既に波乱の大激戦を繰り広げたファーストステージもセレナの勝利で幕を閉じ、次のステージであるセカンドステージが執り行われようとしていた。ファーストステージその物は午前中に行われ、今は丁度、昼時。セカンドステージは午後から執り行われるため、参加チームや来場客には束の間の休息の時間が訪れていた。
「お姉さま、昼食をご一緒出来ませんか?」
「シオンの頼みは断らないよ」
関係者通路ではファーストステージを終えたばかりのセレナにシオンが昼食を一緒にとろうと声をかけていた。元よりシオンの頼みならば受け入れないと言う選択肢はないのか、セレナは快く承諾する。
「ならば私もご一緒に」
すると物陰からスラッと軽やかに回転しながらガルトがポージングを決めながら現れる。先程までシオンには微笑んでいたセレナもガルトを視界に入れた瞬間、チベットスナギツネばりの何とも言えない表情を浮かべる。
「……と、言いたいところだが、私はこれから同じ出資者達と食事があるので一緒に食事は出来ないのだよ」
「それはそれは」
「私がいなくては食卓に光が灯らないことは重々承知しているが、これも仕方がない事だ。許せ、娘達よ」
そんなセレナを他所にガルトは昼食に同席できない旨を伝えると、少しはセレナの表情にも明かりが宿るが、それでも悲劇の主人公と言わんばかりに眉間を抑え、嘆き悲しむガルトの姿にまた表情に明かりが消えていく。
「だが悲しむことはない。今日の夜はこの父が添い寝をしてやろう!」
「悪い冗談だ」
「ありえませんわ」
だが途端に輝かしい笑みを浮かべて両腕を広げる。しかしこれには間髪入れず、真剣な様子でセレナとシオンに即答される。この男と添い寝でもしようとするのなら絶対に眠れない。もっとも娘達の反応にも遠慮することはない、とあくまでポジティブだ。
「下らない冗談は後退し始めた頭だけにしてくれないかな」
「なに……っ!? なんて言う事だ……っ」
しかも更にセレナはガルトに毒を吐く。その視線はガルトの少し照りの見える頭部に集中されており、今、初めて自覚したのか、ガルトは咄嗟に両手で頭を抑えている。その様子は愕然としており、これで静かになると思ったセレナ達だが……。
「私は身体的特徴でも輝きを放っているわけか! やはり私こそ太陽ということなのだなぁっ! ヌァーハァッハッハっハッハッハッハゲッ!!!!!」
(……どれだけポジティブなんだ、この人)
するとガルトは抑えていた手を離し、頭部を露わにしながらクルクルとその場で回転している。その姿を見ながら、何故、この親から自分のような人間が生まれて来たのだろうかと頭痛を感じながらセレナは首を傾げている。
「とぉころでぇ……セェッレェーナァっ……」
「……なにかな」
回転をピタリと止め、セレナ達に背を向けたまま体を反らしてセレナに声をかける。そんな父の姿にまともに話すことは出来ないのかと溜息交じりに答える。
「あのような戦い方はエレガントではないな」
「……」
「ただ勝てば良いと言うものではないのだよ。それだけは肝に銘じておくのだな。では、アデュー」
すると先程のファーストステージの試合内容について触れてくる。その言葉にまた勝手に何を言ってくるんだとばかりにセレナはその瞳を剣のように鋭くさせるがガルトは全く意に介した様子もなく、キラリと歯を輝かせ、指を振りながらこの場を後にするのであった。
・・・
「この後はセカンドステージかぁっ……」
彩渡商店街チームもまた近くで設けられているフードコートで軽い食事を済ませようとしていた。注文した料理をテーブルに置きながら、ミサはこの後のセカンドステージが待ちきれないとばかりに呟く。
「ネオ・アルゴナウタイも同じAブロックらしいぞ」
「セレナちゃん達とバトルをしたチームだよね」
横に座るカドマツがセカンドステージについて考えているミサに話を振ると、そのチーム名は世界大会でのフォーマルハウトとのバトルが記憶に新しい為、ミサもすぐに思い出す。
「セレナちゃん、一人でファーストステージの全部のチームを倒してたよね」
「……やっぱりアイツは強いな」
そんなセレナも先程のファーストステージでは同じステージの出場チーム全てと交戦し、一人でこれを撃破した。最後の方は消耗もしていたようだが、やはり彼女の実力は全く油断できないだろう。
「そう言えばBブロックには、ロクトさんもいるよ」
「……ファーストステージじゃ特に問題もなさそうだったな」
注目すべきはAブロックだけではなくBブロックもだ。ウィルやセレナだけではなく、あちらにはロクトがいるとのこと。しかもそのバトルは例え世界の強豪が集まる本大会でも難なく突破している点を考えても、その実力は世界に申し分ないほどに高まっているのだろう。
「だが意外にダークホースもいるかもしれんぞ」
「ダークホース?」
セカンドステージもまだまだ油断ならない。果たしてセカンドステージでは一体、どんなバトルが待っているのか、そしてファイナルでも一体、どんなチームが勝ちあがるのか。想像するだけでもネタはどんどん溢れてくる。するとカドマツは笑みを浮かべながら口を開くと、一体それはどんな存在なのだろうかとミサは首を傾げていた。
「ああ。この大会にはな、一般から勝ち進んだ強豪ファイター達がチームを組んで出場しているプライべーター選抜チームがあるんだ。プライベーターだからって油断してると、足元すくわれるかもな」
「誰だろうと絶対に油断なんてしないよ」
ダークホースとなりえる存在は一体、誰なのかを説明する。どうやら本大会は一般からの選抜ファイターも戦っているらしい。とはいえ相手が何であろうとあくまで自分達のバトルをするつもりなのだろう。ミサは自信満々な笑みを見せながら話すと、その意気だとカドマツやロボ太も強く頷く。
「あっ、イッチ!」
そんな会話をしながら食事を進めていると、一矢を呼ぶ声が聞こえ、視線を向ければ裕喜達の姿があり、軽く手を振って一矢達に歩み寄る。
「ハローロー。ファーストステージ突破、おめでとー」
早速、風香からファーストステージの突破を労われる。とはいえこれはまだ始まりに過ぎない。これから寧ろ始まっていくのだ。
「……ところで翔さんは?」
「到着した時、翔さんに気づいた押し寄せる人波に……」
風香の顔を見て、まだこの場で会っていない翔についても触れるが、同やら翔は翔でトラブルに見舞われているらしい。まるで翔が亡くなったかのように風香はよよよ……と泣き真似をしながら答える。
「そう言えばさっき、咲ちゃん達に会ったよ」
「咲ちゃん達も来てるんだね」
ふと裕喜はメガフロートで出会った知り合いの話をする。やはり世界大会並の規模で行われている為に、多くの注目を集め、この場に訪れるのだろう。
「……ところで夕香は?」
だがそんな中、一矢は裕喜達の中に夕香の姿がない事に気づく。その言葉を聞いた裕喜は引き攣った笑みを見せながら、一矢と視線を合わさぬように視線を逸らす。
ピロピロリーン
一矢にNTばりの閃きが走り、無言で立ち上がるとVIPルームに乗り込んで行こうとするが、ミサと裕喜達によって必死に引き留められる。
「離せッ! アイツと一緒にいたら何をされるか分かるか!!」
「な、なにもしないと思うよ、多分……」
「多分ってなんだ!? アイツとの決着はリアルファイトでつけてやる!!」
羽交い締めにされながらでも必死に振り解こうとする一矢を何とか宥めようとするも、自信のない発言をする裕喜に一矢はしばらく騒いでいた。