機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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傷ついた翼を受け止め

「良いバトルだった。もっと強くなりたいと思えるような……そんなバトルだった」

 

 セカンドステージも終了し、バトルを終えた一矢達はプライベーター選抜チームである厳也達と会って話をしていた。惜しくも敗れてしまったプライベーター選抜チームではあるがそう話すジンの表情はとても清々しそうだ。

 

「……会った時には納得はしたけど、正直、驚いた」

「どうせなら、そう思わせたかったからな」

「ふふんっ、秘密にしていたのでな。中々の一興であったじゃろう?」

 

 一矢達も満足のいく良いバトルが出来てとても晴々とした表情だ。とはいえ、バトルの最中で厳也達に出会った驚いたのは事実。その事を口にすれば、してやったりと言わんばかりにツキミと厳也が笑みを浮かべていた。

 

「とはいえ、負けてしまったからな。これからは一観戦者として応援しているよ」

「うぬ、わしらも咲達を待たせておる。ここらでお暇させてもらおうか」

 

 一矢達も後はセミファイナルステージを勝利して、ファイナルステージへ向かうだけ。ジン達も応援に徹しようと言うのか、一矢達に軽く手を振ってこの場を去っていく。

 

「次のセミファイナルが待ち遠しいねっ」

「ああ」

 

 ジン達を見送りながら、この次のセミファイナルステージについて待ちきれないとばかりに笑い合いながら話すミサと一矢。きっとセミファイナルステージも今のような素晴らしいバトルが出来るだろうと考えているのは想像に難くない。

 

(……なにか忘れてる気がする)

 

 胸には今大会でこれ以上にない程、ガンプラバトルへの高揚感と充実感が満たしている。とはいえ、一矢は何か忘れている様な気がしてならないのか、胸の引っ掛かりを感じて首を傾げていた。

 

 ・・・

 

「彼らは順調に勝ち進んでいるようだね」

 

 一方、VIPルームではAブロックのセカンドステージの様子を見届けたウィルがセミファイナルステージまで勝ち進んだ一矢達へ期待を含めた笑みを浮かべている。

 

「アンタも負けてらんないんじゃない?」

 

 ソファーに腰掛けるウィルの隣に夕香が発破をかけるように悪戯な笑みを見せる。とはいえウィル自身、負けるつもりはないのだろう。その表情は自信に満ちている。

 

「僕が優勝したら、今度こそ君のキスをいただけるかな?」

「キスだけで満足なの?」

 

 以前、世界大会のリマッチの際、頬とはいえ夕香のキスを逃してしまったウィル。今大会で優勝した暁には夕香のキスを望もうと言うのか、王子さながらに彼女の手を取る。しかし夕香は恥じらうどころか小悪魔のような表情で答える。

 

「……もっと踏み込んじゃっても良いんじゃない?」

 

 ウィルの耳元に顔を近づけ、さながら悪魔の誘惑のように甘く囁く。その言葉にドキリと強く胸打つモノを感じながら、思わず昂りつつある感情のまま身を寄せて来た夕香に触れようとするのだが……。

 

「「っ!?」」

 

 途端に壁から強い物音と衝撃が走る。突然のことに驚いた二人は近くにいる互いの顔をみて冷や水を浴びせられたように僅かに距離を置いて気恥ずかしそうに互いにそっぽを向くのだった。

 

 ・・・

 

「どうしたのだ、シオン。いきなり壁を殴って……。とてもアグレッシブではないか」

 

 その隣のVIPルームでは壁際で赤く滲んだ握り拳を立て構えるシオンの後ろ姿にガルトが声をかけていた。

 

「何故でしょうね。この壁の奥に如何わしいものを感じますわ」

「ふぅむ、隣は一体、誰が使っていたか……。そう言われると気になるような……

「名案を思い付きましたわ。隣の部屋にお父様を放り込みましょう」

 

