機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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wish in the dark

「あぁ……ここから静止軌道ステーションに行けマスか?」

 

 ナジールは今、数十mに及ぶような巨大な電子ロックがかかった扉の前にいた。周囲に人がいないにも関わらず問いかける。

 

≪可能・不可能ということであれば可能です。許可・不許可ということであれば不許可です≫

 

 ナジールの問いかけに答えたのは宇宙エレベーターの制御AIであった。ナジールが立っている巨大な扉の先には宇宙エレベーターに繋がるカーゴがあるのだろう。

 

「そこを何とか……。ステーションへ行きたいのデス」

≪大会ファイナルステージまで誰もお通しできません≫

「誰もいない今だから行きたいのデス」

 

 ごますりでもするかのようにこの扉を開けてくれるように頼みこむ。しかし返ってくるのは当然、ナジールの頼みを突っぱねる内容だ。だがそれでもとナジールは頼み込むわけなのだが……。

 

≪申し訳ありませんがお引き取りください≫

 

 融通が利くと言うわけでもなく、それ以上に誰かもその身元の詳細が分からないナジールを制御AIが受け入れる事はなかった。

 

「仕方ない……。では、魔法に頼るしかアリマセン」

 

 とはいえ全て想定の範囲内だったのだろう。やれやれと言わんばかりにため息をつくと、おもむろに両腕を広げる。

 

「イフタフ・ヤー・シムシム!」

 

 すると今、ナジールがいる場所に響くような声量である言葉が唱えられる。

 

≪……開けゴマですか。アリババ気分のところ申し訳ありませんが、そんな言葉では……≫

 

 しかし言葉を放った直後でも、何も起こらず制御Aiはいい加減、帰らせようとするのだが、次の瞬間、重厚なロックの解除音と共に扉は重々しく開き、その先の施設への道を開いたのだ。

 

≪何をしたのですか?≫

「さすが古の呪文デース」

≪何をしたのですか? 私の命令以外でこのドアが開く事はありえません≫

 

 不可思議なことに開いた静止軌道ステーションへ続く扉。ナジールに問いかける制御AIはどこか信じられないと言わんばかりに鼻歌交じりで上機嫌なナジールに尋ねていた。

 

「あなたにバックドアを仕込んだんですよ、ドアだけに」

 

 してやったりとばかりにナジールは流暢に答えながら彼は制御AIの静止の声も聞かず扉の先へ向かって行くのであった。

 

 ・・・

 

「早速、ハッキングを仕掛けてくるとは」

 

 一方、同時刻、薄暗い部屋の中、クロノは自身のパソコンに起きた異変を横目にまるでテレビを眺めるかのように優雅にコーヒーを啜っていた。

 カドマツ達と同じようにガンプラバトルシミュレーターを通じてのアクセスを試みているのだろう。画面に電脳空間を映したモニターにはライトニングFAとシャインストライクの姿が映っていた。

 

「まずはお手並み拝見と行こうか」

 

 既にこうなる事を予測して、手は打っていたのだろう。すぐにライトニングFAとシャインストライクを駆逐しようと防衛プログラムが迫る。しかし相手はライトニングFAとシャインストライク。つまりはカガミとヴェルだ。出て来てもすぐに二機によって瞬く間に破壊されていく。

 

 しかしいくら防衛プログラムが破壊されたとしてクロノの表情に余裕が消えるわけでもなく、寧ろそう来なくてはとばかりに笑みを浮かべていた。

 

「素晴らしい……。あっという間に壊滅とは……。これは中々のスコアだ」

 

 防衛プログラムとの間に起こった戦闘は瞬く間に終了し、一矢達同様に用意していたPGスクランブルガンダムも撃破されてしまった。今現在、用意していた防衛プログラムを全て容易く打ち破った二機のガンダムに称賛を送る。

 

≪聞こえているかしら?≫

 

 するとモニター上のライトニングFAが周囲を見渡しながら、柱のように構築されたデータに触れると、かつてクロノ自身が一矢にやったようにスピーカーからノイズ交じりにカガミの声が聞こえる。

 

≪アナタを知っているわ、黒野リアム≫

「……ほぅ」

 

 とはいえスピーカーから聞こえてくる声にわざわざ答える気はないようだ。しかしカガミから放たれた名前にクロノはピクリと反応すると、興味深そうにスピーカーを操作する。

 

≪黒野リアム……。日本人とアメリカ人のハーフであり、かつてはゲーム会社として名を馳せたイドラコーポレーションの代表取締役社長兼CEO≫

「良くご存知だ」

 

 調べがついていたのか、その名と共にどんな人物なのか話すカガミにクロノは面白そうにスピーカー越しで答える。

 

≪ゲームメーカーとして人気が高い一方で裏でCEOが個人的にスリーエスのバイラスと繋がっていたことが明るみとなり、現在はタイムズユニバースに買収されている最中でスリーエス同様に解体予定との事らしいわね≫

「それが何故、私だと?」

≪アナタが作成したウイルス……。そうね、静止軌道ステーションに現れ、ゲネシスガンダムブレイカーと交戦した戦闘プログラム。攻撃モーションや使用した技はアナタの会社が作ったゲームに酷似しているわ≫

 

 そのままイドラコーポレーションの現在を話すカガミに尋ねる。まずクロノに辿り着くヒントとなったのは、静止軌道ステーションが乗っ取られた際に現れたアンチブレイカーについてだ。あの戦い方をきっかけにウィルが買収している会社を調べていたらイドラコーポレーションの名が浮上したのだ。

 

≪それにバイラスの他の協力者が次々と逮捕されているなか、アナタだけはまだ逃げ果せている。それも理由の一つよ≫

「バイラスが事情聴取で話しているらしいからね」

 

