遂に百貨店を舞台にしたバトルロワイヤルが始まった。この為だけに造られた特設ステージを様々なガンプラが飛び交い、ぶつかり合っていた。
「カイザーミサイルッ!!」
プレイヤー達はランダムにそれぞれの階層に割り当てられ現在、屋上のヒーローショーなどに使われる壇上ではかつて秀哉とバトルをした炎のブレイブカイザーが脚部のミサイルポッドから複数のミサイルを放ち、狙った敵ガンプラが避けた所をブレイブセイバーをガンモードにしたブレイブバスターで撃ち抜く。
「さぁどんどん行くぜェッ!!」
ガンプラバトルは今や大流行している。
ひとたびイベントが行われればそこには沢山のファイター達が集まるほどだ。今ここで戦っている炎も同じだ。今一機のプレイヤー機を撃破したが、他にもこの屋上にはプレイヤー達が戦闘を繰り広げている。炎は笑みを浮かべるとブレイブバスターを再びブレイブセイバーに切り替え、他のプレイヤー達へ挑んでいく。
・・・
「手加減はしないぞ、純ッ!!」
「当たり前だろッ!!」
別の階層、ここはレストラン街だ。ここでもバトルが行われ、ミサの家のトイショップの常連客である誠のガンダムユニコーンFDと純のGNーΩが一つのレストラン内で交戦していた。ユニコーンFDのアロンダイトとGNーΩのハイパービームジャベリンがぶつかり合い、その衝撃で近くのテーブルの殆どが破壊されている。
・・・
「……ッ!」
ここは食品売り場。ここでは以前、夕香達とエンカウントしストライクチェスターと交戦したクレナイの姿があった。これを操るのは赤坂龍騎。彼は周囲の音さえも聞こえないほど集中し、ビームナギナタを振り回して次々にプレイヤー機を撃破していく。
・・・
「こいつでぇっ!!」
ところ変わってここは家電売り場だ。今ここでは秀哉操るPストライクCがパンツァーアイゼンがプレイヤー機を拘束していた。PストライクCはそのままグルグルと回転し遠心力を利用し、近くの別プレイヤーへと投げ飛ばす。
投げられたプレイヤーは立て直す暇もなく、そのままぶつかりPストライクCはそのままコンボウェポンポッドの武装を発射し直撃させる。そしてそのままアグニを薙ぎ払うように発射し、射線上にいた避けられなかったプレイヤー機達は爆発四散する。
・・・
「大分減ってきたね……」
(20分切ったか……)
そのバトルの様子をミサや一矢達観客は見つめていた。
あれからバトルロワイヤルは残り時間の20分を切ったところだ。参加したプレイヤーも少しずつ減っていき、もう半数もいないことだろう。
「……あれ?」
バトルの映像を見ながらイベントMCとコトのトークが織り交ぜられる。
それを耳に入れながらミサはあるガンプラに気を取られた。その機体はガンダムバルバトス。数日前に隣のチームメイトの妹に塗装の仕方を教えた際に使用したガンプラだ。
「……どうしたの?」
「いや……でも……まさか……」
そのバルバトスは今、衣類売り場で一機のプレイヤー機とバトルをしていた。
その姿を目で追っているミサに気になった一矢が問いかけるが、まさか夕香がイベントに参加しているとは思っていないミサは頭を悩ませ一矢はバルバトスに視線を向ける。
・・・
「あー……もぉしつこいなぁ……」
一機のプレイヤー機にしつこく追い掛け回されていた夕香は表情を険しくさせながら次々に放たれる銃撃を何とか避ける。このまま戦闘をし続ければ自分の未熟なカンプラなどはいともたやすく葬られるだろう。だから今まで自分に出来るのはなるべく戦闘を行わず、エンカウントしたとしても別のプレイヤー機達にうまく引き合わせることくらいのことをしていた。
エレベーター付近まで追いやられてしまった。
相手のプレイヤー機はビームサーベルを引き抜いて、バルバトスに接近戦を仕掛けてくる。これも何とか紙一重で避ける夕香ではあるが、このままではやられるだろう。
すると相手のプレイヤー機はビームサーベルを突き出してきた。その動きを見た夕香は見極めるように視線を鋭くして、メイスで野球のようなスイングで相手プレイヤー機の下半身に直撃させ、バランスを崩したプレイヤー機はそのままエレベーターの自動ドアに突っ込んで、その反動で持っていたビームサーベルを落として、そのまま落下していき、下の階層に停止していたエレベーターの上に落下する。
「下へ参りま-すっ」
とはいえこのままではあのプレイヤー機も戻ってくるだろう。
