機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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MS少女が舞い踊る

「あれって良いの……?」

「ガンプラは自由だと言うけど……」

 

 ワールドメイド派遣サービスチームの個性的なガンプラ……特にあるとにくすばえるとセレナッガイにバトルを会場は騒然となっていた。裕喜は誰に問いかけるわけでもなく声を上げると、隣で秀哉は反応に困っている。

 

「……だからと言って好き勝手やるのは良くはない筈だ」

「もっともな意見だ」

 

 ガンプラは自由だ、と言っても何をして良い訳でもないと僅かに頬を引き攣らせるアムロに同じく観客席にてバトルを観戦しているジンは頷く。

 

「きゅべれいはまーん……私はすぐにでもお作りします!」

「ローラ、私は閃いた」

「MS少年でも良いとは思わないか、少年ッッ!!!」

 

 とはいえ一部の観客は何か閃きを得ているようで、単純に可憐なMS少女に喜んでいる層とも合わせても、あるとにくすばえる達は一部には受けているようだ。

 

「これを機にえくりぷすふうかが作られちゃうんだね……」

「……お前の場合、自分で作りそうな気がする」

 

 そんな一部の観客に合わせて風香も恥じらった様子で両頬に手を当てて首を振っているが、そもそもだと碧は深い溜息をつきながら再びモニターを見やる。

 

 ・・・

 

「って言うか、なんで!? 私達に勝って、ウィル達を優勝させたいとか?」

 

 気を取り直して、ミサがメイド達の出場理由について疑問に思う。アルマやモニカはまだ分からなくもないが、ドロシーに至ってはいくら興味津々だったからと言ったとしても、わざわざ世界の強豪チームが集まるこの場にまで出てこないと思ったのだろう。

 

 ・・・

 

「ドロシー、そんなこと頼んでないだろ!? 僕は彼らと戦いたいだけだ。優勝が目的じゃない!」

 

 ミサの言葉が仮に本当だったとしたら一度たりともウィルはそんな事を望んではいない。外部からウィルはバトル中のドロシーに対して訴えかけるのだが……。

 

≪は? そんなことの為ではありません≫

 

 しかし返って来たのは寧ろ何を言っているんだと勘違い甚だしいとばかりの返答であった。

 

≪ガンプラバトルでなら合法的に坊ちゃまを殴れますよね≫

「……なんだって?」

 

 そればかりかまるで名案を口にするかのように晴々した様子で口にするドロシーにウィルは耳を疑い、もう一度、尋ねようとする。

 

≪……ドロシーさんってウィルのこと嫌いなの?≫

≪いいえ、我が主として親愛の情を感じておりますが?≫

 

 今までのウィルとドロシーのやり取りを聞いてミサは思わずそう聞かずにはいられなかったのだが、何故そう思ったのだとばかりにメイドとして当然だとばかりにドロシーは答えた。

 

≪ただ、なんと申しましょうか。坊ちゃまには嗜虐心をそそられると言いますか……。時々殴りたくなりますよね≫

「「あー……」」

 

 とはいえ、いくら敬意を抱いていても先程の言葉もあり、ドロシーは言葉を選ぼうとするのだが、やがて諦めたように素直に話すと、ミサも夕香も理解できるのだろう。何とも言えない声をあげ、一矢とシオンに限っては思いっきりしかも何度も頷いている。

 

「ドロシー、一度ゆっくり話をしよう」

≪は。それは構いませんが大会が終わってからお願いしますね≫

 

 夕香も含めて大体がドロシーの言葉に異を唱えていない為、表情を引き攣らせながらドロシーに話し合いを提案するウィルだが、今はバトルで忙しいのだとドロシーからの通信を切る。

 

 ・・・

 

「こっちも忘れちゃだめだよ!」

「……忘れたくても忘れられるか」

 

 するとリミットブレイカーへあるとにくすばえるがバエルソードを突き出しながら襲い掛かってくる。カレトヴルッフで受け止めながら一矢はモニカの発言にすかさずツッコミを入れる。

 

 そのまま押し返して、損傷を与えようとするのだがその前に下方からビームがリミットブレイカー達の間に放たれ、距離を開ければ、そこにセレナッガイも入ってくる。

 