 また消去法でもあった。バイラスの逮捕後、次々にかつて世界大会でバイラスに協力していた者達が逮捕されているニュースが現在、流れている。それはクロノの耳にも届いていたのか、あの男ならそんなモノだろうと言わんばかりだ。

 

≪……一つ、個人的に気になる事があったわ≫

「どうぞ」

 

 するとカガミは疑問点があると口にする。別に構わないのか、クロノは少し冷めたコーヒーを啜りながら促す。

 

≪黒野リアム……。アナタはかつてガンプラバトルの大会にも出場している。しかも前年度のジャパンカップの優勝者……。聖皇学園ガンプラチームに所属していた雨宮一矢を破って≫

「また懐かしい話だ」

 

 カガミの口からクロノがかつてのジャパンカップに出場していた事が明かされる。それは聖皇学園のガンプラチームに所属していた時の一矢が出場していたジャパンカップについてだ。その話をされてクロノは笑みを浮かべる。

 

「面白いゲームだったよ。もっとも当時の彼は余裕がなくて私のことを覚えていなかったようだが」

 

 かつてのジャパンカップで一矢を倒した時のことを思い出しているのか、くつくつと笑い声をあげていた。

 

「それで? 私にわざわざ接触してきて、どういうつもりかな?」

≪……時間稼ぎ、かしら≫

 

 とはいえ、わざわざ黒野リアムの素性を話してきたカガミにその真意を尋ねるクロノ。すると、そろそろ構わないかとばかりにカガミが答えた瞬間、クロノがいる部屋の扉が蹴り破られる。

 

「よぉ、そろそろゲームセットにしようぜ」

 

 蹴り破られた扉の先にいたのはシュウジであった。流石にこのことに関しては想像していなかったのか、クロノは目を見開いている。

 

≪そこはイドラコーポレーションの地下ね。ずっと逆探知をさせてもらっていたわ。アナタを調べる過程であまり褒められたことではないこともしたけど≫

「ちょっとした裏技も使ってな」

 

 何故、ここにシュウジがいるのか、その理由をスピーカー越しに明かすカガミ。その言葉にすぐにこの場所に移動出来た理由を首元に垂れ下がるアリスタのペンダントを握りながらシュウジは答えた。

 

「さて、大人しくしてもらおうか」

「断ろう。ゲームが終盤に差し掛かっているのに止められるなど興が醒める」

 

 ここで捕まえようと拳を鳴らすシュウジにクロノは椅子から立ち上がる。それははっきりとした抵抗の意志を感じさせるには十分過ぎる。

 

「……仕方ねぇ……。じゃあ、少し痛い目をみてもらおうかッ」

 

 あまり必要以上に手荒な真似をしたくはなかったのか、ため息をつくシュウジだが、クロノをここで逃がすつもりは毛頭なく、構えを取ると地を蹴ってクロノへ向かっていく。

 

「ふむ……隙がないな」

 

 向かってくるシュウジの動作を見ながら余裕そうに彼の動きを分析する。クロノは目を細めて向き直る。

 

「……っ!?」

 

 そのまま腹部を殴って一撃で気絶させようとするシュウジだが、クロノはさっと横に体を動かして避けるとその拳を掴んでいたのだ。すぐに対応して見せたクロノにシュウジは目を見開く。

 

 しかしそれも束の間、クロノを見やったシュウジは彼がニヤついた笑みを浮かべたのを見た瞬間、彼の腕は捻られ、そのまま身体は宙に舞って投げられる。

 

「チッ……!」

 

 地面に叩きつけられたシュウジは忌々しそうに舌打ちすると、唇を親指で軽く撫で再びクロノへ向かっていく。油断もなくすかさず拳を放つシュウジだがクロノは悉く軽やかに避ける。シュウジはクロノの顔めがけて鋭い蹴りを放つのだが、クロノは身を反らして避けるとそのまま回し蹴りを深くシュウジの脇腹に浴びせる。

 

「ぐぁっ!?」

≪シュウジ君!?≫

 

 シュウジの身体がくの字に曲がった瞬間、再びクロノによって頭部を蹴られてそのまま近くの机に叩きつけられる。シュウジの悲鳴と物音が聞こえたのか、スピーカー越しにヴェルがシュウジの名を叫ぶ。

 

「素晴らしい。よくそこまで調べたものだ」

 

 起き上がろうとするシュウジを先程まで飲んでいたコーヒーのマグカップで再び頭部を殴りつける。シュウジは地面に転がり、頭から生々しい鮮血が流れるなか、クロノはシュウジを踏みつけて称賛する。

 

「だが君達は表向きのことしか分かっちゃいない。CEOだのジャパンカップだの君達が調べ上げたのは所詮は虚像でしかないんだよ。それではトゥルーエンディングには程遠いな」

 

 じりじりと踏みつけ、シュウジが苦悶の表情を浮かべるのを愉快そうに見下ろしながら、心底、出来損ないを見るような見下した目で歪な笑みを浮かべた。

 

「人には裏がある。君達と同じようにね」

「……ッ……。どういう意味だ……ッ!?」

 

 そのまま無理にシュウジを起き上がらせ、その首を締めあげながら話す。その言葉にまるで自分の心を見透かされたようで目を見開いたシュウジはクロノに尋ねるが……。

 

「君達自身が良く分かっているだろう。君達が好きにしているように、私もゲームをしている……。邪魔をしないでもらおうか」

 

 しかしクロノは直接的に答える事はなく、そのまま突き放すように投げるとシュウジは地面に転がる。酸素を取り込みながら血に濡れた視界でクロノを探せば、クロノはまるで散歩でもするかのように悠々とこの場を去っていく姿を最後に捉えた。


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