機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ガンプラデビュー!

 

 

「あんがとね、暮葉さん」

「うん、また来てね、夕香ちゃん」

 

 一矢達とシュウジの出会いから数日後、夕香は一人、彩渡商店街近くの美容室に来ていた。ここの店は以前から知っており今、夕香が礼を言った亜麻色の髪の女性は秋城暮葉(あきしろくれは)だ。この美容室の看板娘の女性であり、彼女の腕は夕香も気に入っていて、ここは夕香や裕喜などの行きつけの美容室になっている。

 

 ・・・

 

 美容室で身だしなみを整えた夕香は鼻歌交じりに駅前に訪れていた。

 駅前に来ればそれなりに周りは賑やかになってくる。兄がここ最近通っている寂れた商店街とはえらい違いだ。その理由と言うのも恐らくは新しく出来たこのタイムズ百貨店のせいだろう。もっとも夕香が今、ここにいるのもそのタイムズ百貨店が目的なのだが。

 

「夕香ーっ!」

「おっ……と」

 

 駅前にたどり着いた夕香は誰かを探しているのか左右に顔を動かし道行く人々を見ている。やがて目的の人物がいないのが分かったのか自身が肩にかけている2wayバックから携帯端末を取り出し、目的の人物に連絡を取ろうとすると背後から自分の名を口にする活発な声と共に背中に重みが走り、僅かによろけてしまう。

 

「へいお待ちー。裕喜ちゃんだぞっ」

「まったくー……。女の子を待たせちゃダメだろー」

 

 肩越しに自分に抱き着く人物の髪の毛が見える。

 クリーム色の髪だ。この髪色とこのような事をしてくる人物は自分の知り合いにいる。

 一々確認しなくたって分かる、裕喜だ。その予測通り裕喜は夕香の肩に顔を置き、笑いかけると自然に夕香も笑みを零し軽口を言う。

 

「もぉ夕香だって今来たばっかでしょー。知ってるんだからねー?」

「あはは、ごめんごめん。じゃあ行こっか」

 

 背後から夕香に抱き着いていた裕喜は苦笑しながら離れて夕香の隣に並び立つと夕香は両手を合わせて謝りながらタイムズ百貨店へと向かう。今日、夕香は親友の裕喜に誘われ、ここに来る約束をしていたのだ。

 

 ・・・

 

「ねーねー、KODACHIって知ってる?」

「最近、売り出し中のアイドル歌手でしょ」

 

 数時間後、二人は百貨店内のカフェで休憩をしていた。ストローでアイスコーヒーを口にしている夕香に今まで満面の笑みで満足そうにデザートを頬張っていた裕喜が何気なく誰かの芸名だろうか知っているかどうか問いかけると知ってはいるのか夕香は答える。

 

「私の予想だとこの先、凄く有名になると思うのよねー。歌も上手いし可愛いしスタイル抜群だし! 今度、イベントでここに来るって!」

「ふーん」

 

 携帯端末からKODACHIと思われる少女の画像を見せながら熱心に説明してくる。恐らくはファンになっているのだろう。しかし夕香は画像は注視するものの大きな興味は示さない。

 

「夕香って無趣味よねー」

「なにさいきなり」

 

 裕喜は携帯端末を引っ込めながら突然、指摘をすると、夕香は怪訝そうにしながらアイスコーヒーをテーブルの上に置く。

 

「いや、夕香がこれが好きっ! って言うのがないなーっと思って。ファッションが好きってわけでもないでしょ?」

 

 親友として今まで接してきて、夕香と一緒にいるのは大好きだが夕香が何かに一定以上の興味を持った姿を見た事ない。

 今日だってそうだ。

 百貨店内で衣類や雑貨を買い物したわけだが、夕香は楽しそうではあるのだがこの百貨店内で何かに強い興味を持っているわけではない。

 

「まぁアタシはそーいうのよく分かんないし。オススメのマネキン買いが安定だよねー」

「夕香の誕生日プレゼントとかいつも悩むよー。イッチはガンダムグッズとかガンプラ渡してれば安定だけど」

 

 夕香も無趣味と言われればそうなのかもしれないと思う。

 美容室もファッションも身だしなみには気を使う程度で別にそれが好きだというわけではない。苦笑している夕香に裕喜も同じように笑いながら今も彩渡商店街にいるであろう一矢の名を出す。

 

「ガンプラ、ねぇ……」

 

 双子の兄である一矢もどちらかと言えば無趣味ではあったが、ガンダム及びガンプラに出会ってからはその熱中っぷりは凄まじかった。特にガンプラに関しては如月翔の影響もあってか強いものになっている。

 兄があそこまで惹かれ、そして今やガンプラバトルも世界中に広まり、大ブームの中心にあるガンプラ。夕香は一矢のチーム結成時以来再び興味を示すのだった……。

 

 ・・・

 

「それでガンプラを作ってみようって思ったわけか」

 

 翌日、夕香は再び駅前で裕喜、そしてその兄である秀哉、弟である貴弘と一緒にいた。

 夕香から話を聞いたのか秀哉がふむふむと頷いている。ガンプラを作ってみようと思い立った夕香は秀哉に頼んだのだ。

 

「でもさ、一矢に頼めば良いんじゃない?」

「……いや、イッチは……うーん……」

 

