機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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忘れてはいけないこと

 ガンプラバトルの歴史は長い。長い歴史の中には当然、数多くのドラマが生まれてきた。そんなガンプラバトルの歴史を知ろうとこの建物は存在する。

 

 GB博物館……。東京台場の地にあるこの施設はかつてはGGF博物館の名があったが、今ではガンダム・グレート・フロントのみならず、長い年月のうちに改築されガンプラバトルの歴史を更に拡張されたこの場所で知ることが出来る。

 

「ひ、人が多いな……」

「予想の範囲内です」

 

 GB博物館内はかなりの人でごった返しており、自由に身動きを取るのは難しい程だ。何とか施設内には入場出来たもののどこを見ても人で賑わって窮屈そうに身を縮こまらせる奏に希空はいつもの澄まし顔で答える。

 

「よ、よし希空……ここは手を繋いではぐれないように──…………いたっ!?」

 

 あまりの人混みに奏は希空に提案する。流石にこの人混みではぐれたら大変だ。早速、奏は希空の手を取ろうとするのだが、その前にすれ違った人にぶつかってしまう。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーれええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!?」

 

 そのままよろけた拍子に押し寄せる人波に流されていく奏。必死に手を伸ばすのだが、その手も虚しく人波に呑まれて見えなくなってしまう。

 

「……おかしい人を失くしました」

 

 流されて姿が見えなくなった奏に希空とロボ助は軽く敬礼をすると背を向けて歩き始める。姿を追おうにも流石に行き交う人々の間にいつまでも立っている事も出来ないし、最悪は携帯で連絡を取ればいいだろうと考えたからだ。

 

 ・・・

 

「ありがとうございます」

 

 奏がいなくなってしまい、希空とロボ助で行動していた。

 現在、奏とロボ助は巨大ジオラマとして設置されているネオアメリカコロニーの自由の女神砲の前で記念撮影をしており、撮影を頼んだ人物に礼を言いながら預けた携帯を受け取る。

 

「人が多い理由も分かる気、します」

 

 液晶画面で写真写りを確認する。ロボ助と一緒に撮ったわけだが、よく撮れているとは思う。口元に笑みをこぼしながら希空はロボ助に声をかける。メディアに大きく取り上げられてはいたが、いざ訪れてみたら想像以上に楽しむことが出来、ガンダムファン延いてはガンプラファンだけではなく、話題に食いついてやって来たガンダムを知らない人達でも十分楽しむ事が出来るだろう。

 

 

「……おじいちゃん達も同じ風に楽しんでいたんでしょうか」

 

 この施設は30年ほど前から存在する。改名される前の母体がオープンした際に自分の父と祖父、そしてその友人達がこの場に訪れたそうだが、その時もこうして楽しんでいたのだろうか。

 

「……あっ」

 

 ふとロボ助と施設内を散策しているととある一角に到着する。それはガンプラバトル関連で設置されたブースだった。だが希空はこの場所を見てこれまで以上の強い反応を示して吸い込まれるようにその場所へ向かう。

 

「……ガンダムブレイカー……」

 

 そこではガンダムブレイカーの歴史を紹介していたのだ。この時代では、ガンダムブレイカーはガンプラバトルにおいて大きな名を残している存在となっている。

 

 ガンダムブレイカー……最初はガンダム・グレート・フロントにおいて設立された部隊名であり、そこに所属するガンプラファイターが作り上げたのが始まりであるガンダムブレイカー0だ。

 

 そこからガンダムブレイカー、ガンダムブレイカーネクストと生まれていくが、何もガンダムブレイカーの使い手は一人ではなかった。

 

 全ての始まりとなる英雄から始まり、真紅の炎を纏い戦う覇王、二人の先人から受け継いだ力で戦う新星……。一人から二人、二人から三人とガンダムブレイカーの使い手はガンプラバトルの歴史を刻むたびに増えていった。

 

 そして何よりガンダムブレイカーの使い手は前述の三人だけに留まらず、その後もこの30年の間に一人また一人と必ずガンプラバトルの歴史の節目に現れては、多大な活躍を見せたと言う。長く続いていったガンダムブレイカーの活躍はこうしてGB博物館に歴代のガンダムブレイカーを紹介する場所があるほどの存在となっているほどなのだ。

 

 そんな30年以上に続く破壊と創造の系譜の中で今、新たなガンダムブレイカーとして現れたのは何を隠そうあの奏だ。

 

 幼い時からガンプラバトルにおいて、その才能の片鱗を見せていた彼女は彼女の父親や希空の父親だけに留まらず、彼らの後輩とも言える後に続くガンダムブレイカーの使い手達をも唸らせたと言う。

 

『今のお前にガンダムブレイカーの名前は使わせられない』

 

 ガンダムブレイカー0から始まり、今では10機以上に及ぶ歴代のガンダムブレイカーのベストセレクションとも言えるバトルの映像を眺めていると、不意に脳裏に父の言葉が過る。

 

(……何故私は……。私と一体、何が違うの?)

