≪全ての機能はワタシのコントロール下に復帰しました。皆さん、ありがとうございます≫
「あの男がどこにいるのか探してくれ」
≪静止軌道ステーション全区画をサーチします≫
ウイルスに侵されたセキュリティプログラムとTR-6を操るナジールを撃破した一矢達。ガンプラバトルシミュレーターを出る頃には静止軌道ステーションのコントロールは制御AIに戻っており、カドマツの指示で制御AIは静止軌道ステーション内をサーチする。
≪……該当の人物なし。このステーション内に該当の人物は存在しません≫
「……なんだと!?」
だが返って来たのはあまりに無機質な返答。しかしここは静止軌道ステーションだ。カーゴが地上に降りたと言う報告はないし、そんな事はあり得ない筈だ。
≪──残念ですが、ゲームに負けただけで諦めるわけにはいかないのデス≫
静止軌道ステーションのスピーカーから聞こえる制御AIとは違う声。それは紛れもなくナジールのものであった。一体、彼は何処から放しているのか、再び制御AIに指示を出そうとした瞬間……。
・・・
「施設コントロールに失敗した場合、その対策も考えてアリます。アナタタチが漂流するステーションから生還したニュース……。勿論見ていました」
静止軌道ステーションの一角から抜け出る存在がいた。それはかつて一矢達も乗り込んだあの実物大ガンダムだったのだ。あの時とは違い、ツインアイを輝かせる姿は不気味に映る。
「この機体でテザーを切断した事も知っています。テザーが切断され、カウンターウェイトを失ったステーションは地球の引力で勝手に落ちていく……。ワタシはこれを落として未来と言う悪夢を振り払わなくてはナラナイ」
宇宙服を着用したナジールはモニター越しに映る静止軌道ステーションを忌々しそうに見据える。このあまりに大きな影を払わなくては自分は光を見ることは出来ない。
・・・
≪さあ地上に下りてください。アナタタチに出来る事はもう何もアリマセン≫
「どうにかならないの!?」
「生身であれをどうにか出来るのか? 悔しいが……言う通りにするしか……」
スピーカーから聞こえるナジールの声。それは絶対的優位を誇るが故の言葉だった。ここまで来てのこの結果は到底受け入れられるものではない。ミサがカドマツに何か手段はないか詰め寄るが、ここでどうこう出来る手段など持ち合わせている訳がない。カドマツはやりきれなさそうに子供達をカーゴに連れて行こうとする。
≪──諦めるのは……まだ早いッ!!≫
もう手段は残されていない。誰もが諦めかけたその時だった。スピードからロボ太の声がステーションに響き渡る。その声に一矢達は周囲を探しても、ロボ太の姿は何処にもなかった。
・・・
≪すまんが我々の未来……貴様の悪夢はまだ終わらん!!≫
なんとロボ太は静止軌道ステーションから宇宙空間に飛び出していったではないか。誰もが驚くなか、ロボ太はガンダムと向き合い、電磁スピアを突き出す
「どういうつもりデスカ!? その小さな体でこの機体をどうにか出来るとでも!?」
ロボ太が宇宙空間にまで現れ、立ち塞がるとは思いもしていなかった。しかし例えロボ太が立ち塞がろうとも、このガンダムを止められるとは思えなかった。
・・・
「なにしてるの、ロボ太!? 危ないから帰って来なさい!!」
「どうなってんだ、宇宙空間で飛行できるようになんて作ってないぞ……」
ロボ太の行動は予想外も良いところだ。だが危険である事に違いはない。ミサがロボ太を呼び戻そうとするなか、そもそもトイボットとして作成したロボ太がなぜ、宇宙空間を飛行で来たのか疑問に感じてしまう。
≪備え付けの簡易スラスターと無重力下での姿勢制御プログラムを渡しました。あなたからのオーダーだと……。あなたがそうしろと言ったのではないのですか?≫
「あいつがそう言ったのか……!?」
その答えは何より制御AIから知らされた。ステーションに上がる前にロボ太と制御AIとの間でデジタル信号で行われたやり取りだ。だがカドマツはそんな事をロボ太に言った覚えなどなかった。
≪……ロボ太さんはヒトの為に噓までつけるのですか≫
静止軌道ステーションのモニターにはロボ太の姿が映し出されている。そう話す制御AIは心なしか驚いているようにも感じられた。
・・・
≪こうなることは予測できた。我々は現実の脅威に対して無力だからな≫
眼下の軌道ステーションを見下ろしながら話すロボ太。以前も宇宙エレベーターが漂流した時、ガンダムが打ち上げて来られなければどうにもならなかった。だからこそ保険をかけたのだろう。
「ヒトの為に作られたロボットがヒトの邪魔をすることがデキるのデスカ!?」
≪出来る! ヒトの過ちを止める事もヒトの為なのだから!!≫
