機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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40000UA記念小説
扉の先


『まだまだ未来はこれからだね!』

 

『じゃあ……未来への扉を開こうか』

 

 

 ──かつて未来への扉が開かれた。

 

 

 今を生きる者達はその扉を通り、答えの分からぬ未来へ進んだ。

 

 

 未来への扉の先には何があるのか……?

 

 

 覗いてみよう

 

 

 未来への扉のその先を

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「……んっ……」

 

 暗いトンネルをモノレールを思わせる乗り物が走る。窓から差し込む強い日差しを受けると眠っていた一人の少女が短い声を漏らした。茶髪のロングヘアを揺らし、一度強く眉間に皺を寄せると重い瞼を開き、その【真紅の瞳】を露わにする。

 

「起こしてくれたんだ……」

 

 ふと自身の腕が何かに触れられている感覚がある。

 その方向を見やれば、一角獣を彷彿とさせる鎧を着た騎士……騎士ユニコーンガンダムの姿があり、少女は騎士ユニコーンを見て微笑む。

 

「……ありがとう、ロボ助」

 

 とはいえこの騎士ユニコーンはあくまでトイボットだ。

 このトイボットに名付けた名前を口にしながら、その頬にあたる部分を優しく撫でて感謝の言葉を口にする。ロボ助と呼ばれたトイボットは少女の感謝の言葉にその瞳にあたる液晶パーツで笑顔を作る。

 

 真紅の瞳で窓から広がる光景を見やる。どうやらもうすぐ駅に到着するようだ。窓の外から離れた場所にドーム型の駅があり到着は時間の問題だろう。

 

「──起きたんだな、希空(のあ)

 

 ふと窓の外を見ていたら名前を呼ばれて後ろから声をかけられる。振り返ってみれば、自身が座るシートの上に身を乗り出してこちらを見下ろす長髪をハーフアップに纏めた少女がいた。

 

「久しぶりの【地上】だ。心が躍るなっ」

「……夏休みでもなければ来れませんからね」

 

 そのまま先程、希空が眺めていた窓から広がる光景を眺めながら声を弾ませる少女にコクリと頷く。

 

「寮生活だと行動に制限は出てしまうからな……。今日は希空に誘ってもらえて嬉しかったぞっ」

(かなで)は私の誘いなら必ず受けてくれると信じていましたから」

 

 

 どこか苦笑気味ではあったが、今こうしてこの場にいるのは希空に誘われたからなのだろう。希空の両肩に触れながら言葉の中に嬉しさを溢れ出させていると希空は目を瞑り、静かに少女の名を呟く。

 

「私を信じて……っ! よし、駅に着いたらアイスを一緒に食べようっ! 折角、誘ってくれたんだ、奢るぞっ!」

(……ちょろい)

 

 希空の言葉に感涙せんばかりに瞳を潤ませる奏はそのまま身を乗り出した姿勢で首周りに手を回して抱き着くと希空は呆れ半分、奢ってくれるという事で嬉しさ半分といった様子でほくそ笑む。

 

「しかしロボ助もいるとはいえ、こうして二人で出かけるのも久しぶりだな……。親の付き合いが長いとはいえ、昔はよく希空の手を引いて走り回ったなぁ……」

(……その結果、しょっちゅう色んな場所で迷子になりましたが)

 

 ふと奏は希空との昔の思い出を振り返り、懐かしそうに呟くと、その思い出に碌なものがないのか、奏からは見えないところで希空は思いっきり眉間に皺を寄せている。

 

「あぁっ……みな懐かしい……。さあ希空! 私のことを昔のように奏お姉ちゃんと呼んだって良いんだぞっ! さぁ、プリーズ!!」

「呼びませんけど」

 

 しかし希空の心境とは裏腹に二歳年上である奏は希空に半ば昔の呼称を要求するがその希空からは至極冷静に静かに返され、背後に落雷でも落ちたかのように目を見開いて驚いてそのままガックリと項垂れる。その反応を見ながら、寧ろなぜ呼んで貰えると思ったのだろうか、と希空は首を傾げていた。

 

 ・・・

 

「はあ……【久しぶり】の太陽の日差しは心地良いなぁ……」

「……人工のものではありませんからね」

 

 駅に到着し、入り口から出てきた奏は一度、荷物を置いて大きく身体を伸ばすと太陽に手を翳しながらしみじみ呟く。希空も同意見なのかコクリと頷き、声色にも気分の高揚さを感じさせる。

 

「まずはホテルにチェックインするか」

「ですね。少し落ち着きたいです」

 

 これからの予定について話し合う。

 とはいえ別に意見が別れる事はなく、すぐに次の行動が決まって二人はタクシーを利用して移動を開始する。

 

 ・・・

 

