

 あの時、ウイルス騒動解決の為に出向いたとはいえ、ロボ太をミサと抱えて実物大ユニコーンガンダムをバックに写真を撮ったあの日の事は未だに鮮明に覚えていた。

 この投稿もどうやら内容はポエムのようだ。一矢はそのまま画面をスクロールさせて目を通す。

 

 

 

 ───かけがえのないトモダチに送る

 

 

 世界が彩られる

 それはきっと君達に出会えたから

 

 どれだけ考えても君達への感謝の想いを上手く返せない

 だからせめて、この言葉を送りたい

 

 新星の如く輝ける人よ

 花のように可憐な人よ

 

 君達が進む先は誰にも分からない

 心挫けそうになる時があるかもしれない

 

 しかし忘れないで欲しい

 

 太陽は必ず昇る

 必ず君達を照らしてくれる

 

 だから恐れず未来という扉を開いて欲しい

 

 君達だけが持てる誇り(プライド)をぶつけ続けて欲しい

 君達が諦めない限り、未来は望むがまま君達だけの輝かしい今に繋がっていくのだから───。

 

 

 

 

 

「……なんだよ……」

 

 それは紛れもなくロボ太が一矢とミサに向けて送られたモノであった。それを見た一矢は静かに口を開く。

 

「隠さずに教えてくれよ……」

 

 ロボ太はミサに興味本位でブログのURLを尋ねられた時に全力で断っていた。だが、今にして思えば、ちゃんと彼自身に言ってもらいたかった。

 

「どんなに嬉しくたって……お前に伝えられないだろ……っ!」

 

 不意に一矢の視界が滲み、ポタポタとテーブルの上を涙の雫が零れていく。ロボ太が自分達の事だけを考えてこの詩を作ってくれたことが純粋に嬉しかった。だがその言葉をいくら伝えたくたって、ロボ太はもういない。

 

「──使うか?」

 

 肩を震わせて涙を流す一矢に声がかけられる。聞こえた声のまま腫れた目を向ければ、そこにはハンカチを差し出す翔がいたのだ。

 

「翔……さん……?」

「カガミから君がここにいるって聞いてな。少し抜け出してきた」

 

 差し出されたハンカチを受け取りながらも何故、翔がここにいるのかという疑問を目で訴える。大方、ブレイカーズに戻ったカガミに今の一矢の事を知らされたのだろう。翔はやんわりと微笑みながら向かい側に座る。

 

「……今の俺って……情けないですよね」

「否定はしないよ」

 

 翔に手渡されたハンカチをぎゅっと握りながら涙声を交えて話すと何かフォローでもいれられるのかと思いきや、翔は近くのウェイターに注文を済ませながらどこか鋭く答える。

 

「別に今の君その物を否定する気はない。シュウジ達の件は聞いている。それにロボ太の件やずっと続いてきたウイルス騒動……。君の負担が大きくなり、心が受け止めきれなくなったのだろう。それは分かるからな」

 

 翔の言葉に身を震わせる一矢を見て、一応、誤解がないようにと翔は話を続ける。

 

「……俺も君と似た経験をした事がある」

 

 ふと翔が口にした言葉に一矢は翔を見やる。自分と似た経験……それは一体、どういう事なのだろうか。

 

「その人は俺達の未来を手に入れるためにいなくなってしまった。俺は耐えられなかったよ。何でこんなことになるんだって、理不尽だと怒り、憎んだりもした」

 

 一矢に話せる範疇で己が経験した出来事について話す翔。その目は懐かしんでいるものの、どこか哀しみがあった。

 

「それでもその人が教えてくれたものはずっと胸に残ってる。そしてそれが俺の強さになった」

 

 己の掌を眺めながら翔は強く拳を握る。事実、その人物から与えられた影響は今も翔に根強く残っている。

 

「君は多くの出会いを経験してきた。その全てが君に強さを与えてくれたはずだ。例えもう会えないとしても心に残った強さは決して消えやしない」

 

 一矢はミサをはじめ、そこから今に至るまで数多くの出会いを経験してきた。その出会いの一つ一つが齎す刺激は一矢の心に糧として残り続ける筈だ。

 

「想いや魂はまた違う誰かに受け継がれていく。迷った時は思い出せ、自分に強さを与えてくれた人達のことを」

 

 例えば、翔から始まったガンダムブレイカーはシュウジを経て、一矢に繋がっている。

 人から人へ受け継がれた輝きのような強さは決して消えやしない。翔の言葉に一矢は何か考え込むように目を伏せる。

 

「……だったら俺……伝えたいです。俺を強くしてくれた人達に俺の想いを全て。ミサやシュウジ……翔さんにみんな……そして何よりロボ太に……!」

 

 顔を上げた一矢の顔つきが変わった。真っ直ぐと翔の瞳だけを見て、確かに話す。

 

「最後まで諦めるな、ですよね」

 

