機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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Real Game

 大気が抜け出るコロニー内部を抜けたクロスオーブレイカーとバーニングブレイカーは幾度となくぶつかり合っていた。流星のような弧を描き、二機のガンダムブレイカーはコロニー周辺を駆け巡る。

 

「コイツ……っ!!」

 

 バーニングブレイカーとぶつかり合う度に奏の表情は険しくなっていく。戦えば戦うほど、ルティナという少女の実力が嫌でも分かる。気を抜けばあっと言う間にやられてしまうだろう。

 しかし今の奏はガンダムブレイカー0とのバトルで内なる力を解放したりとかなり消耗しているのもまた事実。時間が経てば経つほど、クロスオーブレイカーの動きに鈍さが見え始める。

 

「そっちじゃないんだなあ」

 

 対してルティナの表情はまさに余裕綽々といったもので、口元の笑みが崩れる事はない。クロスオーブレイカーが突き出したレーザー対艦刀をスッと横に避けると気の抜けたような声とは裏腹に鋭い一撃を受け、クロスオーブレイカーはコロニーの外壁に叩きつけられる。

 

「でもVRで機体を動かすのって変な感じ。やっぱりモビルトレースシステムのが良いのかな」

 

 VR空間のバーニングブレイカーのコックピットではノーマルアバターとして私服姿のルティナが拳を開閉している。それに合わせてバーニングブレイカーもマニビュレーターを開閉しているのだが、ルティナは不可解そうな表情をしており、VE空間で行うバトルがしっくりこないのだろう。

 

「お前、何言って……っ!?」

 

 コロニーの外壁に叩きつけられているクロスオーブレイカー。そのVR空間のコックピットでは奏は顔を顰めていた。彼女にとってルティナの言葉の意味は分からず、要領を得なかったのだ。しかしその事を口にしているのも束の間、まさにあっと言う間にバーニングブレイカーは眼前にいたのだ。

 

「でもそんなことしたら、すぐに壊れちゃいそうだしね」

 

 バーニングブレイカーから伸ばされた手はクロスオーブレイカーの首関節部分を掴み、力を強めると奏が見つめるモニターにノイズが走る。

 

「うーん……やっぱり今は消耗してるから、相手にはならないかぁ」

 

 バーニングブレイカーのモニターに映る各部に損傷が目立つクロスオーブレイカーを見やりながら、ルティナは分かっていたとはいえ消耗している今の奏ではまともなバトルは期待できないかとがっかりしたようにため息をつく。

 

「それともその心をもっともーっと追い込めば、その気になってくれるかな?」

「……っ」

 

 しかし今の奏は内なる力を解放してまでガンダムブレイカー0と激闘を繰り広げた直後。身体には負担がいまだ色濃く残っている為、満足なバトルなど出来やしないだろう。

 

 奏はルティナのことなど何一つとして知らないが、ルティナはどこか含みのある言い方をする。それはまるで奏の中にある力を知っているかのように。

 

 バーニングブレイカーは右腕を振りかぶる。これで何かを誘発出来たらいいし、仮になければ用もないし、さっさとクロスオーブレイカーを破壊して終わらせようとした時であった。バーニングブレイカーのアラートが鳴り響き、モニター越しにクロスオーブレイカーを見つめていたルティナは反応があった場所を見やる。そこには此方に迫るストライダー形態のNEXとその背中には騎士ユニコーンの姿があった。

 

 ストライダー形態のNEXは機首部分に装備されているハイパードッズライフルと大型ビームキャノンをバーニングブレイカーのみを狙って放つと、鋭い精度で無数のビームはバーニングブレイカーへと向かっていく。

 

 だがバーニングブレイカーに僅かも動揺の気配はなく、空いている左腕を向けると前腕のカバーが左腕を覆い、エネルギーを左マニュビレーターに集中させるとそのままエネルギーを照射させ迫るビーム群を飲み込んでいき、そのままNEXへ向かっていく。

 

「茶々いれるとか白ける真似しないでよ」

「いきなり襲いかかっておいて……」

 

 NEXとバーニングブレイカーはぶつかり合い、二本のビームサーベルを振るうNEXの攻撃を難なく回避しながら、心底面倒臭そうに話しかけると、いきなり襲い掛かっておいてそれを止めようとしたところを白けるような真似をするな、と言われてしまうと流石の希空も身勝手に感じられて顔を顰める。

 

「これって何でもありのゲームでしょ? なら好きに遊ばせてよ」

「訳が分からない……。アナタは何がしたいんですか……!?」

 

 どのみち、今の奏では満足なバトルが出来ないと判断したルティナはNEXの攻撃を捌きながら話す。しかし、まったく話が通じないルティナに希空も苛立ちを感じてしまう。

 

「だーかーら遊びたいんだって。遊ぶならもっと心を弾ませようよ」

 

 苛立つ希空にその苛立ちその物が理解できていない様子のルティナはNEXからの攻撃を全てあしらいながら、その胴体に掌底打ちを浴びせる。

 

 全てが流れるような動作であった。まるでヒップホップダンスを織り交ぜたかのような軽妙でリズミカルな動作の中に拳法の技が的確に打ち込まれていき、NEXにも損傷が目立ち始める。