 突然、何か受信したかと思えば衝動的に突如、壁を殴ったのだ。しらーとした表情を浮かべながら乾いた口調で話すシオン。一矢も一矢で厄介だがこっちもこっちで厄介である。

 シオンの言葉にガルトは顎に手を添えながら思い出そうとするなかシオンは引き攣った表情で壁を見やるがその途中でBブロックのセカンドステージの準備が終わり、試合が開始される。

 

 ・・・

 

≪さあ続きまして、セカンドステージBブロックの戦いとなりました!≫

 

 セカンドステージBブロック、そのバトルステージに選ばれたのは月面の地であった。早速、ハルとミスターによる実況が始まる。

 

≪出撃チームは【ひとりでできるもん! “フォーマルハウト”】【ガンダムでも何でも飛ばすよ“鹿児島ロケット株式会社”】【楽しい時を送ります“ビャンダイ”】の3チームとなります!≫

≪おや、Bブロックも4チームでは?≫

 

 これまで通り、参戦チームの名を紹介していくハルだが、今回は三チームのみだ。不思議に思ったミスターはその事を尋ねる。

 

≪はい、本来出撃するはずだった【グリズリーとお話ししよう”カリフォルニア クマ牧場”】ですが、飼育しているグリズリーが寂しがっているとの事なのでファイター兼飼育員が急遽、帰国することとなりました≫

≪彼らの必殺コンビネーション……グアドラブル・ハニー・ハントが見られないのは残念だね≫

 

 Bブロックのセカンドステージが三チームなのは理由があった。どうやら予定された一チームが棄権することとなってしまったのだ。しかし、この場に招待されるだけあった名だたるファイター達なのだろう。ミスターは純粋に惜しんでいた。

 

≪おぉっと、そうこうしている間にフォーマルハウトがビャンダイと激突!!≫

≪今大会は一人で参加しているファイターも多いが、フォーマルハウトはその存在感を一際放っているね≫

 

 棄権したチームについて話していると、早速バトルステージではチーム同士による戦闘が開始されているようだ。フォーマルハウトの……セレナの暴力的な戦闘を見ながらミスターはその実力を認める。

 

 ・・・

 

「たった一機を相手に……!?」

 

 月面をステージに戦闘をしていたフォーマルハウト達。すでにセレナのタブリスは相手を追い詰めていたのか、チームメイトを全て撃破されたリーダー機は慌てて右往左往している。

 

「されど一機さ」

 

 そんなリーダー機の前にいるタブリスはビームソードを軽く振るい、リーダー機を見据えている。その美しい姿からは想像が出来ないよな恐ろしさがあったのだ。そんなタブリスを目の前にリーダーは恐怖する。

 

 セレナはいつまでも無駄な時間を過ごすつもりはない。タブリスはビームソードの切っ先を向け、最後のリーダー機を撃破しようと向かおうとするが、その前に上方からリーダー機は撃ち抜かれ、爆散する。

 

 爆炎が広がるなか、セレナが上方を確認すれば、そこにはビームライフルを構えているロクトのコズミックアクロスの姿があった。

 

「随分と美味しいところを持っていくんだね」

「大人はそう言うものさ。ズルいだろ?」

 

 リーダー機のトドメを刺したコズミックアクロスを見ながら、嫌味を口にするセレナだがロクトはそれをさらりと躱す。互いに人を食ったような笑みを浮かべ、末恐ろしいものを感じさせる。

 

「ズルい大人、嫌な大人はよく知ってる」

 

 ロクトの言葉に口ではあぁ言ったものの別にトドメを横取りされた事は気にしていたのか、次の標的をコズミックアクロスに変え、スラスターを噴射させて、一気にコズミックアクロスへと向かって行く。

 

(速っ──!!)

