機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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引き下がれない想いと共に

「静止軌道ステーション、また来れたんだね!」

「こんなことでもなけりゃ最高だったんだが……」

 

 カーゴによって静止軌道ステーションに訪れた一矢達。ステーション内には既に人工重力装置が働いており、ステーションを歩きながらミサは懐かしい光景を見渡しながら口を開く。とはいえ今は状況が状況。カドマツは重い溜息をつく。

 

「先に上がったっていう男はどこだ?」

≪ステーションがコントロール出来ないので、各種センサーやカメラでトレースできません≫

 

 気を取り直してカドマツは制御AIに尋ねる。人工重力があるのは既に人がいる証だろう。しかし地上施設同様にこのステーション内はまだ制御AIにコントロールが戻っていないようだ。

 

≪──ようこそ、と言いたいところですが急いで地上に降りてクダサイ≫

 

 するとステーション内のスピーカーから先にこの場に上がったナジールからの声が響き渡る。一体、どこから話しているのかは分からないが此方の状況は向こうには筒抜けなのだろう。

 

≪アナタタチは無関係な人。危険が及ぶのは心苦しいデス≫

「誰なんだお前は! どうしてこんなことをする!?」

≪アナタタチには関係アリマセン。さあ下りてください≫

 

 ステーションを落とすと言いながら随分と勝手なことを口にする。カドマツがステーションを落とす理由を尋ねるが、ナジールは一蹴して地上に降りるように促す。

 

「そうはいかない。お前がステーションを落とすってんなら、俺達はそれを止めてやる!」

 

 ここまで来ておいて引き下がる者などいるわけがない。カドマツの強い言葉に頷く一矢達。彼らは早速、ファイナルステージ用にあらかじめ用意されていたガンプラバトルシミュレーターに乗り込みに行く。

 

「一矢」

「……なに?」

 

 大きなケースを持ってガンプラバトルシミュレーターへ向かって行く一矢にミサが声をかけた。

 

「どんな戦いが待ってても私はずっと一矢の傍で、辛いのも全部、一矢と一緒に分かち合っていくから」

 

 ミサは一矢の些細な変化も見逃さないのだろう。それはきっとこの立て続けに起きているウイルス騒動に辟易していることも。

 だからこそ自分もいると言ってくれる。彼女に一矢はああ、と短いながら微笑みを浮かべて確かに頷くとガンプラバトルシミュレーターに乗り込み、出撃する。

 

 ・・・

 

(ああ、そうだ。ミサもロボ太もカドマツも皆、ずっと近くで支えてくれている)

 

 ステーション内の電脳空間に出撃したリミットブレイカー。そしてすぐ後にはアザレアリバイブ達が続いて出撃している。それを確認しながら一矢は先程のミサの言葉を思い出す。自分は少しこの続けざまに起きるウイルス騒動に気が滅入っていたようだ。

 

(だから俺は戦える)

 

 するとリミットブレイカーを巨大な影が覆う。それに気づいた一矢はリミットブレイカーを上空に舞い上がらせれば、そこには巨大補助兵装・ミーティアの姿が。ミサ達が驚くなか、リミットブレイカーはミーティアとのドッキングを果たす。

 

「だからこそ俺は……飛べる!」

 

 既にウイルスは姿を見せており、一矢はその真紅の瞳で鋭く見据える。

 クロノとの接触もあり、いつかは分からなくともウイルスの警戒はしていた。こんな日の為の準備、と言うのも大会に使う目的がなくともミーティアが入ったケースを持ってきたのだ。向かってくるウイルスにウェポンアームに備わるビーム砲を放ち、遂に火蓋が切って落とされる。

 

≪ミスターじゃないが、俺もお前達にこんなことをさせるのは大人として不甲斐ないと思ってる。だが、俺にガンプラはうまく扱えない……。頼ってばかりですまんな≫

 

 ミーティアの投入もあって、モニターを覆うほど出現を始めたウイルス達の数に負けぬほどの戦いを繰り広げる。そんな中、カドマツの通信が入り、彼から己の弱さと共に謝られる。一矢達を危険な目に合わせていると言うのは、何より彼が一番分かっている事なのだろう。

 

「なに言ってんの! 宇宙エレベーターは私達にも大事なものでしょ!」

≪その通りだ、我らの未来を守る為。何を厭うものか≫

「うちの会社も出資してるしね。黙って見てられないよ」

 

 だが、ミサ達はそもそもそんな事は気にしていないとばかりに明るく答えてくれる。

 

「……それに感謝してる。俺達が好き勝手しているウイルスと戦えるのはカドマツのお陰だから」

≪お前ら……。そうだな……。ありがとな≫

 

 一矢もまたカドマツに感謝の言葉を口にする。この場にいる者で危険な目に合わせたとカドマツを恨む者など一人もいないのだ。そんな彼らの言葉にカドマツは涙ぐみながら彼も感謝する。

 

≪──ミスターカドマツ。あなたの言葉は知ってイマス≫

 

 ウイルスとの激しい戦いとは裏腹に温かなやり取りが行われていると不意にナジールからの通信が割り込んできた。

 

