強さだけがあの空へ近づく羽だって
≪おぉっと!フォーマルハウトが早速、カプセルカンパニーを破ったぁっ!!≫
Bブロック最後のファーストステージが遂に行われた。モニターには早速、セレナの操るタブリスが瞬く間に出場チームの一つを撃破し、あの圧倒的な強さからハルが興奮気味に実況する。
「流石だね、彼女は」
それをガルト達とはまた違うVIPルームのソファーに腰掛けて、眺めていたのはウィルであった。早速、戦果を挙げたセレナを称賛していた。
「彼女の単純な実力だけで言えば、僕も一矢も敵うかは分からないんだ、悔しいけどね」
そのままセレナの実力について話し続けるウィル。セレナは元々の才能以上の努力を続けて来た。磨き抜かれたセンスと積み重ねられた操作技術は並みのファイターではまず太刀打ちできない。世界大会でのミサ達の勝利も彼女達が実力を上げたと言うのもあるが、当時のセレナの精神が不安定だったのもある。素直に認めることは悔しいがファイターとして認めざる得なかった。
「……んで、アタシはまたここに連れて来られたわけだけど」
そう語るウィルにジトッとした目を向けたのは隣に座っていた夕香だった。
「試合が始まる前にいきなり来て、ひとのこと連れて行くんだもん。下手したら誘拐だよね」
「拒否しなかったんだ。君だって満更でもないのだろう」
試合前にウィルが接触してきたかと思えば、VIPルームに案内された夕香。もうウィルがわざわざ自分の前に現れた時点でこうなる事を予想していたので流れるままに連れて来られた。そんな夕香にウィルは笑いかける。
「やはり君の傍は落ち着くよ。特にこういった場だとね」
「まったく仕方ないやつだなー。その代わり、ちゃーんと勝つんだよ?」
やはり普段通り過ごしていても多かれ少なかれプレッシャーは感じているのだろう。ウィルはもう既にこの前に行われたファーストステージを突破し、Bブロックのセカンドステージへ進出している。ふと零したウィルの呟きに手のかかる子供と接するように溜息交じりに微笑を見せる。
「あっでもお触り禁止ね。触ったら罰金」
「いくらでも払おう」
「やーめーてーよー!」
とはいえ男女二人きりの空間で夕香とウィルの距離は近い。いくら何でもウィルはそんな事はしないだろうとは思うが、一応の注意をすると寧ろ望むところだと言わんばかりに身を寄せるウィルの頬を押し退ける。一見してじゃれ合っている二人の口元には笑みが浮かぶのであった。
・・・
「さて、と……これで残るは後一つだけかな?」
一方、雨が降りしきる広大な野原を舞台にしたバトルフィールドでは既に二チーム目を撃破したタブリスが足元に転がる残骸を見つめながら最後に残ったチームを確認すれば、それは莫耶とアメリアのコンビであった。
同時にセレナのガンプラバトルシミュレーターに警戒を知らせるアラートが鳴り響くと、モニターに映る空の彼方がキラリと光り、次の瞬間、大火力を誇るビームの数々が降り注ぐ。
「──そうそう、君達だったか」
タブリスがいた地点に着弾し、爆炎が巻き起こるなか、立ち込める煙を抜け出て空に舞い上がりながら、セレナは攻撃を仕掛けて来た相手を見やる。そこにはツインバスターライフルを構えるストライクシードフリーダムと高エネルギー長射程ビーム砲を向けたストライクシードデスティニーの姿があった。
「折角のめぐりあいだ。中々面白い縁だね」
「スーパードラグーン……要するにファンネルと一緒だ! 使いこなしてみる!」
お互いに同じ世界大会を出場した者同士だ。余裕のある笑みを浮かべるセレナに莫耶はストライクシードフリーダムのスーパードラグーンとストライクシードデスティニーと共に両足のファンネルを展開する。それを確認したタブリスはストライクシードフリーダム達へ向かっていく。
「ちょこまかと……ッ!」
相手を惑わす為、まるでUFOのような直角的な飛行を行いながらあっという間にストライクシードフリーダム達との距離を詰めていくタブリス。そのかく乱目的の動きに莫耶は苦い表情を浮かべ、ピット兵器をタブリスに集中させるなか、その身の射撃兵装を放っていく。
「だったら!」
それでもタブリスは決して怯むこともなく突撃してくる。その進行を食い止めようとストライクシードデスティニーがアロンダイトを構えて前に出る。進攻上に現れたストライクシードデスティニーに対してタブリスも反応してビームソードとアロンダイトがぶつかり合う。
「助かったよ。これで君のパートナーも下手なピットの使い方は出来ないだろうしね」
「っ……。だったらここで倒す!
