機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ガンプラバトルロワイヤル

 百貨店でのイベントまで後一週間、あれからも夕香は百貨店でのイベントの為だけにガンプラバトルを行っていた。

 今も市街地を舞台にしたステージで夕香のバルバトスはビルに隠れて周囲の様子を伺っていた。周囲の建造物は荒れ果て、バトルの凄まじさを物語っている。

 

「……ッ」

 

 ふと夕香のシミュレーターのモニターが僅かに暗がりが差す。

 すぐさま反応するシミュレーターのセンサーが反応すれば、バルバトスの真上には白と黒を基調にした赤いABCマントに身を包んだガンダムが腕を振りかぶって急降下してきていた。すぐさまスラスターを使ってギリギリのところで避ける。

 

 後、数秒反応が遅れたらやられていたかもしれない。それを示すかのように先程のガンダムであるストレイドガンダムが放った一撃は凄まじく、地面が陥没していた。だが逆に言えば着地したばかりの今がチャンスだ。バルバトスはメイスを掲げて攻撃を仕掛けようとするが……。

 

「……!」

 

 バルバトスの周囲をビルの隙間からGNソードピットが現れ襲い掛かる。縦横無尽に駆け巡るGNソードピットに反応が遅れてしまった。何とか対応しようとするものの次第に翻弄されて行ってしまう。

 

 ストレイドはGNソードピットを装備してはいない。相手はストレイドだけではなかったのだ。GNソードピットに何とか対応しようとするが翻弄されているバルバトスの姿は哀れみさえ感じる。そんなバルバトスを終わらせたのは背後から放たれた赤色の極太のビームだった。バルバトスは胴体を撃ち抜かれ、そのまま糸が切れた人形のようにその場に倒れこんで爆散する。

 

 爆発をバイザーに映しながら静かに見つめるのはジェスタを元にカスタマイズしたジェスタ・キラウエアだ。ビームマグナムを構えたまま、その背部のユニットにGNソードピットが戻ってくる。このバトルは夕香の敗北で終わるのだった。

 

 ・・・

 

「あーあ……。また負けた」

 

 あれから数分後、夕香は喫茶店に訪れていた。

 椅子にもたれながら少し悔しそうな様子で呟き、アイスコーヒーを飲んでいると、その姿に向かい側に座っているレンとジーナが苦笑している。

 

「でも夕香がいきなりバトルしようって連絡来た時はビックリしたよ。しかも2対1でなんて……」

 

 ガンプラバトルを始めて数日。いまだNPC以外に勝ちがない夕香は唸っている。その姿を見て苦笑するレンは昨晩、夕香から来た連絡を思い出して笑う。彼の言葉通り、先ほどまで彼らは夕香はバトルをしていた。ストレイドを使っていたのはレンだ。

 

「でも段々と動きが良くなってきてるわ。周りの建造物を利用しながら戦うスタイルもグッドよ。バトル慣れすれば見違えるんじゃないかしら」

 

 そしてジェスタ・キラウエアを使っていたのはジーナだ。元々、ジェスタK自体、レンのお下がりを彼女がカスタマイズしたものである。今日、何度か夕香とバトルをしていて夕香の戦い方を見たジーナはクスリと笑い、彼女を褒める。

 

「ぇ……あ……はぁ……」

 

 普段は飄々としている夕香だが褒められ慣れてはいないのか僅かに俯いて生返事をする。その姿を見ていると褒め倒してみたくもなるがここは抑え、ジーナは隣に座っているレンの手に自分の手を絡ませ、レンは顔をリンゴの如く真っ赤にする。

 

「……今日は付き合ってくれてあんがとね。また気が向いたらイッチだけじゃなくて今みたいにアタシとも遊んでよ」

 

 そのレンと彼に妖艶に感じる微笑みを向けるジーナの様子を見て主にジーナからの一方的ではあるだろうがいちゃつくだろうと察した夕香は財布から金を取り出すと今、注文した品全ての料金を少し超えた額を置いて立ち上がって礼を言って店を出る。元々この喫茶店自体、今日バトルに付き合ってくれた二人への礼として訪れたのだ。

 

 ・・・

 

「やっほーミサ姉さん、今日はごめんね」

 

 レンとジーナから別れた夕香は2時間後、土手に訪れていた。

 土手の下のグラウンドは少年野球で賑わっている。事前にミサに頼んで塗装を教えてもらうために呼んだのだ。トイショップに出向く事も考えたが一矢のことを考えて、相談したミサの提案でここにしたのだ。

