「やあ、ファーストステージクリアおめでとう」
ファーストステージを突破した彩渡商店街チーム。関係者通路ではそんな彼らを待っていたウィルが祝いの言葉をかけた。
「あれ、ウィルも出てたの?」
「君達とは違って、Bブロックでね。だから戦えるのはファイナルステージだ」
この場にウィルがいると言う事は彼もまたこの大会に招待されたと言う事だろう。予想していなかった再開に驚いているミサに微笑を浮かべながらウィルは己がBブロックに振り分けられている事と共にこの大会に参加している事を明かす。
「お互いファイナルまで進めば、あの世界大会の再現ってわけだ」
「正式な大会でのリベンジのチャンスだ。だから途中で負けたりしないでくれ」
また大会が行われているこの場でウィルと出会うことは何か因縁めいたものを感じる。非公式ながらリベンジマッチが執り行われたとはいえ、それでも公式大会ではまだだ。カドマツの言葉に公式大会での決着を心待ちにしているのか、ウィルは一矢達に期待からくる注意の言葉をかける。
「そっちこそ途中で負けないでよ?」
「努力するよ」
それは一矢達も同じことなのか、ミサがウィルとのバトルを楽しみどに感じながら声をかけると、口ではそう言いつつも、そもそも負けるつもりはないのか、余裕のある笑みを浮かべる。
「……俺達はまだ一勝一敗だ」
「ああ。次でハッキリさせようじゃないか」
なにより一矢とウィルだろう。この二人は互いに口に出さなくともライバルと言える間柄だ。この二人のバトルもまだ一勝一敗。それも今回で変えたいものだ。
「ところでドロシーさんは来てないの?」
「多分あちこち見て回ってるんだろう。一緒の飛行機で来たんだが、すぐ消えてしまった」
そう言えばいつもはウィルの傍らに控えているドロシーの姿がどこにも見当たらない。そのことに触れるミサにいつの間にかいなくなってしまったドロシーに苦笑気味に答える。
「自由だなあ」
「本来なら今日はオフだったんだ。別に構わないさ」
主をほったらかしに好きに行動しているのはドロシーらしいと言えばらしい為、疑問に思う事もなく納得するミサ。とはいえ、ドロシーは今日は休日の為、ウィルはその行動を咎めるつもりはないようだ。
「セレナちゃんも一人だったよね」
「あっちもあっちで休みかなんかなんだろうな」
ウィルが一人で言えば、この場で会ったセレナも一人であった。そのことを口にするミサにメイドも色々あるのだろうと一矢は話す。
「そう言えば、そろそろ最後のBブロックファーストステージの時間だ。彼女はそちらに参加する予定だよ」
「ホント!? じゃあちょっと見て行こうよ!」
セレナの名前が出て来たので、ふと思い出したようにこの後、執り行われる最後のBブロックファーストステージについて教えると、折角のセレナのバトルならば、ちゃんと見たいとミサは一矢の手を取る。
「僕はVIPルームで観戦させてもらうよ。知らない仲じゃないからね」
「……おい待て」
ウィルは世界大会の時同様にVIPルームでの観戦をするつもりなのだろう。しかしそんな彼を一矢が呼び止めた。
「俺の妹をその部屋に連れ込むなよ」
「……努力するよ」
「目を見て話せ、目を」
ふと前回の世界大会決勝前のやり取りを思い出した一矢はウィルに釘を刺す。しかし目を泳がせ、視線を逸らしながら答える彼にジトっと据わった目で見つめる。
「因みにだが、夕香と関係が進めば君は僕の義兄になるのかな?」
「絶対になってたまるか」
ふと疑問に思った事を口にするウィルに調子に乗るなとばかりに一矢が食って掛かろうとするが、その前にどうどうと後ろから羽交い締めにする形でミサが一矢を止めながら、そのまま連れて行くのであった。
・・・
「次は漸くセレナの出番か」
