ガンプラバトルシミュレーターは稼働し、シミュレーターが生み出すフィールド上では激しいガンプラバトルが行われている。
「やっぱ一筋縄ではいかないな……ッ!」
太陽の輝く空を舞台に秀哉のストライク・リバイブが高エネルギー長射程ビーム砲を放ち、空を貫く様な一線はぐんぐんと伸びていくが生憎なことに秀哉が狙った対象には掠る事もなくさらに高速でこちらに迫ってくる。
その機体こそゲネシスブレイカーであった。大空を舞台に翼を広げるゲネシスブレイカーはこの空を支配していると言わんばかりに縦横無尽に飛び続け、その速度は飛べば飛ぶほど捉える事が難しくなってくる。
しかしいつもは近くにいる筈のミサとロボ太の機体はない。どうやら今日はゲネシスブレイカー1機のみでバトルを行っているようだ。
これ以上、接近はさせないとばかりにストライク・リバイブはイーゲルシュテルンとマシンキャノンを併用して激しい弾幕を張るが、ゲネシスブレイカーの勢いは殺すことは出来ず、すぐさまアロンダイトとハイパービームソードを同時に装備してゲネシスブレイカーを迎え撃つ。
空に無数のスパークを散らしながらゲネシスブレイカーとストライク・リバイブは幾度となく切り結び、バトルはまだまだ続いていくのであった……。
・・・
「ミサが素っ気ないって?」
イラトゲームパークにてバトルを終了させた一矢と秀哉はベンチに並んで腰かけながら缶ジュースを片手に話をしていた。一矢から聞かされた話に秀哉は聞き返す。そう言えば今日はバトルだけじゃなく、一矢の傍にもミサ達の姿はない。
「……素っ気ないっていうか……よく分かんない」
聞き返されてしまい、一矢は首を傾げてしまう。ここ最近、ミサの様子はいつもとどこか違う。それをどう言い表して良いか分からなかったのだ。一矢は缶ジュースを飲み干して、そのままゴミ箱に捨てると秀哉に別れを告げて、そのままイラトゲームパークを後にする。
・・・
(……なんにもしてないと思うんだけどな……)
この間も、ミサを家に招き入れた際も自分が知らないうちに睡魔に負けている間もミサとロボ太はいつの間にか帰ってしまった。家に連れて来ておいて自分は寝るとかないわー、とその後、夕香とシオンに呆れられたしその事は悪かったとは思っているが、どうにも原因がそれとは思えない。ミサの態度に違和感があるのだが、その原因が分からなかった。
「……もしもし?」
≪……あっ……一矢……?≫
そうしていると一矢の携帯端末に着信が入る。その場に立ち止まって、もぞもぞと取り出して見てみれば、相手はミサであった。どこかおずおずとした遠慮がちな態度に顔を顰める。いつものミサならこんな風に喋ったりはしないからだ。
≪今から来れるかな……?≫
そうこうしていると、ミサからの呼び出しがかかる。だがミサから呼び出されるのであれば願ったり叶ったりなのかもしれない。もしかしたらミサの様子が変わった原因が分かるかもしれないからだ。一今から行く、と伝えて電話を終えると、足早に彩渡商店街へ向かう。少しは状況が改善されるかも知れないと期待を込めて。
・・・
「……ミサ、いる?」
彩渡商店街に訪れた一矢は早速、トイショップに足を踏み入れる。来店を知らせる入店音が店に響くなか、一矢はすぐにミサを探す。今はちょうど空いている時間なのか店内に客の姿は見当たらない。
「一矢……」
そうしていると呼び出したミサの声が店の奥の方から聞こえてくる。相変わらず控えめな声ではあるが、一矢はその方向を見やる。
「……ッ!?」
しかしミサがいる方向を見やった一矢はそこにいたミサを見て固まる。その表情は目を見開き口を大きく開けてまさに唖然としていた。
「アムロ、私はディジェを赤く塗ろうと言っているのだよ」
「好きにすれば良いだろう。ガンプラは自由だ」
身動き一つとれない一矢をよそに再び入店音が響く。会話をしながらトイショップに入店してきたのはシャアとアムロの二人であった。
「これは……っ!?」
「なにぃ……っ!?」
しかしそのアムロとシャアも一矢と同様、目の前のミサを見て驚愕して動きを止めてしまう。あまりの衝撃で二人ともその場でしばらく立ちつくしてしまうほどだ。
「いらっしゃい、アムロさん、シャアさん。それに一矢も」
