機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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雨と雲

「雨宮君、大丈夫かな……」

 

 憂い帯びた表情で真実が呟く。傍らには拓也と勇がおり、現行聖皇学園ガンプラチームが揃っていた。三人とも聖皇学園の制服に身を包んでおり、学校帰りなのが伺える。

 

「こればっかりはとしか……」

「まあ結局は雨宮達の気持ちに区切りがつくかどうかだしな」

 

 真実の言葉に勇も拓也も難しい表情を見せる。学園で再会した一矢は端から見ても、かなり消沈していた。だからこそなるべく気を遣おうとしたのだが、裏面に近くなっているのは拓也たちも分かっていた。

 

「……まあだからって俺達までいつまでも暗い顔してるわけにはいかねえだろ」

 

 一矢を想って我が事のように暗い表情を浮かべる真実。一矢を諦めたからといって彼に何の心配も配慮もしない訳ではないのだ。そんな彼女の横顔を見て、浅い溜息をつきながら拓也が真実を気遣って声をかける。

 

「そう、だよね。だから気晴らしをしようって話になったんだし……」

 

 拓也の言葉はもっともだ。一番辛いのは一矢達だろうし、それを自分達までが暗い雰囲気をしていたって仕方のないことだ。真実は顔を見上げた先にあるイラトゲームパークの看板を見やる。この三人でする事と言えば、ガンプラバトルと思っているからだ。

 

 ・・・

 

 一方でバトルを持ち掛けられた一矢のリミットブレイカーは今、バトルフィールドに選ばれたコンペイトウ宙域を飛行していた。

 

 宇宙空間を飛行するだけで陰鬱な気分になってくる。何故ならばあの時、ロボ太を失ってしまった日のことを嫌でも思い出してしまうのだから。このモニター上に広がる宇宙のようにロボ太は今も宇宙のどこかに流されているのだろう。どんなに手を伸ばそうとももうロボ太に手は届かない。

 

(傍にいる事が当たり前って……そう思ってたから)

 

 唐突な別れであった。しかもよりにもよってロボ太との別れを経験する日が来るなどとは思いもしなかったのだ。傍にいて当然だった存在がいなくなったその喪失感は一矢が想像していたよりも遥かに大きかった。

 

 その喪失感は虚無感に繋がり、何もしたくはないと思うほどになって無気力で時間を浪費するだけの日々を生み出してしまった。それを何よりも良くはないと思っているのは一矢自身なのだ。だからこそ持ち掛けられたバトルも受けたのだ。

 

「……来たか」

 

 バトルシミュレーターのアラートが敵機の存在を知らせる。素早くロックをすれば、此方に向かってくる機体をその目に捉える。

 

「試作2号機か……」

 

 接近する機体を見て、ベースとなったガンプラの名前を口にする。ガンダム試作2号機をベースとしたその機体は胸部に四基のメガ粒子砲を備え、背部にはGP01フルバーニアンのユニバーサル・ブースター・ポットやスラスターを装着しており巨駆でありながらも元々、かなりの機動力を持つGP02を更に上回る機動力を獲得した機体となっていた。

 

 機体名はGP0X ガンダムゼラニウム。あの小柄で可愛らしい外見を持つファイターとは真逆の巨躯の機体はギャップを感じてしまう。

 

「少しでも追いつけると良いけど!」

 

 リミットブレイカーはこれまでのゲネシスシリーズのように機動力に特出したガンプラ。並の機体では近づく事も出来ないし、捉える事も出来ないだろう。それはバトルを持ち掛けた時点で重々承知の上なのだろう。ゼラニウムはぐんぐんと加速しながらリミットブレイカーへ向かっていき、両脚部に備えられた五連装ミサイルポッドを解き放ちながら、ジャイアント・バズの引き金を引く。

 

 無数に迫るミサイルの数々がリミットブレイカーに迫るが、一矢に動揺の気配はなく、ただモニターだけを見つめていると、その静かな眼差しとは裏腹に操縦桿を動かすその腕は激しく動く。

 

「ッ……!?」

 

 ゼラニウムのモニターから一瞬の残像を残して、リミットブレイカーの姿は消え去った。リミットブレイカーはその圧倒的な高機動力を持ち味とするガンプラ。その事は分かっていた筈なのに、いざ目の前で姿を消したリミットブレイカーに動揺してしまう。

 