「はぁー……とぉうちゃぁくーっ」

 

 早速、ホテルに移動した希空達は割り当てられた部屋に移動すると、奏は荷物を脇に置くとクルクルと回りながらベッドに倒れ込む。

 

「おっ……」

 

 ベッドに倒れた奏はベッドの近くに備えられたリモコンを見つけると興味深そうに笑みを浮かべてリモコンを操作する。するとどうだろうか、なんとこのホテルの一室が魚が泳ぐ海底に変化したではないか。

 

「……勝手に内装変えないでください」「良いではないか、別に」

 

 

 とはいえ別に泳いでいる魚は本物ではなく、魚は荷物を置いている希空をすり抜けていく。これは全て立体映像を駆使して部屋の内装を気分によって変える事が出来る。

 今では大体、このくらいの機能はどこにでもあるのだろう。左程驚いた様子もなく希空は文句を言うが、奏は気にした様子もなくベッドをゴロゴロと寝転がっている。

 

(全く……)

 

 奏の態度に呆れながらロボ助と一緒に荷物を片付けた希空は一部の荷物を机の上に置く。それはGPと思われる端末とそのGPに繋げられた何かのケース。そしてプラグ付きのヘッドホンのような機械だ。

 

「……すぅすぅ……」

(……寝てる)

 

 ふと奏を見やれば、旅の疲れもあったのか彼女はすでにうつ伏せで眠っている。

 内装を海底に変えたこの部屋では今の奏は何故か、海底に沈んだ水死体のようにも見える。

 

 奏が寝たのならば、と希空はリモコンを操作して元の内装に戻すとプラグをコンセントに差してヘッドホンを装着するとスピーカー部分に備わったボタンを操作する。

 すると希空の視界を覆うようにフォロスクリーンが展開し、希空の意識はフォロスクリーンが放った光に吸い込まれる様に意識が切り替わる。

 

 ・・・

 

「……」

 

 希空はゆっくりと目を開く。目の前には白いドーム状の空間が広がっており、空間の真ん中には立体映像が表示されたコンソールの操作台がある。

 今の彼女には先程のヘッドホンは装着されておらず、それどころかその服装は機動戦士ガンダムSEEDシリーズの地球連合軍の女性制服を着用していた。

 

≪VRハンガーに到着≫

 

 すると希空の背後に何かデータが構築されると先程一緒にいたロボ助が現れる。

 この空間では発声することが可能なのか、ここに来て漸く言葉を発し、この空間の名前を話す。

 

 ここはVRハンガーと呼ばれる空間。

 今から【30年近く前】に新型ガンプラバトルシミュレーターに実装された機能だ。このVR空間ではアバターとして現実と左程、変わりなく行動することができる。

 

≪希空、ルナマリア・ホークのアバターが追加されています。どうする?≫

「……課金して」

 

 操作台に移動する希空にロボ助が話しかける。どうやらアバターに新商品が追加されたらしい。

 希空の指示に畏まりましたとロボ助が返答すると次の瞬間、希空の制服に光が集まり、その姿はピンクのミニスカートを履いた機動戦士ガンダムSEED DESTINYに登場するルナマリア・ホークのZAFTの制服に変化したのだ。

 

≪ガンプラの調整を?≫

「うん、この後のことを考えるとバトルをするのにそう時間はかからないだろうから」

 

 アバターの服装が切り替わった希空は操作台を使用して、コンソールを素早く叩くと、彼女とロボ助が立っているリフトの前面の広い空間にデータが構築され、実寸大であろう見た事のないガンダムが姿を現す。

 

 これは彼女が作成したガンプラが彼女が設定したサイズとなって投影されたものだ。

 近くの浮遊する操作台を操作すると、今、希空達が立っている場所はリフトになっているのか目の前のガンプラのコクピットにあたる部分まで移動する。

 

「……うん、NEXのパーツに不備はない」

 

 なんと目の前のガンダムのコクピットが開いたではないか。

 希空は軽やかにコクピットに乗り込むと素早く操作する。中は複雑、と言うわけでもなくあくまでガンプラバトルシミュレーターのそれと大差はない。モニターには機体状態が表示されており、気遣っているとはいえ、移動中の細かいパーツの破損などは見当たらない。どうやらあのGPに繋がれたケースには希空が乗り込んでいるこのガンプラが収められていたようだ。

 

 鋭利的な外見を持つ希空のこのガンプラは可変機であるガンダムAGE-2をベースにカスタマイズしたガンダムNEXという名前らしい。一通り、操作し終えるとNEXのコクピットから降りる。ほぼ設定した実寸大に投影されたガンプラやそのコクピットにアバターが乗り込める点と言い希空達の行うガンプラバトルはかなり異なっているらしい。

 