その原因ともいえるミサはどこかぎこちない笑みを浮かべながら、一矢やアムロ達を出迎える。いつもならば何かしら返事をするところだが、一矢達は時間が止まったように動きが取れなかった。
「どうしたの皆、固まっちゃって」
そんな一矢達を見て、ミサは困ったように笑いながら声をかける。
(……どうしたのって……)
声をかけられた一矢達はピクリと体を震わせて反応するなか、冷や汗を垂らしミサのとある一点を見つめる。そこはミサの胸部であった。普通なら女性の胸部を見つめ続けるのなど言語道断であるのだが……。
膨らんでいるのだ。
ミ サ の 胸 が
「あぁぁぁ……っ……!」
あまりの出来事に一矢は目に見えて動揺してしまっている。逃げ出せるのなら今すぐにでも逃げ出したい。だってミサの胸が膨らんでるから。
「ほら、一矢。こっちこっち!」
しかしミサはまるで何事もなかったかのように一矢の腕を退いて作業ブースまで連れて行くと、一矢を座らせる。今の一矢はまさに怯える幼子その物でミサに促されるがまま座るしかなかった。
「ほら一矢、これ展示用で作ってみたんだ」
するとミサはテーブル上に置いてある展示用のガンプラを見せながら背後から一矢に抱き着き、その首元に手を回す。所謂、あててんのよ状態だ。
(……あたってない……っ!!)
……あくまで姿勢の話だ。背中に感じるのは詰め物のような固い感触だけであり、一矢はもう訳が分からず、混乱してしまっている。ミサが何でこんなことをしているか分からないからだ。もっともそうなってしまったのは以前、ミサが一矢の部屋で見たエロ本をそれが一矢の好みだと勘違いしたからなのだが。しかしいくらなんでも暴挙としか言いようがない。
「あ、あんな紛い物を……ミサ……酸素欠乏症にかかって……」
「サボテンが……花をついている……」
ぶるぶると震えている一矢にお構いなしでミサはやたらボディタッチを多めに一矢に接している訳だが、それが更に一矢を怯えさせてしまっている。その光景を傍から見ながらアムロとシャアも現実逃避をしているのであった。
なお、この数時間後、我に返ったミサは身を投げようとしたらしい。
・・・
「ネバーランドの招待券か」
ブレイカーズの事務所ではパソコンでシフト表を作成している翔は息抜きに自分宛てに送られてきた郵便物の中身を開封する。中身を確認すれば、それはネバーランドの運営部からだった。
「なにかあったんですか?」
「ああ。ネバーランドの再オープンでガンプラのイベントをやるらしくてな。以前のガンプラバトルロワイヤルの受けは良かったらしい。それにウイルスを駆除したのも俺達のガンプラだ。礼を兼ねてまたイベントに招待されたよ」
翔はそのまま店の方に顔を出すとあやこが声をかけてきた。すると翔は郵便物の内容に目を通しながら、あやこの問いかけに答える。
「懐かしいですねー……。あの時の翔さん、いつも以上に格好良くて……」
自身がコアプログラムに取り込まれ、翔に助け出された時の事を思い出しているのだろう。両手を頬に添えながらあやこは身をくねらせている。
「どうせならあやこも行くか?」
「良いんですか!?」
「ああ、他の奴らも誘うつもりだしな。風香の奴は知れば意地でもついて来そうだし」
すると翔はそのままあやこもネバーランドに誘うと、これはデートなのでは!? とあやこが強く反応するなか、その予想は次の翔の言葉で粉々に打ち砕かれ、肩を落とす。
「翔君っ!」
項垂れているあやこに首を傾げていると入店音と共に翔は声をかけられる。見てみれば、そこにはルル、カガミ、リーナ、そして最後にレーアが続々と入店してきた。
「お昼持って来たわ。良かったら休憩にでも……」
レーアは手に持っている包みに入った弁当を渡そうとするが、ふと翔とその傍らに寄り添うように立っているあやこの姿を見て言葉を途切れてしまう。
「……良かったら食べてちょうだい」
するとレーアの表情は見る見るうちにどこか辛そうなものに変化していき、持っていた弁当を近くのカガミに自分の代わりにとばかりに手渡すと、それだけ言い残して足早にブレイカーズを出て行ってしまう。残された翔達が顔を見合わせるなか、ルルとリーナ、カガミは何か考えるように視線を伏せるのであった。