機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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誰も知らない真実

「この髪の毛は蓄電してるわけじゃねーぇんだよぉ!!」

「おい、もうそのくらいにしておけよ」

 

 ここは居酒屋みやこ。今日もまたユウイチ達などが集まってわいわいと飲んでいたのだ。特徴的なお団子ヘアを掴みながら呂律の回らない口調で酒を片手にそうまくし立てているのはモチヅキを見かねて、カドマツが宥めようとするが、酔いが回っているモチヅキの怒りは収まらなかった。

 

「しかし困ったね。シミュレーターがないことには手も足も出ないわけだし」

 

 事の顛末を聞いたユウイチは厄介そうに口を開く。まさに彼の言う通り、今、手も足も出ない打つ手なしの状況だ。

 

「このままシミュレーターが停止され続けたらガンプラバトルはなくなっちゃうの?」

「おもちゃ屋としてもそれは非常に困るね。プラモの売り上げに関わる……」

 

 イラトゲームパークのガンプラバトルシミュレーターが回収されてしまったことでこれからガンプラバトルそのものも出来なくなってしまうのかとミサも不安そうな表情を浮かべると、ユウイチも苦い顔で答える。

 

 無論、もし仮にガンプラバトルがなくなったとしても、元々、プラモだけを作る所謂、モデラー達はこれまで通り買っていくだろうが、この時代ではガンプラバトルだけが目的でガンプラを購入する客層だって少なくない。もしもガンプラバトルが出来なくなってしまうと言うのは店側としても避けたいところだろう。

 

 飲みの席だと言うのに何とも言えないどんよりとした空気が流れる。誰しもが今、ウイルスをどうにかする術もガンプラバトルシミュレーターが停止に追い込まれている状況もどうする事も出来ないからだ。一矢もまた頬杖をつきながら指先でトントンとテーブルを叩き、物憂いた表情だ。

 

(……裏技)

 

 脳裏にはクロノとのやり取りがいつまでも残っていた。あの男が何者なのかは分からない。だが去り際に放ったあの言葉。その意味をいくら考えたところでその答えは出てこなかったのだ。

 

「──そうだ。あそこにならあるんじゃないかな?」

 

 物思いに耽っていた一矢だが、ふと耳に何か思いついたようなユウイチの声が聞こえ、そちらを見やる。

 

「ちょっと前にお台場に行ってね。そこにGGF博物館っていうのがあるんだ。昔開かれたガンダムグレートフロントっていうイベントの跡地に作られた博物館なんだけど、あそこのシミュレーターは普段、稼働していない展示品だから回収されてないんじゃないかな?」

 

 一矢の視線に気づいたユウイチは彼に笑みを見せながら周囲にGGF博物館について説明する。少し前に遊びに行った時は当時のステージを体験できるイベントが行われていたが、今はもう終了している。だがそこにはまだガンプラバトルシミュレーターがある筈だ。

 

「……なるほど。いけるかもしれない。早速問い合わせてみよう」

 

 もしGGF博物館のガンプラバトルシミュレーターが使用できるのなら、これは大きな一歩に繋がる。ユウイチの話に頷いたカドマツは今日はもう時間が遅い為、連絡することは出来ないが明日にでも連絡を取るつもりだろう。

 

(……裏技ってそういう事なのか?)

 

 ユウイチの話を聞き、皆が希望が出てきたと喜んでいるなか、一矢は再び思考を巡らせる。確かにユウイチの提案は裏技と言えるだろう。しかしあの男が言っていたのはそれだけなのだろうか。

 

「……ん?」

 

 姿勢を直そうとした時であった。ふと何か臀部の辺りに違和感を感じる。違和感のあるズボンの後ろポケットに手を突っ込めば何か固い感触があり、そのまま取り出す。

 

 そこにあったのは小さなプラスチックケースに収まったチップであった。しかしこんなものを入れた記憶もない。少なくともイラトゲームパークに向かった時まではこんなものはなかった筈だ。これは一体、何のだろうかと一矢は首を傾げる。

 

「ほら一矢、ミヤコさんが焼き鳥焼いてくれたよ」

「あ、ああ……」

 

 難しい顔をしている一矢に気づいたミサがミヤコが出した焼き鳥を一矢の前に運びながら声をかける。焼き鳥の本数も妙に多く居酒屋みやこで宴会を開けば、焼き鳥ばかり食べている一矢に気を使ってのことだろう。運ばれた焼き鳥を見ながら今は宴会を楽しむべきかと思考を切り替えた一矢はケースをしまい、ミサが持ってきてくれた焼き鳥を食べ始めるのであった。