 そのまま二機?は同時に飛び出し、リミットブレイカーへ鮮やかな連携をもって攻撃をどんどんと強めていくと、やはりリミットブレイカーは圧されてバエルソードとビームサーベルの一撃を同時に受けて吹き飛んでしまう。

 

「可愛いだけじゃないんだなぁ」

「そんなところもお嬢様を再現してしまうとは……」

 

 バエルソードを肩に担ぎながら本物のセレナはしないようなニシシとした笑みを浮かべるあるとにくすばえるとやれやれと眉間を抑えるセレナッガイ。見た目こそセレナだが、ファイターの影響は強く反映されている。

 

≪アナタ達、むやみやたらに飛び回るのは止めなさいなっ!!≫

「えーっ、シオンお嬢様も随分無茶を言うね」

 

 すると外部でシオンからの抗議の通信が入り、その内容を耳にしてモニカは彩渡商店街チームを相手に無茶な注文を言ってくるとばかりに呆れているのだが……。

 

≪アナタ達が飛び回れば、そのガンプラのパンt──「ボディスーツだっての」──が見えてしまいます!≫

「大丈夫大丈夫。いくら模造品でもお嬢様のを見せびらかすような真似はしないよ」

「そうです、お嬢様の下着を知っているのは私達だけで十分です」

 

 抗議の理由を明かすシオンだがその途中でモニカの訂正が入る。確かにこれは中継されている為、下手をすると全世界にセレナの下着がどういった物なのか衆目に晒されてしまう。もっともそれは二人も分かっているのか、安心させようとするのだが……。

 

「……ですが事故は仕方ないですよね」

 

 するとリミットブレイカーからスーパードラグーンとCファンネルが放たれる。スーパードラグーンのビームを避けるあるとにくすばえるとセレナッガイだが、迫るCファンネルによって衣服状のアーマーが破れ、セレナッガイの右腰の破れた個所から僅かに赤のレース生地の何かが見える。……何かが。

 

≪一矢ぁっ!! ガンプラとはいえ、少しでもお姉さまの柔肌を晒させるのは許しませんわっ!!≫

「……お前なぁ」

≪お姉さまのパンt「ボディスーツです」……とにかく!! 下手な戦い方をしたら八つ裂きにしますわよ!!≫

 

 シオンの抗議の矛先は今度は一矢に向けられる。その内容に先程のモニカ達同様に呆れているのだが、シオンにとっては下手すればセレナの人生に関わる問題の為、アルマの訂正が入ってもなお強く叫ぶ。

 

「って言っても……」

 

 余裕があるのならば兎も角、相手はアルマとモニカであり、彼女たちが作成したMS少女はやはり世界レベルの出来栄えだ。手心を加えようにも中々思うようにはいかない。

 

「痛いです」

 

 一方でアザレアリバイブとスペリオルドラゴンによってサーヴィターを追い込んでいく。ダンスのように回転しながら腰部に垂れたCファンネルを振り回すサーヴィターをスペリオルドラゴンは閃光斬を放つことで真正面から受け止め、サーヴィターの機体がよろけたところにアザレアリバイブの射撃を受ける。

 

「やはり……一日の長がありますね」

≪無論だ。我々とて伊達や酔狂でやっている訳ではない!≫

 

 箒をイメージして作成したメイスを掃除するかのように振るうサーヴィターだが、スペリオルドラゴンの剣技の前では無力であり、メイスを宙に打ち上げられたと同時にすれ違いざまに切り裂く。いくら陰で練習してここまで来たとはいえ、それでも差はあったのか、ドロシーの言葉とサーヴィターが機能停止するのを背にロボ太は力強く答える。

 

「さて、問題はあっちだよね……」

 

 サーヴィターを撃破できたとしても、まだ問題はある。と言うよりこのセミファイナルステージで一番の問題と言ってもいいだろう。ミサはリミットブレイカーを息の合う連携によって圧倒するあるとにくすばえるとセレナッガイを見やる。

 

「大丈夫、一矢?」

「……大丈夫と言えば大丈夫なんだが……」

 

 リミットブレイカーと合流するアザレアリバイブ達。あるとにくすばえる達と対峙しながら一矢に状況を尋ねるも、一矢はもどかしそうな表情で答える。なにせこちらに関しては双方ともに下手な動きをすれば、シオンからの怒涛の抗議が入るのだ。まともなバトルは出来ないだろう。

