機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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本音を明かして

 アザレアリバイブに襲いかかるリミットブレイカー。これまでの雨宮一矢が使用してきたどの武装より巨大な身の丈があるか否かの大剣であるカレトヴルッフを軽々と振るい、それが一撃でも直撃すればただでは済まないだろう。

 

「一矢、なんでっ!?」

 

 カレトヴルッフが風を切る。リミットブレイカーの攻撃を何とか避けながらミサは混乱を露わにしながら叫ぶ。しかし一矢は、リミットブレイカーは叫びさえお構いなしに攻撃を続けていく。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 しかし段々とアザレアリバイブは追い詰められていき、叩きつけられるように受けたカレトヴルッフの一撃にアザレアリバイブは大きく吹き飛んで、近くの施設に突っ込んでいく。

 

「止めた方が……っ!」

 

 あまりに一方的なまでにアザレアリバイブに攻撃しているリミットブレイカーを見かねて、ストライクノワールを駆っていたコトが影二達に提案する。だが、そのコトの提案に影二はいや……と待ったをかける。

 

「……なにか考えはありそうじゃ。少し様子を見るべきかもしれんの」

 

 リミットブレイカーの攻撃の一つ一つには自棄になったような乱暴さを感じられない。

 なにか考えがあるような気がしてならないのだ。厳也の言葉に影二は頷き、リミットブレイカー達の様子を見守る。

 

 ・・・

 

「どう……して……ッ!?」

 

 施設に吹き飛ばされたミサは困惑で顔を歪めながら、モニターに映るリミットブレイカーを見つめる。リミットブレイカーはこちらにゆっくりと歩いて来ており、恐怖感さえ感じるほどだ。

 

 しかし驚くべきリミットブレイカーの行動はこれだけではなかった。リミットブレイカーはその場に立ち止まる。何をする気なのか、ミサは困惑しながらモニターのリミットブレイカーを見つめていると……。

 

「っ……!?」

 

 なんとリミットブレイカーは覚醒したではないか。ツインアイが輝くと共に全身を包む赤き閃光を纏ったリミットブレイカーを見て、ミサは息を飲む。

 

「本気なの……っ……一矢……!?」

 

 ただ攻撃するだけに飽き足らず、覚醒まで発現させたリミットブレイカー。それだけでもう一矢は冗談でも何でもなく本気で自分に攻撃を仕掛けてきているのだと言う事が嫌でも分かる。

 

 リミットブレイカーはミサの問いかけに答えるように地を蹴って、アザレアリバイブへと向かっていく。リミットブレイカーが振りかぶったカレトヴルッフにすかさずアザレアリバイブも大型対艦刀を構えて何とか受け止める。

 

「なんで……っ……どうして……っ……!?」

 

 しかし覚醒をしているリミットブレイカーとでは、鍔迫り合いになったとしても力負けしてしまうのは当然と言える。押し負けそうになっている状況にミサは苦々しい表情で目の前のリミットブレイカーを見つめる。

 

「──なんで一矢はいつもそうなのっ!!?」

 

 まるで爆発したかのようであった。耐え切れないように声を張り上げたミサに一矢はピクリと反応するのも束の間、鬱憤を爆発させた今のミサを表すようにアザレアリバイブは覚醒する。

 

「何も言わないのに、こうやって人を困らせることばっかするっ!!」

 

 激情をぶつけるように先程のリミットブレイカーの攻勢を一転、アザレアリバイブは大型対艦刀を鍔迫り合いとなっているリミットブレイカーのカレトヴルッフに幾度となく叩きつける。

 

「一矢がなにを考えてるのか……私をどう思ってるのか……分からないよっ!」

 

 攻勢に出たアザレアリバイブにリミットブレイカーは攻撃する手を止めて、アザレアリバイブの攻撃を受け止めることに専念する。その間にもミサの不満が露わになっていく。

 

「私は一矢の彼女なんだよねっ!? 一矢は私のこと、好きでいてくれてるのっ!? 一矢を見てると私達は本当に恋人なのか分からなくなっちゃうんだよっ!!」

 