 強く一矢から放たれた言葉に翔は面食らったように驚くものの、やがて微笑みながら、ああと強く頷く。

 

「俺、もう絶対に諦めません。シュウジ達にもロボ太にもまた会える日を。会って伝えるんです、感謝の想いを」

 

 どんどんと一矢の表情に活気が戻っていく。それは心の中に覆っていた暗雲が消え去り、蒼天の空が広がっていくかのようだ。

 

「この誇り(プライド)を未来にぶつけ続けて、現実に変えます。その為の一歩を踏み出す決心がつきました」

 

 ロボ太のブログに綴られたあの詩。ロボ太の願いと共に今まで心の中を支配する暗がりの中で俯いていた一矢は自分自身の為に一歩踏み出すため、顔を上げたのだ。

 

「翔さん、見ててください。俺が一歩踏み出すところを」

 

 立ち上がった一矢は翔に話すと断る筈もなく、ああ、と強く頷く。その姿を見て嬉しそうに微笑んだ一矢は善は急げとばかりに喫茶店を慌ただしく飛び出して行く。

 

(……最後まで諦めるな……か)

 

 一矢は店を後にし、テーブルには翔だけが残った。提供された飲み物を口に運びながら翔は先程、一矢が口にした言葉を思い出す。

 

(カレヴィ……アンタが掴み取った未来……アンタの想いと共に俺は生き続けてるよ)

 

 閃光の果てに散っていった友へ想いを馳せる。自分に大きな影響を与えてくれた兄貴分ともいえる人物だった。彼から受け継いだ強さを胸に翔は窓から見える空を見上げるのであった。

 

 ・・・

 

「はぁ……」

 

 これで何度目の溜息だろうか。学校を終えたミサは自室に籠って、ベッドの上でため息を零していた。それもこれもロボ太やヴェル達の件のせいだろう。

 

(一矢……)

 

 それでもいつも考えてしまうのは一矢のこと。あの時、一矢が見せた涙が頭から離れないのだ。彼が涙を流すのであれば、それを拭うのが自分の役目の筈なのに。

 

「───ミサ、ちょっといいかな?」

「……なに、父さん?」

 

 すると数回のノックと共にドア越しにユウイチの声が聞こえる。いつものように元気よく答える気力もなく、力ない様子で対応する。

 

「一矢君が来てるんだ。開けるよ」

「えっ!?」

 

 店番でも頼まれるのだろうか、そんなことを漠然と考えていたミサだが、思わぬユウイチの一言で身を起こす。同時にユウイチによってドアが開かれる。

 

「さっ、ゆっくりしていって」

 

 ユウイチに案内されるまま部屋に足を踏み入れた存在。それは紛れもなく一矢であった。ユウイチの言葉に会釈を返すと、ドアはユウイチによって静かに閉められる。

 

「一……矢……?」

 

 目の前に一矢がいる。何故だかそれが信じられなくてミサは一矢に手を伸ばす。

 一矢はゆっくりと歩みを進めると、ミサから伸ばされた手を握ったかと思えば、そのままミサを強く抱きしめる。

 

「ごめん、ミサ……。待たせちゃった……」

 

 抱きしめられ、一矢から伝わる温もりと確かな鼓動がそこに一矢がいるのだと実感させてくれるなか一矢はその耳元で囁くように話し始める。

 

「ミサも辛い筈なのに、俺……自分の事ばっかりでミサのところに来るの……遅くなっちゃった。本当に……ごめん……」

 

 ミサを抱きしめる一矢の腕に力が籠る。ミサのことも考えずに余裕もなく自分の事ばかり迷い嘆いていた。

 

「……良いんだよ」

 

 すると漸く抱きしめられていたミサが口を開く。

 

「……一矢がここまで会いに来てくれた……。それだけで……十分だよ」

 

 一矢の背中に手を回して、抱きしめ返す。

 互いの鼓動や息遣いが聞こえるなか、ミサは泣き出しそうなくらいうれしそうに話す。

 

「……私ね。ヴェルさん達が後腐れなく出発できるように……笑顔で見送るつもりだよ」

 

 ミサの口からヴェル達について話される。そう思い至ったのはさよならも言えなかったロボ太の件もあったからだろう。

 

「でもね、やっぱり辛いよ……。今も凄い苦しい……!!」

 

 それでもその別れその物に何も感じないわけではない。ミサの声色がどんどん震えていき、涙声すら混ざり始め、一矢を抱きしめ返す腕に力が籠る。

 

「……ねえ……一矢……。このまま……泣いちゃっていい……?」

「……ああ」

「……泣き言も言って良いかな……?」

「……好きなだけ。ミサの全部を受け止めるから」

 

 一矢の胸に顔を埋めながら、ふと消え入りそうな声で尋ねるミサに一矢は頷く。一矢の頷きに嬉しそうに微笑んだミサだが、すぐに顔を歪ませてワンワンと一矢の胸で涙を流し続けるのであった。


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