≪【宇宙時代への命綱】【みなに未来を見せてやりたい】……。なるほど素晴らしい、そしてとても美しい。ある面では、デスガ≫

≪なにが言いたいんだ?≫

≪一方的な言い分だ、ということデス≫

 

 かつて地上への中継にカドマツが必死に語ったの演説。その時の言葉に触れるナジールに眉を顰めながらカドマツは尋ねると、彼から指摘を受ける。

 

≪宇宙太陽光発電が発表されて、何が起きたかは知っていマスカ? 従来の化石燃料は役目を終えたと既に価格の急落は始まっています。今まで隆盛を誇って来た世界各国の石油メジャーも身売り先を探して必死の形相デス≫

 

 宇宙太陽光発電の発表と共にその価値を問われ始めた化石燃料。一矢達もニュースなどで何気なく聞いた事はある。

 

「ビジネスは時代に乗った者が勝つ。それが必然だ」

≪それは時代に乗れた者の言い分デス。あなたも経営者なら分かる筈だ。自分に従って来た者達に対する責任というものが≫

「君もそうだと?」

 

 だがそれはいつの時代でも同じことだ。ウィルの言葉にナジールもウィルの立場ならそう言うだろうとすぐさま切り返して顔を顰めさせる。

 

≪ワタシの国は石油を採ることで生きている。それもサウジやロシアなどとは違い、とても僅かな……。人口数万の小さな国……それでもヨカッタ。しかし砂漠に囲まれたその国で石油の価値が失われタラ、それは死刑宣告と同じデス。アナタタチが夢見た未来……それはわたしたちにとっては悪夢ダ≫

 

 今でも思い返す事が出来る。楽しかった日々、豊かとは言えなくともどれも色鮮やかな思い出だ。だがそれも太陽光発電によって過去のモノになろうとしているのだ。

 

≪ミスターカドマツ。あなたのような技術者や科学者たちはいつも言うのデス。明るい未来、輝かしい未来、と……。未来と言う光は確かにアルのでしょう。それは否定しません。しかしその強い光に向かうアナタ達の背後には深く暗い影が落ちているのに気づいてイナイ……。私達はその影の中で未来の姿を見る事は出来ナイのです!≫

 

 光に向かうものがあれば、影と言うものは出来る。その影が大きくなればなるほどそこから抜け出すことは難しい。未来と言う光を受けることは出来ないのだ。

 

≪……確かにこれまでの歴史上、生み出された技術で多くの不幸が生まれた事は否定しない。俺達みたいな技術屋はバカばっかりだ。目の前にある可能性に飛びつかずにはいられない……。

 

 でも俺は科学や技術が必ず人を幸せにするって信じてるんだ。時に大きな過ちを繰り返し、人から恨まれるかもしれない。それでも俺は科学の力を信じて前に進む……。

 

 そこで立ち止まってしまえば、俺が落とした影に一生光は当たらない……。諦めずに進み続けるからこそ、いつか影だった場所にも光が当たるんだ!≫

 

 ナジールの言葉はエンジニアであるカドマツにとって思うところがあるのだろう。だがだからこそ今までの歩みをここで止めるわけにはいかない。ここで止まってしまえば払った犠牲が報われない、落としてしまった陰に光を与える事が出来ないのだ。

 

「カドマツ、私も信じるよ!」

 

 アザレアリバイブがメガキャノンによって迫るウイルスを焼き払うなか、カドマツの真摯な言葉にミサは同意する。

 

≪私もだ!≫

 

 それはロボ太も同じだったようだ。閃光斬によって黄金の竜の如し、突進が敵を貫いていく。

 

「相変わらず人をその気にさせるのが上手い」

 

 そしてウィルも。軽口交じりにセレネスはすれ違いざまにどんどんウイルスを切り裂く。

 

「きっと……そんなカドマツ達が作る技術ならいつか影を払う事も出来るよ」

 

 リミットブレイカーからスーパードラグーンとCファンネルが展開され、Cファンネルがウイルスを切り裂きだしたと同時にミーティアの全武装を解放して上方を覆うウイルスを全て撃破した一矢はカドマツに穏やかな表情で微笑む。

 

「ッ!」

 

 まさに自分達を覆う影を払うようにウイルスに侵されたセキュリティシステムを破壊していく。電脳空間の奥地に進んで行くと不意にミーティアを狙った高収束ビームが放たれ咄嗟に回避するが、ミーティアの右側のウェポンアームが貫かれる。

 このままでは誘爆の可能性もある為、すぐさまミーティアから切り離しながらはビームの発生源を見やる。

 

「──やはりセキュリティシステムだけではあなた達を排除できない」

 

 すると同時にセンサーが鳴り響き、前方にデータが構築し終えた機体がいるのだ。それはミーティアを装備したリミットブレイカーに劣らないほどの巨大で堅牢な装甲を持つ機体で一矢達は息を呑む。

 

「ワタシの手で何とかします!」

 

 それはガンダムTR-6[ウーンドウォート]・ダンディライアンⅡであったのだ。

 同時に響き渡るナジールの声。あの機体を操っているのはナジールと考えていいだろう。同時にTR‐6・DⅡからの攻撃と共に戦闘が開始されるのであった。


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