その前に何とかしようと太刀でケーブルを切断し、そのままエレベーターごと落下させる。何とか上昇しようとしたプレイヤー機だが、バルバトスの滑空砲による射撃を受け、そのまま地下までエレベーターと共に落ちていく。
一息つこうとした時だった。
しかしここはガンプラバトルのフィールド。そしてバトルロワイヤルももう後半に差し掛かっている。下手に気を抜けばやられるのは確実だ。それを表すように夕香のシミュレーターに反応がある。
「まさかそのガンプラでここまで残っているとは驚きだったよ」
そして次に姿を現したのはかつて夕香の前に現れたネオサザビーだった。
今まで夕香のバルバトスを見て、それが真っ先に彼女の物であると見抜いたのか、操るシャアは感心したような声を漏らす。
事実、ガンプラに簡単な塗装とスミ入れしただけのプラモで今、このバトルロワイヤルに生き残っているのは夕香くらいだろう。
「どっかの誰かさんのお陰だね。負けっぱなしは性に合わないんだよ」
「ならば見せてもらおう、今の君の力を」
このイベントについて教えてくれたのはシャアだが、こうしてエンカウントすると考えてなかったわけではないが緊張してしまう。それを紛らわすように軽口を叩く夕香にシャアはネオサザビーのビームショットライフルを放つ。
・・・
「あれシャアさんのガンプラだよっ!!」
丁度、場面が切り替わり夕香のバルバトスとネオサザビーが対峙する姿が映し出される。ネオサザビーを指差して教えてくれるミサに一矢はネオサザビーに視線を向ける。
トイショップの常連だけあって凄まじい完成度だ。
対峙するバルバトスと見比べると余計にそう感じてしまう。ならば機体性能もそれ相応の筈だ。
・・・
放たれたビームショットライフルのビームは相変わらずその弾速は凄まじく今、避けられたのも勘としか言い様がない。それ程までに凄まじい弾速を誇っていた。しかしそれで終わるわけではない。既にネオサザビーは目前へ迫り、大型ビームサーベルを振り上げていた。
避けるにしても間に合わない。
このままメイスだけでは以前の太刀同様簡単に破壊されてしまう。ならば、とメイスと太刀の両方を交差させて大型ビームサーベルを受け止める。
しかしそれだけで終わらなかった。
大型ビームサーベルをメイスと太刀で受け止めるバルバトスに対してネオサザビーは両肩のレールガンと腹部のメガ粒子砲を発射する。
「……ッ!」
メイスと太刀を手放し、回避に専念する。
上空へ飛び上がってメガ粒子砲を避けることには成功したが、レールガンを両肩に被弾してしまう。しかしそれでも諦めない。バルバトスは滑空砲を発射する。
「少しはやるようになった……。だが……!」
以前出会った時よりも動きがよくなっている。
これは純粋に称賛するが、それでもまだ自分には及ばない。シャアは滑空砲の弾丸を避けるとそのままバーニアを利用してサマーソルトキックの要領で重い一撃を浴びせる。
・・・
「流石にシャアさん相手じゃ無理かな……」
バルバトスとネオサザビーは出来栄えもバトルの技術もその差は歴然だった。このままではやられてしまうのも時間の問題だろう。ミサはバルバトスの敗北を感じていた。
「……まだ諦めるのは早いんじゃない?」
「えっ? でももうメイスも太刀もないんだよ?」
一矢にもバルバトスとネオサザビーの差は分かっていた。
漫画のような劇的な何かがなければ負けるのは時間の問題だろう。だがそれでも負けるにはまだ早いと一矢は感じていた。しかし武装が少ない今、バルバトスに何が出来るのかとミサは一矢を見る。
「ないなら奪えば良い」
一矢はニヤリと笑みを浮かべる。まるで悪戯を考え付いた悪い笑みだ。何故だが一矢にはあのバルバトスが自分の考えと同じことをすると感じていた。
・・・
「……次はない、か……」
サマーソルトキックの一撃を浴びてしまったバルバトスの耐久値も後僅か。精々次攻撃を浴びたら負けるだろう。夕香は冷静に呟きながらトドメを刺そうと飛び上がって大型ビームサーベルを振り上げるネオサザビーを視界に入れる。
「……ただ負けるだけってのはもう飽きたな」
正直、夕香もこのまま勝てるとは思ってはいなかった。
諦めているわけではない。だがどう考えても勝てる要因が見つからない。目前に迫るネオサザビーを見て夕香は俯いて静かに呟く。
目の前のシャアだけではない。レンやジーナを始め、様々なバトルをしてきたが全て成す術なく敗北している。
「アンタもそう思うでしょ、バルバトス……ッ」
──負けてたまるか