 

≪二人とも、私に考えがある≫

 

 どう対処すべきか頭を悩ませていると、不意にロボ太が一矢トミサに通信を入れる。一か八か、一矢達はロボ太から話を聞き、その案に乗るように頷くとあるとにくすばえる達が再度襲い掛かったのを皮切りに散開する。

 

≪これ以上の勝手はさせん!≫

 

 あるとにくすばえるのバエルソードを受け止めたスペリオルドラゴンは反発するようにあるとにくすばえるを跳ね除け、スペリオルドラゴンの性能とロボ太の技を併せた力で渡り合う。

 

「……やはり武装の少なさがネックですね」

 

 一方であるとにくすばえると連携を取ろうにもアザレアリバイブの射撃とリミットブレイカーのオールレンジ攻撃によって追い詰められるセレナッガイ。この状況下にアルマの表情は渋く、あるとにくすばえると共に必要最低限の武装しかない為に勢いで押されれば苦戦は免れなかった。

 

 しかしリミットブレイカー達はそれで勝ちを譲るわけにはいかない。リミットブレイカーとアザレアリバイブが覚醒を発現させると、攻撃の勢いを更に強めていく。やがてその勢いはアザレアリバイブの掩護と共にリミットブレイカーとスペリオルドラゴンの猛攻に少ない武装では流石の二人も追いつく事が出来ず、あっという間に形成委は不利となり、後方に吹き飛んであるとにくすばえるとセレナッガイはその身をぶつけ合う。

 

≪今だ、二人とも!!≫

 

 身と身をぶつけ合ったあるとにくすばえる達を見て、スペリオルドラゴンはリミットブレイカーとアザレアリバイブに声をかけると二機は同時に頷き、覚醒の一太刀と砲撃を同時に放って、あるとにくすばえる達を飲み込んでいき、撃破する。

 

≪彩渡商店街、見事にファイナルステージに進出です!!≫

 

 前代未聞の波乱が巻き起こったセミファイナルステージだが、何とか彩渡商店街チームの勝利を持って終了し、ハルの言葉で締めくくられるのであった。

 

 ・・・

 

「あぁ……わたくしの夢が……」

「……安心しろ。アンタの夢は俺が受け継ぐ」

 

 勝利を収めた彩渡商店街チーム。敗れてしまったドロシーはここまで来て潰えてしまった自分の夢に跪いて嘆き悲しんでいるとそっと彼女の肩に手をかけて一矢なりに励ます。この部分だけ切り取れば良いシーンなのかもしれないが内容はウィルを殴るというものではあるが。

 

「さて……このタイムズユニバースEROをどうしてくれようか」

 

 一矢はそのまま様子を見に来たウィルをジトッとした目で睨むように見やる。近くには夕香に近づけさせまいとシオンがおり、ウィルに噛みつかんばかりに警戒している。

 

「なにか忘れてると思ったら、やっぱり俺の妹を攫いやがったな」

「人聞きの悪い事を言う。彼女も嫌がってなかったよ」

「そもそも夕香は裕喜達と一緒にいた筈ですわ。それをわざわざ……」

 

 すると一矢はウィルに向き直り、募る苛々の中でなるべく平静を保ちながらウィルに声をかけると、ウィルも先程、夕香を迎えに行った際のことを口にする。一矢とウィルの言い合いが始まるかと思いきや、そこにシオンも入って来た。

 

「……無理を言ってでも夕香は選手控室に連れてく」

 

 そのまま夕香に歩み寄って一矢は彼女の手を掴み、夕香を連れて行こうとするのだが……。

 

「あそこよりもVIPルームの方が居心地は良いだろう? だからこのまま僕の……」

 

 それに待ったをかけたのはウィルだった。空いている右腕を掴む。

 

「あらVIPルームでしたら、わたくし達の部屋に招待しますわ。それならば一矢も安心でしょう? 第一、男女が同じ部屋にいると言う事自体……」

 

 更に夕香を背後からその下腹部に手を回し、抱き寄せながら一矢とウィルに言い放つのはシオンだった。

 

「……鬱陶しい」

 

 半ば体を拘束され、身動きが取れない状況に夕香は顔を顰める。とはいえ自分が下手なことを口にすればそれはそれで面倒事になるだろうし、そもそもこの状況で何か話すのも面倒臭い。夕香は観念したように流れに身を任すのであった。