 

 希空のか細い手に力が籠り、その瞳が鋭く細まる。歴代のガンダムブレイカーの映像と脳裏に奏の姿を思い浮かべながら、ガンダムブレイカーの名を使わせられないとまで父に言われた自分と彼らがなにが違うのかを考えていた。

 

「──あー、希空さんじゃないですかー。御久し振りですー」

 

 どことなく険しいような雰囲気を漂わせる希空にどこか間の伸びたような口調で声をかけられ、振り返ってみれば四人の男女の姿があった。

 

「舞歌……」

「やっぱりこっちに来てたんですねー」

 

 自身に声をかけてきた着物姿の少女の名を口にする希空に舞歌は今、希空がこの場にいるのは予想していたのか、にっこりと微笑む。

 

「今日はガンダムブレイカーのイベントがやっているしな」

「貴文も……」

「相変わらず元気そうだな希空」

 

 しかし希空からしてみれば、やっぱりという言葉の意味が分からなかったようで首を傾げていると舞歌の隣に立っている声をかけてきたガタイの良い高身長の青年の名を口にする希空に軽く挨拶をする。

 

「今日から始まったガンプラバトルのフィールド内でレアキャラとして出現する歴代ガンダムブレイカーを撃破するイベント……。希空達もプレイにしに来たんだろ?」

「……間違ってはないです、涼一」

 

 次に声をかけたのは左目尻に縦に小さな傷跡がある眼鏡をかけたこちらも高身長な青年であった。概ねGB博物館に訪れた理由は間違っていないのか、青年の名を口にしながら答える。

 

「流石に一般向けの調整はされてるみたいだけど、それでも楽しみだよねー」

「……貴女は?」

「ボクは蒼月明里って言うんだ、よろしくね~」

 

 声をかけてきた四人の内、三人は知っているが、次に声をかけてきた亜麻色のショートボブの少女については知らないようだ。少女について尋ねる希空に明里と名乗る少女は語尾に音符でも付きそうなくらい声を弾ませている。

 

「俺達もそろそろイベントに挑戦しようと思うが、希空はどうする?」

「私達は私達でやります」

 

 彼らの目的もイベントだったのか、貴文が希空に尋ねると希空は傍らのロボ助を見やりながら答える。

 

「なら、フィールドで会ったら、久しぶりにその実力を見せてもらうぜ」

「どうぞご自由に」

 

 もしもフィールドで遭遇したら、遭遇戦としてそれはそれでバトルになるだろう。

 その時はその時で楽しみなのか、涼一が好戦的に笑うと、希空はどこ吹く風かさらりと答えてロボ助と共にイベント会場へ向かう。

 

 ・・・

 

(……結局、奏は見つからなかった)

 

 イベント会場のガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ希空はVRハンガーへと移動していた。あれから何度も電話したが、電源も切れているようで繋がらなかった。

 

≪準備は良いか、希空?≫

「ロボ助とならいつでも大丈夫だよ」

 

 既に己のガンプラであるNEXのコックピットに乗り込んだ希空にロボ助からの通信が入る。通信画面に映るロボ助を見ながら、希空は微笑む。彼女がこんな風に笑みを見せるのも柔らかな口調で話すのも、親族を除けばロボ助だけなのかもしれない。

 

≪希空、君にとってガンダムブレイカーは因縁がある。それ故、君を悩ませ、苦しませているのかもしれません≫

「……うん」

≪このイベントが君にヒントを与えてくれれば良いが、そうでない場合もある。でも、それでも約束して欲しい≫

 

 ロボ助から言われた言葉に希空は暗い表情で頷く。これがロボ助以外ならば誤魔化すか否定するだろう。そんな希空にロボ助は約束を取り付ける。

 

≪どんな時も楽しむことは忘れないでほしい。何より君が楽しむことが……夢中になることが君が君であることだと私は思います≫

「私が私である事……」

 

 ロボ助の言葉に希空は考えるように俯く。母に言われた言葉を思い出す。父と母が使える力。それは明確な条件は分からないが、それで自分が自分でいる限り、いつかは手に入ると言っていたのだ。

 

 あの時は何を持って自分が自分でいられるかなんて分からなかったし、自分が自分である為にと、その言葉その物でも悩んだりもしたのだ。

 

≪大丈夫。私が希空の傍にいる、私は君と共に歩む。もしも希空の行く道に障害が立ち塞がり、道を閉ざそうというのならば、私が手を伸ばしてこじ開けます≫

 

 いまだに希空の中には悩みがある。それ故に希空の進む道を惑わすことだろう。だからこそロボ助は希空を励まそうとする。そしてこの言葉こそロボ助の本心とも言える筈だ。

 

≪だから希空、今は目先の事を共に精一杯楽しんで行こう≫

 

 すると通信画面に映っていたロボ助の姿に変化が起こる。その鎧が展開すると、鮮やかな緑色の内部装甲を露わにし、バトルを行う時の姿となるビーストモードへと変化したのだ。VR空間だけではなく、呼応するように現実のシミュレーターでもロボ助は装甲を展開してビーストモードへ変化し、バトルへの準備を整える。

 

「分かったよ、ロボ助」

 

 希空の中の悩みはいまだに消える事はない。だがロボ助の言葉は少しは暗い自分の心に光が灯るような気がした。いつだってロボ助は生まれた時から傍にいてくれた。楽しい時も辛い時も一緒にいてくれたのだ。だから今もそうしよう。

 

「ガンダムNEX……行きます」

 

 希空の口元に笑みが浮かび、操縦桿を動かす。するとカタパルトに繋げられた希空のガンダムNEXは勢いよくフィールドへロボ助の騎士ユニコーンガンダムと共に出撃していくのであった。




ガンプラ名 ガンダムNEX
元にしたガンプラ ガンダムAGE-2

WEAPON ビームサーベル(ダブルサーベル)
WEAPON ハイパードッズライフル
HEAD ライトニングガンダム
BODY ガンダムAGE-2
ARMS ガンダムAGE-2
LEGS ガンダムキュリオス
BACKPACK ガンダムAGE-2
SHIELD ガンダムAGE-2

拡張装備 大型ビームキャノン×2(バックパック)
内部フレーム補強

カラーリング ガンダムAGE-2

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