あくまで自分の邪魔をしようとするロボ太にナジールはかつてテザーを切断した電動鋸を装備しながら切っ先を向ける。しかしロボ太は決して臆することなく電磁スピアを構え堂々と話す。
「過ち……? 過ちだとぉッ!?」
ロボ太の言葉に自分がこれまでやってきた事を否定されたナジールは激昂しながら電動鋸を振るう。だがロボ太は間一髪避けながら、簡易スラスターを稼働させてガンダムの脇をすり抜ける。
「ドコですか!? 急造のコクピットモニタじゃ……!!」
あくまで動かせるように作っただけで飛び回る小さな機体を捉える事は難しい。ガンダムはカメラアイを動かしてロボ太の姿を追おうとしているのだが……。
≪全エネルギーをくれてやるッ!!≫
ロボ太は既にガンダムの死角となる場所に移動していた。電磁スピアの柄にエネルギープラグを装着し、ロボ太はガンダムのランドセル部分へ電磁スピアを構えて突進していく。
≪ウオオオオォォォォオッ!!!≫
ありったけのエネルギーを秘めた電磁スピアがガンダムに突き刺さる。その一撃によって大きく身を反らしたガンダムは回線が壊れたようでエネルギーダウンを起こす。
「こんな……バカナ……。ワタシの国は……これからどうすれば……ッ」
もうガンダムは今の一撃によって損傷して動けなくなってしまった。手段を失ってしまったナジールは沈痛した面持ちで嘆く。自分は全てを捨てでもステーションを落とそうとした。その結果がこれとは……。
≪──……例えば石油はプラモデルの原料になるそうだ。他にも使い道はあるだろう≫
そんなガンダムのコクピットにロボ太の穏やかな声が響き渡った。
≪諦めずに考えよう。みんなに光が当たる未来というものを≫
「……アナタは信じてるのですか。そんな夢のような未来を」
≪無論だ。人が未来を夢見たからこそ私は生まれた≫
ガンダムにとりついたロボ太は宇宙空間を見上げる。きっと誰もが光を当たる未来は極めて困難なことだろう。だがそれでも諦めたくないのだ。何故なら自分もこのガンダムも未来を夢見て歩み続けた人類が作り出した歩みの結晶なのだから。
「……なんとも説得力のある言葉デスネ」
ならばもう少し、後少しでも極端な行動に走らず、自国を救える手段を考えようとナジールは穏やかな笑みを浮かべる。これで漸くこの騒動も終わりが見えて来た。
……そう思っていたのに。
──爆発が起きた。
場所はロボ太が電磁スピアを突き刺した個所。
ロボ太が与えた彼の渾身の一撃が大きな損傷を与え、エネルギーダウンどころか爆発を招いたのだろう。
だが何より問題は……。
「嘘……でしょ……?」
静止軌道ステーションでモニターを見つめていたミサの唇が震える。
「ロボ太あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーぁああッッッ!!!!!!!!」
モニターには爆発の拍子で宇宙空間に流されるロボ太の姿が。
誰しもが呆然とする中、ミサの絶叫が響き、モニターもロボ太を失って、ただ無情にLOSTの画面に切り替わるのであった。
・・・
──…………何とも……しくじったものだ。
宇宙空間を流されるロボ太。もう自分がどこにいるかも分からなかった。エネルギーの全ては先程の一撃に使ってしまい、スラスターは一基以外反応はない。もう……地球に帰ることは出来なかった。
──地球は……?
周囲を見渡す。もう自分に残されたエネルギーは少ない。
だからせめて最後に地球を……かけがえのないトモダチがいるあの星をこの
──主殿
地球に手を伸ばす。それがロボ太の最後に浮かんだワードだった……。
・・・
・・・
・・・
「さて……クリアしたのは雨宮一矢達だったようだね」
闇夜の中、一人、ホテルの薄暗い部屋の窓からクロノは眼下に広がる街並みを見つめて呟く。
「では、このゲームもエンディングを迎えようじゃないか」
ラストステージを前に彼はただ嗤う……。
・・・
「……よぉ、艦長。どうした」
携帯を取り出しながら、シュウジは鳴り響いた電話に応答する。
相手はルルだった。もう既にクロノから与えられた怪我は癒え始めていた。
≪シュウジ君……もう……タイムリミットです≫
電話越しに重い口調で放たれたその言葉でシュウジは全てを悟る。
「……そうか」
それだけ言ってシュウジは通話を切る。一人、夜空を見上げる彼の表情は誰にも分からなかった。
<次章予告>
…傍にいたのが当たり前だった。
別れが来る日が来るなんて思いもしなかった。
大人になっても、年を重ねても、同じ未来を見れるものだと思ってた。
でも……同じ未来を見ることは出来なかった。
俺達が見ている未来は別々のモノだったんだ。
俺は自分が思ってたよりも子供で……。
その事が受け入れられなかったんだ。
機動戦士ガンダム Mirrors
最終章 未来を現実に変えて