 

「ミサ姉さん、念押しするようだけど……」

「分かってるよ、一矢君には内緒にしとくって」

 

 夕香も一矢にはガンプラを作っているというのはあまり知られたくないのか、念押しすると、そんな夕香に苦笑しながらミサは手をひらひらさせ頷く。

 

 ・・・

 

「さて、じゃあ塗装をやってみますかっ!」

 

 土手下で塗装の為の簡易的ではあるが準備を行った後、夕香はミサに会う数時間の間に分解したバルバトスのパーツを予めミサから言われて準備していた両面テープが貼られた割り箸に貼り付け、準備が整った所でミサが意気込んで口を開く。

 

「夕香ちゃんはバルバトスをこのままの色で塗装したいんだよね」

「うん、その為に缶スプレーは買ったしね」

 

 ミサは改めて塗装のプランを確認すると、場所も場所な為、手頃な缶スプレーを選んだミサに言われて準備してきた夕香は頷きながら数種類の缶スプレーを見やる。

 

「じゃあ今回はサフを吹かずに成型色を活かして塗装しよっか。パーツとの距離は大体、20cmちょいくらいあれば良いかな?」

 

 夕香に頼まれた時点である程度、こちらからも話を聞いていたミサは今回はサーフェイサーの使用をせずに成型色を活かした塗装を行おうと説明を始める。

 

「最初は軽く吹いて、塗料を定着させれば今度はタレにくくなるから、次はちゃんと色が乗るように吹いていこうね。全体的にムラがないように……こうやって……ね」

 

 まずは手本にミサが慣れた動きでパッパッと塗装を始めていき、夕香はその後ろで誰かがプレイしているゲームを鑑賞する子供のように見つめている。

 

「まっこんな感じかな。じゃあ今度は夕香ちゃんの番っ!」

 

 手本として塗装をしたミサは今度は夕香に声をかけ、缶スプレーを手渡す。今まで説明をちゃんと聞き、その目に焼き付けていた夕香は缶スプレーを受け取り、パーツが貼られた割り箸を手にとって距離をとる。

 

 ・・・

 

「……うんうん、良いよっ! 塗料の吹き過ぎでモールドが埋まってるなんて事もない! 今度は細部の塗り分けを……」

 

 あらかた塗装を終えると、ちゃんと色が乗ったパーツを見て、ミサが褒め称えるとやはり褒め慣れない夕香は気恥ずかしそうに頬を掻いている。そんな夕香を微笑ましく思いながらもミサは更に細部への塗装を行っていくのだった……。

 

 ・・・

 

「ところで夕香ちゃんは何で一矢君に知られたくないの?」

「あーっ……。うん……その……恥ずかしいじゃん。イッチは凄いガンプラ作れるのに、その妹のアタシは毛が生えた程度しか出来ないって。アタシがイッチより上だったり同じくらいなら良いけどさ」

 

 塗料が乾くまで談笑をしているミサと夕香。

 何気なく夕香が何故一矢に隠しているのか聞いてみると、ミサを今日、付き合わせてしまったと言う事もあって素直に答えられる。

 どうせ一矢に発覚してしまう時は来るかもしれないだろう。だがその時が来るならば自分の技術が上達した時にしたい。今のままで一矢に見せたくはなかった。

 

「……じゃあいつか自慢出来ると良いね」

「……うん」

 

 単純に言ってしまえ発覚する時は一矢も驚くほどのガンプラを見せたいと言う話だろう。そんな夕香を微笑ましく思ったのか笑いかけるミサに夕香も照れ臭そうに頷く。

 

「──二人して何してんの」

 

 ただ静かでなんとも言えない空気が二人の間で流れる。

 

 だが別に悪い気はしなかった。

 しかしそんな雰囲気を打ち破るように背後からボソッと声をかけられ、二人は驚いて抱き合って背後を見ると、そのような反応をされて逆に驚いている一矢がいた。

 

「イ、イッチこそ何してんの……?」

「……母さんに晩飯の材料、買ってこいって言われたから」

 

 まさかの一矢の登場に驚きながらも、乾燥させてるガンプラが見えないように立ち上がりながら夕香はおずおずと問いかければ、両腕をポケットに突っ込み、腕に買い物をしてきたのだろう食材が入ったビニール袋をかけながら気怠そうに一矢は答える。当初は渋った彼だが夕飯を抜きにするぞと母に脅されれば買いに行かざる得なかった。

