機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ごまかせない想い

「ミサとは何にもないんだな」

 

 ミサ達がお互いの恋人について話し合っているのと同じように一矢達も雑多とした人並みを眺めながら隅となる場所で話していた。厳也達も咲達同様に一矢から話を聞いていた。しかし一矢から返ってきたのは思い当たる節はないという返答のみ。影二が念押しするように確認すると、一矢はコクリと頷く。

 

「……逆に一つだけ良いかの?」

 

 では一体、何が原因かと考えている影二に次に口を開いたのは厳也であった。人さし指を立てて一つ、質問するという厳也に一矢は視線を向ける事でその質問の内容を待つ。

 

「ミサに何かしたかの?」

「……だからなにもしてないって」

「そうではない」

 

 厳也の質問はミサに何かしたのか、といった質問だった。すると一矢はそれは先程、答えただろうと言わんばかりに顔を顰めながら話すと、厳也はゆっくりと首を横に振る。

 

「ミサにこれまで何をしてやったんじゃ?」

「何をしてやったって……」

 

 厳也の質問はこれまでの質問の言葉と似ていながら、そのニュアンスは違っていた。

 厳也の問いかけに一矢は考えるようにして顎に手を添え、視線を伏せる。

 

「……ガンプラを一緒に作って……」

「うぬ」

「ガンプラバトルを一緒にやって」

「うぬ」

 

 ミサにこれまで何をしてきたか、思い当たる事を一つ一つ話し始めると、その内容に厳也は一つ一つに相槌を打つ。

 

「……それで終いかの?」

 

 しかしそこから先、一矢は再び押し黙ってしまい、厳也がチラリと一矢を確認しながら尋ねると無言でコクリと頷く。

 

「……あのなぁ……お主とミサの関係はなんじゃ?」

「恋人……?」

 

 一矢の返答に心底、呆れた厳也は重い溜息をつきながら一矢にミサとの関係について尋ねると分かり切っているはずなのになぜ、そんな質問をするのか、その意図が分からず首を傾げながら答える。

 

「そうじゃ。お主とミサは恋人同士。なのに恋人らしい行動をしておるのか、お主は」

「それは……」

「話を聞いてる限りでは、恋人以前のただの友達付き合いと左程、変わらぬではないか」

 

 一矢の答えに頷きながら更に問いかける厳也に一矢は言葉を詰まらせてしまう。言われてみれば、確かに自分はミサと恋人らしい行動をしているのかと言われたら微妙なところだ。

 それこそウィルとのリベンジマッチを勝利してキスをして以来かもしれない。その直後にも厳也から中々、耳の痛い言葉を言われてしまう。

 

「恋人になるという事は今までとは関係が変わるんじゃ。以前と接し方一つでも変わってくるのが至極当然のことじゃろう」

 

 そうでなければ恋人である意味がない。恋人関係であるのであれば、それらしい行動をすべきではないかと説く厳也に一矢は俯いてしまう。

 

「でも……恋人らしいことなんてなにすりゃいいか分かんないし……」

「ミサのことは好きなんだろう?」

 

 元々、人付き合いその物が得意ではない一矢が恋人らしい行動をしろ、と言うのはいささかハードルが高いようだ。すると今度は影二が助け舟を出すように問いかける。とコクリと頷く。

 

「だったらその気持ちを少しでも伝えてやれば良いんじゃないか? いきなりは無理でも少しずつ相手にその気持ちが分かるくらい言葉で伝えてあげれば」

「……気持ち」

 

 一矢の頷きを見た影二は少しでもヒントになるようにと助言をすると、一矢はポツリと呟いて俯いてしまう。

 

「今はまだ良いかもしれん。じゃが、ミサが背を向けてからじゃ遅いんじゃぞ」

 

 俯く一矢に再び厳也が口を開くと、その言葉に俯いていた一矢はすぐに反応して顔を上げる。

 

「そこまで強く反応するほどミサのことを好いとるわけじゃろ?」

 

 先程まで俯いていたのにミサが一矢から離れるという言葉を聞いた時一転して強く反応した一矢の反応を見て、厳也はくつくつと笑うと何だかからかわれているようで一矢は照れ臭そうに顔を背ける。

 

