機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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天駆ける

「お姉さまっ!!」

 

 ログアウトをしてガンプラバトルシミュレーターから出ていたセレナとウィルは一矢達と合流しようと関係者通路を走っていると、ばったりとシオン達と出くわした。

 

「災難だったね」

「もう言ったところでどうしようもないさ。今はそれよりこの状況を何とかしなくては」

 

 アンチブレイカーの親友と共に台無しにされてしまったセミファイナルステージ。制御AIが沈黙していたということもあって、もはやガンプラバトルの大海どころかセレモニーの中止は免れないだろう。その事を口にする夕香にウィルは肩を竦めながらも事件解決にあたろうとする。

 

「兎に角、僕らは行くよ。何が起こるか分からない。君達は係員か何かに指示を仰いで安全な場所へ」

 

 とはいえいつまでもここで時間を浪費するわけにはいかない。ウィルは混乱を招く状況下の中で夕香達に指示を出すと、セレナと共に駆けだそうとした時であった。

 

「待ぁて、セッレェーナ」

 

 走り出したウィルの後を追おうとセレナも駆けだそうとした時、その華奢な腕を後ろから掴まれてしまった。足を止めてしまったセレナが振り返れば、ガルトがセレナの腕を掴んでいた。

 

「……何が起こるか分からない、であればお前達も我々といた方が良いのではないか?」

「……この手を離してくれないか。ボク達はこの状況を解決しなきゃいけないんだ」

 

 ウィルやセレナはこの事態を収拾するつもりなのだろうが、そもそもガルトからしてみれば何故、彼らのような子供達が解決しなくてはいけないのだろうか、このメガフロートの関係者達が解決するべき問題ではないのか、何よりウィルの言うように何が起こるか分からないのならそんな場所へは行かせられないと思ったのだろう。だがセレナからしてみれば一分一秒が惜しいのだ。

 

「悪いが僕は先に──」

 

 それはウィルも同じことなのだろう。先に駆け出して制御AIとコンタクトの取れるカーゴの発着点に続く階段に上っていたウィルは声をかけて、止めた足を動かそうとした時であった。距離があったウィルとセレナ達の間に突然、防火用などで備えられていた防火シャッターが降りて来たのだ。

 

「……ッ……。やはり何もしない訳がないか」

 

 階段を防火シャッターを挟んでセレナ達と分断されてしまった。火事も起きていたいのにシャッターが発動するなどこれもクロノが行った事と考えていいだろう。これ以上、下手な出来事に直面する前にウィルは一矢達の元へ向かう。

 

 ・・・

 

「状況はどうだい?」

 

 セレナ達と別れ、一矢達と合流したウィルは早速、状況を伺う。するとカドマツから大凡の経緯を話され、これから地上施設のコントロールを回復するためのウイルス駆除を行うことが明かされる。

 

「僕も手伝おう」

「……なら行くぞ」

 

 それならばとウィルも事件解決の為に名乗り出る。ウィルの参戦は心強く、ファイターとして素直に認めている一矢は顎でガンプラバトルシミュレーターを挿すと早速、一矢達はガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいき、準備が完了したものから順次出撃していく。

 

 ・・・

 

「皆さん、落ち着いて外に避難してください!」

 

 メガフロートの利用者達の避難が行われていた。防火シャッターの誤作動等は既に関係者には知られており、こちらでは一般利用者を施設の外へ誘導していた。

 

「冷たっ!?」

 

 だがこちらでも異変が起き始めていた。何とスプリンクラーも誤作動を起こし始めたのだ。激しくまき散らされる雨を受けて、避難指示を受けていた風香達にまともに浴びてしまう。

 

 何とかこの場から逃れて外に出た風香達は濡れてしまった身体を抱きながら安堵の溜息をつく。外からでもスプリンクラーの放水の様子は見え、アレ以外でもまだ施設内では多くの誤作動が起きているのだろう。

 

「……さむっ」

 

 外に出たことで少しは落ち着けるとその場で座り込んで震える風香。思わぬ誤作動でほぼ全身が濡れてしまったと考えていいだろう。呟く唇も震えており、このままでは風邪をひいてしまう可能性もある。

 

「あっ……」

 

 そんな風香の身体にふわりと上着をかけられる。その優しい感触に風香が見上げれば、そこには風香達とはぐれていた翔の姿があった。

 

「大丈夫か?」

「翔さぁん……」

 

 そのまま風香の身長に合わせて屈みながら彼女を気遣う。翔に会えたことで彼女の中で安心感が広がっていったのだろう。溜らず風香は抱き着く。

 