 怒りをぶつけているミサであったが、段々とその声は震えていき、その目尻には薄っすらと涙さえ浮かんでいた。

 

「私に魅力ってないの!? そんなに巨乳が好きなのっ!? あんなエロ本まで隠してぇっ!!」

「……えっ」

 

 今まで黙ってミサの不満を聞いていた一矢だったが、たった今放たれたミサの発言に間の抜けた声を漏らして唖然とする。

 

「そんなにデカいのが良いのか!? ないない言ってたって私だってほんの少しくらいはあるんだよぉっ!」

「ちょっ、えっ……お前、なに言って……」

 

 呆然とする一矢をよそにミサは眉尻を吊り上げた叫ぶ。

 しかしデカいの良いのか、と言われたところで一矢は別に巨乳が好きだと言った覚えは全くない。

 

「いっつもいっつも寝坊してっ! 大体、話すのも私から話題を振ることが多いしっ! それで話をしたとしても会話を長く続ける気もないしっ! 一矢って本当に何なのっ!?」

 

 しかし怒涛のミサの不満は先程の事あを皮切りにどんどんと今までずっと一矢に感じていた不満点をぶつけていく。

 

「でもっ!!」

 

 だが今までずっと不満を吐き出していたミサだが、一度言葉を区切り、なにを言われるのかとリミットブレイカー共々一矢は身構える。

 

「私はそんな一矢が好きなのっ! 大好きなのっ! だからもっと……っ!!」

 

 そんな一矢の不満さえひっくるめて一矢が好きなのだ、愛しているのだ。だからこそ……。

 

「イチャイチャさせてよっ!」

 

 アザレアリバイブの大型対艦刀が覚醒の光を纏って、一矢が切り札として使用する光の刃を表すと、そのまま自身の想いをぶつけるようにしてリミットブレイカーに叩きつけ、そのまま吹き飛んでしまう。

 

「はぁっ……! はぁっ……! ……っ!!」

 

 声の限り、思いの丈をぶつけたミサは息切れを起こして両肩を上げ下げしながら呼吸をしていると、ふとセンサーに反応がある。それは例のアドラステアであったのだ。

 

 半ば無差別に攻撃しているアドラステア達は周囲のガンプラを破壊しては踏み躙っていき、放たれた武装の数々に今まで成り行きを見守っていたクロス・ベイオネット達も散開して攻撃を避ける。

 

「まず……っ!?」

 

 しかし覚醒の力をぶつけ、ミサ自身も声を荒げていたせいで呼吸をする事に専念していた為に反応が遅れ、アドラステアから放たれた連装メガ粒子砲とミサイルが迫る。

 

 ミサがギュッと目を瞑った時であった。

 リミットブレイカーが吹き飛んだ地点に発生する土煙から無数のCファンネルとスーパードラグーンが飛んでいき、アザレアリバイブを守護するようにミサイルを全て破壊する。

 

「う……?」

 

 次の瞬間、アザレアリバイブのモニターに暗がりが出来、ミサが目を開けると、そこには此方に背を向ける形で降り立ったリミットブレイカーの姿がアドラステアから放たれたメガ粒子砲と対峙するようにアザレアリバイブの前に立ちふさがっていた。

 

 リミットブレイカーはカレトヴルッフを地面に突き刺すと、覚醒状態のままバーニングフィンガーを発現させて迫るメガ粒子砲に突き出す。すると激しいエネルギー同士は拮抗し、メガ粒子砲による砲撃はバーニングフィンガーによって分散され、リミットブレイカーの背後で散り散りになって着弾して爆発する。

 

「……ごめん、ミサ」

「……一矢……?」

 

 メガ粒子砲からアザレアリバイブを守ったリミットブレイカーの後ろ姿をミサが見つめていると、一矢が通信を入れる。するとリミットブレイカーはアザレアリバイブに振り返った。

 

