機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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身勝手な公平

 アンチブレイカーとの交戦を続けるタブリス達とは別にリミットブレイカー達は制御AIの通信をブロックするウイルスの駆除の為、電脳空間に飛び込んでいた。

 

(……またこんな戦いをしている)

 

 湧き出るウイルスを撃破しながら一矢は思いを巡らせる。リミットブレイカーもアザレアリバイブもスペリオルドラゴンも、倒しては現れるウイルスに作業とは言わないまでも対応して打ち倒していく。

 

(……俺がしたいのは、こんなウイルス駆除なんかじゃなくてガンプラバトルなのに)

 

 近づいてきたウイルスを振り向きざまにカレトヴルッフで薙ぎ払うように破壊しながら、一矢はどこかもの悲しそうな瞳でモニターに広がる電脳空間を見つめる。ここ最近、自分達がしているのはこういったウイルス駆除が多かった記憶がある。

 

 だからこそなのだろう。このSSPGの大会でのバトルは心が躍った。どれもこれも白熱しており、アキ達ネオ・アルゴナウタイやツキミ達のプライベーター選抜チームとのバトルは純粋に熱く、心の底から楽しむことが出来た。そんな心地良い時間に水を差すように今回の出来事が起きたのだ。お陰で気分は興醒めもいいところだ。

 

≪ウイルスコアを発見したぞ!≫

 

 もはやウイルスの駆除も手慣れたものだ。彼らにかかればウイルスも有象無象でしかない。次々に撃破しながら突き進んでいくと前方にコアウイルスを発見し、スペリオルドラゴンが指し示す。

 

(……今更、言っても仕方ないか)

 

 ウイルスを早急に駆除しなければ、それだけ被害が出る。今、制御AIをブロックしているこのウイルスも誰も気づかなかったからこそ、アンチブレイカーの侵入を許した。だからこそウイルス駆除も出来る人間がいるならば対応すべきなのだろう。

 

「ただ……こんなことをする奴を許すもんか……ッ!!」

 

 GGF博物館の際、自身に接触してきた相手はゲームだと言った。ならばそれをクリアして、こんなふざけたゲームは終わらせてやる。今感じているこの純粋な怒りも全部、ぶつけるかのようにリミットブレイカーはスーパードラグーンとCファンネルを解き放つ。荒れ狂う嵐の如くコアウイルスに損傷を与えていき、最後にカレトヴルッフを突き出し、一直線にコアウイルスに突撃するとコアを貫いて確実に破壊する。

 

 ・・・

 

 一方でアンチブレイカーとの戦闘にも異変が起きていた。アンチブレイカーが放った聖拳突きを掻い潜り、カウンターの要領で、遠心力を利用したヒートロッドの一撃を叩きつける。あくまでも反射的に与えた一撃であり、効果など機体もしていなかったのだが、何とアンチブレイカーの機体は大きくよろけたではないか。

 

「攻撃が……ッ!」

 

 タブリスの一撃がアンチブレイカーに初めて影響を与えたのを見たセレネスは自身もと素早く飛翔して、周囲に展開するピットへ向かって刃を走らせれば、今までの身じろぎ一つなかったアンチブレイカーが嘘のように容易く切断出来たのだ。

 

 ならばもう下手(したて)に出る必要はない。セレネスとタブリスは互いに意思疎通することはなく、だがそれでいて、それが最も最善となる行動をとる。

 

 セレネスがピット兵器を破壊しながらタブリスに向かって行くのと同時に再びゼロシステムを発動させたタブリスはレーザー対艦刀を駆使して、アンチブレイカーの動きを抑える。

 

 タブリスが放つ剣技によってアンチブレイカーが行動を抑制されるなか、それでも溶断破砕マニピュレーターがタブリスに迫ろうとする。しかしタブリスの上段回し蹴りがその矛先を逸らすと、再び覚醒してピット兵器を破壊したセレネスのその身を攻撃にするかのようなスラスターをフル稼働させた蹴りを受けてアンチブレイカーは近くのビルに叩きつけられてしまう。

 

 ビルに身を埋めたアンチブレイカーが抜け出そうとした瞬間、そうはさせまいとレーザー対艦刀を一本に連結させたタブリスが勢いつけて投擲し、ビルごとアンチブレイカーの機体を貫き、串刺しにすることによって動きを封じる。

 

「観念するんだね」

「好き放題やってくれたんだ。最後くらい潔く散りなよ」

 

 アンチブレイカーは自身を貫くレーザー対艦刀から何とか脱出しようとしている。しかしそんなことはウィルもセレナも許すわけがない。既に眼下にアンチブレイカーを見据える二機は愚者を裁くかのようにビームソードと覚醒の力を纏った刀を空に突き出すと、最大出力の膨大なエネルギーをアンチブレイカーへ振り下ろし、直後に周囲は閃光が覆い、轟音を轟かす大爆発を引き起こした。

 

「……これで終わりか」

 

 モニターを覆う閃光も漸く収まり始めた頃、アンチブレイカーは一体、どうなったのかとウィルは周囲を伺う。あれだけの膨大なエネルギーを受けたのだ。まず塵一つ残る事もなく消滅した筈だ。

