ウイルスの送信元へハッキングを仕掛けた一矢達。ガンプラバトルシミュレーターを介して送信元の電脳空間に飛び込んだリミットブレイカー達は侵入者を排除しようと発動された防衛プログラムとのバトルを行っていた。
「ねぇ、こいつ等って……ッ!」
戦闘を続けている彩渡商店街ガンプラチーム。すると戦闘中に何かに気づいたミサが声を上げる。その表情は顔を顰めており、それは何か覚えがあると言った様子であった。
≪……ああ。これは間違いないだろうな≫
閃光斬によって瞬く間に敵を葬ったスペリオルドラゴン。剣を軽く振るいながら、ロボ太もミサと同じことを考えていたのか、内容を聞かなくともその言葉に同意する。
「……今まで俺達が関わって来たウイルスと同系統の類か」
そして一矢もまた同じだったのか、Cファンネルが防衛プログラムを切り裂き、爆散するのを背に一矢が静かに口を開く。
ウイルスと偏に言っても種類はある。自分達に襲いかかってくる防衛プログラム達は今まで過去のジャパンカップ前のインフォや宇宙ステーションのコントロールAIが乗っ取られた際に戦闘したウイルス達に非常に酷似しているのだ。もっともそれは先日のインフォの時から薄々感じていたが、今回のことでよりハッキリした。やはり犯人は……。
「……ここ等が最深部だと思うが」
しかし覚えがあるとはいえ、撃破を重ねていき、気づけばもう最深部へと到着してしまった。周囲の状況を伺い、何かないかと探るリミットブレイカー達。するとすぐに異変は起きた。
一矢達のガンプラバトルシミュレーターに上空からの襲来を警告するアラートが響く。すぐさま対応したリミットブレイカー達は散開して避けると、次の瞬間、リミットブレイカー達よりも巨大な影がさながら隕石のように落ちてくる。
そこにいたのはオレンジ色の翼と各部に装備された輝きを放つ発光装甲が特徴的な一機のPGタイプの機体であった。
「あれ? PG機体……どこかで……?」
この空間内でPG機体に出くわすとは思っていなかったが、その機体その物にミサは覚えがあった。何だったか……。後少しで出てきそうな違和感を感じながら頭を悩ませていると……。
≪あれは……スクランブルガンダム!!≫
「何でここに……?」
正解を出したのはロボ太であった。アドオン以来となるが、予期せぬ突如として現れたPGスクランブルガンダムの出現にミサは困惑してしまっている。
「来るぞ……!」
だがいつまでも何故現れたのかなどとは言ってられないだろう。なぜならばPGスクランブルは既にこちらへ攻撃の意志を示しているのだから。両腕にマウントされたビームライフルを放つPGスクランブルにリミットブレイカー達は飛び去りながら反撃に出た。
まず最初に攻撃に出たのはリミットブレイカーであった。スーパードラグーンとCファンネルを同時に解き放ち、攻撃をしかけると共に翻弄の役割を担わせる。
機動力があるとはいえ、やはりPG機体。その巨大な機体はピット兵器の格好の的しかない。煩わしそうに振り払おうとするPGスクランブルだが、スーパードラグーンやCファンネルを破壊する事は叶わず、その装甲を少しずつ削られていく。
PGスクランブルピット兵器に気を取られている間にアザレアリバイブが動きを見せる。リミットブレイカーがピット兵器を放ったのと同時にアザレアリバイブはフルチャージを終えたメガキャノンを放ち、膨大な苛烈な光はPGスクランブルのバックパックに直撃し、ここで目立った損傷を見せる。
≪喰らえェッ!!≫
盾と鞘を合体させて形成した金龍の弓による攻撃をアザレアリバイブに反撃をしようとするPGスクランブルの頭部に放ち、強い衝撃で巨体は大きく揺らめいた。
「下手なことはさせない……。すぐに終わらせる」
PGスクランブルとの戦闘経験のある一矢達はEXアクション・暴走などを使用するスクランブルの脅威を知っている。だからこそ速攻による撃破を考えていたのだ。PGスクランブルが仰け反った瞬間、接近中のリミットブレイカーは覚醒を発現させ、その身と同等か否かのカレトヴルッフを振るい、すれ違いざまにその巨大な左腕を切り落とす。
「ミサ!」
≪いまだッ!!≫
PGスクランブルを追い詰め、勢いのある状態で一矢とロボ太はすぐさまミサに声をかけた。
「任せてっ!!」
二人の声に自信満々に頷いたミサはアザレアリバイブを覚醒させる。すると赤色の閃光を放つアザレアリバイブはその身の火器全てを一斉に放つ。対象を喰らい尽すかのように放たれた銃弾の数々は瞬く間にPGスクランブルに降り注いでいき、その機体を貫くと次の瞬間、PGスクランブルは爆散する。
「いやったーっ!!」
≪これでインフォ殿も元に戻る≫
PGスクランブルを撃破した事によって、満面の笑みのミサは大きく手を空に突き出しガッツポーズを決める。ロボ太も周囲のウイルスの状況を確認し、どうやらあのPGスクランブルがこの電脳空間のコアであったことを確認すると、事件を解決したことで安堵した様子であった。
≪よくやった。もど──≫
カドマツも事件を解決したことで一矢達にねぎらいの言葉をかけ、ログアウトして戻ってくるように伝えようとする。しかしその言葉は最後まで聞けることはなく、リミットブレイカーの目の前にいたアザレアリバイブとスペリオルドラゴンも消滅してしまっているのだ。