 

 そのまま鮮やかな連撃を浴びせて行こうとするが、その前に光の剣が降り注ぎ、バーニングブレイカーはNEXから距離を取らざる得なくなってしまう。

 

 光の剣を放った騎士ユニコーンはNEXを守るために二機の間に割って入ると、マグナムソードを突き出して突撃していく。

 

≪……確かに私も例え見知らぬ相手でも楽しく遊べるのなら賛同します≫

「ほんと? うれっしいなぁ」

 

 近接戦ならば希空よりもロボ助の方が上手なのだろう。NEXの時は全て紙一重で避けていたが、多少なりガードする面が見えてきた。だがそれでもルティナは焦る様子もなく飄々と静かに放たれたロボ助の言葉に無邪気な反応を見せる。

 

≪だが、アナタのやり方は唐突で一方的です! それでは……っ!≫

「……あぁもう、そういう小言はうんざりだからさ」

 

 ロボ助はルティナのスタンスを非難するも、ルティナは一切、聞く耳を持たない。だが、その目は騎士ユニコーンの動きを完全に捉えており、マグナムソードを突き出した瞬間、目を細める。

 

「消えなよ」

 

 バーニングブレイカーの日輪は光り輝き、右腕を手甲が覆うとエネルギーが溜まって紅蓮の光を溢れ出させる。そのままクロスカウンターの要領で突き出したマグナムソードに対応したルティナは心から凍るような冷たい声で言い放つと、バーニングフィンガーが騎士ユニコーンを貫く。

 

「ロボ助っ!」

 

 まともにバーニングフィンガーを受けた騎士ユニコーンはみるみるうちにその動きが鈍くなっていく。トイボットの姿とガンプラが瓜二つのロボ助が貫かれた為、心を許す存在の悲惨な姿に悲痛な悲鳴をあげる。

 

「──これってそういうゲームでしょ? 一々動揺しないでよ」

 

 だがそれが大きな隙となってしまい、NEXに急接近したバーニングブレイカーはぴったりとくっ付きそうな距離に移動すると、悲鳴をあげた希空にルティナが煩わしそうに話す。

 

「なんだかルティナが悪い人みたいじゃん」

 

 驚いたのも束の間、もうここまで踏み込まれてしまってはルティナの独壇場とも言って良いだろう。正拳突き、掌底打ち、裏拳、肘打ちと数々の技を瞬く間にNEXへ浴びせていく。

 

「……っ……!」

 

 揺れるコックピット内でツインアイをぎらつくように輝かせるバーニングブレイカーをモニター越しで見つめた希空は体を震わせて息を飲む。もはやバーニングブレイカーのその姿は悪鬼のそれに見えたからだ。だがそんな間にも最後の一打を受けて、NEXはデブリに突っ込んでしまう。

 

「はぁっ……つまんない。テンションガタ落ち……」

 

 デブリに埋め込まれたNEXからツインアイの輝きは消えてしまう。その姿を見やりながら、折角のバトルで満足の出来なかったルティナは不満を零す。

 

「あっ、また来た」

 

 そうこうしている間にまたアラートが鳴り響き、ルティナが確認すれば、それはこちらに向かってくるアグニス達を始めとした多くのガンプラ達であった。

 

「心が躍らないなぁ……。無双ゲーってあんまり趣味じゃないし」

 

 自身の実力に絶対的な自身を持つルティナからすれば、迫るガンプラ達は全て同じに見えるのか、興が乗らないとばかりにため息をつくと、向かってくるガンプラ達に背を向けてクロスオーブレイカーを向かっていく。

 

「本物だけど、違う……。けど本物のような……」

 

 クロスオーブレイカーをジッと見つめながら、そこにいるであろう奏になにか考えるように思案する。

 

「ねえおねーちゃん、次はいつガチで遊べる? 如月翔をやっちゃうのとどっちが早いかな?」

「やっちゃうってなにをするつもりだ……!?」

 

 やがて鼻歌を交じりでクロスオーブレイカーに近づいたルティナは奏に尋ねると、消耗が激しく険しい表情を浮かべている奏はルティナの最後の言葉に強く反応する。

 

「バトるだけだよ。それにいい加減、目障りだし」

 

 するとルティナは今までの無邪気な反応から一転して、どこか凍り付く様な声色で言い放つ。その言葉の意味が分からず奏が困惑するも、バーニングブレイカーはクロスオーブレイカーに背を向ける。

 

「待て! その機体は……シュウジさんは今……ッ!?」

 

 背を向けたバーニングブレイカーに尋ねる。ここから立ち去ろうとしているのが分かったからだ。だからこそずっと感じていた疑問を叫ぶ。

 

「……下手に知り過ぎるのも心が囚われるだけだよ、おねーちゃん」

 

 しかしルティナは奏の問いかけに応えることなく、どこか複雑な面持ちで答えるとバーニングブレイカーはフィールド上から消え、残された奏は唖然とするのであった。




ルティナ

【挿絵表示】


ルティナ「下手な真実なら知らないくらいが良い…なーんてね」


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