自分だって初めてガンプラバトルをした時から短い期間で得た経験があるのだ。
負けるならばせめて無様には終わらせない。諦めを感じさせない夕香の不敵な笑みと共に放たれた言葉に呼応するようにバルバトスのメインカメラが光り輝く。
このバルバトスは共に敗北を重ねた機体だ。
最初は直感で選んだガンプラではあるが、今では何より愛着があるかもしれない。
バルバトスは滑空砲の銃身を掴むとそのままサブアームごと無理やり引き抜いて鈍器のようにネオサザビーの大型ビームサーベルを持つマニビュレーターにぶつけ、ネオサザビーは大型ビームサーベルを取りこぼしてしまう。
これが狙いだ。
バルバトスは素早く滑空砲を手放すと大型ビームサーベルを掴んでそのまま斬りかかる。予想外の攻撃とはいえ、シャアは素早く反応し避けるが、それでも間に合わず左腕部にそのまま突き刺す。
「……どーよ……?」
「……君の力を少々、見誤っていたようだ」
左腕部に突き刺した大型ビームサーベルをそのまま振り上げて、破壊する。
自分相手にここまで出来た夕香を褒めながらシャアは腹部のメガ粒子砲のチャージをしてそのまま発射する。バルバトスはそれに飲まれて、撃破されるのだった……。
・・・
「あーあ……また負けちゃった」
「でも恰好良かったよ、夕香っ!」
その後、ガンプラバトルロワイヤルも終了し、優勝者であるシャアがインタビューを受けている。
それを横目に夕香は肩を竦めていると裕喜はネオサザビーとの一戦を見ていたのか、褒め称える。
「君、あのバルバトスのファイター?」
「えっ……そうだけど……」
会場にはバトルの様子がリプレイされていた。その中にはバルバトスとネオサザビーの映像が映し出されている。そのモニターを指差しながら同じくバトルに参加していた龍騎が話しかけてきた。
「凄いね、あれは赤い彗星って呼ばれる人のガンプラだよ。あそこまでやられるなんて大したもんだよ」
「でも……まだ本気じゃなかったよ。それにアタシだって始めたばっかだし……」
ネオサザビーの映像を見つめながら褒められる。
くすぐったそうに身を震わせながら夕香はバトルを思い出し、静かに答える。確かにあの時のシャアは本気ではなかった。ファンネルを使わなかったのがその証拠だろう。
「──始めたばっかなのか? それなら余計に凄いじゃんか」
「えっ? ……えっ?」
今度は横から声をかけられる。
その相手は炎だ。どうやら自分が相手にしたのはそれ程までにある意味、有名な人物なのかもしれない。ネオサザビーに一撃与えた夕香に人が集まって来て、夕香は戸惑っている。
「良かったら今度、俺とバトルしないか?」
「あっ、だったら俺も。なんだったらバトルのテクニックとか教えるよ」
ガンプラバトルの誘いをする炎に釣られ龍騎などが夕香に声をかけ、突然の状況に夕香も戸惑っている。
「やっぱり夕香ちゃんだったんだ……」
「アイツ……バトルやってたんだ……。俺知らなかったし、教えてもらってない……」
そんな夕香を遠巻きでミサと一矢が見つめていた。
流石に一人に集まりだしたら注目もされると言うものだ。見覚えのあるバルバトスはやはり夕香のものであった。あそこまでのバトルが出来た夕香にミサは感心していると隣に立つ一矢が夕香がバトルをしたことをここで初めて知る。とはいえ以前、夕香にガンプラバトルについて聞かれたりと思い当たる節はあった。
「あっ、一矢君……。夕香ちゃんは……その……」
「……大体分かるよ。俺にバレた時は張り合えるようにしたいってんでしょ」
夕香が一矢に隠していたのには理由がある。
どう説明すべきか悩んでいると、何故夕香が自分に言わなかったのか、ある程度察しはつくのか、ならばと自分には気づかず囲まれてる夕香を尻目に一矢は会場を後にする為に歩き出す。
「……夕香ちゃんのこと、分かってるんだね」
「……生まれてからの付き合いだし」
夕香が自分に明かす時まで待つつもりなのだろう。
のそのそ歩き出した一矢を追いかけながらクスリと笑みを浮かべるミサにどこか照れ臭く思ったのか、一矢は頬を掻きながらミサと会場を後にする。
この後、夕香は以前に比べてバトルをする回数は減ったものの今回のイベントを通じて知り合った人物達とバトルをしたり、ブレイカーズなどのブースでガンプラについて教わる姿が時折、見られるのだった……。
シャアのネオサザビーはPVに出てたあのサザビーを想像していただけると幸いです。
さてさて次回から少しずつリージョンカップの話に入っていきます。