 しかし次の瞬間、ゼラニウムは四方八方からのビームを受けてしまう。スーパードラグーンによるものではない。リミットブレイカー自身が高速で移動しながらカレトヴルッフの引き金を引くことによって起きている事であった。

 

「でもッ!!」

 

 瞬く間にゼラニウムの耐久値が減少していく。しかしそれで諦めている訳ではなかった。ミサイルポッドを周囲にまき散らしデブリに着弾させると爆発させ、可能な限りの硝煙を発生させる。

 

「見つけた!」

 

 高速ではあるものの煙の中を突き破るように動き回る存在を確認する事が出来た。すぐにジャイアント・バズを発射しながら、リミットブレイカーの動きに牽制をかける。

 

 しかしそれでも一矢が動揺することはなかったのだが、牽制によって動きを予測して先回りしていたゼラニウムの姿を見て、初めて眉を寄せる。

 

「っ!」

 

 すぐにカレトヴルッフをソードモードに組み替えて斬りかかろうとするリミットブレイカーであったのだが、ゼラニウムは近くのデブリに体当たりをしてリミットブレイカーへ向ける。一瞬、こちらに向かってくるデブリに気を取られた一矢ではあるのだが、次の瞬間、デブリごと四基のメガ粒子砲が放たれる。

 

「ならっ!」

 

 咄嗟にアンチビームシールドを展開して真正面からメガ粒子砲を受けながら突き進むリミットブレイカー。このまま近接戦闘に待って行こうとする魂胆なのだろう。すぐに気付き、メガ粒子砲を止めたゼラニウムはシールドからビーム・トマホークを抜き出すとリミットブレイカーへ向かっていく。

 

 次の瞬間、カレトヴルッフとビーム・トマホークが真正面からぶつかり合う。互いにスラスターを全開にして、引くこともなく押し切ろうとする。

 

「……チッ!」

 

 ゼラニウムはただ真っ直ぐリミットブレイカーのみを見つめている。しかし一矢は先程からずっと宇宙空間での戦闘からか頭の中から離れないロボ太の事に歯を食いしばると薙ぎ払うようにビーム・トマホークを払い除け、そのまま上方から叩きつけるようにゼラニウムを両断して撃破する。

 

 ・・・

 

「あれ、雨宮君……?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターをさっさと出て来た一矢だが、そこで真実達と鉢合わせする。一矢がここにいるとは思っていなかった為、驚いている真実達に一矢も何か答えようとすると……。

 

「いやー負けちゃったなー」

 

 すると一矢が出て来たバトルシミュレーターの隣の筐体からゼラニウムのファイターが軽い苦笑交じりの笑みを見せながら出てくる。

 

「って言うか、想像よりもずっと速いね。お陰で軽く目が回って……」

 

 ゼラニウムをケースにしまいながら先程のバトルを振り返る。正直に言えば動き回るリミットブレイカーを必死に追いかけようとしていた為、今も軽い目眩を感じてしまっていた。

 

「あっ──」

「危ないっ」

 

 そのせいで足もどこかおぼつかない足取りとなっており、一矢に歩み寄ろうとした瞬間、僅かな段差に足を踏み外してバランスを崩してしまう。一矢が咄嗟に動くのだが……。

 

「いたたっ……!」

 

 段差に足を踏み外した拍子に前のめりで倒れてしまった。先程まで被っていた帽子が取れ、桃色の髪の毛とおさげが露わになる。

 

「だ、大丈夫……っ!?」

「あ、ああ……」

 

 だが思っていたよりも痛みがないのは受け止めようとした一矢ごと倒れてしまったからだろう。倒れる一矢に覆い被さるような体勢の中、受け止めようとしてくれた一矢を心配すると、一矢も特に怪我はないみたいだ。

 

「……お前、またそんな可愛い女の子と……」

 

 もっとそれを傍から見ていた拓也は白い目を一矢に向けていた。小柄で桃色の髪をおさげに纏め、柔らかく愛らしい顔立ちはとても愛くるしく、拓也の一矢へ送る眼差しの中には羨みもあった。真実も落ち込んでいたと思っていた一矢とそんな一矢と遊んでいたその可愛らしい外見を見て、何とも言えない表情を浮かべている。

 

「あはは……でも、これで僕が女の子だったらラッキースケベになるのかな?」

「えっ」

 

