機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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≪良いか、やり方は前と同じだ。ウイルスの元となるコアがどこかにある筈だ。それを見つけ出して破壊するんだ≫

「わかった!」

 

 かつてと同じようにインフォのメモリ空間にガンプラバトルシミュレーターを介してアクセスした一矢達。ウイルスに侵されたインフォのメモリ空間はかつてと同じように毒々しい歪な雰囲気を醸し出している。メモリ空間内に降り立ったと同時にリミットブレイカー達にカドマツからの指示が入ると、ミサが元気よく返事をして早速行動を開始する。

 

≪またもインフォ殿をあのように……! ウイルス許すまじっ!!≫

「ウイルスのせいだけなのかなぁ?」

 

 インフォを再び侵されたことにウイルスに対して怒りを燃やしているロボ太ではあるが一方でミサはいくらウイルスに侵されているとはいえ、声を大に待遇改善を求めていたインフォの姿を思い出しながら何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「一矢、雑魚は俺達に任せてお前達はコアを探してくれッ!!」

「……ああ」

 

 今回、ウイルス駆除に名乗りを上げたのは一矢達彩渡商店街ガンプラチームだけではなかった。あの場に居合わせた秀哉と一輝も参加を表明してくれたのだ。早速、侵入者を駆除しようと現れたウイルスを見やりながら、秀哉が声をかけると一矢は静かに頷き、アザレアリバイブとスペリオルドラゴンと共にウイルス群を突っ切っていく。

 

「させるかッ!」

 

 ウイルスはこちらを相手にもせず、一気に通り過ぎて行ったリミットブレイカー達を追撃しようとした瞬間、後方からストライク・リバイブが高エネルギー長射程ビーム砲が焼き払う。

 

「まだあるよッ!」

 

 だがそれでも全てのウイルスを撃破出来たわけではない。なおもリミットブレイカー達を追いかけようとするウイルスに対して、一輝のフルアーマー・ガンキャノンがその身に備わった大量のミサイルを持って撃破していく。

 

「まだまだッ!!」

「ああ、行こう!」

 

 だが、これで全てのウイルスが撃破したわけではない。元となるコアを撃破しない限り、ウイルスは増殖を続けるのだ。早速、ストライク・リバイブとフルアーマー・ガンキャノンの周囲に出現したウイルスに秀哉と一輝は声をかけあうと、早速向かって行くのであった。

 

 ・・・

 

「あったよ、ウイルスコアがっ!!」

 

 先行してコアプログラムの捜索にあたっていた彩渡商店街ガンプラチーム。ミサが声をあげ、アザレアリバイブが指し示す方向にはメモリ空間に浮かんでいる歪な球体状のプログラムがいたのだ。

 

≪急いで破壊しよう!≫

 

 ようやく見つけたコアプログラム。ロボ太の言葉に頷き、それぞれが武器を構えようとした瞬間、やはりと言うべきかコアプログラムの周辺には防衛のためのウイルスが現れて行く。

 

≪我らの行く手は阻めはせんッ! 閃光斬ッ!!≫

 

 向かってくるウイルスに対して、スペリオルドラゴンはダブルソードを突きつけるとその身に眩い光を纏う。猛る黄金の竜の一撃はウイルスを次々に呑み込んで撃破した。

 

「負けてらんないっ!!」

 

 ウイルスを相手に一騎当千の活躍を見せるロボ太の活躍に刺激を受けたようにミサのアザレアリバイブもまた二つの大型ビームキャノンとハイパードッズライフルを駆使してウイルスを撃ち抜くと、流れるようにメガキャノンでウイルスを薙ぎ払う。

 

「……」

 

 スペリオルドラゴンとアザレアリバイブがウイルスを破壊した場所からまたウイルスが出現する。だが租の瞬間、四方八方から飛んでくる無数の刃とビームによってその身を貫かれて撃破される。

 

 宙には静かに浮かび上がるリミットブレイカーの姿が。リミットブレイカーは左腕を振るえば主の命に従って、次々にピット兵器達はウイルスを撃破し、瞬く間にウイルスは殲滅されていく。

 

 いくらウイルスが現れたところで彼らは怯みもせず立ち向かっていく。何故なら彼らはこれまで幾度となくウイルスとの戦闘を経験し、これを乗り越えてきた確かな実績を持っている。有象無象のウイルスが現れたところで彼らは容易く蹴散らすのみなのだ。

 

「……これで終わりだ」

 

 するとリミットブレイカーはカレトヴルッフを天に突き出すと覚醒する。鮮やかな光はこのメモリ空間を侵食するウイルスを照らし出すように強烈に輝き、カレトヴルッフを媒体に光の刃はどんどん伸びていき、一気に振り下ろすことによってコアプログラムを一太刀で両断し、破壊する。