鍔迫り合いとなり、そのまま剣戟を繰り広げるタブリスとストライクシードデスティニー。しかしいかんせんほぼ密着している状態で行われている為、アメリアの邪魔になることを考えたストライクシードフリーダムのピット兵器の攻撃は弱まっている。その事を指摘するセレナにアメリアは更にその勢いを強くしていく。
とはいえスーパードラグーンの勢いを弱めたとはいえ、まだストライクシードフリーダムには豊富な武装がある。レールキャノンやカリドゥスを発射し、タブリスの牽制をかける。
「もう足手まといは嫌。私の所為で負ける莫耶はもう見たくない! だから私は負けられない! 負けられないのよ!!」
ストライクシードデスティニーから咄嗟に離れて、シールドで防ぎつつ回避するタブリス。そんなタブリスを見つめながらストライクシードデスティニーはストライクシードフリーダムと並ぶ。世界大会でも自身が最初に撃破され、その後に莫耶は三対一の状況を強いられてしまった。だからこそ足手まといになりたくないと願った。
「アメリア! VLを展開して連携で行くぞ!」
「莫耶! 光の翼を展開して連携で行くわよ!」
莫耶とアメリアの声がほぼ同時に重なり、お互いに頷き合うとストライクシードフリーダムとストライクシードデスティニーはそれぞれトランス系のEXアクションを選択して、タブリスへ向かっていく。
「負けられない、か……。でもそれは君達に限った話じゃないだろう」
タブリスを包囲して最高機動で攪乱しつつ出し惜しみする事無く、その身に装備された武装を放っていく二機。流石にこうなるとタブリスも無傷で済むわけではなく、被弾が目立っていく。しかしそんな状況でセレナは焦ることなく、ただ二機の動きを分析していた。
「タブリス……。この名を与えた君はボクに何を齎してくれる?」
どんどんとタブリスの被弾する箇所は増えていき、畳みかけようとストライクシードフリーダムとストライクシードデスティニーはビームサーベルとアロンダイトをそれぞれ持って迫ってくる。その姿を見ながら戦場を舞う己の新たな分身に問いかける。
雨を払って残光が走った。
同時に莫耶とアメリアは目を見開き、驚愕する。何故なら自分達の攻撃が虚空を切ったのだから。だが次の瞬間、二機のバックパックを破壊するように強い攻撃を受ける。
背後に反応があり、二機が振り返った瞬間、ストライクシードデスティニーが持っていたアロンダイトはヒートロッドによって弾かれ、同時にその機体はビームソードによって貫かれていた。
「君の翼はボクになにを見せてくれる?」
そこにはツインアイを輝かせ、ゼロシステムを発現させたタブリスの姿が。
「アメリアッ!!」
貫かれたストライクシードデスティニーを見て、莫耶はビームサーベルを使用して助けようとするのだが、タブリスはストライクシードデスティニーの首根っこを掴んで盾代わりするかのようにストライクシードフリーダムに差し向けた為、踏み止まってしまう。
「悪魔でも天使でもなんだって良い」
抵抗しようとアーマーシュナイダーを取り出そうとする前に出力を上げたビームソードを強引に振り上げた事によってストライクシードフリーダムの前でストライクシードデスティニーは真っ二つに切り裂かる。
ストライクシードデスティニーが目の前で撃破されたことによって莫耶はアメリアの仇を討とうとピット兵器とビームサーベル、レールガンを駆使してタブリスに襲いかかる。
「ボクはボクの為に戦う」
自分の空を覆う雲を晴らすために
自分に絡まった鎖を壊すために
自分と言う存在を認めてもらうために
……自由になるために
「どうかボクに自由を」
その為に──。
「その為ならなんだってくれてやる」
まるで禁忌を侵す契約のようだ。だがそれくらいで丁度良いと思える。生半可な覚悟では自分が望むモノは手に入らないのだから。
ストライクシードフリーダムからの被弾をものともしない捨て身の戦いをするタブリス。それはまるで鬼神のような気迫を発揮し、ビームソードをしまってバックパックの二つの黒と金のバエルソードを彷彿とさせるようなレーザー対艦刀を抜き放つことで圧していく。
距離を取りながらレールキャノンを発射するストライクシードフリーダムにタブリスはレーザー対艦刀を連結させて、水車のように回転させながら防ぐと、そのままヒートロッドを叩きつけ、ストライクシードフリーダムの機体が揺らめいた瞬間、ビームソードを解き放ってレーザー対艦刀と共に振るってストライクシードフリーダムを撃破する。
≪フォ、フォーマルハウト、ファーストステージ突破です!!≫
タブリスだけがフィールドに残り、ハルは唖然とした様子ながらBブロック最後のファーストステージを突破したセレナへ声を上げる。しかし唖然とするのも無理はないのだろう。
雨は以前、フィールド内に降り注いでる。そんな雨雲が暗がりが広げる空の下、激しく冷たい雨に打たれるボロボロのタブリスはあまりにも痛々しかったからだ。