 一矢から退きながら苦笑交じりの笑みを見せる。しかしその言葉に今、誰もが固まった。

 

「……ちょっと待て。お前……女じゃないのか?」

 

 起き上がった一矢は目の前の可憐な容姿の人物を見て、顔を顰め、動揺でわなわなと震える。何故なら、拓也のように今まで女子と思って接していたからだ。

 

「女の子なんて言った覚えはないよ。僕は正真正銘のオトコノコさ」

 

 しかし少女と思っていた人物は寧ろ何を言ってるんだとばかりに堂々と両腕を広げながら答える。中性的な外見で言えば、翔が真っ先に出てくるのだが、目の前の彼はその外見からやはり少女としか思えない。

 

「僕は南雲優陽(なぐもゆうひ)。よろしくね」

 

 そのまま己の名前を明かす優陽。軽くウインク交じりに挨拶してきたため、その外見も相まって、男と言われてもやはり目の前の人物が男だと信じられないくらいだった。

 

「大体さぁ」

「えっ」

 

 そんな一矢達を察してか、優陽はトコトコと一矢の前に歩み寄るとその手を掴むと唐突に胸部に押し付ける。半信半疑の状況で突然の行動を起こしたため、一矢は狼狽えてしまっている。

 

「こんな絶壁みたいな女の子なんてまずいないでしょ」

「おい、近くにミサはいないだろうな」

 

 一矢の手を自身の胸に押し付けながら笑顔を見せる優陽。しかし一矢はその言葉にダラダラと汗を垂れ流しながら傍らの真実達に尋ねると、彼女達はコクコクと頷いている。

 

「それよりバトルをしてくれてありがとね」

「それは別に……」

 

 自身の胸に押し付けた一矢の手を離しながらバトルを受けてくれたことを感謝して、にっこりと笑う。バトルをする分には問題はなかったため、一矢はその事を口にするのだが……。

 

「まあでも……正直に言えば、あんまり面白くなかったかな」

 

 しかし先程まで愛らしいにっこりとした笑みを見せていた優陽だが、その表情を釈然としないものに変える。

 

「バトルをしてても君は僕に集中してくれなかった。結構寂しいもんだよ?」

「それは……」

 

 優陽の言葉に返答に詰まってしまう。彼の言葉通り、ずっとロボ太の事が頭を過っていた。バトルをしているというのに相手に集中しないことがどれだけの非礼かは何よりファイターである一矢が分かっていた。

 

「でも気乗りしないのにバトルを頼んだのは僕だから仕方ないかな」

 

 とはいえ元々、一矢は気乗りしないと言っていたのだ。別に今回、一矢のバトルへの態度をこれ以上、とやかく言うつもりはない。

 

「……君の心境は何となく分かるよ。もう自分がなにをして良いかも分からないんだと思う」

 

 ふと先程まで見せていた明るい表情を潜ませ、一矢の内心を察するように言葉を投げかけると一矢は目を見開く。実際、ロボ太を失い、虚無感に駆られているのは事実だからだ。

 

「君の強さを僕は知ってる……。それは僕が持てなかった強さなんだ。だからまた見せて欲しい、君の輝きを」

 

 優陽とはこれが初対面の筈なのに、彼はずっと自分を知っているかのような発言をする。その事を不思議に思うが、優陽はこの場を後にしようと一矢の脇を通り抜けようとする。

 

「これ、僕の連絡先。何かあったら連絡して。君の為なら僕はいくらでも力になるよ」

 

 ふと懐からメモ帳を取り出し、トークアプリのIDなどの連絡先を手早く書き記すと一矢に手渡す。最後にどこか影のある笑みを見せた優陽はイラトゲームパークを後にするのであった。




南雲優陽

【挿絵表示】

性別 優陽 そんなキャラ

・・・

ガンプラ名 GP0X ガンダムゼラニウム
元にしたガンプラ ガンダム試作2号機

WEAPON ビーム・トマホーク(サザビー)
WEAPON ジャイアント・バズ(サイコザク)
HEAD ガンダム試作2号機
BODY クシャトリヤ
ARMS ガンダム試作2号機
LEGS ガンダムAGE-3 フォートレス
BACKPACK ガンダム試作1号機
SHIELD シールド(サザビー)
拡張装備 内部フレーム補強
     ニースラスター×2(両脚部)
     地上用スラスター×2(背部)
     5連装ミサイルポッド×2(両腿部)

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