「何が起きているんだ?」

「……恐らくはウイルスだろうな。スプリンクラーや防火シャッターに留まらず、関係者通路などに続く一部のドアがロックされて思うように避難が進まないそうだ」

 

 風香をあやしている翔にアムロが意見を求める。ネバーランドなどのウイルス事件を経て、今回の騒動もウイルスと結びつけたのだろう。翔なりに得た情報を口にする。

 

(このままだとネバーランドのようにワークボットも誤作動する可能性があるか)

 

 混乱を招くように続けざまに起きている施設内の誤作動。このままいくとネバーランドのような事態も招いてしまう可能性がある。しかし事態を解決しようにもこの混乱の中では思うような行動がとれず、翔は歯がゆい思いをする。

 

 ・・・

 

≪ちょっと調べてみたんだが侵入してるウイルス自体は以前、バイラスが作ったものによく似ている。問題はどうやってウイルスを制御コンピューターに侵入させたのか、ということだ≫

 

 地上施設のコントロールを回復させる為、ウイルスに侵された地上施設の電脳空間へ突入した一矢達。既にウイルスが現れたリミットブレイカー達を迎撃しようと抗戦を続けながら進むなか、カドマツからの通信によって、彼の中の疑問が投げかけられる。

 

≪以前、皆さんがいらした時は静止軌道ステーション内部から直接、ウイルスプログラムをインストールされました≫

「……申し開きのしようもないよ」

≪過ぎた事です。お互い水に流しましょう≫

 

 カドマツの疑問を共に考えるように制御AIから以前起きた静止軌道ステーション暴走事件の際の事例を出される。とはいえそれはウィルにとって自分が原因となり利用されてしまったあの事件は忌むべき不甲斐ない出来事のようで謝罪を口にする言葉に自己嫌悪を感じさせる。しかしそれは制御AIが言うように既に過去のことだ。それを今更責める為に挙げたわけではない。

 

≪それはさておき。あの事件を受けて監視システムは強化されています≫

≪外からのハッキングの可能性は?≫

≪外部から私へアクセスするためのネットワークルートは隠蔽されています。ごく限られた技術者には伝えられますが、それも定期的に変更されます。可能性は限りなくゼロに近いでしょう≫

 

 話を切り替え、あの暴走事件があってから当然ながらセキュリティは強化されていると言う。それ故、なぜこんな事になったのか疑問点になってしまう。原因を一つ一つ洗い出そうとカドマツは外部からのハッキングを挙げるも不可能に近いと言われてしまう。

 

≪……ゼロじゃないのか?≫

≪正確に申し上げればゼロではありません≫

 

 だが決して不可能である、とは言っていなかったのだ。その事に気づいたカドマツが尋ねると、確かにその通りだったようだ。

 

≪先日、世界中のネットワーク通信機器がウイルスによってシャットダウンしました。この施設は地球上でもっとも重要な宇宙エレベーターです。間違いなくもっとも早く復旧したと考えられます。その時、もしもネットワークルートを監視する者がいれば、僅か数ミリ秒の間、私へ通じるルートが見つけられた筈です≫

 

 宇宙エレベーターへのネットワークルートを見つける方法。それに心当たりがあるようで、かつて一矢達も関わったウイルス騒動が挙げられた。

 

≪しかし釈明をさせていただきたいのです。そもそも完璧なセキュリティというものは……≫

≪いや分かるよ、俺も技術者の端くれだからな。その事件は心当たりがある。まさかこの為の仕掛けだったとはな……≫

 

 人によってはただ何も考えず糾弾してくると考えたのか、釈明をしようとする制御AIを制すカドマツ。そんな事はエンジニアであるかれがよく分かっている事だ。この場で制御AIを責め立てる者などいない。

 

「お喋りはそこまでだ」

 

 そんな中、フィールドを突き進むセレネスは前方を指す。そこにはコアウイルスの姿が確認できた。だがその周囲には既に多くのウイルス達が待ち構えている。

 

 しかしそれで臆するわけにはいかない。リミットブレイカーとセレネスが先陣を切るように突撃して一瞬にして前方のウイルスを蹴散らしていき、続けざまにスペリオルドラゴンとアザレアリバイブも続いていく。

 

 時間にして五分が経つか否かくらいであろう。既にコアウイルスの周囲に展開していたウイルスは撃破され、後はコアウイルスを破壊するのみだろう。

 

