機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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天使の再臨

「なんだか懐かしいな……」

 

 エンジニア宅を後にした希空達はようやく彩渡商店街を前にしていた。

 商店街は人で賑わっており、商店街の入り口なるアーチを見つめながら奏は懐かしんで目を細める。それは希空も同じようで心なしか懐かしむように微笑みを浮かべている。

 

「希空ーっ! こっちこっちっ!!」

 

 アーチを目前にすると希空を呼ぶ声が聞こえる。呼ばれるまま視線を向ければアーチの前にはカチューシャをつけた小柄な少女の姿があった。

 

「……久しぶりですね、愛梨」

「うんっ、久しぶりっ!!」

 

 手を振ってくる少女の名を口にしながら歩み寄る希空達。久方ぶりの再会もあるのだろう。愛梨と呼ばれた少女は笑みを見せる。

 

「夏休みに里帰り?」

「……そういうわけでは。ただ今回はロボ助のメンテナンスがあったので」

 

 挨拶もそこそこに、希空が彩渡街に訪れた理由を何気なしに尋ねられると首を横に振りながら答える。今回、彩渡街に訪れたのはロボ助の為であり、正直に言えばここであまり派手に動きたくはない。

 

「ふーん。ねぇねぇ希空! それよりまた向こうでの話してよ!」」

 

 そこから特に会話を発展させることなく、また別の話題に切り替わる。

 愛梨が言う向こうとは普段、希空が生活の拠点としている場所のことだろう。希空も奏も文字通り、普段はここからとても遠い場所で過ごしているのだ。

 

「別に大して変わる事はありません。慣れてしまえばどこも同じです」

「えーっ、絶対違うよ! 希空から聞かされる話はこっちじゃまだまだあり得ないんだから。希空達が向こうに行くって話を聞いた時、皆心配したくらいだよ?」

 

 愛梨の問いかけに首を横に振りながら答える。自身が普段生活している場所は彩渡街のような場所に行くと毎回、どんな場所なのか聞かれるが最初こそ新鮮だったが当たり前の日常を過ごしている場所なのでこれと言って話す話題の種は今となってはあまりない。しかし愛梨にとってはそうではないのか、首をぶんぶんと振りながら答える。

 

「……どこへ行ってもロボ助が一緒なら大丈夫です」

 

 愛梨の言葉に確かに今、生活の拠点にしている場所に向かう時、最初こそ不安があったのか、希空は一瞬、視線を伏せるも隣に立つロボ助を見ながら微笑を浮かべる。

 それだけで希空がロボ助には他の人々とは一線を越えた絶大な信頼を寄せているのが分かる。そんな希空の笑みに応えるようにロボ助も液晶パーツに笑顔を作った。

 

「わ、私は……?」

「……奏は……」

 

 笑い合う希空とロボ助は見ていて微笑ましいのか愛梨が笑みを浮かべているがただ一人、奏は全く自分のことには触れられていない為、己を指差しながら声をかけると希空は奏を見て、しばらく黙っている。

 

「……奏は必要ですよ」

 

 即答ではなくしばらく黙っている事から肩をガックリと落とす奏であったが、次の瞬間、希空から待ち望んだ返答をもらったことで水を得たように途端に明るい表情を浮かべる。

 

「長い時間、作業をしている時とか重宝します」

「ちょ、重宝……?」

 

 希空に必要とされていると嬉しそうにしていた奏だったが途端に重宝、という単語を聞き、表情が引き攣り始める。

 

「ええ、眠たい時とか放っておいても勝手に喋ってくるので、そういう時に相手にしてると重宝します」

「じゃあ、それ以外は……?」

 

 普段の奏を思い出しながら、しらっと澄ました表情で答える希空に愛梨は奏を横目で見ながら尋ねると口を横一文字に摘むんで答える気配がない。

 

「わ、私はお騒がせアイテムか何かか……」

「ま、まあ希空は本当に興味がない人には相手にしないどころか目も合わさないから……! 希空が長時間一緒にいるってことはそれだけ信頼されてるってことだし……!」

 

 希空の反応にガーンと音が聞こえてきそうなほど落ちこんだ奏は肩をがっくりと落とすと愛梨が何とかフォローをする。希空は口でこそあぁ言うが、そもそも愛梨の言うように言葉通りであれば今回、誘う事もしなかっただろう。ロボ助への絶大な信頼があるように奏には奏への素直にはなれぬ信頼があるのだろう。