 夕香の身近な人間でガンプラに詳しい人間と言えば一矢や秀哉だろう。

 自分の兄が頼られるのは嬉しいが、夕香にも一矢という兄がいる筈だ。何故わざわざ秀哉なのか貴弘が何気なく聞いてみると、夕香は視線を逸らし唸っている。

 

「まぁ良いだろ。早く行こうぜ。場所は彩渡商店街か?」

「んにゃ……久しぶりに顔出してみようって思ってさ」

 

 夕香が一矢に頼まないのは単に兄にガンプラ作りの教えを請うのが照れ臭いだけだ。

 それならば秀哉の方が頼みやすい。それを察してかそれとなく話題を変え問いかけると僅かに表情を和らげた夕香は場所は彩渡商店街ではないのか動き始める。

 

 ・・・

 

「ブレイカーズか……。相変わらず繁盛してるな」

 

 夕香に連れられて訪れたのはブレイカーズだった。

 秀哉もブレイカーズは知っているのか、子供の声で賑わっている店内を店外から見ながら呟く。夕香の中でガンプラが売っている店でパッと思いついたのはここと彩渡商店街だったからだ。幸い一矢はここにはいない。夕香は賑わう店内に足を踏み入れる。

 

「あら夕香ちゃん、久しぶりっ! 一人で来るのって初めてだね、昔は一矢君と一緒に来てたのに」

「あははっ……昔ですよ昔……」

 

 店内にいたあやこは夕香に気づくと声をかけてくれた。少し前までは一矢についてきていたのだろう。その事を話すと、友達の手前、照れ臭いのか頬をかいて苦笑しながら答える。

 

「それで今日はどうしたの? アルバイトの広告見てきたの?」

「違いますよ。ガンプラを……ちょっと……」

 

 夕香が来るというのは珍しい。

 過去に一矢と来た時もあくまで一緒にいるだけだった。そんな夕香が何しに来たのだろうかと問いかけるとガンプラ売り場のほうに目をやりながら夕香が呟くように答える。

 

「あぁっそういう事なんだ……。私も翔さん達も暇だったら案内してくれるんだけど今はちょっと混み始めたし、翔さんは今、裏で応募してきた子に面接してるし……」

「気にしないでください。今日はガンプラに詳しい人に一緒に来てもらってるんで」

 

 夕香が一人でガンプラを買いに来たと言うのを珍しく感じながらも、ガンプラを案内したいが今は混み始めている。

 あやこが翔の知り合いとして少し前から働き始めているシュウジがレジを打っているのを横目に申し訳なさそうにしていると、夕香は笑いながら秀哉達を連れてガンプラ売り場へと向かう。

 

「あれ一輝、お前来てたのかよ!?」

「わぁっ!? 秀哉達じゃないか!?」

 

 ガンプラ売り場にやって来ると、様々な種類のガンプラが陳列されており、夕香は予想以上のガンプラの多さに驚いていた。すると秀哉は偶然、ブレイカーズでガンプラを物色していた一輝を見つけ、互いに驚いている。

 

「なんか一杯あるんだね……。夕香が作るなら作ってみようかなー……。で、どうするの?」

「うーん……」

 

 所狭しと陳列されている様々なガンプラ。予想以上の品揃えに唖然としながら隣で目移りしている夕香に声をかけると、夕香はガンプラを見ながら唸っている。

 正直な話、種類があってどこから手を出して良いか分からなかった。秀哉をチラリと見れば一輝と話をしている。秀哉が話し終わるのを待とうとすると……。

 

「なに買おうか悩んでんのか?」

 

 悩んでいる夕香に声をかけた人物がいた。一輝と同じぐらいの年齢だろう。快活な青年に突如、声をかけられ夕香は戸惑っている。

 

「ガンプラって種類があるからなぁ……。内部やギミックに拘ったMG、究極のガンプラを目指したPG、MGやPGの集大成としてリアルなモデルとして発売されてるRG。他にもlegend BBやSD、FG……兎に角、色々な種類があるんだ」

「……あの……どなたですか?」

 

 困惑している夕香を知ってか知らずかガンプラの種類について教えてくれる青年。ありがたいが、一体誰なのか裕喜に背中を押された貴弘が代表して問いかける。

 

「おっとごめんな。俺の名前は深田宏祐(ふかたこうすけ)! またの名をガンプラお兄さんだ! よろしく!」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 自己紹介がまだだったことに謝りながら青年は己の名を口にする。快活な青年こと宏祐に気圧されながらも貴弘が頭を下げ、夕香と裕喜も小さく頭を下げる。

 

「やっぱり初心者ならコレクション性や作りやすさに定評があるHGなんてどうだ?ガンプラバトルの主流は大体、HGだし値段も手ごろだぞ」

 

 宏祐は再び夕香に初心者という事も考えてHGシリーズを勧めると夕香はHGと書かれているガンプラに目をやる。とはいえHGだけでも様々な種類がある。

 

「あっ……」

 

 そんな夕香の目にあるガンプラが目に留まった。

 ガンダム自体詳しく知らない為、このガンプラがどの作品に出ていて、何なのかは知らないが、ゆっくりと夕香はそのガンプラに手を伸ばす。

 

「ガンダムバルバトス……」

 

 手に取って、そのガンプラの商品名を口にする。

 パッケージには作品タイトルとガンダムの絵、パイロットであろう青年の顔が映っている。いくら箱絵を見たところでガンダムだ、としか思わないが直感でこのガンプラが良いと思えた。値段も手ごろではあるし、夕香はこのガンプラを選ぶのだった……。


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