 

 飛び立ったと思えばもう既に眼前にいるタブリスのそのあまりの機動力にロクトは目を見張る。とはいえ、タブリスはビームソードを振りかざしており、機動力を自慢とするコズミックアクロスは咄嗟に避ける。そのままコズミックアクロスは距離を取ろうとするが、タブリスが放った横殴りのヒートロッドが直撃し、コズミックアクロスは月面の地に落下する。

 

「そんな悪い大人はやっつけないとね」

 

 月面に落下したコズミックアクロスを追撃しようと、タブリスはゆっくりと月面へ降下していく。すると月面の漂った土煙の中から赤い閃光が飛び出し、タブリスへ向かっていく。

 

 それはトランザムを発動させたコズミックアクロスであった。放たれたビームサーベルの一撃をすぐさまビームソードで受け止める。

 

「大人が嫌いなのかい?」

「嫌いだよ。何も知らないくせに、いつも知ったような口を利く」 

 

 ビームの刃同士の接触により、周囲にスパークが巻き起こるなか、ロクトはセレナの大人に対する嫌悪感を感じさせる発言に尋ねると、笑みを浮かべてセレナはさらっと答えるものの、その目だけは笑ってはいない。

 

 セレナの周囲の大人……それは両親だけではなく、かつての教育係、そして家柄から会わざるえなかった大人達。その全てがセレナにとって嫌悪の対象でしかなかった。

 

「……君にそう思わせてしまったのは、大人の責任だね」

「別に構いやしないさ。ボクはボクなりの生き方をする。これ以上の邪魔をされなければなんだって良い」

 

 激しい剣戟を繰り返しながら、ロクトはセレナの言葉に目を細めながら話すも、セレナは今更だと言わんばかりにビームソードを振るう。そんなタブリスを相手にするコズミックアクロスの戦い方はまるで受け止めるような戦い方に変わっていく。

 

「君は余裕があるように見えて、まったくないんだね」

「……また目障りなことを口にする」

 

 短い間とはいえ、セレナに接して彼女の状態を見抜くロクト。しかしセレナからしてみれば、その言葉はただ彼女の癪に障るだけなのだろう。その攻撃をさらに強めていく。

 

「大人ってのは哲学みたいなものだよ。身体だけが大きくなっても中身が伴ってなければ、それは大人と言えない……。僕はそう思っている」

「……」

「君の周囲にいる大人達はどんな人物なのかは知らない。だが君に不信感を与えるには十分なんだろう」

 

 タブリスの攻撃を受け止めながら、話し続けるロクト。しかしコズミックアクロスの機体は現在進行形で傷を負っていく。しかしそれでもロクトはタブリスの攻撃を受けながら話すのを止めない。

 

「そんな人間達の為に君が窮屈で辛い思いをする必要なんてない」

「……ッ」

 

 コズミックアクロスを追い詰めていると言うのに、通信越しで聞こえるロクトの声に動揺はなく、寧ろその声色はとても優しい。それがセレナを惑わせる。だからこそすぐにこのバトルを終わらせようと今なお、攻撃を続け、たった今、コズミックアクロスの片側のGNドライブごと右腕を切断する。

 

「少し物の見方を変えてみるのも良いかもしれないよ。そうすると意外なことが思い浮かぶ時もある」

「……ボクに人生を説いてるつもりなの?」

 

 トランザム状態を解除されたにも関わらず、ロクトはタブリスの攻撃を受けながら話すと、その言葉を聞きながらセレナは僅かに顔を顰める。遂にタブリスのビームソードの刃はコズミックアクロスを貫く。

 

「そんな高尚なものじゃないさ。あくまで僕なりの助言。答えを決めるのは君自身だ」

 

 受け止めたビームソードに身を貫かれ、コズミックアクロスの機体が炎に包まれて消えるのは時間の問題であろう。しかしロクトはそれでも動じる事はなく、コズミックアクロスの左手は刃を突き出したタブリスの右腕にそっと添えられる。

 

 セレナはモニター越しに見えるコズミックアクロスの姿を見つめる。モニター越しにでもコズミックアクロスはちゃんとこちらを見据えていた。しかあしその時は訪れようとしたのか、巻き込まぬようにコズミックアクロスはタブリスから身を離すと、直後に爆散する。

 

「……だから大人は嫌いなんだ」

 

 フィールドに残ったのはタブリスただ一機。それはフォーマルハウトの勝利を意味する。しかし、セレナの心中には勝利への喜びなどはなく、ずっと頭の中にロクトの言葉が過っていた。


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