 

「それより愛梨の近況はどうですか?」

 

 シクシクと両手で顔を覆って一人すすり泣く奏を励ましている愛梨に希空が今度は彼女の近況について立ち話もなんだと移動を始めながら尋ねる。

 

「私もそう変わったことはないかな? 希空みたいに向こうに行ってみたいけどパパとママがなれなかったガンプラバトル世界一にもなってみたいんだよね」

 

 奏を慰めるのもほどほどに愛梨が人さし指を顎先に添えながら答えると、その綺麗な碧眼を希空に向ける。彼女の両親はかつては【アメリカ代表】として世界大会にも出場した実力者だ。その時は惜しくも敗れてしまったが、愛梨はそんな両親が成し得なかった夢を目標にしているのだろう。

 

「そのためにもチームメンバー集めなきゃ!」

「チームと言えば我々も気が抜けんぞ」

 

 両腕をぎゅっと握って意気込む愛梨を微笑ましそうに微笑を浮かべていた希空だが、チーム、と言う単語に反応した奏が復活したかのように声をあげる。

 

「我々には我々の代表を決める大会がある。それを経て、地上間との大会がある。かつての世界大会よりも規模の大きなこの大会は是非ともファイターならば代表として出場したいものだ」

 

 腕を組みながら楽しそうに語るその言葉に希空や愛梨も強く頷く。大会の規模が大きければ大きい程、どうせならば参加したいと思うのがファイターの性というものだろう。

 

 そうしていると希空達が到着したのは、彩渡商店街近くの一軒のトイショップであった。店名が記された看板には【御剣トイショップ】の名前がある。同名の店が北海道にあるこの二号店はどうやら今日は定休日のようだ。

 

 既に希空の連絡があったのだろう。店の前にはグラマラスな女性の姿がある。年齢としては高校生である希空達よりも一回り年上だろうか。

 

「久しぶりね。二人とも大きくなって……」

「お久しぶりです、サヤナさん」

 

 合流すると、女性は希空と奏を見て懐かしんでいると奏が挨拶をしながら頭を下げ、希空も続くように頭をぺこりと下げる。するとサヤナは「立ち話もなんだから」と裏口から店に案内する。

 

 ・・・

 

「あぁ……陳列されているガンプラを見ると、安心するなぁ……」

 

 トイショップ内に足を踏み入れると早速、奏は店内をウロウロしており、立ち止まった先はガンプラが陳列されているコーナーだった。

 長期間の移動からかあまりガンプラに触れる事もなかったのだろう。陳列されているガンプラの箱を見ては、幸せそうに顔を綻ばして、目に留まったガンプラを手に取る。

 

「本当に奏はダブルオーライザーが好きね」

「なっ……ぁっ……そ、そういうわけでは……っ!」

 

 ガンプラを手に取った奏にサヤナが歩み寄ると、そのガンプラを見てクスクスと笑う。その反応に奏は耳まで真っ赤にして気恥ずかしそうにするものの決して手に取ったダブルオーライザーのガンプラを手放そうとしない。

 

「奏はダブルオーライザーに思い入れがありますからね。理由はないらしいですけど」

「不思議だね。確かエクシアも好きだったよね」

 

 そんな奏とサヤナのやり取りに傍から見ていた希空と愛梨が話に加わる。奏がダブルオーライザーに思い入れがあると話すものの理由がないとのことに愛梨も肩を竦める。

 

「自分でも分からないんだ……。でも……特にダブルオーライザーは馴染むと言うか……その……落ち着くんだ。なんだか……懐かしい気がして」

 

 ダブルオーライザーの箱絵を眺めながら何故、自然とダブルオーライザーのガンプラを手に取るレベルまでなのかは自分でも明確な理由は分からぬものの奏は何とか言葉を紡ぎながら答える。

 

「でも奏はターンXは嫌いですよね」

「えぇっ、なんで!? もしかして御大将が苦手とか!?」

 

 ダブルオーライザーへの不思議な思い入れを語った奏に希空が爆弾をぶっこむように話すと、愛梨は驚きながらキャラ嫌いから始まった事なのかと尋ねる。

 

「そ、そういうわけではないっ! 御大将も良いキャラだし、ターンX自体もデザインも何から何まで素晴らしい機体だと思ってるっ! でもその……っ!」

 

