ステージを進み続けるリミットブレイカー達。するとフィールド上方で格子状のラインが突如、現れたかと思えば、轟音を立てて崩壊する。
「天井に穴が開いた!」
崩壊したフィールドの上方は様々な色が入り混じったようなあまりにも下品で不気味な空間に変貌していたのだ。突如、起きた異変にゾクリとした驚きと生理的な嫌悪感を感じながらミサは声を上げる。
≪ウイルスが侵入経路をこじ開けたんだ! 増殖が始まるぞ、コアを破壊してくれ!!≫
開かれた空間から無数のウイルスが降り注ぎ、その中からコアとなる大型の球体状のコアウイルスが姿を現す。カドマツの指示を聞いたのと同時にリミットブレイカー達は飛び出して、ウイルスの破壊を開始する。
何度もウイルスを相手に戦ってきた一矢達にとって、今回のウイルスも左程、障害にはならず瞬く間に展開する全てのウイルスを駆逐していく。それもこれも彼らが世界大会まで昇りつめた実力の持ち主であると同時に完成したチームであるからだろう。
・・・
(素晴らしい……)
それはクロノにも届いていた。GGF博物館のガンプラバトルシミュレーターへウイルスが侵入したと同時にハッキングをかけた彼はリミットブレイカー達の戦闘の模様を見て、笑みを浮かべていたのだ。
(君達にとって、もはやそのウイルスは脅威ではないと言う事だ)
苦戦する様子もなく寧ろ圧倒的な優勢のままウイルスを撃破していく。バイラスが作成したウイルスはその性能こそ申し分はないが、一矢達を止めるにはもう役不足でしかないのだろう。
(刺激になる……ッ! 君達が戦えば戦う程、私の才は活性化するッ!!)
クロノは笑みを浮かべたまま目を見開くと、別のウインドウを開き、まるでピアノによる賛美歌を奏でるようにタイピングを流れる動作で素早く行っていく。
(この一連のウイルス騒動はもう間もなく収束する筈……)
再びリミットブレイカー達の戦闘を見ればもうコアプログラムへの攻撃を開始しており、あっという間にコアプログラムは損傷していく。
タイピングを終えたクロノはまるでゲームのプレイ動画でも見るかのように破壊されていくコアプログラムに何の関心も示さず、その時が訪れるのを待つ。
(早く来い、雨宮一矢……。もっと……もっと私のイマジネーションをかき立ててくれ……ッ!!)
遂にコアプログラムは破壊された。その光景を見届けたクロノは胸の中に掻き毟るような高揚感を感じながら口角をつり上げる。皮肉なことに一矢達は事件解決の為に行っている行動その物がクロノを喜ばせるだけなのだ。
・・・
「お疲れさん」
そんな事とは知らず、コアウイルスを破棄し終えてガンプラバトルシミュレーターから出てきた一矢達を早速、カドマツが出迎えねぎらいの言葉をかけていた。
「朗報だぞ、ウイルスの送信元を特定できた」
「どこ!? 近くなの?」
「あ、いや実際の住所が分かったわけじゃない。ウイルスを送っているマシンのIPアドレスだ」
どうやら一矢達がバトルを行っている間にカドマツもウイルスの送信元を特定することに成功したようだ。早期の事件解決の為、警察にでも通報しようとミサは詰め寄るようにその場所について尋ねる。ミサの様子から何か誤解しているのだと感じたカドマツは特定できたのはIPアドレスであって住所ではないことを伝える。
「だが俺達がやろうとしていることには実際の住所なんかより、よっぽど役に立つ情報だ」
住所が特定できたわけではないのなら、意味がないのではないかと顔を見合わせる一矢とミサだが、カドマツは自信満々に答える。
「迷惑なウイルスに反撃といこうじゃないか」
カドマツがそう言うのであればそうなのだろうと、彼を見やる一矢達。そんな彼らに頷いたカドマツは好き勝手を行うウイルスの送信元への反撃を決めるのであった。
・・・
「はぁっ、折角、GGF博物館に来てるのになぁ」
時刻は昼過ぎとなり、昼食を取り終えると一矢とミサは軽くGGF博物館内を散策していた。しかしミサの口からは不満の声が上がっている。と言うのも、あまりじっくりとGGF博物館を散策したりは出来ないからだろう。後少しでウイルス事件が解決できる。そう思うと、あまりここで時間をかけるべきではなく早く事件を解決すべきと思う自分もいるのだ。
