機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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全てはボードゲームのように

「わぁーお台場だぁ!!」

 

 数日後、一矢達は台場の地に訪れていた。周囲には駅や遠巻きに観覧車などが見えるなか、橋の上をミサが全体を見渡すようにクルリと回りながら喜びの声をあげ、晴れやかな笑顔を浮かべている。

 

「見て見て! 実物大ユニコーンガンダム! いつ見ても凄いよねー!」

「……分かったから落ち着きなよ」

 

 今日、台場に来たのはGGF博物館へ向かう為だ。とはいえ、その道中でもはやGGF博物館をそっちのけで楽しんでいるミサの姿に一矢も苦笑交じりに宥める。

 

「ねぇカドマツ、これも乗って動かせるように出来るの?」

「まあ……前の実物大ガンダムの例もあるし、出来ないわけじゃないな」

 

 そびえ立つ実物大ユニコーンガンダムに圧倒されながら、ミサは近くのカドマツに声をかける。どうやら以前の実物大ガンダムに乗り込んだ時の事を思い出しているのだろう。それはカドマツも同じなのか実物大ユニコーンガンダムを見上げながら笑みを浮かべる。

 

「じゃあ早速やろうよ!」

「簡単に言ってくれるなよなぁ。そもそもあの実物大ガンダムだって廃棄予定とはいえ引き取るのだって相当苦労したんだぞ」

 

 この実物大ユニコーンガンダムも実際に乗って動かしてみたい、と無邪気な笑みをカドマツに向けるミサだが、そう簡単な話ではないと苦笑しながら答える。

 

「まあでもコイツも乗れるように出来たら面白れぇだろうな」

 

 改めて実物大ユニコーンガンダムを見上げながら子供のような笑みを見せるカドマツ。やはりまだ彼の中でも実物大ガンダムの思い出が根強く残っているのだろう。

 

「ねえ折角だし、みんなで写真撮ろうよっ!!」

 

 夢中に話すカドマツは自分達よりも一回り年上なのにまるで自分達と同い年くらいの少年のような姿に見える。そんな姿に笑みを浮かべたミサは実物大ユニコーンガンダムの傍らまで駆け寄りながら一矢達を手招きする。

 

「……そうだな。折角だし」

 

 ミサの笑みを見ながら微笑んだ地やはロボ太とカドマツに声をかけると、近くの通りかかった観光客に撮影を頼んで、実物大ユニコーンガンダムへ向かっていく。

 

「何だかこうしてみんなで写真を撮るなんて新鮮だね」

「大会なんかじゃ撮り慣れてる筈なのにな」

 

 快く引き受けてくれた観光客がタイミングを伺うなか、ミサと一矢は何気なく話す。こうして振り返ってみると、メディアなどの大会のレポートなどで写真を撮る機会は数多くあるが、プライベートで写真を撮ることはあまりなかった。

 

「ほら、ロボ太もっ!」

「うん、どうせなら……」

 

 すると何かに気づいたミサは足元のロボ太を持ち上げようとする。それに気づいた一矢はミサと一緒に間を囲むように左右でロボ太を同じ目の高さまで持ち上げる。

 一矢達と同じ目線の高さになった為、心なしかロボ太は驚いているように見える。そんな姿に微笑みながら一矢達は記念撮影を行うのであった。

 

 ・・・

 

≪──よーし、システム自体は最新バージョンになってるんだな。ステージに当時のデータを使っているのか≫

 

 その後、GGF博物館に到着した一矢達。博物館側の協力を得て、稼働したガンプラバトルシミュレーターをプレイしていた。ジャブローをイメージした森林地帯のステージに出現したリミットブレイカー達に外部からカドマツがこのガンプラバトルシミュレーターのシステムを確認しながら通信を入れる。

 

≪機体はそのままでも大丈夫そうだが、何か違和感とかはあるか?≫

「ううん、大丈夫。これからどうすればいいの?」

 

 とはいえ普段、慣れ親しんだシミュレーターとは違うので機体の挙動などに違和感はないか尋ねるが、特に違和感と言える程の物はなく普段と変わらぬことからミサは答えながら自分達はどうすれば良いのか問いかける。

 

≪前にも言ったが、あのウイルスはシミュレーターを攻撃してくる。つまりシミュレーターを動かしていればウイルスが見つけて侵入してくるんだ≫

「それ私達、大丈夫なの?」

 

 通常プレイを行っている為、既にNPC機は現れ攻撃をしかけてくる。カドマツの説明を耳に入れながら軽やかに避けつつ、流れる動作で破壊して進攻しながらミサは不安そうな面持ちで尋ねる。ウイルスに侵されたシミュレーターは一体、どうなるのかと言う不安からくるのだろう。

 

≪別にシミュレーターのポッドが突然爆発したりするわけじゃない≫

「なら良いんだけど」

≪ウイルスが攻撃してくるまでしばらく普通にプレイしていてくれ。何か変化があったら声をかける≫

 