 愛梨の言葉を慌てて否定しながら決してキャラも機体も嫌いではないと話すのだが……。

 

「こ、怖いんだ……ターンXを見てると……。これも自分じゃ分からない……。でも……その……これは多分……生理的なものなんだと思う……」

 

 嫌いではなく怖い。今一、奏の言葉に要領を得ない希空達だが、ダブルオーライザーの箱を持つ腕が僅かに震えている事から、トラウマなレベルで深刻な問題なのかそれ以上の追及は止める。

 

「……折角、希空達も戻ってきたんだし、どう?ガンプラバトルでも」

 

 震える奏の肩を抱きながら、どこか冷えた空気を払拭するようにサヤナが口を開くと、続くように気を使った愛梨が賛同し、希空達も頷く。

 

 ・・・

 

「あぁ、やっぱりガンプラバトルシミュレーターも混み合ってるね」

 

 移動したのは近くのゲームセンターであった。一般的には夏休みもあって人で混雑していた。愛梨がガンプラバトルシミュレーターの空き状況を確認すると、多く稼働しているうちの三台が空いていた。

 

「最初はみんなのバトルが見たいです」

 

 三台を誰がプレイするか、相談するよりも前に希空が手を挙げながら答える。希空が出ないのならばと続くようにロボ助も希空に同意するように頷く。

 

「良いのか?」

「昔から人の後ろでゲームプレイを見るのは好きでしたから」

 

 折角なのにと、奏は希空に尋ねるが希空は首を横に振りながらこれ以上、時間を浪費してガンプラバトルシミュレーターの空きが取られないようにと促すように自身は近くのベンチにロボ助と腰掛ける。奏達は視線を交わしてガンプラバトルシミュレーターに乗り込むと、専用のヘッドホンなどを使用して早速、VRハンガーへと飛んだ。

 

 ・・・

 

 ガンプラバトルシミュレーターを起動し、店内対戦のセッティングを終了後、VRハンガーには奏、愛梨、サヤナの姿があった。

 

「では、希空には悪いがこの三人でバトルをしようではないか」

 

 当然、三人ともアバターであり、アバターそのものは普段の彼女達だが希空同様にその服装はガンダムシリーズのキャラクターのもので、奏の身を包むのはガンダムビルドファイターズに登場するアイラ・ユルキアイネンの白を基調にした私服であり、花飾りのついた帽子を被っていた。

 

「折角なら希空とバトルしたかったんだけどなー」

「こればかりは仕方ないわ」

 

 アバターの愛梨の服装はガンダムSEEDのカガリ・ユラ・アスハのパイロットスーツを着用しており、サヤナもその服装はマリュー・ラミアスのものだ。一番に希空とのバトルが出来ないことに残念がる愛梨をサヤナが宥める。

 

 だがいつまでもこうしてVRハンガーで話している訳にもいかない。出撃を促すアラートが鳴り響くなか、奏達は己が作り上げた設定した実物大に具現化されたガンプラのコックピットに乗り込むと、次の瞬間、三機はそれぞれ別のカタパルトに接続される。

 

「やっぱり……ダブルオーライザーは落ち着くな……。なんだかこう……ずっと昔から体が覚えていると言うか……」

 

 奏のガンプラはダブルオーライザーをカスタマイズしたガンプラであった。

 そのコックピットで操縦桿を握りったり放したりしながら不思議と笑みを零す。勿論、これは本物のMSコックピットではなく、ましてやダブルオーライザーのコックピットなどではない。だが不思議とダブルオーライザーに関わるとそう思えてならないのだ。

 

「クロスオーブレイカー、出るッ!」

 

 それぞれ別の場所に出現したカタパルトで奏は高らかに愛機であるクロスオーブレイカーの名を叫び、出撃する。

 ダブルオーライザーを元にカスタマイズしたクロスオーブレイカーは鮮やかなGN粒子を放出しながら出撃していくのであった。




ガンプラ名 クロスオーブレイカー
元にしたガンプラ ダブルオーライザー

WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ダブルオーガンダム
BODY ダブルオーガンダム
ARMS ガンダムAGE-2ダブルバレット
LEGS ガンダムサンドロック
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD バインダー
拡張装備 サイドバインダー×2(オーライザーの機体部分をすっぽり挟むように)
     レーザー対艦刀×2(両腰部)
     大型レールキャノン×2(背部)
     内部フレーム補強
カラーリング ダブルオーライザー

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