≪希空、コーヒーを用意しました≫

「ありがとう」

 

 コクピットから降りてきた希空にロボ助が声をかける。希空は操作台近くのリクライニングシートに座ると、ロボ助が出してくれたコーヒーを口にする。

 

「好みにドンピシャ」

≪希空の好みは熟知しておりますから≫

 

 既にミルクと砂糖がいれられたコーヒーに満足した笑みを浮かべる希空にロボ助も液晶パーツに笑顔を浮かべる。とはいえ、このVRハンガーで飲食したものは現実の希空の胃を満たすものではない。あくまで気分的なものだ。

 

「流石、生まれてからの付き合い」

 

 自身の好みを熟知しているロボ助に希空は笑いかける。そもそも希空とロボ助の関係は彼女が生まれた時に遡る。彼女の誕生祝いとして【両親の知り合いのエンジニア】がプレゼントしてくれた。

 希空の誕生と共に起動した彼はロボ助という名前を物心ついた希空から授かり、今に至る。名付けられたときに居合わせたロボ助を制作したエンジニアは母親譲りのセンスだな、と苦笑していたが。

 

≪ところで希空。折角地上に降りたのだから、ご両親に会いに行かれるのか?≫

 

 しばらくコーヒーを飲んで、ゆったりとした時間を過ごしているとロボ助の言葉に希空は動きを止める。

 

「……今回は良い。ここにいることは教えてないから」

≪何故? ご両親は会いたがると思いますが……≫

 

 コーヒーをロボ助が用意したソーサーの上に置きながら静かに答える。だが両親に会わないという選択を選んだ希空を解せないのか、ロボ助は追及する。

 

『あの力は求めて手に入るものじゃない』

 

 希空は目を閉じて、かつて父親に言われた言葉を思い出す。

 

『それが分からないなら今のお前にガンダムブレイカーの名前は使わせられない』

 

 普段は口数の少ない寡黙な父親がハッキリと言った言葉は今でも覚えている。

 

『確かにパパとママはあの力は使えるよ。でもパパの言う通り、あの力は望んだから手に入ったんじゃないんだ』

 

 そして今度に思い出すのは母親の言葉だった。

 

『これって言う答えはないと思うけど、でも希空が希空でいる限り、いつかは手に入る時は来るよ』

 

 優しく諭すように話してくれた母親。当時のことを思い出しながら希空はゆっくり目を開く。

 

「……今はまだ……あの二人に会いたくないんだ」

 

 別に両親のことを嫌っている訳ではない。寧ろ大きな尊敬と親愛を抱いている。その証拠というわけではないが、希空は横紙に留めた二つのヘアピンを軽く撫でる。これは母が使っていたヘアピンと同色のものを見つけて、それっきりお気に入りとして使用しているのだ。希空自身、両親に会いたい気持ちはあるもののそれ以上に存在するとある想いがそこに待ったをかけるのだ。

 

≪希空がそこまで言うのなら、これ以上出しゃばる真似はしません≫

 

 そんな心情を察してか、ロボ助はこれ以上の追及を止めるとトイボットながらその気遣いに希空はありがとう、と感謝する。

 

「でも、ロボ助のメンテナンスは必要だから彩渡街にはいかないと」

≪それはありがたいが私のことは後回しで構わない≫

 

 微妙な空気になってしまったのを払しょくするように希空はロボ助の兜にあたる部分を撫でると、希空の想いに感謝しつつもトイボットである自分を後回しにして良いと申し出るロボ助に希空はそうはいかない、とロボ助の言葉を受け付けない。

 

≪しかし彩渡街に行くのなら、奏もブレイカーズに立ち寄ろうとするのではないでしょうか≫

「それは構わない。奏だって久しぶりに会いたいだろうし」

 

 現実世界で眠っている奏について触れる。

 希空は彩渡街で派手に動きたくないが、奏がどうしようが奏の勝手だ。

 

「……例の博物館、混んでるかな」

≪恐らく。もしかしたら希空の知り合い、もしくは新たな出会いがあるかもしれないな≫

 

 どうも彩渡街の話になると、会話は途切れてしまう。もっとも誰譲りか、希空は口数も多くはないタイプなのだが。

 再び話題を変えると、それは30年ほど前にオープンしたとある博物館についてだ。今回、夏休みを利用してやって来たのは、その博物館が目的だったりする。希空の問いかけにロボ助が予想を交えながら答えると、それは楽しみ、と己の作ったガンダムであるガンダムNEXを見やるのであった。





希空

【挿絵表示】


希空「……洗濯物畳んだのはパパ?」
「……そうだけど」
希空「ママの下着が混ざってた」
「……そうか?」
希空「よく考えて欲しい、私とママとではブラのサイズは圧倒的に違──」
「それ以上はいけない」

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