≪アナタは何をするつもりなのですか?≫
静止軌道ステーション……かつては未曽有の危機に陥ったこの場所にナジールの姿があった。不敵な笑みを浮かべながらコンソールを操作する正体不明の彼に制御AIがその目的を尋ねていた。
「このステーション、地上に落としマス」
≪おすすめしません。あなたの安全も保障できかねます≫
とんでもないことを口にするナジールだが彼の様子からそれが嘘でも冗談でもないことが伺え、地球へのポイントを示したモニターを見ながら操作を進めている。しかし仮に本気でそんな事をすれば、今この静止軌道ステーションにいるナジールも無事では済まないだろう。
「そんなものは必要アリマセン。宇宙太陽光発電を止められればいい……。ワタシはその為に来たのデス」
しかし彼は制御AIのナジールの安否を考えた言葉にさえ鼻で笑って切り捨てる。ナジールは己の命さえも投げ捨てようとするほどの覚悟を持ってここにいるのだろう。
・・・
≪えーっと……これは……。それに……あの機体は……≫
「アイツは……ッ!」
一方、地上のメガフロートではBブロックのセミファイナルステージに突如として現れたアンチブレイカーに騒然としていた。突然の出来事に実況中であったハルがアンチブレイカーを見て戸惑う声がモニターの方から聞こえるなか、アンチブレイカーの出現に強く反応しているのは一矢であり、ミサが一矢を見やれば、かつての記憶から彼は表情を険しくさせていた。
「どうなってんだ……。大会の進行管理は制御AIが行っている筈……。外部からの侵入なんて……」
誰しもが困惑するなか、カドマツは思考を張り巡らせる。確かに前例で言えば、ジャパンカップのエキシビションマッチの際、ウィルが外部から侵入してきた事があった。
しかしこのメガフロートは静止軌道ステーションをコントロールする制御AIが管理している。普通に考えても制御AIの管理下を侵入するなど不可能に近い事だ。
とはいえ、ここでいくら考えたところで仕方がない。カドマツは制御AIに接することが出来る静止軌道ステーションに繋がる扉へと向かい、一矢達は慌ててその後を追う。
・・・
≪これは一度、ログアウトした方が良いのでは……≫
一方でBブロックのセミファイナルステージのフィールドでは突如として現れたアンチブレイカーをタブリスとセレネスが見上げる形となっていた。
そんな中、実況席のハルが提案する。このような乱入があってはセミファイナルステージどころではなく、一度、セレナ達はログアウトして運営側が対応を考えた方が良いのではないかと思ったのだろう。
「……そうしたいところなんだけどね。どうにもそうもいかないようだ」
下手に相手をするのもどうすべきかと判断し、一度運営側への対応を仰ごうと思ったのはハルだけではない。セレナも一度、ログアウトすべきか考えたのだがいくらそうしようにも筐体は一切反応しなかったのだ。筐体その物から出ようにもネバーランドのあやこの時同様にロックがかかっているようだ。
「……心当たりがあるようだけど?」
観念して、アンチブレイカーを確認した瞬間、反応したウィルにセレナが伺う。
「……奴はかつての静止軌道ステーションの事件の際にウイルスと共に僕達を襲って来た機体だ……。あの時は一矢と撃破したのだが……」
ウィルはアンチブレイカーに不可解そうな表情を浮かべる。実際、そうであろう。まさかこの場でアンチブレイカーに出くわすなど夢にも思うまい。
「……ともあれ敵である事には違いないみたいだね」
あの時に……とかつてのウイルス事件を思い返すセレナ。アンチブレイカーのその目的は分からぬものの、モニターで越しにこちらを見下ろしてくるあの機体は自身に装備されたピット兵器を解放すると此方に対して差し向けてくる。獲物を求める獰猛なピラニアのようにこちらに向かってくるピット群を見て、セレナとウィルは素早く機体を動かす。