 

「あーあ、世界にお嬢様旋風を巻き起こす絶好の機会だと思ったんだけどなー」

「趣味に走って必要最低限の武装しか用意しなかったのがいけなかったのかもしれないわね。とはいえセミファイナルまで来たのだから世界にお嬢様の可憐さはアピールできたかと」

 

 そんな夕香達を他所に勝利を逃してしまったモニカとアルマは残念そうに肩を落としていた。しかし彼女達もセミファイナルステージまで来たのだ。ここまで来れば十分であろう。

 

「満足そうで何よりだ」

 

 そんな彼女達の背後から彼女たちにとって聞き覚えのある可愛らしい声が届き、同時に肩をがっしりと掴まれる。

 

「さて、少しお話ししようか?」

 

 振り返ってみれば、そこには天使のような愛らしくも貼り付けたような笑みを浮かべるセレナが、しかしその背後には悪魔のような禍々しいオーラを放っている。目を覚ましたのだろうか? いやそんなことよりを考えるまでもなく二人は連れて行かれる。

 

 ・・・

 

「まっ……こんなところかな」

 

 選手控室に場所を変えてから暫く。コホンと咳払いをするセレナ。目の前には正座するような形で座るアルマとモニカが。二人とも完全に表情は青ざめており、目尻にはうっすら涙も浮かべて震えている。

 

「じゃあ……これは没収ね」

 

 そんな二人をさておいて、セレナはあるとにくすばえるとセレナッガイを回収する。アルマとモニカはそれは止めて欲しいと口に出そうとした瞬間、セレナの有無を言わさぬ笑顔を見せられて黙っている。

 

「それをどうするつもり、かな……?」

「まさか破壊したりとか……」

 

 ならばせめてそのガンプラをどうするか知っておきたい。二人はおずおずとそのガンプラ達がどうなってしまうのか尋ねる。

 

「別に。特に何かをするって気はないよ」

 

 しかしセレナはあっけらかんとした様子で答える。その様子から別にこのセレナを模したガンプラ達を壊したり捨てる気はないと言う事が嘘ではないと分かる。

 

「モノはアレだけど君達が丹精込めて作った物をボクが無下にするとでも? ここまでの作り込みだ。よほどの情熱がなくちゃ出来ないことだよ。モノはアレだけど」

 

 セレナは両手のあるとにくすばえるとセレナッガイをそれぞれ見やる。セレナがセレナを見ると言う奇妙な構図だが、彼女の言う通り、どちらもとても可愛らしくここまで仕上げるには簡単な作業ではないだろう。

 

 最後にふわりと柔らかい笑みを見せて、この場を後にしようとするセレナ。しかしセレナの笑顔と言葉に感銘を受けたように肩を震わしたアルマとモニカはそのままセレナに抱き着く。

 

「はいはい、二人の気持ちは十分分かったから」

 

 アルマとモニカから抱き着かれ、どちらに対しても大小と身長差があるのだが、しかと受け止めてその背中をやさしく子供をあやすように撫でる。

 

(没収されたのは残念だけど)

(これはこれで良いわね)

 

 セレナに抱き着きながら、モニカとアルマは直に感じるセレナの体温と甘い香りに笑みを浮かべる。

 

(けど、ソレはあくまでガンプラバトル用に作り上げたガンプラ……)

(そう、お嬢様は一つ見落としている)

 

 ……のだが、二人ともセレナに見えないところで非常に悪い笑みを浮かべ始める。

 

((私達がモデラーとして作り上げたぱーふぇくとせれなが存在すると言う事を!))

 

 あるとにくすばえるとセレナッガイを没収された事は惜しいが、それ以上のガンプラが実はまだ存在しているらしい。しかもファイターとして作り上げたガンプラとしてではなく、モデラーとして完成させた作品があるとのことだ。

 

(だけど、私達はぱーふぇくとせれなの完成でまだ満足しちゃいないよ)

(何れはMG、PGサイズとMSせれなプロジェクトを発展させていくのです……)

 

 しかもまだまだ野望があるようだ。二人がそんな事を考えているとは夢にも思わず、セレナは背筋にゾクリとした悪寒を感じるのであった。


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