「……ミサの俺に対する包み隠さない本音が知りたかった。きっと……溜めているものがあるだろうから……それを一度、ぶつけて欲しかった」

 

 ミサに攻撃を仕掛けた理由を明かす。ミサの微妙な距離感を解消するためには一度、ミサの鬱憤を全て受け止めるべきだと考えたのだ。しかし単にそんなことを言ったところで、なんでもないなどなんだかんだで誤魔化されてしまうだろう。

 

 だからミサに攻撃をしかける事でミサの鬱憤が爆発するのを誘った。

 勿論、これは賭けだ。もしかしたら言わない可能性だってあったし、余計に関係が拗れる可能性だってあった。しかし一矢はこれ以上にミサに不満をぶつけさせると共に彼女の本音を聞きだす術を知らなかった。だからこそこの男はどこまでも不器用なのだ。

 

「本当にごめん。俺……ずっと隣にいてくれるミサに甘えてた。自分のことばっかで……ミサを寂しがらせてるなんて考えてもなかった……。それですれ違って……上手くいかなくて……。ミサの顔を曇らせたくないって……昔思ったのに……。そんな俺がミサから笑顔を奪ってた……」

 

 お互いに好きであれば、それで良いと考えていた。だがそうではない。好きだからこそもっとしたいことが、するべきことがある筈だったのだ。

 

「でも……俺はミサがいなきゃ生きて行けない……。俺の毎日を輝かせてくれるのはミサだから。ミサがいるから俺は俺でいられるから……」

 

 過去のトラウマからずっと誰かと行うガンプラバトルから目を背けていた。

 だがそんな日々に光を灯してくれたのは何よりミサなのだ。ミサは一矢にとって太陽と言っても良い存在なのだ。

 

「俺もミサのこと好きだよ。ミサだけは誰にも譲れない……」

 

 言葉にすることの大切さを知らなかった。言葉にすることが難しいことだってあるのかもしれない。だが言葉にしなければ伝えられない想いがあるのだ。

 

「きっとこれからもミサに不便な想いをさせちゃうこともあるかもしれない……。でも俺にこれからもミサの隣に居させてほしい。ありのままのミサでずっといて欲しい。言えた義理じゃないけど俺はずっと……ミサを守りたい……。どんなことがあっても……愛したい……」

 

 きっとこれから先の未来だって不満に思う事や時には喧嘩やすれ違いもあるのかもしれない。だが、それでもミサとずっと一緒に居たいのだ。

 

「……じゃあ、約束して。私のこと……ちゃんと見てくれるって……。恋人としてちゃんと接してしてくれるって」

「……ああ」

 

 通信越しではあるものの言葉にして放たれた一矢の見えなかった想いに胸が熱くなるのを感じながらでも、約束を取り付ける。

 

「やれやれ……本当に不器用な奴じゃのぉ」

「だが解決したようで何よりだ」

 

 事の顛末を見守っていた厳也や影二達が近くに降り立ち、一矢達に声をかける。一時はどうなるかと思ったが、双方で納得したようでなら何よりだ。

 

「ミサ」

「うん、行こうっ!」

 

 今までのやり取り全てを見られたことに気恥ずかしさはあるが、それよりも一矢はミサに声をかけると、ミサも笑顔で頷き、リミットブレイカーとアザレアリバイブは手を繋ぐと、同時にバトルが行われるフィールドに飛び出していくのであった。

 

(一矢)

 

 フィールドの上空を共に飛翔しながら、ミサはメインカメラを動かして、隣のリミットブレイカーを見やりながら一矢への想いを馳せる。

 

(私にとっても一矢は光だよ。だから……ずっとそばにいたい)

 

 一矢は文字通りの光を見せてくれる存在だ。

 そして彼の胸に抱く光は自分の心にも希望の光を灯してくれる。だからこそそれが見えなくなって、遠ざかった時感じた時には凍えるような寒さを感じてしまう。

 

 だが今、再び自分の心に光が灯った。

 アザレアリバイブはリミットブレイカーと共に晴れ間が広がる空を飛んでいくのであった。


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