 

 ・・・

 

「よし再起動だ」

 

 彩渡商店街ガンプラチームと秀哉達の協力で迅速にウイルスを駆除し終えることが出来た。早速、皆が見守るなか、カドマツがインフォを再起動させる。

 

≪再起動シーケンス。各デバイスチェック…………OK≫

 

 するとインフォが声を発し、再起動を進めて行く。ウイルスも駆除し終えた事だし、誰もがこれで終わるだろうと考えていた時であった。

 

≪システムチェック……FAILED。セーフモードで起動します≫

「エラー検出だと……?」

 

 しかしインフォが直ると言う事にはならなかった。セーフモードとなっているインフォを見て、不可解そうにカドマツは顔を顰める。

 

「大丈夫? インフォちゃん、私が分かる?」

 

 インフォはずっとその場に固まった動く気配が全くない。誰もが唖然とするなか、見かねたミサが声をかけるのだが……。

 

≪は……≫

「は?」

 

 は、と言う言葉がインフォから放たれ、ミサもオウム返しのように口にすると……。

 

≪働けど働けど我が暮らし楽にならざり……≫

「……どうなってんだい? ウイルスは駆除したんだろ?」

 

 到底、ワークボットとは思えないような哀愁漂う言葉がインフォから発せられ、インフォはそのままじっとマニピュレーターを見つめていた。そんなインフォの姿を見て、イラトは意見を伺うようにカドマツを見やる。

 

「……そうか。確かこのウイルスはシミュレーターを経由するって話だったな……」

 

 しばらく考えていたカドマツだが、ようやく合点がいったのか、視線がカドマツに集中するなか、何故、ウイルスを駆除したにも関わらずインフォが直らないのかその理由を説明し始める。

 

「と言う事は目標に対してアクティブに攻撃をしかけてくるタイプだ。メールを開いたら感染とか実行ファイル起動で感染みたいなパッシブなタイプじゃない。攻撃元を止められなきゃ延々とウイルスが侵入し続けるんだ」

 

 と言う事はまた目の前のインフォはウイルスに再び感染していると言う事だ。しかしカドマツの言う通りではインフォをどうにかしたところでは解決出来ない。

 

「ねえ、シミュレーターが攻撃されているのに、なんでインフォちゃんがおかしくなるの?」

「多分、この店の筐体全部と繋がってるんだろ。なあ婆さん?」

 

 しかしニュースでも取り上げられていた新型ウイルスがガンプラバトルシミュレーターを経由して感染するとの事。インフォが直接狙われている訳ではないのだ。それ故、今現在ならばシミュレーターにも関わっていないように見えるが、何故おかしくなるのか、その理由をカドマツに尋ねるとカドマツは答えながら、イラトに尋ねる。

 

「ああ。24時間フルタイムでインカム集計してるよ」

「なんで24時間? この店、夜8時に閉まっちゃうじゃん」

 

 カドマツの問いかけに答えるイラトではあるが、店の営業時間と合わないことにミサが疑問の声を上げている。

 

「──ゴメンクダサイますかー?」

 

 まるで暗雲が立ち込めたような雰囲気が店内を満たしていく。

 すると入口の方からあまりにも場違いな流暢な声が聞こえ、一矢達が其方を見やる。

 

「運送業者デース。ご依頼された荷物、受け取りに参りマシター」

「あん? 何のことだい?」

 

 帽子を深く被り、眼鏡をかけた男性は運送業者と名乗る。すぐには思い出せないが聞き覚えのある口調だ。しかしそれよりも依頼とは何なのか、イラトが顔を顰めると……。

 

「オー……それです、ガンプラバトルシミュレーター。今チマタを騒がせているウイルスをこれ以上拡散させないようにシミュレーターは回収されることになりましたー」

「なんだってぇ!? そんなことされたら売り上げが減っちまう!!」

 

 すると運送業者はガンプラバトルシミュレーターを指差すと、この場に訪れた理由を明かす。しかしガンプラバトルは地球規模での大流行。そのシミュレーターがなくなれば店側は大打撃だ。イラトがやめろと言わんばかりに叫ぶ。

 

「待ってくれ。ウイルスはシミュレーターを攻撃してくる。だったらそれを逆手に攻撃の元を特定することが……」

「すでにケーサツから停止の依頼はあったはずデス。なのに稼働を続ける店のソーマッチ。やむなく製造元が回収処置を行うことになったのデス」

 

 店側の事情もあるが、それ以前にここでガンプラバトルシミュレーターを失ってしまうのはウイルスに対して有効な手段が取れなくなってしまう。カドマツが何とか説得しようとするのだが運送業者は首を横に振って一蹴する。

 

「それに……ウイルスの元を特定? それはケーサツの仕事じゃないデスカ?」

「うっ……そりゃそうなんだが……」

 