「……解決した後だったら、いくらでも周れば良い」
「そうだけど……」
事件を解決し終えた後ならば、いくらでも好きに出来る。隣にいた一矢の言葉にミサはジャケットのポケットに手を突っ込んで複雑そうな様子で呟く。
「俺は……ミサと二人だけで周りたい」
「えっ!?」
複雑そうなミサの様子に一瞬、渋った姿を見せた一矢だが、本当にか細い声でボソッと己の心中を明かすと、聞き逃さなったミサは強く反応する。
「……この間来た時はそれが出来なかったし……。でも……その分…………その……俺が……案内したい」
以前は自業自得とはいえ、ミサは台場に来ることは出来なかった。その時は互いに心残りで残念に思っていたが、こうして台場に来る機会が出来たのだ。やはり互いに二人だけでこの地を満喫したい気持ちは強くある。
「よし、早く行こう。そうしよう。さっさと終わらしちゃおう!」
顔を真っ赤にさせ、途切れ途切れに恥ずかしがりながらその事を口にする一矢の姿をじっと見ていたミサは彼の腕に自身の腕を絡めると、有無を言わさずこうしちゃいられないとばかりに再びガンプラバトルシミュレーターへ向かって歩き出す。その口元には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
・・・
≪今から目的のマシンへ繋がる転送ポートを作る。そこを通って、俺達は相手のマシンにハッキングを仕掛けるんだ≫
小休憩を挟み、休息を取った後、再びガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢達。リミットブレイカー達はそれぞれカタパルトに接続された状態で待機するなか、カドマツからの通信によって、今回、行う作戦の説明を聞かされる。
≪当然、反撃もあるだろうが……≫
「まとめてやっつける!」
やはりウイルス元にハッキングを仕掛ければ、向こう側の反撃は容易に想像できる。だが数多くのウイルス事件を乗り越えてきた一矢達にとっては恐れるに足りないことなのか、余裕のあるカドマツの言葉を引き継ぎながらミサがぎゅっと両こぶしを握り、勇んだ様子で堂々と答えた。
≪よし、転送ポートアクティベート!≫
ミサの自信満々の言葉に満足そうに頷いたカドマツが操作を行うと、待機状態だったリミットブレイカー達に変化が起こる。なんとカタパルトが取り払われ、電脳空間内でお互いの姿が確認できたかと思えば、上方にはウイルスの送信元へと繋がる空間同士を繋いだトンネルが形成されたのだ。
「うわー……すごーい……」
≪これは驚いたな≫
ガンプラバトルは長くプレイしているが、こんな経験はしたことがない。初めて見る光景にミサは唖然とし、ロボ太も少なからず驚いていた。
≪さあ行ってこい!!≫
驚いている一矢達にカドマツが声をかける。機体越しに頷き合った一矢達は早速、アザレアリバイブが飛び立ち、その後にスペリオルドラゴンが。そして最後にリミットブレイカーが後を追い、三機はトンネルに突入するのであった。
・・・
「待ち侘びたよ」
だが一矢達の行動は既にクロノに把握されていた。もはやガンプラバトルシミュレーターを使用している時点でこうなることは分かり切っていたようで、パソコンから空間内に現れたリミットブレイカー達の映像を見つめては、待ちくたびれた様子だ。
「そこは確かにウイルスの送信元だ。それ故にプロテクトも用意されている」
ウイルスの送信元となるマシンの空間内を進攻するリミットブレイカー達の存在を探知したコンピューター側から既に防衛プログラムが差し向けられる中、クロノは一人呟く。
「魅せるプレイを期待しているよ」
再びキーボードを操作してプログラムを開き始める。先程、構築していたプログラムの内容だ。プログラムを確認したクロノは笑みを浮かべると、近くに置いてある機材に手を伸ばすのであった。