「……勝手にログアウトしたのか?」
電脳空間にはリミットブレイカーの姿しかない。一矢は捜査して通信状況を探るが、通信は切断されているようでミサ達と通信を取る事も出来なかった。
「……なんで俺だけが……?」
一矢のガンプラバトルシミュレーターだけは何ともなく困惑してしまう。とはいえいつまでも此処にいたところで仕方がない。一矢は自身もログアウトしようとするのだが……。
≪──Congratulation≫
「っ……!?」
すると自身のシミュレーターに突如通信が入る。しかもその声はボイスチェンジャーか何かを使用しているのか、加工されている声であった。
≪いやはや素晴らしいバトルだったよ、雨宮一矢≫
「俺の名前……っ。アンタ一体……っ!?」
通信から聞こえてくる声は自分の名前を口にした。心臓が跳ねるようなドキリとした衝撃が襲うなか、一矢は通信を仕掛けて来た相手に何者か尋ねる。
≪私が何者か……。それは君がその気になれば、すぐに分かる筈だ。ピースは君の手の中にあるのだから≫
「ピース……?」
自身について尋ねて来た一矢に通信越しに相手はクツクツと愉快そうに笑いながら答える。しかしその言葉は一矢にはすぐにはピンとは来ずに怪訝そうな表情を浮かべる。
≪それにしてもよくこのゲームをクリアしてくれた。君達には難易度が低すぎたかな?≫
「ゲームだと……? このウイルス騒ぎがゲームだって言うのか……!?」
だがその次に放たれた言葉に一矢は反応する。通信相手はこのウイルス騒動をゲームと言ったのだ。その事に一矢は顔を顰め、語気に怒りを含ませる。このウイルス事件でどれだけの人間が迷惑を被ったと思っているのだ。
≪ゲームさ。実際、君達もガンプラバトルというゲームでこの問題をクリアしている≫
「それは……。それ以外に方法がなかったからで……ッ」
だが通信相手は寧ろあっけらかんとした様子で答え、ガンプラバトルシミュレーターを使用しての解決を計ったことを指摘をすると、一矢は苦い顔を浮かべながら答える。
≪そう、それだよ。まるで君達は自分達こそがゲームの主人公にでもなったかのように自分達が解決しなくてはと躍起になって動いた。別に君達が動かなくとも方法などいくらでもあると言うのに≫
「っ……」
≪だから付き合ってあげたのさ。スクランブルガンダムというボスキャラを用意してね≫
まるで勘違いしている人間を嘲笑するかのような物言いに一矢は息を飲むと、その姿が手に取るように分かったのか、それさえも滑稽であるかのように嘲笑う。
「……何で俺に接触してきた?」
≪ゲームには物語を進めるイベントステージが付き物だろう? このステージをクリアをした君に少しプレゼントをしようと思ってね≫
なんとか平静を装い、接触してきた理由を尋ねる一矢。しかし一々、ゲームを出しての物言いにイラつきのようなものを感じながら言葉を待つ。
≪ラストステージは近い。次のステージをクリアして、その後に待つラスボスに挑んでくれ≫
通信越しに放たれた言葉。それはつまりウイルス事件は完全な解決にはなっていないと言う事だったのだ。
「……ラスボスか。ならお前を倒して、お前のその狂ったゲーム感覚さえも壊してやる」
≪勇ましいねぇ……。だが雨宮一矢。私がゲームとして君達に接するのを止めたらどうなると思う?≫
一矢の中で明確な敵となっている通信相手に対して鋭い言葉をぶつける。しかしそれさえもまるで微風を浴びているかのように軽々と流して逆に尋ねられる。
≪君について知っているのが名前だけだと思っているのかな? ゲームバランスというのは大切な要素の一つさ。だがもしゲームバランスを度外視して手段も何も問わずプレイヤーをただ潰すだけのモノになったらどうする? 君の妹も家族も友人も……。どんな目に遭うかな?≫
「……っ」
≪君達は世間一般ではウイルス事件を解決してきた有名人だ。だがリスクを少しは考えた方が良い。ダンジョンを進んでいるうちに思わぬ罠があるかもしれないからね≫
あくまでゲームではなく、全力を持って一矢達と接したらどうなるのか。その事について話す通信相手に一矢はスッと血の気が引いていくのを感じる。
まさにそれは脅しであるからだ。自分がどうなっても良いがそれでも夕香達に危険な目には遭わせたくはない。
≪安心したまえ。君はあくまでプレイヤーであり私の敵ではない。君のような子供にそんな事をしても仕方ない。それにそんなモノはゲームとは言えないだろう≫
まるで心臓を握られているかのような気分だ。得体のしれない相手からの言葉に一矢は冷や汗をかき、焦りの表情を見せる。
≪だから、これまで通り私達は“ゲーム”をしよう≫
狂っているように感じる。自分がこれまで知らなかった人種と接している気分だ。価値観が全く合わない存在に不気味さを感じて、恐怖心さえある。
≪そろそろ限界だね。それではまた会おう、雨宮一矢≫
話を終えた通信相手はその言葉を最後に通信を切ると、シミュレーター内のモニターは暗転して強制的にログアウトし、シャットダウン処理をされてしまう。暗闇のシミュレーター内で一矢は自分達がただ我武者羅に戦って来た相手の底知れさに恐怖を感じるのであった。