 とはいえミサが不安に思っているような事態にはならないようだ。安堵するミサにカドマツが声をかけて、作業に戻る為に一度、通信を切る。

 

「じゃあお言葉に甘えて遊んでようか」

「……ああ」

≪心得た≫

 

 自分達が行うのは普段のガンプラバトル。ならば特に気負う事もせずにいつも通り楽しもう。ミサの言葉に一矢とロボ太は頷きながら、彩渡商店街ガンプラチームはどんどんとステージを進んで行く。

 

 ・・・

 

 程なくしてステージの奥地にまで進んだ彩渡商店街ガンプラチームはそのステージのボスキャラとも言えるリーダー機を難なく撃破する。辺りに敵影の姿はなく、これで終わりと言えるだろう。

 

 

「何事もなくクリアしちゃったんだけど?」

≪ウイルスが来るタイミングまではなぁ……。次のステージへ行ってくれ≫

 

 ウイルスの侵入を警戒していた為、何事もなくクリアしてしまったので何とも肩透かしを受けた気分だ。どうすれば良いのか尋ねるミサにカドマツも何とも言えない様子で答える。これは誘き出して、向こうが食い付いてくるのを待つしかない根気強さが必要なってくる。一矢達は早速言われるがまま次のステージへ向かう。

 

 ・・・

 

≪さあ引き続き頼むぞ≫

「頼むっても遊んでるだけなんだけどねー」

 

 次のステージは一矢もプレイしたことのある火山ステージであった。ウイルスを誘き出す為とはいえ、カドマツの言葉に別に専門的なことはせず、普段通り遊んでいる今の状況にミサは苦笑してしまう。

 

 ・・・

 

(早速、動き出したか)

 

 ホテルの一室で傍らのパソコンを一瞥しながら目を細める。パソコンの画面には立体的な地図が表示されており、そこからいくつかのポイントが表示されている。丁度、先程、地図上のGGF博物館がある場所で急にポイントが表示されたのだ。どうやらこれはガンプラバトルシミュレーターの稼働状態を自動で表示する仕組みになっているようだ。

 

「あなたのターンですヨ?」

 

 そんなクロノの前にはナジールがおり、二人の間にはチェス盤がおいてあり、どうやら二人でチェスを興じているようだ。自身の駒を動かしたナジールはパソコンを横目にしていたクロノに声をかける。

 

「それとも降参シマスカ?」

「御冗談を」

 

 チェスの腕には自信があるのかナジールが余裕綽々な様子でにやついた笑みを見せるが、一方でクロノも余裕を感じさせる薄ら笑いを浮かべながら足を組み直すと自身の駒を動かし始める。

 

(動き出した駒はもう引き返す事など出来ない)

 

 ナジールとの対局の中、駒を動かしながらその目はポイントが表示されるGGF博物館を時折見ていた。だが対局を進めて行くなかでナジールの表情に薄っすら焦りの色が見える。

 

(君もそうだ、雨宮一矢)

 

 クロノは相変わらず薄ら笑いを絶やさずの己の駒となる黒のナイトを見つめる。それはそのナイトの駒に一矢を重ねているかのようであった。

 

「チェックメイト」

「……やりますネ」

 

 そのまま黒のナイトを動かして、ナジールのキングにチェックメイトをかける。自信があった分、ナジールの表情には僅かに悔しさを滲ませてはいるが、負けを認める。

 

(君達がいくら動こうが、私にとってはボードの上を動く駒でしかない)

 

 とはいえ元々、負けるつもりもなかったのか特に喜んだ様子もなく、クロノは窓際まで移動しながら眼下の街並みをその群青色の瞳で見下ろしている。

 その心中に零した言葉は一矢達だけではなく、ナジールやバイラスも含めた世界全てに言っているかのようだ。

 

「幕を下ろす時は引き分け(ステールメイト)ではつまらない。どちらがチェックメイトを取れるかな、雨宮一矢」

 

 口角をつり上げ、歪んだような笑みを浮かべながらクロノは呟く。その姿は例えどんな結末であろうと楽しみであるかのようだ。ナジールはその背中を油断ならなさそうに鋭い視線を向けていた。

 

 ・・・

 

「なんかこのステージの見た目、変だよ?」

 

 一方でGGF博物館のガンプラバトルシミュレーターをプレイしていた一矢達だが変化が起きる。ステージを進んだ先に待っていたのはまるで腐敗したかのような歪な光景であった。こんな光景を始めた見たミサはカドマツに通信で尋ねる。

 

≪データが破損してのか。……こりゃ来たかも知れんぞ≫

 

 どうやら待っていたウイルスがついに誘き出されたようだ。歪み始めるステージの中で一矢達は表情を引き締め、バトルに臨む。ただそんな彼らの行動をほくそ笑む存在がいる事も知らずに……。


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