ここは数少ないVIPルームの一室。シャンパン片手にソファーに悠然と腰かけているガルトはモニターに映るBブロックのトーナメント表を見ながら退屈そうに呟く。これから行われるBブロック最後のファーストステージに出場するのはセレナや莫耶達を含めた4チームであった。
「……お姉さまは精魂込めたバトルを行いますわ」
「そんなものは当然のことだ。全ては結果なのだよ。誰もが認める美しい勝利こそアルトニクスの家に相応しい」
その隣にはシオンもおり、これからバトルを行うであろう姉の勝利を心から願いながら答えると、特に過程は求めてはいないのか、どうでも良さそうにシャンパンを揺らしている。
「……お姉さまは……きっと……ずっとこんなことを強いられてきたのでしょうね」
「なにか言ったか?」
ガルトの言葉に顔を背けながら、セレナを想って沈痛な面持ちを浮かべながら呟くシオン。セレナはずっと美しい結果のみを求められてきた。それだけでも苦痛だと言うのに、決して妹であるシオンの前だけでは常に強いセレナ・アルトニクスという存在でいた。あの時はただ純粋に姉を憧れていたが、今ではきっとそれも彼女がつけ続けた“仮面”である事は想像に難くない。
ボソッと呟いた泡のような言葉はガルトの見位には聞き取りづらかったのか、何を言ったのか、確認しようとするのだが……。
「……いえ、お父様達の存在は大きいのだな、と……」
それは良くも悪くもである。シオンはシオンで両親に対しては敬意を払っているが、姉であるセレナはそうではないだろう。
「ふぅむ、私は太陽のような存在だからなぁ。それは心苦しいが仕方がない事なのだよ、シィオーン。そしてそんなお前達は太陽の娘なのだ。存分に光り輝くが良い! そんな遠慮するな、シャインスパークだ! そして世界にエレガントとは何なのか、太陽とは何なのか、セレブとは何なのか、アルトニクスとは何なのか教えてやるのだ、ヌゥァーハッハッハッハハハァァァッッッッッゲホゲホッ!!!」
「お父さま、うるさいですわ」
「ぬぁにを言う! もっと私を喋らせろ! もっと私を目立たせろ! もっと私を輝かせろぉぉぉぉぉおっっ!! いいやぁ違うぅっ!! 私は私自身でこれからも輝き目立ち続けるのだァーハッハッハッハッハッァアアッッ!!!!!!」
うるさい。どこからそんなテンションになれるのだと言うくらい腹を揺すって哄笑するガルトを耳栓代わりに両耳に指を突っ込みながら注意するシオンだが寧ろ何か話しかければ更に助長してしまうようで高笑いするガルトを横目にシオンは疲れたような疲労感を滲ませる表情を浮かべるのであった。
・・・
「順調に大会は進行しているようだね」
薄暗い部屋の中、SSPG記念大会の模様をテレビで眺めながら、ポツリと木霊するように呟いたのはクロノであった。これから始まるBブロックの最後のファーストステージを見て笑みを浮かべる。
「彼はもう向こうに着いている頃かな? 果たして、どんなプレイ内容になるのやら」
クロノの近くにはナジールの姿はなく、彼は別行動を取っているのだろう。これからナジールは何か行おうと言うのか、くつくつと笑い、その時を心待ちにした様子だ。
「それに満更、退屈と言うわけでもない」
ナジールが行動を起こすまでの間、クロノは何をするのか。彼の為にすべきことは既に手は打ってある。後はここでずっと事の成り行きを見ているだけなのか、いやそうではない。
「そろそろずっと私達のことを嗅ぎまわっていた者達が接触してくる頃合いかな」
そのままクロノの視線は自身が使用しているパソコンの方に移される。嗅ぎまわっていたと言う言葉を使う割にはその表情に余裕さがある。クロノは一度、近くにおいてあるコーヒーを手に取ると、その香りを楽しみながら今か今かと待ち続けるのであった。