 今までのどこかおどけたような雰囲気から一転して、どこかせせら笑うようにカドマツに指摘する。中々、痛いところを突かれてしまった為にカドマツは苦い顔を浮かべる。その表情ににんまりと満足した運送業者はワークボットを引き連れてガンプラバトルシミュレーターの回収を始める。

 

 ・・・

 

「……一矢」

 

 イラトゲームパークからガンプラバトルシミュレーターが回収する為の作業が行われ、店内に空き始める空間は何とも言えない寂しさを放っていた。

 インフォもいまだ直ることもなくイラトがてんやわんやしているなか、ガンプラバトルシミュレーターがあった個所を物悲しそうに見つめている一矢にミサが傍らに歩み寄りながら声をかける。

 

「──仕方ないとはいえ、中々、酷なことになってしまったね」

 

 するとそんな一矢に横から声をかけてきた男性がいた。一矢とミサが視線を向ければ、自分達より一回り年上の男性がそこにいた。

 

「ゲームは楽しむ喜びを見出しながら遊ぶものなのに、それを利用してプレイヤーから……君達からそれを奪うとは」

 

 いきなり声をかけてきた男性に戸惑いながらも男性の言葉に一矢は俯いてしまう。ガンプラバトルが出来ない……それは一矢にとって……ガンプラファイターにとって辛いだけだった。

 

「……ウイルスさえどうにか出来れば……。ガンプラバトルシミュレーターさえあれば……!」

 

 俯き、垂れた前髪の下からその真紅の瞳は何も出来ない無力さからくる苛立ちがまるで揺らめく炎のように蠢いていた。ウイルス駆除はもうお手の物だ。だからこそ、ガンプラバトルシミュレーターさえあれば、そう思ってしまう。

 

「良い()だ」

 

 すると男性は一矢の前に移動すると俯いた一矢の腰に手を回し、彼の顎先に触れ、くいっと持ち上げる。

 

「決して屈しない轟々と燃え上がる炎のような強い意志をその()に感じる……」

 

 一矢が驚いているのも束の間、男性は一矢に顔を近づけ、露わになったその真紅の瞳を見て妖しげな笑みを見せる。

 

「やはり君はプレイヤーに相応しい」

 

 間近に迫る男性と一矢の顔。あわあわと慌てているミサを他所に男性は一矢だけを見て、何か含みのある言葉でくつくつと笑う。一方で一矢は目の前の男性に腰に手を回され、顎先も持ち上げられている事で身動きが取れずにいた。

 

 いや、それだけではない。目の前の男性の一度落ちれば、もう抜け出せない深淵のような群青色の瞳からまるで吸い込まれていくような感覚を受け、目が離す事が出来なかったのだ。

 

「君ならば、この状況も何とか出来るだろう」

「っ……。何とかって……もうガンプラバトルシミュレーターは……」

 

 時間がどれだけ過ぎたか分からなかった。ふと男性は一矢の腰に回していた手を離すと、彼に期待の言葉をかける。だが、そう言われたところでガンプラバトルシミュレーターがない今、自分にはどうする事も出来ないと歯痒そうな表情で答えようとするが……。

 

「確かにガンプラバトルシミュレーターは回収が進められている……。だがゲームには裏技が付き物だろう」

 

 それ以上は必要ないとばかりに一矢の唇に人差し指を置いた男性は口角をつり上げながら答える。不気味にさえ映るその表情に一矢は冷や汗を流すなか、男性は一矢から離れ、店から出て行こうとする。

 

「見つける事だ。この状況を打破できる裏技をね」

 

 男性は去り際に肩越しに振り返りながら一矢に声をかける。裏技……そう言われてもすぐには分からず困惑している一矢を他所に笑みを浮かべながら男性はイラトゲームパークを後にする。

 

 ・・・

 

「随分と時間がかかりマシタネ」

 

 イラトゲームパークから出た男性は歩を進めると、道沿いに停車していた車に乗り込む。そこには既に作業服を着たナジールが帽子と眼鏡を弄って彼を待っていた。彼こそ先程の運送業者だったのだ。

 

「彼とのお喋りはどうデシタ、クロノ?」

「顔を合わせたのは初めてですからね。とても有意義な時間でしたよ」

 

 車内から様子を見ていたナジールは一矢とのやり取りについて尋ねると、男性……そう、クロノは愉快そうにくつくつと笑い声をあげながら答える。

 

(ゲームはまだオープニングを終えたばかりだ。期待しているよ、雨宮一矢)

 

 車内の窓から見える店内の一矢の様子を眺めながら、クロノは歪な笑みを浮かべる。その姿を隣のナジールは油断ならなさそうに見つめながら、クロノのワークボットが操る車は発進していくのであった。


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