「まあ後はどうするかはお主次第じゃ」

 

 照れるな照れるなと一矢の肩に手を回す厳也だが、ふと真面目な表情で一矢に告げる。

 その言葉に今まで照れ臭そうにしていた一矢だが、何か考えるように俯く。

 

「……悪いけど、一人にして」

 

 しばらくして顔をあげた一矢は厳也の腕を振り解くと、スッと抜けて二人の返答を待たずして雑多とする人混みの中へと消えていってしまった。

 

「……大丈夫だろうか」

「どうじゃろうな。あくまでわし等がしたのは答えではなく助言なんじゃ。先も言ったじゃろう。後は一矢と……そしてミサ次第じゃ」

 

 この人混みの中では去っていってしまった一矢をここから目で追う事は難しい。

 いなくなった一矢にこの後どうなってしまうのか、心なしか心配そうにする影二と厳也も肩を竦めるのであった。

 

 ・・・

 

「もうすぐイベントが始まるんだって」

「マジで!? 早く行こうぜ!」

 

 一人になった一矢はポケットに両手を突っ込んで、宛てもなく彷徨うように一人で歩いていた。すれ違う子供達から今日、このネバーランドで行われるガンプラバトルのイベントについての話題に花を咲かせており、イベント会場に向かって駆け出している。しかし一矢はそんなガンプラバトルのイベントに関する話題を聞いたとしても、無反応であったのだ。

 

「……好き……か」

 

 ミサのことは好きだ。誰より愛してると言っても過言ではない。しかしその言葉を自分がミサに面と向かって言う姿が想像すら出来ないのだ。

 

『つまり我が彩渡商店街ガンプラチームに君をスカウトしたいんだよ!』

 

 最初にミサと出会った日の事を覚えている。あの日、ミサにチームを勧誘された時は過去のトラウマからどうせ自分の実力目当てで期待を押し付けられるだけだろうと考えていた。

 

『見くびらないでよ! 君だけに全部を任せる気なんてないんだから!!』

 

 でも実際は違った。ミサは自分だけに全てを任せようと何て微塵も考えてはいなかったのだ。そんな彼女だからこそ自分は彼女の手を取った。

 

『……コイツの顔……曇らせたくない……ッ!』

 

 かつてのタウンカップを思い出す。PG機体を使ったカマセがミサを追い詰めた時、自分は無我夢中でこんな事を考えていた。

 

『ただ前に進むんじゃない……。もっと高く……。あの笑顔と一緒に……』

 

 ゲネシスブレイカーの初陣を思い出す。あのゲネシスブレイカーを作ったのだって、誰にも負けないように強くなろうとしたのだって、誰よりも何よりもミサと一緒にこれからも進むため、もっともっと高みを目指す為なのだ。

 

『……私、一矢に会えて良かった。あの時、ゲーセンで声をかけて本当に良かった』

 

 彼女は過去にこう言ってくれた。しかしその時も言ったが、ミサ以上に出会えて良かったと思える人物はきっとこれからもいない。

 

『大好き、だよっ』

 

 しかし今にして思えば、いつだって好意を伝えてきてくれたのはミサからだった。

 自分はそれに便乗するかでしかミサに対して想いを伝えられてはいないだろう。そう考えれば、自分はミサの恋人として相応しいとは言えないだろう。

 

(……だからってアイツが他の男と歩いてるとこなんて見たくない)

 

 自分が恋人という存在に全く不向きな存在だと分かっていても、それでも愛想をつかしたミサが自分から離れて行って、他の男と幸せそうな顔をしている姿なんて見たくはない。そんな姿を見たら、自分は何をしでかすかも分からない。

 

(好き、か……)

 

 厳也や影二が言うように、離れてからでは遅いし、好きならばその想いを少しでも伝えられれば良いのかもしれない。しかしどう言葉にして良いか、どうミサに好意を伝えれば良いのかが不器用な自分には分からないのだ。

 

(……不器用なんて言い訳にならないよな)

 

 不器用だから、そうやってミサに甘えて今の結果を招いてしまったのかもしれない。自分はミサにどう伝えたいのか、彼女にとってどんな存在になりたいのか、を考え、答えを求めるようにして空を仰ぎ見るのであった。


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