 

「わ、私達は……」

「その……」

 

 俺は答えたぞ、そう言わんばかりに黙ってその半開きの目を夕香とミサに向ける一矢になんと答えるべきか互いを見合わせる。一矢の登場は本当に予想外だった。やがて二人の口から出た答えは……。

 

「「ティ……TMRごっこ……?」」

「風吹いてないけど」

 

 予想外の事態に頭が回らなくなったのか、二人して同じ答えではあるがどこかおかしなことを答える。しかしその二人になにを言ってるんだと言わんばかりに素早く切り返す。

 彼の中ではなんで疑問形なのか、そもそもTMRごっこをするならもっと特徴的な服を着るんじゃないのかと言う疑問がある。

 

「まぁ良いや……。夕香、今日は遅れて帰ってきなよ」

「今日、唐揚げでしょ? 取り分を取られる前に帰るよ」

 

 しかし然程興味もなかったのか、興味を無くした一矢は帰り道に選んだこの道を再び歩き出そうとすると最後に妹に気を使っているのかよく分からない言葉を口にするが、その言葉の真意を一矢が腕に通しているビニール袋の中身の食材を見て察知した夕香は軽い笑みを浮かべながら返答する。

 

 雨宮家は唐揚げなどは一つに纏めて出される。つまりはよっぽど家族に気を遣わなければ好きに食べられると言う事だ。夕香の帰りが遅くなればなるほど、彼女の食べる分は少なくなってしまう。流石に一矢や他の家族も夕香になんの気も使わないわけではないし、一矢も冗談で言っているわけだが、夕香のその様子は一個でも譲らないと言わんばかりだ。そんな夕香に鼻で笑いながら一矢は再び帰り道をトボトボ歩き始める。

 

「じゃあミサ姉さん、今日はありがと」

「うん、また遊ぼうね」

 

 塗料も乾いたところで夕香は帰り支度をすると途中までミサと一緒に帰りながら別れの挨拶も兼ねて改めて礼を言うと、ミサも快活な笑みを浮かべて二人はそれぞれ帰路についた。

 

 ・・・

 

「さぁ本日はタイムズ百貨彩渡店の開店を記念してのガンプラバトルイベントッ! 本日はゲストにKODACHIさんをお招きしてますっ!!」

「よろしくお願いしますっ!!」

 

 数日後、あれからバルバトスにスミ入れをしたりバトルをしたりと出来る限りのことをした夕香。ついに百貨店でのイベント当日になった。イベントMCの女性が元気に第一声を発し、ゲストに招いた裕喜が話していた売り出し中のアイドル歌手であるKODACHIを隣に紹介をすると、背中まで届く艶やかな黒髪の童顔の少女であるKODACHIこと御剣コトはマイクを持って挨拶をし、彼女目当てのファンは歓声を上げる。

 

 百貨店の地下のゲームセンターに設置されたガンプラバトルシミュレーター、そして近隣のタイムズ百貨店とマッチングしての大規模なガンプラバトルのイベントを行おうというのだ。

 

「凄い人だね……」

「うざい……」

 

 そんな集まった人々の中にはミサと一矢がいた。更に言えば別の場所には裕喜や貴弘など様々な人物がいた。

 

 イベントMCとKODACHIのトークを耳にしながら、どこを見渡しても人ばかり、その中にいるミサはある程度、予想していたとはいえこの多さに驚き、密集する人々に一矢は煩そうにしている。

 

 この中にKODACHIのファンはいるが二人のようにガンプラバトルの観戦目的で訪れている人も勿論いるからだ。彼らの場合、今後の戦い方の参考と知り合い達が参加していると言うのも理由のうちだ。とはいえまさか夕香もその中にいるとは簡易的な塗装の仕方を教えたミサでさえ知らない。

 

「このイベントの為に、この百貨店のステージを作成しましたっ! つまりはこの広い百貨店がバトルの舞台なのですっ!! それではこの彩渡店開店を記念したガンプラバトルロワイヤル……スタートですっ!」

 

 バトルを映す周囲の周辺モニターでは百貨店をモチーフに作製されたステージの階層ごとの映像や場所の切り替わりなどが映っていた。KODACHIとのトークも終わり、いよいよバトルの開始を告げるイベントMC。互いにこの場にいると知らないとはいえ、夕香はガンプラバトルに、一矢はモニターに集中するのだった。


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