 

 ・・・

 

「……ただいま」

 

 宴会もお開きとなり夜遅くに帰宅した一矢はリビングの家族に声をかけながら、ソファーに座る。その手にはプラスチックケースは握られていた。

 

(……やっぱりあの時だよな)

 

 何度考えたところでこんなケースは知らない。考えられるのは、イラトゲームパークで出会ったあの男が自分の腰に手を回し、抱き寄せた際に入れたとしか思えないのだ。一矢は早速、チップをリビングにあるノートパソコンに差し込む。

 

「……パズルゲーム?」

 

 一体、何があるのか。いざチップ内のデータを開いてみれば、画面に広がったのはゲームのタイトル画面であった。しかしこんなゲーム見た事もない。そのままゲームをスタートすれば、ゲームの種類はパズルゲームだと言う事が分かった。

 

「……なんだよこれ」

 

 折角だからとパズルゲームをプレイする。しかし内容はあまりにも難しく、手が込んでいてしかも制限時間が設けられている為、しばらくしてタイムアウトでゲームオーバーになってしまう。

 

【君はまだトゥルーエンディングに辿り着けない】

 

 ゲームオーバー画面にはこの文字が浮かび上がっていた。この言葉に一体、どんな意味が込められているのか、一矢は眉間に皺を寄せる。

 

「どーしたの、イッチ」

 

 そんな一矢に気が付いたのは夕香であった。近くにはシオンもおり、夕香はそのままソファーに座る一矢の隣に座るとズイッと身を寄せて、パソコンの画面をのぞき込む。

 

「パズルゲーム、ですわね」

「ちょっとアタシにやらしてよ」

 

 ソファーの後ろからシオンがパソコンの画面を見て、表示されているタイトル画面を見ながら呟くと夕香は暇つぶしに早速、パズルゲームをプレイしてみる。

 

「……なにこれ」

 

 しかし程なくして夕香も一矢と似たような反応をする。目の前の画面にはゲームオーバーの画面だけが虚しく広がっている。

 

「全くダメダメですわね。どきなさい、わたくしがお手本を見せて差しあげますわ」

 

 夕香がゲームオーバーになった事にシオンが鼻で笑いながら、今度は自分だとばかりに一矢と夕香の間に強引に座る。

 

「……アタシ達だって出来ないのに、アンタに出来んの?」

「ふふんっ……所詮、アナタ方はわたくしの引き立て役……。こんなものわたくしにとってはお茶の子さいさいですわ」

 

 半ば無理やりにゲームを始めようとするシオンに呆れながら声をかけるも、その自信は一体、どこから来るのか自信満々に答えるシオンはプレイを始める。

 

 ……しかし、やはりと言うべきか。パズルを進めて行くたびにシオンの表情は引き攣っていき、やがて制限時間を迎える。

 

「……ゲームオーバーだけど何か感想は?」

 

 三度目のゲームオーバーの画面になる。夕香が大口をたたいていたシオンに感想を伺うが一切の反応を見せない。

 

「……ZZZ」

「オイコラ、なに寝たふりしてんの」

 

 怪訝に感じた夕香がシオンの顔を覗き込めば、シオンは鼻ちょうちんを浮かべて、コクリコクリと頭を垂らしながら寝ていた。とはいえ流石に先程までの威勢からありえないだろと夕香はシオンの額にデコピンを浴びせる。

 

「はっ!? わたくし、いつの間にか寝てしまっていたようですワ。わたくしにかかれば完全勝利は容易いですが、もう寝る時間なので今回はお暇させていただきますワ。イヤージツニザンネンデスワネー」

「……はぁっ。イッチ、アタシも寝るわ。おやすみ」

 

 どこか白々しい棒読みでそそくさと立ち去るシオン。絶対に負けを認めないとか言っちゃいけない。シオンに呆れながらも、時間も時間の為、夕香は一矢に声をかけてリビングを後にする。

 

「……」

 

 言い訳を続けるシオンにツッコミをいれながら二階へ向かっていく夕香を見送りながらも一矢は再びパソコンの画面を見やる。

 

【君はまだトゥルーエンディングに辿り着けない】

 

 ゲームオーバーの画面に表示されているこの意味深な文章の意味を考えたところで答えは出ない。ならばせめてとパズルゲームのクリアを目指すが、結局、この日、一矢がクリアすることはなかった。


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