 コアウイルスに向かってそれぞれの獲物を構えて、突撃するリミットブレイカーとセレネス。突き刺した刃によってコアウイルスに皹が入っていき、二機が離れたと同時にスペリオルドラゴンとアザレアリバイブの攻撃を受けてコアウイルスは破壊される。

 

 ・・・

 

≪カーゴ出港準備が完了しました。押し合わず順番に乗り込んでください≫

 

 コアウイルスの破壊から数分後、漸く地上施設のコントロールが制御AIに戻った。施設内の誤作動も順に収まっていくだろう。いの一番に進めていたカーゴの出港の準備が終わり、制御AIからその事が告げられる。

 

「あの、警察に任せるべきでは……」

「……あんたの言いたい事は分かる。俺だって……こいつらを危ない目に遭わせたくない。だが、俺の作ったウイルス駆除プログラムには強いガンプラファイターが必要なんだ」

 

 準備を整え、荷物を持った一矢達はカーゴに乗り込もうとするが、その前に心配そうな面持ちのハルが声をかける。

 一矢達はまだ子供だ。セレナを止めたガルトのようにそんな彼らを危険な目に遭わせるべきではないと考えたのだろう。それは何よりカドマツも同じことなのだが、事件の早期解決の為にはガンプラバトルによるウイルス駆除が最も早く、その為のファイターが必要なのだ。板挟みのような思いにカドマツは苦い表情を浮かべていた。

 

≪既に各国の警察機構には報告済みです。しかし彼らを待っていると時間的な問題をクリアできません。あなた方に行っていただくのが現時点で最も可能性の高い手段であると考えます≫

「でも……」

 

 カドマツの解決法が最善手であると制御AIからも進言される。しかしそれでもやはり自分よりも年下の子供達を危険に晒したくはないハルは納得できないようだ。

 

 ハルは何より自分達を心配して引き下がらないのだろう。そこで自分達が大丈夫だ、何て言っても彼女は安心するのだろうか? しかしこの時間が惜しい。

 

 

 

 

 

 

 

「──マイクチェック……OK。カメラスタートだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 どうすべきか悩んでいると、エコーがかった声がこの場に響き渡る。

 

「突然ですが、こんにちは! ミスタアアアァァァァッッガンプラです! 今、再び宇宙エレベーターに危機が迫っている。それに立ち向かうのはご存知あの4人! そう、宇宙エレベーターが切断され、静止軌道ステーションが漂流することになったあの事件! それを解決したあのガンプラファイターだ!!!」

 

 何とそこにはマイクを持ったミスターがハルのマイクロドローンを使用して、勝手に中継を始めているではないか。思わぬ事態に一矢達は唖然としてしまう。

 

「ミスター、こんな時に何してるんですか!」

「そう、こんな時だ。こんな時、私に何が出来る……。現役を退いた私には彼らの代わりは務まらない……。ならばせめてベストな戦いが出来るように応援するだけだ!」

 

 このような緊迫した状況で呑気に中継なんてしている場合ではないだろうとハルはミスターに詰め寄ると先程とは打って変わって、ミスターはサングラス越しに真剣な眼差しを向けながら真面目に話す。彼もまた自分の無力さに歯がゆい思いをしているのだろう。そんな彼の想いにハルはミスターの名を口にする。

 

「これを見ているガンプラバトルファンの諸君! モニターの前に友達を連れてくるんだ! これから始まるのは……」

「──そう、人類の未来をかけた戦いです!!」

 

 再びマイクロドローンのカメラの前にミスターガンプラとして呼びかける。そんな彼に何とハルも便乗してマイクを持ったではないか。

 

「果たして世界最強の四人は正体不明の敵を倒し、宇宙エレベーターを守る事が出来るのか!」

 

 ハルもまた一矢達のように戦えないならせめて出来る事をしようと思ったのだろう。そんなハルの行動にミスターは微笑む。

 

「この一戦を!」

「見逃すな!!」

 

 無力さも全て吐き出すようにカメラ越しに熱を持ってミスターとハルは叫ぶ。

 

「ありがとう、行って来ます!」

 

 そんな彼らの行動に一矢達は胸が熱くなるのを感じる。温かく送り出そうと笑いかける二人に見送られ、ミサが代表して感謝の言葉を口にすると、一矢達はカーゴに乗り込んでいくのであった。

 

 ・・・

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

【制御AI殿】

 

 

 何故、デジタル信号なのですか?

 

 

【私のボディにはスピーカーがない。それにこっちのほうが高速だ】

 

 

 成る程、要件は?

 

 

【カドマツからどうしてもと頼まれてな。提供して欲しいものがある】

 

 

 ……?


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