あの機体が何であるのか、何を目的にこの場に侵入してきたのかは分からない。だがウィルの言うようにかつてのウイルス事件に関与していたのであれば、下手に野放しにする方が余程危険であろう。タブリスとセレネスはアンチブレイカーへと共に向かって行く。
「あの頃とは違うかッ!!」
しかしアンチブレイカーが放つピット群はウィルの記憶に存在していた時のアンチブレイカーよりも、その軌道の精度は高くなっていた。これではアンチブレイカーに近づくことさえもままならず、ウィルは溜らず叫ぶ。単純にこのピットの精度は一矢よりも上回っているだろう。
だがセレナとウィルは世界最高峰のファイター達だ。装備をビームソードから一対のレーザー対艦刀に切り替え、迫るピットのビームをセレネスと共に切り払いながら突き進んでいく。
覚醒とゼロシステム。機体性能を飛躍的に向上させた二機はあっという間に挟み込むようにアンチブレイカーを囲むと同時に己が持つ獲物で斬りかかるが、受け止められてしまう。しかしそれは予想済みだあったのだろう。すぐさまタブリスはヒートロッドを叩きつけた。
「っ!?」
しかし渾身のヒートロッドの一撃を受けてもアンチブレイカーは身じろぎ一つせずまるで鋼鉄か何かを殴った気分だ。だが直後にアンチブレイカーから一瞬のような連撃を受けてタブリス達は距離を離されてしまう。
「ゲームで言うところのスーパーアーマーって奴かな……? 厄介この上ないね」
「とはいえ、今の僕達には奴を相手にする以外に道はない」
セレナやウィルでさえ手を焼く相手なのはこの短い時間でも理解できた。
それに加えて攻撃を受けても影響しないのであれば苦戦するのは必至であろう。しかしただ黙ってやられるわけにもいかなければ戦う以外の選択肢はないのだ。とっくにゼロシステムも覚醒も効果を失ってしまったが、タブリスとセレネスはアンチブレイカーへ向かっていくのであった。
・・・
「えー!? 制御AIが沈黙してるっ!?」
静止軌道ステーションに繋がる扉に訪れた一矢達はアンチブレイカーについて制御AIに尋ねようといくら言葉を投げかけたのだが、制御AIは何も言わず沈黙している。この状況にミサは驚愕していた。
「ああ。原因は分からないが、ちょっと前から制御AIが沈黙してるらしい。そのせいであの侵入してきた機体への対処が出来ないみたいだな」
カドマツも何故、こうなったのかその理由を職員に聞いてきたのだろう。まさか静止軌道ステーションでナジールがいるとは思わず、この予想外の状況に一矢達は焦っている。
「ちょっと職員の端末から調べてみたんだが、制御AIと外部端末との間に信号をブロックするものがある。そいつをどうにかすれば何があったのか制御AIに詳しく聞けるはずだ」
このままではいけない。カドマツが職員の端末を借りて調べた情報を元に原因究明にあたろうとする。一矢達は頷き、早速ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいこうとする。
(……あの時、奴はラストステージは近いと言っていた。これが一歩手前のステージってことなのか……?)
かつてGGF博物館にてウイルス騒動の解決を目指していた際に自分に接触してきた人物が言っていた言葉。突然、現れたアンチブレイカーと言い、やはりあの時の言葉が関係していると考えて良いだろう。
「……なんであれ受けて立ってやる。あの日以来、こんな日の為の準備はあるんだから」
考えるのもそこそこに今、このメガフロートに起きている異変の解決にあたらなくてはいけない。その為にはまずカドマツが言っていたように制御AIと外部端末の間を渡る信号を妨げるブロックを何とかしなくてはいけないだろう。一矢は外部でカドマツのウイルス駆除プログラムの適用を行う為に準備をしているのを確認しながらリミットブレイカーを持つ。
「今はやるべきことをやらなくちゃ……。リミットブレイカー、出るッ!!」
ウイルス駆除プログラムの適応も終わり、ガンプラバトルシミュレーター内のモニターが出撃を促すなか、一矢はリミットブレイカーと共に出撃していくのであった。