 

 しかしそんな彼の予想に反することが、閃光に慣れ始めた視界に飛び込んできた。

 

 なんとアンチブレイカーはまだそこにいるのだ。とはいえ、流石にあれだけのエネルギーをまともに受けては無事で済むというわけではなかったのか、今にも崩れ落ちそうなほど朽ちており、機能停止も時間の問題であろう。

 

≪──流石、と言ったところかな≫

 

 これでふざけた茶番も終わりだろうと地上に降りた矢先に目の前の機能停止寸前のアンチブレイカーからタブリスとセレネスに通信が入り、二人は驚く。

 

≪雨宮一矢達もよく行動している。彼らがブロックウイルスを駆除したからこそスーパーアーマーは解除されたんだ。やはりゲームは段階を踏んでこそだね≫

「……覚えがある。君は……黒野リアムか」

 

 アンチブレイカーから聞こえてくる声にウィルは記憶の中から自身が買収したイドラコーポレーションの社長である黒野リアムを導き出すと肯定するかのようにクツクツとした笑い声が聞こえてくる。

 

≪君と接するのは久方ぶりかな≫

「スリーエスを洗っていたら偶然、君が出て来た。それがなければ君のことを見逃していたよ」

 

 もはや否定することもなく、クロノからの挨拶のような言葉にかつての汚れた大人達に鉄槌を下そうと躍起になっていた頃を振り返りながら口にする。

 

「……それでここに現れた目的は世界大会のバイラス達と同じなのか?」

≪君への復讐心なんてものはないよ。会社の買収は予想外だったが、それはそれで一つのゲームとして面白かったからね≫

 

 アンチブレイカーの乱入はかつての世界大会の際、バイラス達がウィルへ復讐した時と同じようなものなのかと尋ねるがそもそもクロノにとってウィルへの復讐心など元からなく自身の会社が買収された事もゲームの一つだと言ってのけるではないか。

 

≪ちょっとした協力プレイさ。建前上、私には協力している者がいてね。とはいえ、このままでは多過ぎる相手に彼は目的を叶える事もないだろう。だから私も出て来たんだ。ゲームを公平に進めるためにね≫

「協力している者だって……?」

 

 クロノの言葉から、彼が協力している存在がいる事を知るセレナ達。しかしそれがどんな人物かは知らなくとも、その目的とやらは碌なものではないだろう。

 

「随分と饒舌じゃないか」

≪言っただろう? ゲームを公平に進めると。私はどちらに対してもクリアできないようなゲームはさせないよ。公平ついでに早く雨宮一矢達と合流するなり、行動を起こした方が良い。これはタイムリミットのあるゲームだからね≫

 

 とはいえ、クロノからしてみればわざわざ協力者の存在など明かさなくても良かった筈だ。その事に触れるウィルにそれさえも神経を逆なでするように軽く笑いながら促される。

 クロノに従うのは癪だが、彼の言う通りならばこれで終わりではない。もう話す事はないとばかりに目の前で爆発したアンチブレイカーを見ながらウィル達はログアウトを行うのであった。

 

 ・・・

 

「どうだ、もう喋れるだろう?」

≪お久しぶりです、皆さん。ようこそ宇宙エレベーターへ≫

 

 一方、コアウイルスを破壊し終えた一矢達は制御AIとの接触を試みていた。カドマツの呼びかけに今まで沈黙していた制御AIから声が発せられる。

 

「そんな挨拶いらないから、何があったの?」

≪セキュリティシステムにバックドアが仕込まれていたらしく、そこから全てのコントロールが掌握されてしまいました。それを行った男性は静止軌道ステーションを落とすと言い、既にカーゴでステーションに上がっています≫

 

 何事もなかったかのように挨拶する制御AIにそんな挨拶している場合ではないだろう、とミサが制御AIに何があったのか聞いてみる。すると制御AIから一矢達にナジールが行った行動、これから行おうとする行動が知らされる。

 

≪皆さん、これは非常に危険な状態です。施設のコントロールは私の手を離れ、ステーションは落とされようとしています≫

「……じゃあ、そいつを捕まえようにもこの扉は……」

≪はい。許可か不許可かということならば許可なのですが、可能か不可能かということならば不可能です≫

 

 制御AIから知らされた情報に戦慄する一矢達。今まさに頭上の遥か彼方に位置する静止軌道ステーションが落とされようとしていると言うのだ。アニメか何かで出てきそうなあまりにも突飛なことに動揺は隠せずにいた。

 しかし事実ならば野放しには出来ない。だが施設のコントロールは制御AIから離れているのではどうにも出来ないだろう。

 

「とにかく、今すぐステーションに上がってそいつを取り押さえるしかないな。まずは地上施設のコントロールを回復だ」

 

 だがこのまま指を銜えて静止軌道ステーションが落とされようとしているのを見ている訳にはいかない。カドマツの言葉に頷いた一矢達は地上施設の回復作業を行う為、行動を始めるのであった。


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